2019年05月23日

◆「テーマから学ぶ 差分が生み出す第3の世界」 後半 再掲 

ヒット商品応援団日記No737(毎週更新) 2019.5.23.




(前半からの続き)

時代ならではの新しい「差」の創り方

今まで取り上げてきた飲食業態は、どちらかというと一定の規模、チェーン展開を可能とする「差」の創り方ビジネスである。「俺の」のビジネスの場合、地価の高い東京での経営の第一として、立席スタイルによる顧客の回転率を高めたことにある。このように地価の高い都市部、賃料に見合うビジネスとして様々なアイディア溢れる「差」創りによる集客が行われている。
そうしたアイディアの方向について整理すると、ほぼ次の4つの「差」創りに分けることができる。

1、迷い店
看板のない、入り口がどこかわからない、雑居ビルの地下や3~4階、あるいはごく普通の住宅街にあるなかなかたどり着けない迷い店。こうした店舗立地の分かりづらさを逆に活用した、面白がり・ゲーム感覚を売り物にした「差」づくりの店である。

かなり前のことになるが、表通りからは入ることができない中華料理の行列店がある。帝里加 (デリカ)という店で銀座8丁目の首都高速汐留パーキング(地下駐車場)にあるまさに知る人ぞ知る店である。古い店で今もやっているかどうか食べログで調べたが今も健在のようだ。銀座の中心からは少し離れてはいるが、当時のランチは確か550円程度であったと記憶している。当時は銀座の外れとはいえ安く食べられる店として人気があったが、確か数年前に「地下駐車場にある中華料理店」という珍しさがTV局に取材され、そうした意味での観光客も訪れるようになっているようだ。

こうした隠れ家的な店から、今や見事にたどり着けない店が至る所に出てきている。こうしたたどり着けない光景はTV的で見られた人もいることと思う。例えば、テレビ朝日 スーパーJチャンネルで紹介された新宿三丁目の「ホルモン鍋盛岡五郎」はまさに迷い店の典型であろう。雑居ビルに看板は出ているが、店があるべき場所には、業務用大型冷蔵庫の扉があるだけ。実は冷蔵庫の扉=店の入口で、店主いわく「店名は忘れても冷蔵庫の扉は印象深い」ことから、からくりめいた構造にしたのだという。

2、狭小店
地価の高い都市、更には使えないほどの狭い空間、ある意味都市が生み出すデッドスペースをうまく活用した店舗である。

「すし処まさ」という名前を知っている人はかなりのすし通として食べ歩いている人であろう。もしそうでなくても”ああ、あの店か!”と思い出す人もいると思う。新橋駅前ビル2号館の地下にあるわずか3席しかない寿司店としてTVなどでも取り上げられた店だ。勿論、完全予約制で、2~3年先まで予約で一杯という店で、プライベートな「マイ寿司店」である。

「すし処まさ」も古い店であるが、古くからある狭小店となると、JR神田駅高架下の焼肉「六花界」も同じで数名も入れば一杯となるわずか2坪半の立ち飲み焼肉店である。肉を焼く七輪はわずか2つ、隣り合わせの見知らぬ客と一緒に焼いて食べるので、仲良くなること請け合い、縁結びの店としても有名である。TVでも何度となく取り上げられてきたので、遠方から「六花界」を目当てに来る「観光地」にもなっている。

また小田急線新百合ケ丘駅には階段下にこれも狭いカレー専門店がある。「チェリーブロッサム」という店で、ここも席数はわずか5席。階段下というデッドスペースを女性店主が小田急電鉄と交渉の末、了解を得て店舗にしたという。「チェリーブロッサム」も「六花界」と同様、見知らぬ者同士が仲良くなるとして「縁結びの店」としても知られている。

マーケティングに「プロブレム・イコール・オポチニティ」というキーワードがある。問題点こそ新たな解決の入り口となるという意味だが、狭小であればこその世界、「差」の創り方があるということだ。

3、遠い店
4年ほど前からテレビ朝日による行列ができる即日完売の店を漫才コンビU字工事が訪れる「いきなり!黄金伝説」という番組がある。この番組放映を見て、全国各地にある行列店観光の旅をする人も多く出てきたと思う。「そこまでしても食べたい」というのは食欲のそれではなく、食べ歩きの趣味が高じた一種の「行列オタク」といった方が分かりやすい。

迷いはしないが、とにかく遠くても行きたい人気店がある。最近ではハイキングコースとして知られる高尾山に温浴施設が出来て、登山と共に楽しめるようになったが、それまでのもう一つの楽しみが名物の蕎麦である。
最近ではこうした遠くても行列オタクが出没する日本一標高の高い山頂のパン屋さん「横手山頂ヒュッテ」が人気となっている。長野県と群馬県の県境にそびえる横手山の山頂にあるパン屋さんであるが、毎朝山頂で焼き上げる絶品のパンは、一度食べたら忘れられない味という。

これもTV番組的な話題として格好のものであるが、ここ数年「遠くても行きたい」オタクが増えてきている。撮り鉄、乗り鉄といった鉄道フアンはよく知られた存在であるが、全国各地の食による町おこしイベントであるB1グランプリがスタートして以降、全国各地のフードイベントを食べに旅行する「食べ歩きオタク」が多くなってきている。そうした意味で、「遠く」は問題とはならず、逆に「遠く」を楽しむ世界が生まれてきたということである。
勿論、そのためには「際立った」、「ここだけ」「この時だけ」という明確な「差」創りが求められていることは言うまでもない。

4、まさか店
「まさか」とは、あり得ない、いくらなんでも、本当!といった意味で使われる言葉であるが、常識を覆した店が激増している。特に、激増しているのが「デカ盛り」「メガ盛り」といった「量」の意外性を売り物とした、「差」創り店。もう一つが「価格」のまさかで当然原価割れしていることがわかる超低価格の設定である。こうした店の多くは口コミを始めTV局が取材してくれるであろうことを期待したもので、いわゆる宣伝費として実施しているところが多い。

こうした宣伝費として行う店は一定期間集客し、経験してもらえれば終了するというところがほとんどである。「まさか」を継続している店、今なお経営している店の一つが横浜を中心に展開している蕎麦店「味奈登庵(みなとあん)」であろう。創業40年、フルサービス店とセルフサービス店の2タイプがあるチェーン店だが、製麺工場に店舗がある、そんな業態である。1番の人気はつけ天。注文が入ってから天ぷらはあげる。美味しくて値段が手頃のため一日に400人以上が押し寄せる店である。
ところで、そのメニューであるが、セルフサービス店の人気の蕎麦の「富士山もり」はまさに超デカ盛りの蕎麦である。(是非HPを見て頂けれと思う。)
もり 300円
大もり 400円
富士山もり 500円
皿もり 300円
冷やしそば500円
おそらく「デカ盛り」と言った言葉がない時代から継続して提供しており、いわば元祖デカ盛り蕎麦店と言えよう。

これ以上数多くある「まさか店」を取り上げてもおまり意味はないので取り上げないが、いずれの場合もその最初の驚きは次第に慣れと共に無くなっていく。店も、メニューも、サービスも、オープンの時が一番新鮮な驚きを提供する。この鮮度を保つには次々と異なる「まさか」を導入し続けるか、もしくは「味奈登庵」のようにプロモーションとしてのそれではなく経営ポリシーとして持続させ、そのことを顧客が良く理解し共感を得られるか、そのどちらかである。
「味奈登庵」の場合、富士山もりに象徴されるデカ盛りによって創られる「差」は、独自な世界、第三の世界を見事に創り得ることに成功し、一つのブランドにまで高め得た事例である。
価格における「まさか」と思わせる「安さ」をブランドの根底に据えた専門店には、あのドン・キホーテがあり、均一価格100円としてはダイソーがある。この2社がブランドとして成立し得たのは、「差」創りという視点に立てば、見事なくらい第三の世界を新たに創り得たことによる。


テーマから学ぶ


今回のテーマは競争市場という避けて通ることができない現在にあって、「差分」という発想から見た幾つかの事例を取り上げ、顧客支持が得られる「差」とは何かを分析してみた。

5つ目の「差」創り

ところで私のブログや拙著を読んでいただいている人には、チョットいつもとは違うなと思われると思う。特に、4つの「差」創りのところである。実は4つではなく、5つであるのだが、一番重要なことは人による「差」である。例えば、周りを大型商業施設に囲まれ、衰退するかのように誰もが考えた江東区の砂町銀座商店街には、個性豊かな「あさり屋」の看板娘や昭和の匂いのする銀座ホールには人の良い名物オヤジがいる。そうした多彩な「役者」が日々商売している商店街である。それを目当てにご近所顧客どころか、都内から多くのシニアが押しかける商店街となっている。
街場の商店の最大の競争力、他に代えがたい「差」は人である。その人が作るメニューは量産できるものではなく、家庭料理、おふくろの味といっても過言ではない。それを人情食堂と呼ぼうが、昭和の洋食屋と呼ぼうが、その多くは「人」が創る「差」、固有な世界、まさに第三の世界がそこにはある。今回はそれらを分かった上での「差」とは何かを事例をもって分析した。

「差」の大きさがその後の明暗を分ける

今から3年ほど前に「俺のフレンチ・イタリアン」を取り上げた時、「ありそうで無かった」飲食店として「東京チカラめし」についても同じような視点で取り上げたことがあった。いわゆる焼肉丼の専門業態であるが、取り上げてから2年後には半年で一気に39店舗の閉鎖という結果となった。「焼き牛丼」(並盛330円)というスタイルと安さで、「吉野家」や「すき家」、「松屋」といった牛丼チェーンを猛追し、急成長した専門店である。その縮小(直営12店舗、フランチャイズ3店舗のみ運営)理由や背景は業界的には様々言われてきたが、俯瞰的に見れば「価格差」と「メニュー差」共に、実は大きな「差」として新しい世界を創り得なかったということになる。「東京チカラめし」導入後、牛丼大手にはすぐに「焼肉丼」というメニューが並び、メニュージャンルとしての「差」はなくなった。また、価格についても他の競争相手となっている牛丼だけでなく、今や外食最大手のコンビニ弁当との「差」を創り得なかったということである。
一方、同時期に「ありそうでなかった」メニュー業態で、多くの顧客支持を得た「俺の」も今手直しが入っている。スクラップ&ビルトは常であるとは言え、新しい「差」創りの成功と失敗という一つの事例として学ばなければならない。
情報の時代とは類似を生む時代だけでなく、顧客の側に立てば自在に選択できる時代ということである。小さな「差」は次第に周りの食の情報に埋もれ、選択のテーブルには上がらなくなっていく。

サイドメニュー戦略の進化と深化

今までのサイドメニューと言うと前述のナタデココのようなデザートが代表的なものであった。女性客を獲得するには甘いものは別腹という言葉があるように、飲食業界はこぞってデザートを競い合ってきた。こうしたサイドメニューの原型はどこにあるかと言えば、ファミレスがお手本として導入したのはホテルレストランであった。1970年代お手頃価格でホテル並みのサービスを満喫できる、そんなスタイルの最後に出てくるのがデザートであった。つまり、食のスタイルとしてのデザートである。この考え方は、外食で言うとファミレスから居酒屋まで取り入れられてきた。例えば、それまでの焼肉店ではデザートはあまり充実してはいなかったが、「差」創りとしてアイスクリームなど充実させたのが牛角チェーンであった。

しかし、競争はそうした「差」を差としなくなってきた。つまり、顧客の側にとってあらゆるところにスイーツが氾濫するようになり、特にコンビニにおけるスイーツのクオリティは高く、消費の先鞭をつける女性にとって最早差を感じることは少なくなってきた。結論から言うと、デザートの「戦略性」はどんどん減少してきたということである。

そして、こうしたメニュー環境を進化させたのは同一業種間の競争ではなく、業際という垣根がなくなり、選択肢は顧客の側に移った時代の只中にいるという認識が重要となる。7年ほど前から「ワンコインランチ」という言葉が当たり前のように使われてきた。何をランチで食べるかではなく、500円のランチを食べるという、デフレ型消費心理の象徴となるキーワードであった。また、同時期に流行った言葉がガツン系とかデカ盛りといった言葉であった。しかし、一方では一番活発な消費を見せる30代男子は「草食系」と呼ばれ、「お弁当族」なる言葉も流行った。多様な消費といえばそれで終いであるが、実は「多様さ」を突き抜けるようなメニュー模索が始まっている。

その一つがメインメニューとしてのサイドメニューである。言葉遊びのように思えるかもしれないが、両輪としてのメインメニューとサイドメニューといった方が的確であろう。「よもだそば」の看板には”自家製麺とインドカレーの店”とある。文字通り読むとなると、「そばとカレーの店」となる。
業際とは異なる事業にまたがった新事業を指す言葉だが、「よもだそば」の場合は異なるジャンルの異なるメニューにまたがる新しい専門店とでも表現したくなるそば店である。つまり、それほどまでに、専門店並みのカレーを提供しているということである。
新橋「丹波屋」のネパールカレーしかり、回転寿司の「くら寿司」のラーメンやシャリカレーもしかりである。そして、このサイドメニューのメインメニュー化によって新たな顧客層の拡大と客単価のアップという2つの戦略が同時に行なわれているということに注視する必要がある。
そば屋なのにここまでやるのか、回転すしなのにここまでやるのか、といったサイドメニューに「差」を創るところまで競争は進化し、深化してきたということである。そして、今後の競争はこうしたサイドメニューにおける「差」創りによって新たに生まれる第三の世界間の競争へと向かう。

課題をチャンスに変えるアイディア

外食特に客層を広げる必要のある店の第一のポイントは出店立地である。しかし、都市部の一等立地と言われる場所は賃料も当然高くなる。賃料に見合う経営をするにはどうすべきか、その良き事例の一つが「立ち食い」=「高回転」=「ニュースタイル」を生み出した「俺の」であった。今回さらに取り上げてみた「迷い店」「狭小店」「遠い店」「まさか店」はそうした課題に対し、いわば逆転の発想を持ってチャンスに変える店づくり、「差」創りである。
その「差」創りは情報の時代ならではのもので、「迷い店」「狭小店」「遠い店」も含め、その意外性、驚きをどうつくるかという「まさか店」である。話題性が最大の集客力となるのだが、その話題も時間経過と共にその「鮮度」は落ちてくる。ちょうど東京ディズニーリゾートが一定の間隔で新たなアトラクションを導入し、常に変化あるエンターテイメントを提供し続ける構図と同じ宿命を持っている。飲食業におけるアトラクションは「メニュー」ということである。

激安、激盛り、激辛、・・・・・・激であればあるほどまさかという「情報」を求めて行列ができる。行列という情報は、また次なる行列を呼ぶこととなる。いわば観光地化が進んでいくということである。こうした観光地化を「街単位」「エリア単位」で再生したのが、「谷根千」(谷中、根津、千駄木)である。拙著「未来の消滅都市論」にも書いたが、その後も「谷根千」には続々と和物の雑貨などの「観光地土産店」が誕生している。観光客に対し、昭和レトロというテーマ集積、テーマパーク化が進行しているということである。「まさか店」もメニュー創りとして、同様のテーマパーク化に向かうこととなる。つまり、「まさかメニューの充実と拡大」が観光鮮度を維持するということになる。

こうした「まさか店」を成立させる着眼の一つが、「差」創りにおける「あっと思わせるようなトリック世界」、あるいは「なるほどと思わせる物語世界」である。前者は「迷い店」で取り上げた業務用大型冷蔵庫の扉を入り口とした新宿の「ホルモン焼き店」であり、後者は「狭小店」の神田の立ち食い焼肉の「六花界」における縁結び物語となる。

ところで、この未来塾を書いている最中に再来年春に導入予定である新消費税における軽減税率の概要が政府&与党内でほぼ決まったと報道された。その内容だが外食とアルコール飲料以外の生鮮食品、加工食品については現行の8%に据え置くと。逆に、外食産業は10%になるということである。テイクアウトやデリバリーは軽減税率の適用を受けるようだ。そして、誰もが考えることは、2017年春以降は「内食化」が進むであろうと。それは更に「食」における競争が質的に激化するということであり、どんな「差」を創るべきか、チェーン店も、個人事業者店も、その明確な戦略が一層求められていくことは間違いない。
繰り返しになるが、「差」によって生まれる、顧客の脳が創りあげる「お値段以上の何か」「新しい何か」「第三の世界」をめぐる競争となる。そして、ほぼ軽減税率が決まったことで、外食産業は次なる戦略と実行への準備が一斉にスタートする。創り手の主張、メッセージがこの「差」に託され、顧客の側もその選択肢で応える、そんな市場になる。
どんな時代であっても、顧客の選択肢とは理屈としてではなく、自ら経験・食べもし、そのことによって「差」を体験するのである。今まで体験したことのなかったような、そんな突き抜けるほどの「差のある世界」であれば、リピーターやオタクとなる。ある意味、オタクという存在は突き抜けた「何か」を感じる、そんな「差」を決めてくれる存在である。いわば次の何かを感じ取るアンテナショップならぬ、アンテナオタクの時代を迎えたということだ。(続く)
  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:13Comments(0)新市場創造

2019年05月21日

◆「テーマから学ぶ 差分が生み出す第3の世界」 前半 再掲  

ヒット商品応援団日記No736(毎週更新) 2019.5.21.

前回のブログでポイントという「お得」競争が洪水のごとく蔓延している状況を指摘した。こうした「お得」という魅力を3年半ほど前に既に整理し、「差分が生み出す第3の世界」というタイトルでブログに書いた。簡潔にいうならば、「お得」という「差づくり」の整理であり、「差分」という新しいキーワードによる新市場創造の事例をレポートしたものである。特に飲食を事例としているので、今回の消費増税への対応策、ポイント洪水から脱却する着岸に税ひ活用していただけれと思う。

「差分」という聞きなれない言葉を使ったが、これは慶応大学佐藤雅彦研究室による「差分」(美 術出版社刊)によるものである。この「差分」という考え方をもう少し現実ビジネスに引き寄せて、競争市場下の「今」をテーマとした。特に、消費の世界におけるデフレ的現象が続く中、従来の「価格差」以外の競争力として新しい芽とその背景について学んでみることとする。




「テーマから学ぶ」

「差分」が生み出す第3の世界
競争市場下の「今」


5年ほど前になるが、インテリア業界に一つの革命をもたらしたニトリだが、その躍進について、似鳥社長はTV局のインタビューにその「安さ」について”20%程度の安さでは消費者の心を動かすことはできない。動かすとなるとやはり30%以上の安さでないと”と答えていた。しかも、”お値段以上のニトリ”をコンセプトとしている。こうした「差」がもたらす世界は価格だけでなく多様な消費世界に現れている。ビジネスマンであれば、必ずついて回るテーマ、「どう差をつくるか」について、その「今」を、飲食市場に現れた新しい「芽」をテーマとして取り上げてみることにした。

ところで「差分」という聞きなれない言葉を使ったが、慶応大学佐藤雅彦研究室による「差分」(美術出版社刊)によるものである。脳科学を踏まえた次なる表現を多くのビジュアルを使って、”「差」を取ることで新しい何かが生まれる”ことを検証した著作である。差分とは隣り合ったものの差を取った時の「脳の答え」であるとし、その比較には新しい情報が含まれていると指摘をしている。
ニトリの例で言うならば、他との価格差が20%引きでは何事も生まれないが、30%引きになると価格差以外に「新しい何か」「心を動かす何か」「お値段以上の何か」という「第3の世界」が生まれるということになる。少し単純化してしまい佐藤教授には申し訳ないが、私のこの著作から受けた「解釈」はそうしたものであった。「差分」は大変示唆的な著作であり、著作権の問題からビジュアルを含め多くを引用できないので、是非とも一読されたらと思う。

この「差分」という考え方をもう少し現実ビジネスに引き寄せて補足するとなると、やはりブランドあるいは老舗の持つ「差」とは何かということにつながる考え方・着眼である。景気が低迷するデフレの時代にあっては、「価格差」が違いを明確にする一番の要因ではあるが、一方根強いブランドフアンもいる。拙著「未来の消滅都市論」にも書いたことだが、「差異」は顧客によってつくられるとし、ボードリヤールの記号論を引用しながら「特別なコード」、記号価値が消費を左右すると書いた。この記号価値が購入したいと欲求する価格を決めるもので、他に代えがたい記号価値を持つものとしてブランドや老舗を位置付けた。
「差分」という文脈から言うとすれば、多くの時間を経た歴史や文化が堆積した「何か」に新しさを感じ取る、「脳の答え」として創造されているということになる。私の言葉で言うと、Old New、古が新しいと感じる世界のことである。結果、「価格差」が生まれるということになる。
そして、前回の未来塾「シモキタ文化」のところでも書いたが、古着フアンにとって古着とは他者との「違い」を自己表現の中に取り入れる特異な商品としてある。そして、多くの古着フアンはそうした「一点もの」、あるいは「レア物」を探すことを「出会い」と呼び、その「差」を楽しむ消費スタイルとなっている。しかも、上から下まで1万円というのが新品の価格ゾーンで一般的となっているが、古着においては3000円となり、安価に「差」が創れる新しい第3の世界という商品ということだ。

デフレ時代にはこの「価格差」が消費心理の多くを占めてきた。佐藤雅彦先生流に言うと、脳がそのように答えてきたということである。1990年代後半、デフレの旗手と言われたユニクロ、吉野家、日本マクドナルド、あるいは業態は異なるが、ネットショッピングの入り口で仮想商店街を作った楽天も入るかもしれない。今やリアル店舗で商品を確認しネットで購入というのが一つの消費パターンとなっているが、そのお膝元である米国では、アマゾンに負けじとあのエブリデーロープライスのウオルマートですらリアル店舗を受け取り場所としたネット活用に踏み切ってきた。これら全て「価格」の持つ「力」、「差」を戦略化した例であろう。
しかし、こうしたデフレ潮流も数年前から、単なる「安さ」だけでは「差」となりえない消費に向かってきている。その象徴例が圧倒的な「安さ」を売り物とした居酒屋チェーンの衰退である。おつまみをはじめとした食事メニューのほとんどが300円以下となり、若い世代の財布に優しい業態として成長してきた。しかし、その代表的な企業であるワタミは右肩下がりとなり、2015年3月期の決算では創業初の営業赤字、損失は126億円に及んだと報じられている。その中核事業である居酒屋チェーンの和民は2014年度中に約100店舗ほど閉鎖したことが赤字に大きく影響したのだが、それら全て顧客が離れていった結果であることは間違いない。私に言わせれば、それまでの「居酒屋」はお酒中心の業態であったところに、「居食屋」という新しいコンセプト、食事を中心とした業態に圧倒的な顧客支持を得ることができた。しかし、その「居食屋」業態には新たな業態が続々参入する。今ではあのファミレスや中華食堂の日高屋までもが、夕方ともなればサラリーマン相手のちょい呑み居酒屋へと変身する。「差」をつけるどころか、逆に「差」をつけられた古い業態へと向かってしまったことによる。ある意味、「変わること」ができなかった典型的なモデルケースとなってしまったということだ。

4つの「差」づくり

今回のテーマについてだが、1990年代後半からのデフレとは異なる「デフレ」が進行している。ここではその「デフレ」とは何かといった定義ではなく、消費という視点に立つとデフレ的現象が続く中、新しい「差」の創り方が幾つか出てきている。
まずその整理として、以下のような「差」の作り方がある。
●業態としての「差」
●メニューとしての「差」
●価格における「差」
●ネーミングなどコミュニケーションの「差」
勿論、こうした「差」の組み合わせも当然あるのだが、価格における「差」を踏まえた「差」の組み合わせが数多く見られる。


「俺のフレンチ」の革新性

「俺の」ビジネスモデルの出発点は2011年9月第1号店、わずか16坪の「俺のイタリアン」(新橋本店)であった。当時はあまり話題にはならなかったが、「俺のフレンチ」銀座本店をオープンさせた頃から、”立ち食いフレンチ”といういまだかってなかった業態に注目が集まり始めた。そして、2012年の日経MJ「ヒット商品番付」にもその特異性が紹介され、ブームが起こる。当時のブログ
「2012年ヒット商品番付を読み解く」において、私は次のようなコメントを書いた。

『今年のヒット商品は「ありそうで無かった」業態に注目が集まっている。その代表例が「俺のフレンチ・イタリアン」である。・・・・・・キャビアなどの高級食材を使った一皿1000円未満のレストランであるが、大半が立ち食い業態で1日の客回転が5回にも及んでいるという。東京新橋の立ち飲み居酒屋は中高年対象であるが、若い世代の立ち飲み業態、ショットバーは恵比寿を始め都内には無数存在している。しかし、食材にお金を使った本格フレンチ・イタリアンで一皿1000円未満、そのかわりに立ち食いスタイルという「ありそうで無かった」レストラン業態に若い世代が支持をしている。』

フレンチと言うと、高級で着席スタイルという格式を要した業態であると、多くの顧客は理解していたが、「俺の」の場合はリーズナブル価格で、立ち食いスタイルというカジュアルな業態という極めて大きな「差」を感じる人間は多い。しかし、そうした感じ方はシニア世代が多く、若い世代にとっては敷居は低く、しかも新鮮なスタイル感であった。同じ「差」であっても世代やマーケットによって大きく変わる良き事例である。
しかも、飲食業態は初期投資が大きく償却に時間がかかる。「俺の」の場合は、出店店舗の多くは撤退した居抜き物件で小さな投資で償却も短い、そんなビジネスモデルでもある。そうしたことから周知のように、「スパニッシュ」「やきとり」「割烹」「そば・おでん」「焼肉」「中華料理」と、その多様な飲食へと成長してきた。現在は30数店舗ほどであるが、世界への出店を含め、300店舗を当面の目標とすると発表されている。元々中古本販売の「BOOK OFF」の創業者であった坂本孝氏をリーダーとした企業で、その程度の店舗数をマネジメントすることは十分可能である。

ところで全ての店舗を見たわけではないが、ブームという期間を終え、業態やメニューに幾つか「手直し」が入っている。創られた「差」が大きければ大きいほど、新しい「何か」への興味・関心を呼び、結果ブームという現象が生まれる。つまり、新しい客層を開発することはできるが、同時に時間経過と共に利用回数も減ってくる、あるいは一度体験してみたいとした「観光利用」のような顧客は当然リピーターにはならない。
例えば、写真の「俺のフレンチ」は元は「俺のイタリアン」であった。そして、立ち食いスタイルではなく、34席全て着席スタイルといういわば業態の転換である。しかも、銀座並木通り店では初めてコース料理のみを取り入れている。ちなみに、フレンチとしてはかなり安いものであると思うが、例えば6品フルコースで3999円(税別)となっている。
今後どんな展開を見せていくか興味深いものであるが、着席スタイルの店を多くし、更には小型店を少なくし、大型店舗の出店を多くしていくと推測される。その象徴と思われる店が銀座に2店ある。
「俺のフレンチTOKYO」と「俺のイタリアンTOKYO」である。それぞれ180席と130席ほどの大型店舗で、全て着席スタイルとなっている。そして、ピアノなども置かれライブミュージックを楽しみながら食事をするといった具合である。アミューズ代300円、ミュージックチャージ300円が必要となる。そして、料理の方も今までの小型店でのメニュー価格よりかは高く設定されているようだ。

こうした手直しと共に、新規メニューの導入に際してはその単価を上げていくとも聞いている。つまり、リピーター化を図るための着席スタイルの拡大と、客単価を上げて新たな採算ベースの経営を行うということであろう。
また、こうした手直しが明確に出ているのが「俺のだし」であろう。オープン当初の店名は「俺のそば」であったが、店名の変更と共にメニューにも変化が出てきている。
銀座5の店頭写真を見ていただくと分かるように、「天丼」も出すようにメニューも変わってきている。勿論、蕎麦屋に天丼はつきものではあるが、そばに特化したメニューから客層を拡大するための一つの方策であると考えられる。元々、立ち食いそばは客層が広い業態である。そうした意味合いにおいては業態としての特異性は「俺のフレンチ」と比較しあまり大きな「差」は感じられない。
オープン当初の「俺のそば」の頃、メインとなる肉そばを食べた時感じたのは、勿論味は違うのだが、虎ノ門にある「港屋」という立ち食いそばの人気店が思い出された。この港屋は周知の三田にある「ラーメン二郎」のそば版と言われ、そのデカ盛りと共に、食べ飽きないように生卵を無料にして変化をつけるスタイルなど、その多くを「俺のそば」に取り入れていると感じたのである。(「俺のそば」の場合は生卵は10円と有料となっている)
顧客のためになる良き点であれば真似をしても構わないのであるが、若干懸念するとすれば手直しをしたネーミングにもなっている「だし」の特徴、その「差」はどう評価されているかである。ちなみに、
俺の肉そば(冷)700円、(温)600円、
場所;東京都中央区銀座5-1 東京高速道路南数寄屋橋ビル B1F
営業時間;月~金11:00~15:00、17:00~23:00

「俺の」はこの新しい業態を導入して3年程経つが、現時点での成功要因は「差」が一番大きく感じるフレンチを導入したことによる。そして、ネーミング、コミュニケーションにおいても、「俺の」という極めてユニークなものとし、その「差」もまた極めて大きい。そうした意味で、4つの「差」づくりがうまくいった事例となっている。そうした意味で、「俺の」という業態は固有な第3の世界、ブランド創りにはまずは成功したと言えよう。

ところで「俺の」という戦略によく似た、というより同じ戦略をとっている飲食チェーンビジネスに気づくことであろう。「俺の」に少し遅れた2013年12月銀座に1号店をオープンさせた「いきなり!ステーキ」である。立ち食い&着席という業態も同じであり、そのネーミングも”思いきり食べて欲しい”という思いから、店名に「いきなり」とつけたとのこと。「俺の」と同様意外性があり、他のステーキハウスなどとの違いをまさに店名にすることによって、新しいステーキ店としての「差」、新しいイメージが想像・創造されている。
メニューも食べたいだけ注文できるようにグラム単位となっている。ちなみに、
「リブロースステーキ」;1gが6円
「ヒレステーキ」;1gが9円
価格設定もわかりやすく、好みとお財布を相談して決められる良きメニューシステムとなっている。上記のようながっつり食べたい向きと共に、「国産黒毛和牛サーロインステーキ」は1gが15円。運営しているのはペッパーフードサービスでステーキやハンバーグなどの飲食店を展開している企業であるが、2013年の輸入牛肉の規制緩和以降、赤身肉ブームやシニアももっと肉を摂る必要があるとの指摘もあり、そうした肉食ブームの追い風を受け、「差」創りも現時点では順調となり、急速にその店舗展開が進んでいる。

サイドメニューに「差」をつくり、メインメニューとなった立ち食いそば店


立ち食いそばと言えば、江戸時代からの日本のファストフーズであるが、駅のホームで食べる忙しいサラリーマンの定番飲食業態店の一つである。全国にはご当地立ち食い蕎麦という特色ある業態も数多くあるが、全体としてはそのメニューは時代と共に進化している。東京においては、ここ数年その立ち食いそば店のメニュー自体に大きな質的変化が出てきている。その変化とは”たかが立ち食いそば、されど立ち食いそば”といった蕎麦自体の進化ではない。そば粉の産地に凝る、打ちたて茹でたてにこだわる、こうした立ち食いそば店は数多くあるが、そのメニュー作りの「差」に極めてユニークな店が出てきており、街のビジネスマンの大人気店となっている。
まずその立ち食い蕎麦店の一つが「よもだそば」である。日本橋と銀座という地価の高い場所にあるそば店であるが、写真を見ていただけたら分かるように店先のノボリにはそばと共に「本格インドカレー」とある。蕎麦においても特徴ある特大かき揚げそばなど嬉しいメニューが人気となっているが、なんといってもカレー専門店並みの本格インドカレーを出しており、そのインドカレーを食べに来る客もいて、地価の高い一等地でも客層が広がり経営が成り立つ良き事例となっている。立ち食いそば屋だけど、でも普通とは異なる立ち食いそば屋という第3の世界が構築されたということである。ちなみに、

特製インドカレー490円/半カレー270円(定番特大かき揚げそば370円)
他にも外国人向けのメニューとしてチーズそばといった変わりそばもある。
場所;日本橋店 東京都中央区日本橋2-1-20 八重洲仲通りビル1F
銀座店 東京都中央区銀座4-3-2 銀座白亜ビル1F
営業時間;平日7:00~22:00

もう一店立ち食いそば店を挙げるとすれば、サラリーマンの聖地新橋で行列ができる店がある。昭和59年創業丹波屋という6~7名も入れば一杯となる小さな店であるが、この店の人気サイドメニューもカレーである。ここ丹波屋のカレーはネパールカレーで、代々続くアルバイトのネパール女性が作ったもので、当たり前の話だが、「本格ネパールカレー」である。
多くの立ち食いそば店のメニューの作り方の一つがセットメニューである。普通の立ち食いそばの場合はおにぎりや稲荷寿司とのセットであるとか、ごくごく普通の半カレーのセットが多い。丹波屋の場合もよもだそばと同様ミニカレーとのセットが多いようだが、そのネパールカレーが売り切れてしまうことが多いようだ。是非食べてみようと新橋に行った日も、まだ12時を少し過ぎだというのに、店頭には「カレー売り切れにつきすみません」との張り紙が掲げられていた。いかにカレーフアンが立ち食いそば店に行っているかである。このカレーについては、「マツコ有吉の怒り新党(テレビ朝日)」で紹介されたことが行列を生み、またカレーの品切れの火付け役となったようだ。ちなみに、

インドカレー 410円/ミニ280円(定番春菊天そば370円)
場所;R新橋駅 新橋駅烏森口から徒歩2分 ニュー新橋ビル1階/営業時間;7:00~23:30

サイドメニュー戦略の広がり

サイドメニューと言うと、まず思い出すのがファミレスにおけるデザートであろう。その中でも大ヒットメニューになったのが「ナタデココ」で、1992年ファミリーレストラン「デニーズ」の新しいデザートとして登場したメニューで、一大ブームを起こす。周知のように独特の歯ごたえがある食感、しかもカロリーが低く、食物繊維が多いのでダイエットに良いと若い女性から圧倒的な支持を得たメニューである。こうした特徴、他にはない「差」もさることながら、そのネーミングはフィリッピンの常用語でもあり極めて独自なユニークなものであった。「ナタデココ」は従来のデザートとの「差」、更にはデニーズというファミレスブランドに新しい「何か」「差」を創り得た良き事例であろう。

ところで大手回転寿司チェーン店と言えば、スシロー、かっぱ寿司、元気寿司、そしてくら寿司となるが、中でもくら寿司の業績が群を抜いている。特に営業利益面においては外食産業においてもそうであるが、他の回転寿司チエーン3社と比較し極めて高くなっている。その背景にはマグロに代表される寿司ネタという原材料の高騰、更には寿司職人不足がある。何故、くら寿司が高い利益を得ることができているのか、そのメニュー戦略の一つがサイドメニューの強化、どこにもないメニューの開発にある。

くら寿司のサイドメニュー戦略に移る前に、外食、特にファミリー層を主対象とした外食産業の傾向を簡単に説明しておくこととする。前述のデニーズではないが、順調に成長してきたファミレスも2008年のリーマンショックによる景気後退により、4~5年間にわたり大手三社で500店もの店舗閉鎖を余儀なくされた。一昨年の夏頃から回復基調を遂げているが、その原動力となったのも新規メニューの導入であった。ここではファミレスの詳細については触れないが、実は回転寿司チェーンもファミリー向けのサイドメニューの強化を図ってきた。業界的に言うと、回転寿司のファミレス化となる。つまり、業際がここでもどんどん無くなってきたということである。

こうした業際が無くなってきた中でのサイドメニュー戦略であるが、周知のようにかなり思い切った戦略が採られている。これは創業者である田中邦彦社長の「安くておいしいだけでは飽きられる」との信念によるものと言われている。多くの回転寿司もファミレス同様デザートを強化してきたが、くら寿司の場合のサイドメニューは、例えばラーメンというそれだけで一つの専門店メニューになるような戦略である。勿論、生半可なラーメン専門店顔負けのクオリティも持ったラーメンである。
ちなみに、2012年に導入された「ラーメン」は魚介系醤油からとんこつ系醤油まで8種類と充実されており、全て360円である。
結果、どのようなものとなっているか、サイドメニューの浸透とともに、客層も広がり、しかも客単価が上がってきたということである。
更に、CMでも知られているように、寿司屋の「シャリカレー」の導入である。酢飯にカレーというありそうでなかった、意外性のあるカレーであるが、これはこれでさっぱりと食べられるカレーとなっている。
このカレーもシンプルな「シャリカレー」は350円、定番であるかつなどをトッピングしたカレーは450円で8種類、全10種類のメニューとなっている。
寿司屋のラーメンについてはそれほどの意外性、驚きはないが、やはり「シャリカレー」となると少しの驚きと共に、一度は食べてみたいという気持ちが動く。つまり、明確な「差」が生まれるということである。しかも、客単価も上がり、客層も広がるという戦略となっている。
こうした戦略を可能としているのも、寿司屋の基本である「にぎり」、なかでも「熟成まぐろ」一貫100円という商品があればこそである。

こうしたヒット商品を生むまでには多くの失敗もあったとのこと。ヒットしたラーメン以前にも1998年には「無添加ラーメン」という屋号で専門店をオープンさせているが、わずか1年で撤退している。また、10年ほど前にはコーヒーを販売したが売れずに撤退。以降、検討を重ね、寿司を食べた後、さっぱりした飲み物に変え、2013年に再度販売にふみきり、一定の評価を得ている。スタートは「回転寿司」という業態であったが、回転レールの上に乗るメニュールは、まさに業際を超えたメニュールに向かっているということだ。回転寿司のファミレス化も次のステージに移ってきたと言えよう。(後半へ続く)
  


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2019年05月19日

◆広がるお得競争のなかの消費増税 

ヒット商品応援団日記No735(毎週更新) 2019.5.19.

2017年度に全国の自治体が受け取った「ふるさと納税」の寄付額が前年度より28%多い3653億円となったと総務省から発表された。この急速な拡大の理由は返礼品競争にあるのだが、中でも全国最多の寄付額を集めた大阪泉佐野市の場合は135億円に達したという。返礼品の金額を寄付額の3割以内に抑えることなど競争を抑えようとしてきたが、従わなかった泉佐野市を始め4市町村をふるさと納税制度の対象自治体から除外したと報道されている。ここで注目すべきは返礼品という「お得」に対し、消費者は敏感というより極めて過激な反応を見せているという点にある。2015年度から急速に寄付額が伸びたのは周知の「ふるさと納税」の代行サイトを見れば一目瞭然である。欲しい返礼品の検索だけでなく、価格.comではないが、全国の自治体の返礼品の「お得度合い」がわかるようなものとなっている。当然、競争は次なる競争を生む。各自治体はより魅力的な「お得」を探し寄付額を増やすことへと向かう。「寄付」という善意の制度ではなく、返礼品というお得競争市場になったということである。ここで注目すべきは返礼品の金額を寄付額の3割以内に抑えた「お得」は消費者にとって魅力的になり得るかどうかである。そして、ふるさと納税の制度によって埋もれた地方の特産品が表に出て、それを魅力的であると感じた「市場」はこれからも残ると思うが、「お得」という価値観が先行した競争市場は無くなることとなる。

ところで2ヶ月ほど前のブログにも書いたが10月に予定されている消費増税において政府の政策の一つであるキャッシュレス事業の推進を一つのチャンスとして各社が一斉にこのキャッシュレス&ポイント市場に参入している。これまでの共通ポイントとして圧倒的なシェアーを誇ってきたTポイントは最早その牙城は崩れてしまっている。それまでの消費者の購買データの提供という事業者への魅力ではなく、ポイントという消費者への「お得市場」へと転換してしまったということである。各社とも顧客名簿をもとに決済という購買の根幹を抑えるためのお得市場への参入である。
実は1998年4月に消費税が3%から5%へと増税された時、ヨーカドー、イオンによる「消費税分還元セール」が大人気となる。また、マクドナルドによる半額バーガーも大ヒット商品となる。まさに「お得プロモーション」であり、ユニクロや吉野家などデフレの騎手と呼ばれキーワードとなったたことを思い出す。勿論、「デフレ」は消費者の味方という意味で使われていた。ところが2014年4月に消費税8%導入の時はどうであったか。政府は「消費税還元」という言葉を使ってはならないと厳重監視したことを同時に思い出す。そして、生まれた結果は、激しい駆け込み需要とその反動である消費需要の落ち込みにより、ある意味失敗した。それが今やキャッシュレス事業の推進を名目に、ポイント還元という官製「お得」プロモーションが行われようとしている。消費税8%導入の時の同じ失敗をしないためと思われるが、収入が増えない状態でのデフレ環境にあっては消費者の眼は極めてシビアになる。

ポイント還元であれば、セブンイレブンが弁当やおにぎりなどの賞味期限まじかの商品については実質値引きとなるポイント還元を秋には行うと発表した。ローソンも既に同じような廃棄ロスをなくすことが行われており、コンビニ各社はこぞってこのポイント市場へと向かっていくであろう。
実はこのブログにも何回か取り上げたことのある仙台秋保温泉のスーパー「さいち」では夕方の一定時間からはお惣菜関連については一斉に値引き販売を行なっている。小さなスーパーでは値引きシールをその都度貼って行なっているが、「さいち」ではそんな手間を省き一斉に値引き販売をレジで行いロスは一切出さない経営を行なっている。「さいち」は全国で初めて惣菜を販売したスーパーであるが、ロス率ゼロ、つまり「売り切る」経営を既に行なってきているスーパーである。顧客が求める「お得」の力を借りた経営ということである。

そのポイント還元であるが、今日の「お得」競争の定番となりつつあるが、長い目で見たビジネスという視点も必要である。実は2014年の増税前に増税をチャンスに変える経営としていくつかの視座を提起したことがあった。この視座は今なお変わらぬものと考えるの再度明記しておく。

1、消費移動を見極める
消費が無くなることはない。全ての対策の前提はどのような利用回数の増減を含めた「消費移動」が起きるかをシュミレーションすることから始まる。例えば、都心のランチについては「500円ランチ」が現在定番となっているが、次のような 「移動」が考えられる。
  ・新たな「400円ランチ」へ  ・お弁当族へ  ・コンビニで400円程度の弁当等と飲料持参
つまり、競争相手が変わったということであり、今以上に「顧客」を見つめなければならないということである。
その顧客の見つめ方であるが、顧客は顧客を呼ぶ、結果商品や店、あるいはエリアに集中することとなる。そして、その集中の理由を明らかにするということである。
既にその芽は前回の増税後にも出てきている。予測されるその集中とは、例えば以下のような点となる。
○特定価格帯への集中/ランチの場合、旅行の場合、家賃の場合、各ジャンル毎
○特定エリアへの集中/移動の中心(駅、空港、都市、等)、集積の中心(商業、娯楽、リゾート等)こうした中心の名所化、観光化現象が起きる。
○特定話題への集中/特定都市、店、人物、テーマ、メディアサーカスの日常化による集中

2、集積力を高める
特に、地方のように集中する中心から外れた場合どうすべきかであるが、話題を創造するために共同でテーマ集積を果たすことが必要となる。つまり、独自なテーマをもったテーマパーク化である。数年前から「観光地化」というキーワードでブログを書いてきたが、そうしたテーマ集積のことである。
■集積によって生み出されるものは何か、それはブランドとなる。餃子が宇都宮と浜松であるように、未だかってないものを更に集積を高める。例えば、盆栽では埼玉大宮が日本一であり、インバウンドビジネスとして世界中から盆栽フアンを集めているように。
■全国至る所に産地ブランドがあるが、それらブランドを磨く場であり、競争し合う場が名所となる。集積とはある意味「聖地」づくりでもある。

 3、ローコスト経営
顧客の側も、提供者の側もロープライス、ローコストが基本となっている。その実現のためにはライフスタイルの変更を促し、「システム変更・改革」や「サービス変更・改革」を踏まえた経営を目指すこととなる。その代表的ビジネスが立ち食いフレンチの「俺の」である。更に広げていくならば、例えば、
○セルフ化の更なる進行/居酒屋、理美容室、健康診断、週末農家(家庭菜園)等
         ex料理までセルフの居酒屋、理美容道具が完備したニュー理美容室、簡易自己健康診断、
○共同化、協業化の更なる進行/顧客同士の共同化、コラボレーションの常態化
          ex既に始まっているシェア(共有)自動車、自転車、あるいはキッチンやリビング共有のシェアハウス、
 ○Reの更なる進行/リノベーションを筆頭に、リ・デザイン、リ・フォーム、リ・サイクル、リ.バイバル、Reを促進させる修理、メ     ンテナンス、などの活用と過去への注目。(「もったいない」の京都の知恵、おばあちゃんの知恵、等)
          ex原価ゼロビジネスの追求、「省」のテーマパークでもある。断捨離の次の生活。あるいはメルカリの代表される個人と個人との中古品売買。

4、顧客の特定化とテーマ設定
日常化するデフレを超えるには従来から指摘されてきた独自化、固有、オンリーワンという魅力の追求しかない。しかし、こうした競争市場の類似化を避けようと市場の在り方を見ないで顧客が求めないような高度な機能=高価格商品づくりの失敗を経験してきた。こうした今なおあるガラパゴス化を避ける為にはより明確な顧客の特定化が必要となる。その特定化とはテーマの特定化であり、今後は価格と共にテーマ競争市場となる。

その予定されている10月の消費増税であるが、日銀短観を始め景況指数など悪い発表が続いている。そして、民間シンクタンク12社は、5月20日に発表される今年1~3月期の実質GDP速報値の予測を発表している。平均は前期比年率換算0.1%減で、マイナス成長となれば2四半期ぶり。3月の景気動向指数(速報値)についても、基調判断が後退局面入りした可能性が高いことを示す「悪化」に下方修正されるとの見方が強い。加えて周知の米中貿易戦争が激しくなり、日本企業にもその影響が出始めている。ここ数日「政治」の世界では盛んに衆参同時選挙の可能性のニュースが報じられている。勿論、その背景には経済悪化を理由としているのだが、しかし2008年のリーマンショック後の景気悪化ほどには至らない。
既に多くの事業者は増税実施に向けた対策を始めている。特に、軽減税率の対象となる「食」に関するシステムの構築である。対顧客についてのレジを柱としたシステム構築はある程度準備していると思うが、問題は「仕入れ」についてのシステム対応である。例えば、飲食店の場合、店内で食べればそのまま10%となるが、テイクアウトの場合8%となる。その際、仕入れ食材が同じ場合売り上げ比率で仕入れも同じように処理するかである。店内の場合の仕入れ原価とテイクアウトの場合の原価とは同じメニューであっても仕入れ原価は少しづつ異なる。パパママストアのような小さな場合は「内税」とするのも一つの方法であるが、業態の異なる複数店舗を経営する場合はどうするかである。間違いなく、決算に際して税務署から多くの指摘を受けることとなるであろう。

話をもとに戻すが、キャッシュレス&ポイント還元という増税対策が実施されようとしていることによって、「お得」があらゆるところに洪水のごとく押し寄せている。問題は市場が心理化されている時代にあって、このポイントの「差」はどのように消費を変えていくかである。より具体的にいうならば、ポイントという価格差=お得以外に「新しい何か」「心を動かす何か」、ニトリではないが「お値段以上の何か」という心理市場はどんなところに生まれるのかということに尽きる。
過去「未来塾」ではこの「新しい何か」「心を動かす何か」を事例としてレポートしてきた。前回の未来塾では東京高円寺を取り上げ、”デフレを楽しめる暮らしやすい街”であるとその「何か」を分析した。読んでいただいた読者はその何かが「生活文化力」であると感じてくれたと思う。結果、10もある商店街はシャッター通り化することなく賑わいを見せている。しかし、この生活文化力は長い時間をかけて創られたものであり、予定されている消費増税には間に合わせることはできない。前述の1〜4については未来塾「テーマから学ぶ/「差分」が生み出す第3の世界」で具体的事例としてその「何か」をレポートしているので、次回再掲することとする。(続く)
  


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