2008年06月29日
◆2008年上期ヒット商品を読み解く
ヒット商品応援団日記No278(毎週2回更新) 2008.6.29.
先週好きな沖縄に行っていたので書くことができなかったが、6月18日付日経MJ「2008年上期ヒット商品番付」を私流に読み解いてみたい。日経MJがキーワード「守るが価値」で指摘しているように、自己防衛市場へと急速に進んでいる。東西の横綱にはイオンやセブン&アイによるPB商品と糖質ゼロの発泡酒。財布にも身体にもやさしい商品といえるであろう。メタボ対策、価格が手頃、エコロジーにも役立つ、そんな商品ばかりが上位を占めている。東の大関には「5万円ノートPC」、東の小結には「電球型蛍光灯」、西の小結には「シャワークリーンスーツ(こなか)」、東の前頭には「三井アウトレットパーク入間」。
値上げをしたNB商品に代わって、PB商品へと消費移動が起こり、イオンのトップバリューの袋めんは5月の前年同月比6倍、カップ麺は2倍になったと報じている。沖縄からの帰り、東京は東急田園都市線用賀駅に降りたところ、周辺の道路は車がひしめき合って大渋滞であった。その原因はOKストア用賀店であるのだが、エブリデーロープライスを求めた顧客が殺到していた。価格という境界線を跨いだ、商品ばかりか流通にまで大きな「消費移動」が進んでいる。鳥取や沖縄によく行く私であるが、地方にはない価格競争市場を改めて実感する。ところで、「2008年上期ヒット商品番付」に表れている消費特徴を読み取ると次の2つになると思う。
1、大型・高額商品から、中小型・リーズナブル商品へ
多くの人が今年に入りメガ・ヒット商品がないと指摘しているが至極当然である。過去、薄型TVや自動車、ブランド商品といった商品が番付に入っていたが、今回は入っていない。国内においてはトヨタのレクサスが苦戦し、プリウスは順調。あるいは通常のPCが苦戦する中、ヒューレッドパッカードなどの5万円台ノートPCに人気が集まる、といった具合である。ブランド品は欲しいけれど、定価ではなく、アウトレットで購入するように、消費傾向というより、価格を境界線にした「消費移動」が起こっている。私が指摘してきたように、生半可な付加価値など幻想にすぎないということだ。
2、非日常型商品から、日常型商品へ
非日常型商品の代表というと、やはり海外旅行ということになる。今年の5月の連休は安・近・短というほとんどが国内中心で海外では中国などの近場。ガソリン価格高騰により、日常の休日ドライブですら減少傾向にある。今回の番付の最下位にJALの国内線ファーストクラス導入があるが、これも新幹線におけるグリーン車と同じで特別なことではない。そして、番付に入っているマラソングッズに代表されているようにほとんどが日常生活関連商品ばかりである。本来であれば中国旅行やホームシアターといった8月の北京オリンピック関連市場が活況を見せるのであるが、チベット問題や四川大地震という問題もあって、新たな市場は生まれてこない。別のキーワードで表現するならば、特別から普通へ、「普通が一番」ということだ。
このブログでも取り上げたが、中国製冷凍餃子事件あるいは食品偽装事件を踏まえ、家庭菜園やベランダ菜園がブームになって野菜の種子や苗木が飛ぶように売れている。自己防衛市場化とは、自ら生産し、加工調理するようなセルフスタイル化のことである。売れるのは素材と共に、スクーリングや周辺商品である教材や道具類となる。そして、ますます消費は内側へ小さな単位へと向かっていく。ヒット商品という言い方をするならば、マスメディアの知らないところで小さなヒットが生まれる、そんな市場構造へと変化していく。
ところで全漁連が7月15日に一斉休漁すると報じられた。原油価格高騰で赤字となり、このままだと経営できないという理由からだが、一種のストライキと私は理解している。つまり、水産業も農業と同様に国の支援を受けるための政治メッセージであろう。一方、この8月から物価の優等生といわれてきた鶏卵を10%程度値上げをするという。鳥インフルエンザから立ち直りかけた養鶏・鶏卵業界にとって輸入穀物の高騰は大きい。エネルギー政策、食料自給のための政策、共に国の無策といえばそれで終わってしまうが、そのつけは消費へとダイレクトにつながっている。電気・ガス料金の本格的な値上げが予定されており、住宅ローン金利も徐々に上がり、このまま値上げが続けば、停滞どころか完全な消費不況へと進む。27日の総務省の発表では、5月度の消費支出(除く住居等)は前年同月比3.9%、前月比2.8%の減少となっている。勤労者世帯収入はどうかというと、前年同月比0.6%の減少となっている。更には、完全失業者数は270万人となり、5年ぶりの大幅増加で、しかも男性失業者が増加し163万人になった。企業も生活者も心理面だけでなく、具体的現実そのものが収縮へと向かっている。
少し前に、ビジネス現場での打開策の一つとして「共同解決」というテーマで書いたことがあった。従来は企業間で個別であったものを「共同仕入れ」「共同開発」「共同物流」「共同販売」といった内容であったが、更に価格をテーマに踏み込んだコラボレーションが進む。1970年代の第一次・第二次オイルショックを乗り越えて産業の高度化が計られたが、今回の第三次オイルショックは「産業の複合化」を促している、と私は理解している。保有する資源を相互に活用し合う、人材や組織、工場施設、車両や配送施設、オフィスや店舗、更には技術やノウハウ、ブランド力に至まで、これらの価値を最大化させる試みである。ある意味所有価値から使用価値へと100%移行させることでもある。こうした試みは企業間だけでなく、生活者間でも行われ始めている。例えば、郊外団地では車は必需品であるが、1台の車を共同で利用(1時間600円)する試みが始まっている。あるいは2世帯家族の場合は、1台の車をうまく使い回すといった具合に。江戸時代のコンビニであった損料屋のように、物を借りるレンタルの仕組みは新たな分野へと広がるであろう。
もう一つの解決策は、少し前にOKストアを事例に挙げ「エブリデーロープライス」を実現した「無人化」という視点であろう。GSにおける無人給油スタンドだけでなく、工場はもとよりあらゆる小売業業態において省エネならぬ省人の可能性を追求することになる。但し、顧客の理解はもとより、機械やITに不得手な弱者に対する十分な配慮が必要であることはいうまでもない。
従来の区分や境界を超えて、行政と市民、大企業と中小企業、市民相互など、いかに使用価値を高めコストダウンできるか、結果環境にも弱者にも優しいか、この一点において複合化したコラボレーションが進むであろう。そのためには規制緩和も必要であるが、まずは許認可権を国から地方へ、現場へと移譲させることだ。既成・既存の縮小と併行して創造されるこうした試みに新しいビジネスの芽、ヒット商品の芽が生まれる。(続く)
先週好きな沖縄に行っていたので書くことができなかったが、6月18日付日経MJ「2008年上期ヒット商品番付」を私流に読み解いてみたい。日経MJがキーワード「守るが価値」で指摘しているように、自己防衛市場へと急速に進んでいる。東西の横綱にはイオンやセブン&アイによるPB商品と糖質ゼロの発泡酒。財布にも身体にもやさしい商品といえるであろう。メタボ対策、価格が手頃、エコロジーにも役立つ、そんな商品ばかりが上位を占めている。東の大関には「5万円ノートPC」、東の小結には「電球型蛍光灯」、西の小結には「シャワークリーンスーツ(こなか)」、東の前頭には「三井アウトレットパーク入間」。
値上げをしたNB商品に代わって、PB商品へと消費移動が起こり、イオンのトップバリューの袋めんは5月の前年同月比6倍、カップ麺は2倍になったと報じている。沖縄からの帰り、東京は東急田園都市線用賀駅に降りたところ、周辺の道路は車がひしめき合って大渋滞であった。その原因はOKストア用賀店であるのだが、エブリデーロープライスを求めた顧客が殺到していた。価格という境界線を跨いだ、商品ばかりか流通にまで大きな「消費移動」が進んでいる。鳥取や沖縄によく行く私であるが、地方にはない価格競争市場を改めて実感する。ところで、「2008年上期ヒット商品番付」に表れている消費特徴を読み取ると次の2つになると思う。
1、大型・高額商品から、中小型・リーズナブル商品へ
多くの人が今年に入りメガ・ヒット商品がないと指摘しているが至極当然である。過去、薄型TVや自動車、ブランド商品といった商品が番付に入っていたが、今回は入っていない。国内においてはトヨタのレクサスが苦戦し、プリウスは順調。あるいは通常のPCが苦戦する中、ヒューレッドパッカードなどの5万円台ノートPCに人気が集まる、といった具合である。ブランド品は欲しいけれど、定価ではなく、アウトレットで購入するように、消費傾向というより、価格を境界線にした「消費移動」が起こっている。私が指摘してきたように、生半可な付加価値など幻想にすぎないということだ。
2、非日常型商品から、日常型商品へ
非日常型商品の代表というと、やはり海外旅行ということになる。今年の5月の連休は安・近・短というほとんどが国内中心で海外では中国などの近場。ガソリン価格高騰により、日常の休日ドライブですら減少傾向にある。今回の番付の最下位にJALの国内線ファーストクラス導入があるが、これも新幹線におけるグリーン車と同じで特別なことではない。そして、番付に入っているマラソングッズに代表されているようにほとんどが日常生活関連商品ばかりである。本来であれば中国旅行やホームシアターといった8月の北京オリンピック関連市場が活況を見せるのであるが、チベット問題や四川大地震という問題もあって、新たな市場は生まれてこない。別のキーワードで表現するならば、特別から普通へ、「普通が一番」ということだ。
このブログでも取り上げたが、中国製冷凍餃子事件あるいは食品偽装事件を踏まえ、家庭菜園やベランダ菜園がブームになって野菜の種子や苗木が飛ぶように売れている。自己防衛市場化とは、自ら生産し、加工調理するようなセルフスタイル化のことである。売れるのは素材と共に、スクーリングや周辺商品である教材や道具類となる。そして、ますます消費は内側へ小さな単位へと向かっていく。ヒット商品という言い方をするならば、マスメディアの知らないところで小さなヒットが生まれる、そんな市場構造へと変化していく。
ところで全漁連が7月15日に一斉休漁すると報じられた。原油価格高騰で赤字となり、このままだと経営できないという理由からだが、一種のストライキと私は理解している。つまり、水産業も農業と同様に国の支援を受けるための政治メッセージであろう。一方、この8月から物価の優等生といわれてきた鶏卵を10%程度値上げをするという。鳥インフルエンザから立ち直りかけた養鶏・鶏卵業界にとって輸入穀物の高騰は大きい。エネルギー政策、食料自給のための政策、共に国の無策といえばそれで終わってしまうが、そのつけは消費へとダイレクトにつながっている。電気・ガス料金の本格的な値上げが予定されており、住宅ローン金利も徐々に上がり、このまま値上げが続けば、停滞どころか完全な消費不況へと進む。27日の総務省の発表では、5月度の消費支出(除く住居等)は前年同月比3.9%、前月比2.8%の減少となっている。勤労者世帯収入はどうかというと、前年同月比0.6%の減少となっている。更には、完全失業者数は270万人となり、5年ぶりの大幅増加で、しかも男性失業者が増加し163万人になった。企業も生活者も心理面だけでなく、具体的現実そのものが収縮へと向かっている。
少し前に、ビジネス現場での打開策の一つとして「共同解決」というテーマで書いたことがあった。従来は企業間で個別であったものを「共同仕入れ」「共同開発」「共同物流」「共同販売」といった内容であったが、更に価格をテーマに踏み込んだコラボレーションが進む。1970年代の第一次・第二次オイルショックを乗り越えて産業の高度化が計られたが、今回の第三次オイルショックは「産業の複合化」を促している、と私は理解している。保有する資源を相互に活用し合う、人材や組織、工場施設、車両や配送施設、オフィスや店舗、更には技術やノウハウ、ブランド力に至まで、これらの価値を最大化させる試みである。ある意味所有価値から使用価値へと100%移行させることでもある。こうした試みは企業間だけでなく、生活者間でも行われ始めている。例えば、郊外団地では車は必需品であるが、1台の車を共同で利用(1時間600円)する試みが始まっている。あるいは2世帯家族の場合は、1台の車をうまく使い回すといった具合に。江戸時代のコンビニであった損料屋のように、物を借りるレンタルの仕組みは新たな分野へと広がるであろう。
もう一つの解決策は、少し前にOKストアを事例に挙げ「エブリデーロープライス」を実現した「無人化」という視点であろう。GSにおける無人給油スタンドだけでなく、工場はもとよりあらゆる小売業業態において省エネならぬ省人の可能性を追求することになる。但し、顧客の理解はもとより、機械やITに不得手な弱者に対する十分な配慮が必要であることはいうまでもない。
従来の区分や境界を超えて、行政と市民、大企業と中小企業、市民相互など、いかに使用価値を高めコストダウンできるか、結果環境にも弱者にも優しいか、この一点において複合化したコラボレーションが進むであろう。そのためには規制緩和も必要であるが、まずは許認可権を国から地方へ、現場へと移譲させることだ。既成・既存の縮小と併行して創造されるこうした試みに新しいビジネスの芽、ヒット商品の芽が生まれる。(続く)