2016年01月31日

◆赤信号の消費世界

ヒット商品応援団日記No635(毎週更新) 2016.1.31.

昨年から気がかりであった「消費の動向」、さらに小売現場の売り上げ数字がほぼ出そろった。前者については家計調査(二人以上の世帯)平成27年(2015年)12月の速報値で、後者は百貨店協会と日本SC協会による昨年12月度の売り上げ数字である。
まず、家計調査の消費支出(前年同月比)である。
10月▲2.4%
11月▲2.9%
12月▲4.4%
ちなみに勤労者世帯における実収入は以下となっている。
10月▲0.6%
11月▲1.4%
12月▲2.7%

そして、小売現場であるが、全国百貨店の売り上げにおいては
10月+4.2%
11月▲2.7%
12月+0.1%

SC(ショッピングセンター)においては
10月+2.8%
11月▲2.9%
12月▲0.1%

こうした赤信号の消費を踏まえてであると思うが、10~12月のGDPの予測が民間の調査機関12社から発表されている。NHKのまとめによると、物価の変動を除いた実質で前の3か月と比べて▲0.1%から▲0.7%。年率では、▲0.5%から▲2.8%と予測していると。ちなみにみずほ総研は前期比▲0.4%(年率▲1.5%)、日本総研では前期比▲0.3%(年率▲1.4%)といったところであるが、各社消費が大きくマイナスになっていると指摘をしている。GDPに占める消費が60%を超えている状況であれば当然と言えよう。

ところで、昨年夏のブログには「消費後退の夏」というタイトルでお盆休み旅行の特徴について次のように書いた。

『JTBによれば今年の夏の旅行の特徴となっているのが「観劇、イベント参加、スポーツ観戦」(1.1%増)の増加が目立つという。また、利用交通機関では、レンタカーを含む乗用車の利用が5.6ポイント増で約7割に拡大。JR新幹線は1.4ポイント減の13.4%に縮小したと。今年の夏の消費を見ていくと、メリハリ消費から後退した感が強い。昨年の消費増税によってワンコインランチや激安・デカ盛りといったデフレ型消費が再燃したが、ここにきてそうした消費が加速しそうである。』

年末年始の旅行も休暇の期間が短いこともあるが、同じような傾向であった。こうした消費の後退傾向は上記の数字が物の見事に表している。何回となく書いてきたので同じことを書こうとは思わないが、収入が増えない限り消費も増えないことは当然である。百貨店については訪日外国人による消費によってかろうじてプラスにはなっているが、その内訳としては東京、京都、大阪、といった都市部の百貨店だけで地方都市は軒並みマイナス状態である。そして、逆な見方をするならば、日本人による消費は極めて悪いということでもある。そして、気がかりなのはSCにおける売り上げ低迷である。周知のように商圏内の特徴に合わせて専門店を編集するので、消費増税による顧客変化にもそれなりに自在に対応することが可能な業態である。この業態がマイナス傾向を見せることはかなりの赤信号であると理解すべきである。

このブログを書いている最中に日銀のマイナス金利の発表があった。インフレ目標の期限を3度も先延ばし、国債だけでなく株式市場においても買い支えるという中でのマイナス金利の発表であるが、その主要目的は円安と株高である。この2つに関係する一部の関連業種にとっては意味あることかもしれないが、すでにEUでは行われており、さしたる効果がないことがわかっている。そして、「消費」という視点に立てば、原油価格の暴落が物価に及ぼす影響は極めて大きい。

例年であれば年頭の新聞各紙を斜め読みしてコメントするのが常であったが、今年は「混迷の年が始まる」とした。もちろん、内外ともに政治も経済も問題が絡み合って解くことが難しいことを表したが、国内経済、特に消費については昨年夏からすでに始まっている。
消費後退とはその心理が内側へと向くことである。より吟味して、より熟慮して、財布と相談しながら余計な消費はしないということである。さらに今年に入り、産廃業者からの廃棄商品横流し事件が起きたが、こうした内側に潜む「見えない世界」への疑念が不安を増幅させている。以前ブログにも書いたが、「顔の見える」関係からさらに内側へと向かい「心までもが見える」関係が求められることとなる。こうした内側に向く消費心理は慣れ親しんだ商品や店、安心の持てる商品や店に向かう消費である。結果、ブランドや老舗、場合によっては後継者不足で廃業した街場のお店の復活などが注目されることとなる。再び「安心コンセプト」を求める時代を迎えたということだ。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:41Comments(0)新市場創造

2016年01月19日

◆賑わいづくりの時代 

ヒット商品応援団日記No634(毎週更新) 2016.1.19.

日本マクドナルドの閉店が相次いでいる。先日、表参道店の閉店がニュースとして報道されていたが、表参道という立地はそのメディア性の高さ、情報発信力を必要とする店舗の立地であって、もはやマクドナルドにとっては必要のない立地となっている。賃料に見合う採算が合わないのであれば閉店するのは当然である。
ところで、私のブログを読んでいる方々は十分理解されていると思うが、一昨年夏の中国製チキンナゲットの賞味期限切れ問題から売り上げ低迷が始まった訳ではない。それ以前から客単価を上げるために高級バーガー「1000円マック」を出したり、「100円バーガー」を販売中止したり、・・・・・・・・そうしたアクションについて「迷走」というキーワードを持って説明してきた。飲食業界は昔から、客数✖️客単価という図式で売り上げを考えてきた。そして、デフレ型商品が横溢する商環境にあって、低価格競争こそが客数を伸ばし、結果売り上げにつながると。一方、特色ある高額メニューの導入によって客単価を上げ、客数減以上の売り上げ増をはかる。この2つの考え方を行ったり来たりする、という迷走である。

相変わらずデフレ的状況にあって、「低価格」を超える方法が見つからない。昨年「未来塾」において「差分が生み出す第三の世界」という考え方、「差」をどのようにして創れば良いのかをいくつかの事例を踏まえて書いた。「未来塾」で扱っているのは「テーマ」を持って事例から学ぶことを主題としており、なかでも「商店街から学ぶ」における「砂町銀座商店街」についてブログへのアクセスが多くなっている。周りを大型商業施設囲まれた東京江東区にある古くからの下町商店街である。個々の商店の独自力もあるのだが、全体として一言で言うならば「賑わいの商店街」となる。その賑わいの心地よさは店と顧客とのコミュニケーション、活気あるやりとり、単に商品を売る、買うという商売を超えた人が行き交う「街」の心地よさである。これが他とは異なる「差」となって顧客を惹きつけるのである。

同じような「賑わいの街」は同じ「未来塾」で取り上げた「谷根千」も同様である。谷中、根津、千駄木、という戦災を免れた古い建物ばかりの広域エリアを観光地化させたことで再生できた街である。谷根千の場合は、その賑わいには訪日外国人もその一員となっているのだが、砂町銀座商店街の場合は個々の商店によるものであるのに対し、谷中銀座商店街の他に古くからの寺社や谷中霊園の桜や根津神社のつつじといった名所、あるいは歴史ある文化施設など観光地としての要素もある。こうした街は食べ歩きでも、季節の観光、散策であっても、それらの基本は「歩いて楽しい」ことにある。こうした街はいわば古さの残る街、Old New、古が新しいとした街で、Old Newを楽しむ街ということだ。

実は、今商業に求められているのがこの「楽しさ」である。日本マクドナルドにはこの「楽しさ」が徹底的に不足していた。マクドナルドが日本に導入された当初、米国と同様店舗のある地域住民、特に子供達との楽しいリレーション作りを盛んに行っていた。マスコットであるドナルド・マクドナルドが子供たちに心と体の元気を伝える存在として病院訪問など全国各地で活動していた。その活動内容は主に「ドナルドパーティ」「ハロー!ドナルド」「ドナルドエクササイズ」などであった。
このマスコットキャラクターは、例えばハッピーセットのおまけの玩具になることも多かったが、2000年代の日本国内ではほとんど姿を見かけなくなった。
何故なのか、デフレ型商品との価格競争ばかりに注力してしまい、こうした子供達との「楽しさ」を提供しなくなってしまった。効率を第一義とし、すぐさま結果を求める「客数✖️客単価」という呪縛から解き放されない限り、こうしたドナルドによるパブリックイベントは金食い虫として無視される。いや経営の阻害要因として扱われてしまったということであろう。

賑わいのある街、店とは、商売という視点から見れば、それは「客数」となる。ちなみに低迷し続ける日本マクドナルドの既存店は昨年12月まで32ヶ月連続して客数減である。その間多くの新商品を導入してきたにもかかわらずである。大量生産大量消費という工業化された商品の宿命としてある。「差分」のところでも書いたが、客数を伸ばすために「くら寿司」は専門店にひけを取らないラーメンやカレーといったサイドメニューを作り、立ち食いそばの「ともだそば」はカレー専門店並みの本格インドカレーを作る、・・・・・このように低価格以外で成長しているところの多くは全て「客数増」の戦略がうまく働いているところである。そして、面白いことに客数増という賑わいが顧客をさらに呼ぶということでもある。
こうした客数増のためのメニュー作りもあるが、店頭でのちょっとした一言も嬉しいものである。例えば、いくらクックパッドがあるとはいえ、変化のある健康な食事メニュー作りは大変である。そんな時、店頭に来た顧客に「この魚はあまり出回らないものだけど、煮付けにしたら子供でも食べやすくうまいよ」とか、「今年は暖冬で葉物野菜が安いから、ちょっと変わった白菜鍋でも」といった具合の一言である。実はそんな一言が「うれしい」心理の時代にいる。つまり、必要に迫られた買い物を少しでも楽しめるようにするのが商売人の基本である。必要であればネット通販でも、クックパッドでも活用することはできる。しかし、それでもなお足りない、顔が見えるどころか本気で言ってくれる「人」が欲しいと思っている。日本マクドナルドには決定的にそれが無かったということである。
あなたの街は歩いて楽しい街ですか? 
あなたの店は楽しさを提供していますか?
一人でも多くのお客様に楽しんでもらえる「何か」が用意されていますか? 
賑わいという客数増は「うれしい」の一言から始まる。CoCo壱番屋の廃棄商品が流通しているという不安心理の時代であればこそ、「うれしい」という一言が極めて重要となる。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 12:57Comments(0)新市場創造

2016年01月15日

◆混迷の年が始まる

ヒット商品応援団日記No633(毎週更新) 2016.1.15.

今年も元旦の新聞各紙を読みどんな年となるのかコメントするのが常であるのだが、年々テーマとならないような記事ばかりで、これでは新聞が売れないのもわかるような気がする。
ところで国会がスタートしたが、今年は参院選があるということから1000兆円を超える赤字財政にもかかわらず、特別補正予算には低年金者向けに給付金3万円配布といった施策が用意されている。更には、ここに来て軽減税率どころか、10%の新消費税の先延ばし案まで新聞紙上を賑わしている。政治はどんどんポピュリズム化し、なんでもあり、朝令暮改は常であるとばかりに少し前まで言っていたことを反故にするようなことが蔓延している。

あまり政治的なことをコメントするブログではないのでこれ以上言及しないが、周りを見渡せばEUの経済は相変わらず危機状態にあり、それ以上にシリアや北アフリカからの難民流入、さらにはヨーロッパ文明とイスラムという宗教との衝突が起こっていると指摘されている。昨年世界のベストセラーとなったミシェル・ウエルベックが書いた近未来小説「服従」にその西洋文明とイスラムという宗教の衝突の意味が描かれている。その内容であるが、2022年の仏大統領選において、既成政党の退潮著しく、極右国民戦線と穏健イスラム政党の決選投票となり、結果は穏健イスラム政党が政権を取るというストーリーである。極めてシリアスな状況にEUの今日があることがわかる。

最近ではサウジアラビアとイランとの宗派抗争があるが、その裏側には石油価格の大幅下落がある。そして、上海株式市場の暴落。2016年に入り、2回ものサーキットブレーカーが作動し、場中で取引停止となるなど、厳しい幕開けとなった。以前から指摘されている中国経済の混迷がさらに深まっているということだ。周知のように、日本の株式市場においても連日の大幅下落である。
一方、周知のように米国はそれまでの金利を引き上げ、リーマンショックの清算を行い、更にはシェールオイル革命によって世界一の産油国になったばかりでなく、輸出まで行うという。世界経済を見れば、米国の一人勝ちである。そして、中国をはじめ世界に広がったマネーが米国へと戻ってきているようだ。あのジョージソロスがあの中国の電子商サイトを運営するアリババの保有株式をほとんど売却したと話題になっている。その意味するところはわからないが、リーマンショックのような金融危機ではないが、テロ戦争、宗派抗争、難民問題、領土・領海問題、核実験、そして、石油下落をはじめとした株式市場の暴落、・・・・・・絡み合った複合危機といった言いようのない混乱にある。

平和と表裏にあるのが観光である。年間約8500万人の観光客が訪れる世界一の観光大国であるフランスは同時多発テロ後、非常事態宣言が発令され厳戒態勢が続くパリでは観光客が激減していると報じられている。一昨年の中国からの観光客数は200万人を超えたと言われているが、昨年からその代替旅行先は日本となっている。そして、多くの旅行関係者は欧州から日本に旅先を変更する中国人が多く、日本における“爆買いツアー”はさらに加速すると。また、最近ではトルコにおいても自爆テロが起こり、ドイツ人観光客が亡くなっている。さらにはISと共にクルド民族とは半分戦争状態にある。こうした傾向は中国人観光客のみならず、多くの国の観光客が欧州を避け日本を訪れると。つまり、訪日外国人によるインバウンドビジネスは今年も続くということである。他国の不幸を喜ぶのではなく、平和の意味を再度考えなければということだ。

ところで、CoCo壱番屋の冷凍ビーフカツが廃棄されずにスーパーや仕出し弁当店などに横流し流通しているという事件が起きた。勿論、産業廃棄物処理業者のダイコーは悪質極まりない企業で、以前から繰り返し行っている常習企業のようだ。今回の事件を聞いて、あの「汚染米流通事件を想い起した人も多いと思う。8年近く前になるが三笠フーズによる事件である。今回の事件と同様汚染された事故米の流通先は多様で、原材料として使用した酒造メーカーは、農水省が公開をためらっているなか、自ら公開した。いち早く汚染された米使用商品を公開し自主回収に向かった薩摩宝山をはじめとした焼酎・日本酒メーカーであった。そして、その後汚染米と知っていながら使って嘘をついた美少年酒造は破綻し、本当に知らずに使っていた西酒造(薩摩宝山)は逆に顧客支持を取り戻し、焼酎の一大ヒット商品となった。この2社の間にあるのは顧客を信じる真摯さ、誠実さであった。
今回の事件も流通した事業者がCoCo壱番屋製の商品であること、さらには廃棄商品であること、こうした事実を分かって取引したかどうかである。これも当たり前のことであるが、加工食品には原材料の内容など表示義務があるにもかかわらず、そうした表示がない商品を扱った流通業者は「おかしい商品」として疑うのが普通である。知らないでは済まされないということである。顧客支持を得た西酒造(薩摩宝山)となるか、あるいは破綻した美少年酒造となるか、流通した関係企業は真摯に応えなければならない。

年明け早々、外にも内にも、嫌な事件が続発している。昨年横浜都筑区の傾きマンション事件の時、「再び、心は内へと向かう 」とブログに書いたことがあった。杭打ちどころかほとんどの商品は見えないところで作られており、一度の嘘はたちまち疑心暗鬼を生むそんな心理市場となっている。CoCo壱番屋は異物が混入しているのではということから自主的に廃棄処分としたが、ペヤングやきそばもそうであったが、日本マクドナルドのその後を良き反面教師として学んでいる。よくリスクマネジメントというが、そんなテクニカルなことではなく、心底顧客を信じ公開し真摯に応えるという商人として至極当たり前のことが求められている。そんな混迷の年が始まった。(続く)
  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:23Comments(0)新市場創造