2019年05月19日

◆広がるお得競争のなかの消費増税 

ヒット商品応援団日記No735(毎週更新) 2019.5.19.

2017年度に全国の自治体が受け取った「ふるさと納税」の寄付額が前年度より28%多い3653億円となったと総務省から発表された。この急速な拡大の理由は返礼品競争にあるのだが、中でも全国最多の寄付額を集めた大阪泉佐野市の場合は135億円に達したという。返礼品の金額を寄付額の3割以内に抑えることなど競争を抑えようとしてきたが、従わなかった泉佐野市を始め4市町村をふるさと納税制度の対象自治体から除外したと報道されている。ここで注目すべきは返礼品という「お得」に対し、消費者は敏感というより極めて過激な反応を見せているという点にある。2015年度から急速に寄付額が伸びたのは周知の「ふるさと納税」の代行サイトを見れば一目瞭然である。欲しい返礼品の検索だけでなく、価格.comではないが、全国の自治体の返礼品の「お得度合い」がわかるようなものとなっている。当然、競争は次なる競争を生む。各自治体はより魅力的な「お得」を探し寄付額を増やすことへと向かう。「寄付」という善意の制度ではなく、返礼品というお得競争市場になったということである。ここで注目すべきは返礼品の金額を寄付額の3割以内に抑えた「お得」は消費者にとって魅力的になり得るかどうかである。そして、ふるさと納税の制度によって埋もれた地方の特産品が表に出て、それを魅力的であると感じた「市場」はこれからも残ると思うが、「お得」という価値観が先行した競争市場は無くなることとなる。

ところで2ヶ月ほど前のブログにも書いたが10月に予定されている消費増税において政府の政策の一つであるキャッシュレス事業の推進を一つのチャンスとして各社が一斉にこのキャッシュレス&ポイント市場に参入している。これまでの共通ポイントとして圧倒的なシェアーを誇ってきたTポイントは最早その牙城は崩れてしまっている。それまでの消費者の購買データの提供という事業者への魅力ではなく、ポイントという消費者への「お得市場」へと転換してしまったということである。各社とも顧客名簿をもとに決済という購買の根幹を抑えるためのお得市場への参入である。
実は1998年4月に消費税が3%から5%へと増税された時、ヨーカドー、イオンによる「消費税分還元セール」が大人気となる。また、マクドナルドによる半額バーガーも大ヒット商品となる。まさに「お得プロモーション」であり、ユニクロや吉野家などデフレの騎手と呼ばれキーワードとなったたことを思い出す。勿論、「デフレ」は消費者の味方という意味で使われていた。ところが2014年4月に消費税8%導入の時はどうであったか。政府は「消費税還元」という言葉を使ってはならないと厳重監視したことを同時に思い出す。そして、生まれた結果は、激しい駆け込み需要とその反動である消費需要の落ち込みにより、ある意味失敗した。それが今やキャッシュレス事業の推進を名目に、ポイント還元という官製「お得」プロモーションが行われようとしている。消費税8%導入の時の同じ失敗をしないためと思われるが、収入が増えない状態でのデフレ環境にあっては消費者の眼は極めてシビアになる。

ポイント還元であれば、セブンイレブンが弁当やおにぎりなどの賞味期限まじかの商品については実質値引きとなるポイント還元を秋には行うと発表した。ローソンも既に同じような廃棄ロスをなくすことが行われており、コンビニ各社はこぞってこのポイント市場へと向かっていくであろう。
実はこのブログにも何回か取り上げたことのある仙台秋保温泉のスーパー「さいち」では夕方の一定時間からはお惣菜関連については一斉に値引き販売を行なっている。小さなスーパーでは値引きシールをその都度貼って行なっているが、「さいち」ではそんな手間を省き一斉に値引き販売をレジで行いロスは一切出さない経営を行なっている。「さいち」は全国で初めて惣菜を販売したスーパーであるが、ロス率ゼロ、つまり「売り切る」経営を既に行なってきているスーパーである。顧客が求める「お得」の力を借りた経営ということである。

そのポイント還元であるが、今日の「お得」競争の定番となりつつあるが、長い目で見たビジネスという視点も必要である。実は2014年の増税前に増税をチャンスに変える経営としていくつかの視座を提起したことがあった。この視座は今なお変わらぬものと考えるの再度明記しておく。

1、消費移動を見極める
消費が無くなることはない。全ての対策の前提はどのような利用回数の増減を含めた「消費移動」が起きるかをシュミレーションすることから始まる。例えば、都心のランチについては「500円ランチ」が現在定番となっているが、次のような 「移動」が考えられる。
  ・新たな「400円ランチ」へ  ・お弁当族へ  ・コンビニで400円程度の弁当等と飲料持参
つまり、競争相手が変わったということであり、今以上に「顧客」を見つめなければならないということである。
その顧客の見つめ方であるが、顧客は顧客を呼ぶ、結果商品や店、あるいはエリアに集中することとなる。そして、その集中の理由を明らかにするということである。
既にその芽は前回の増税後にも出てきている。予測されるその集中とは、例えば以下のような点となる。
○特定価格帯への集中/ランチの場合、旅行の場合、家賃の場合、各ジャンル毎
○特定エリアへの集中/移動の中心(駅、空港、都市、等)、集積の中心(商業、娯楽、リゾート等)こうした中心の名所化、観光化現象が起きる。
○特定話題への集中/特定都市、店、人物、テーマ、メディアサーカスの日常化による集中

2、集積力を高める
特に、地方のように集中する中心から外れた場合どうすべきかであるが、話題を創造するために共同でテーマ集積を果たすことが必要となる。つまり、独自なテーマをもったテーマパーク化である。数年前から「観光地化」というキーワードでブログを書いてきたが、そうしたテーマ集積のことである。
■集積によって生み出されるものは何か、それはブランドとなる。餃子が宇都宮と浜松であるように、未だかってないものを更に集積を高める。例えば、盆栽では埼玉大宮が日本一であり、インバウンドビジネスとして世界中から盆栽フアンを集めているように。
■全国至る所に産地ブランドがあるが、それらブランドを磨く場であり、競争し合う場が名所となる。集積とはある意味「聖地」づくりでもある。

 3、ローコスト経営
顧客の側も、提供者の側もロープライス、ローコストが基本となっている。その実現のためにはライフスタイルの変更を促し、「システム変更・改革」や「サービス変更・改革」を踏まえた経営を目指すこととなる。その代表的ビジネスが立ち食いフレンチの「俺の」である。更に広げていくならば、例えば、
○セルフ化の更なる進行/居酒屋、理美容室、健康診断、週末農家(家庭菜園)等
         ex料理までセルフの居酒屋、理美容道具が完備したニュー理美容室、簡易自己健康診断、
○共同化、協業化の更なる進行/顧客同士の共同化、コラボレーションの常態化
          ex既に始まっているシェア(共有)自動車、自転車、あるいはキッチンやリビング共有のシェアハウス、
 ○Reの更なる進行/リノベーションを筆頭に、リ・デザイン、リ・フォーム、リ・サイクル、リ.バイバル、Reを促進させる修理、メ     ンテナンス、などの活用と過去への注目。(「もったいない」の京都の知恵、おばあちゃんの知恵、等)
          ex原価ゼロビジネスの追求、「省」のテーマパークでもある。断捨離の次の生活。あるいはメルカリの代表される個人と個人との中古品売買。

4、顧客の特定化とテーマ設定
日常化するデフレを超えるには従来から指摘されてきた独自化、固有、オンリーワンという魅力の追求しかない。しかし、こうした競争市場の類似化を避けようと市場の在り方を見ないで顧客が求めないような高度な機能=高価格商品づくりの失敗を経験してきた。こうした今なおあるガラパゴス化を避ける為にはより明確な顧客の特定化が必要となる。その特定化とはテーマの特定化であり、今後は価格と共にテーマ競争市場となる。

その予定されている10月の消費増税であるが、日銀短観を始め景況指数など悪い発表が続いている。そして、民間シンクタンク12社は、5月20日に発表される今年1~3月期の実質GDP速報値の予測を発表している。平均は前期比年率換算0.1%減で、マイナス成長となれば2四半期ぶり。3月の景気動向指数(速報値)についても、基調判断が後退局面入りした可能性が高いことを示す「悪化」に下方修正されるとの見方が強い。加えて周知の米中貿易戦争が激しくなり、日本企業にもその影響が出始めている。ここ数日「政治」の世界では盛んに衆参同時選挙の可能性のニュースが報じられている。勿論、その背景には経済悪化を理由としているのだが、しかし2008年のリーマンショック後の景気悪化ほどには至らない。
既に多くの事業者は増税実施に向けた対策を始めている。特に、軽減税率の対象となる「食」に関するシステムの構築である。対顧客についてのレジを柱としたシステム構築はある程度準備していると思うが、問題は「仕入れ」についてのシステム対応である。例えば、飲食店の場合、店内で食べればそのまま10%となるが、テイクアウトの場合8%となる。その際、仕入れ食材が同じ場合売り上げ比率で仕入れも同じように処理するかである。店内の場合の仕入れ原価とテイクアウトの場合の原価とは同じメニューであっても仕入れ原価は少しづつ異なる。パパママストアのような小さな場合は「内税」とするのも一つの方法であるが、業態の異なる複数店舗を経営する場合はどうするかである。間違いなく、決算に際して税務署から多くの指摘を受けることとなるであろう。

話をもとに戻すが、キャッシュレス&ポイント還元という増税対策が実施されようとしていることによって、「お得」があらゆるところに洪水のごとく押し寄せている。問題は市場が心理化されている時代にあって、このポイントの「差」はどのように消費を変えていくかである。より具体的にいうならば、ポイントという価格差=お得以外に「新しい何か」「心を動かす何か」、ニトリではないが「お値段以上の何か」という心理市場はどんなところに生まれるのかということに尽きる。
過去「未来塾」ではこの「新しい何か」「心を動かす何か」を事例としてレポートしてきた。前回の未来塾では東京高円寺を取り上げ、”デフレを楽しめる暮らしやすい街”であるとその「何か」を分析した。読んでいただいた読者はその何かが「生活文化力」であると感じてくれたと思う。結果、10もある商店街はシャッター通り化することなく賑わいを見せている。しかし、この生活文化力は長い時間をかけて創られたものであり、予定されている消費増税には間に合わせることはできない。前述の1〜4については未来塾「テーマから学ぶ/「差分」が生み出す第3の世界」で具体的事例としてその「何か」をレポートしているので、次回再掲することとする。(続く)



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Posted by ヒット商品応援団 at 13:14│Comments(0)新市場創造
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