2013年01月14日

◆初売りと増税心理

ヒット商品応援団日記No541(毎週更新)   2013.1.14.

日経新聞によると元旦から初売りをしたそごう・西武といった東京の百貨店を始め、福岡の博多大丸をはじめとした百貨店の初売りも5〜10%の前年比となり、総じて順調なスタートを切ったと報じていた。しかし、その内容を見ていくと分かるが、その中心となっているのが「福袋」という超目玉バーゲン品である。百貨店にもよるが、その多くは半額以下となっていて、消費者は事前にネットや売り場を回って調べ上げ、周到な買物をしている。これがデフレ下の基本的な消費行動である。
ところで物価を2%とするインフレターゲット論が盛んであるが、デフレは多くの要件が重なり合っての複合結果である。更なる金融緩和策も必要ではあると思うが、少子化、特に生産年齢人口の減少、グローバル化した競争市場、そして何よりも情報によって揺れ動く心理化された市場であること。これらを踏まえた日本のグランドデザインを描く中で、デフレもまた解決へと向かう。

一方政治では消費税について生活必需品への軽減税率を始め対策としての議論が始まった。国会が始まっていないことから、まだまだ入り口段階であるが、既に自動車取得税や重量税の廃止など業界からの要請も出始めている。その他にも祖父母から孫への贈与税の検討や緊急経済対策における税制分野での法人税率の軽減策など矢継ぎ早に検討情報がマスメディアを通じて報道されている。自動車産業もそうであるが、一番大きな買物である住宅への対策、住宅ローン減税などの延長もそうした議論のなかにある。
こうしたなかで注目すべきが、消費に直接関わる雇用や収入に関する対策で、新規雇用だけでなく、在籍している従業員の給与や賞与を増やして人件費総額を拡大した場合も減税対象にするとした対策である。その概要であるが、人件費増加分の1割程度を減税する方向で調整しているという。 前政権が子ども手当のように家計に直接支援し消費を促すのに対し、現政権は法人税を軽減することを通じた雇用と収入増の促進という対照的な政策の違いを見せている。

こうした緊急経済対策が検討されているのも、米国の「財政の崖」が回避されたと報じられているが、実は本質的課題は先送りされているだけで、更に私がチャイナショックと呼ぶ中国におけるビジネス後退は回復されないままとなっており、昨12月までの貿易収支は速報によると15ヶ月連続赤字となっている。勿論、EUの問題も同様で解決されたわけではない。つまり、今年1月〜3月は極めて悪い景況にあるということである。消費増税を進める為には4月〜6月の経済成長を上向きに伸ばすことが必要でその為の緊急経済対策である。
こうした経済対策によって、例えばサラリーマンの収入への変化はいつ頃からという質問をTV番組が取り上げていたが、お茶の間の芸能ゴシップと同程度の話として受け止めておいた方が良い。消費に直接関係する2大要素は収入と物価である。周知のように1998年以降、収入は右肩下がりとなり、物価も同じ曲線で下がり続けている。こうした同じように下がり続ける傾向に問題があるということである。恐らく現政権が法人を対象とした減税政策によって、収入も増え、物価も上向きになるとした理想的なデフレ脱却に向かうにはうまくいっても2年先ぐらいからと考える。ただ、これも「格差」が課題となった時と同様で、そのスピードは平均的一律的ではなく「まだら模様」のように進んでいく。ちょうど、ITバブル崩壊からの回復基調にあった2003年後半からの数年間は規制緩和によって東京都心だけミニバブルのような様相を見せたことがあった。赤坂、青山、麻布といった3Aエリアには外資系投資関連企業や不動産関連企業のオフィス群が新たに立ち並び、独自な消費が出現した。それら消費を代表したキーワードが「ヒトリッチ」であり、「隠れ家」であった。

今マスメディアを通じた情報、今年から始まる復興税をはじめとした増税や公共料金の値上げ、その先にある1年数ヶ月後に予定される消費増税。一方、緊急経済対策を含めた法人企業への各種減税措置と需要創出のための経済支援措置。単純化すればこうした増税と減税とが網目状になりながら進み、時々の情報によって大きく消費は変化していくこととなる。
緊急経済対策によって60万人の雇用とGDP2%を押し上げるとアナウンスされているが、未来に対し楽観出来るようになるにはまだまだ先になる。あるマクロ経済の専門家は経済再生とはいえ膨大な赤字国債を抱える中で更に10兆3千億円もの財政支出の決断に対し、壮大な実験であると指摘をしている。確か少し前の情報であるが、海外投資家による日本国債保有率が過去最高の8.7%にまで占めるようになった。そして、金利もじわじわと上昇傾向である。起きて欲しくはないが、第二のリーマンショックのような経済事変が起きたとき、海外投資マネーは一斉に引き上げ、日本国債は暴落するという悪いシナリオである。つまり、そうしたリスクを負った財政支出であるということだ。

2013年上半期どんな消費行動になるか、それは以前「巣ごもり」しながら首だけを出して、キョロキョロ見回して消費する、そうした行動を「キョロキョロ消費」と呼んだことがあった。まさにこうした消費環境の変化に素早く敏感に反応することとなる。例えば、ちょうど円高を背景に、年末年始の海外旅行者数が増え、しかも少し遠出のヨーロッパ旅行が増えた。このように為替の上り下がりに敏感に反応する。勿論、為替の動きを予測した外貨建て預金の増減も同じである。
以前コストパフォーマンスが消費のキーワードとして重要になったとブログに書いたことがあった。ここ数年のヒット商品の傾向の一つがコスパ型商品で、LEDや節水型液体洗剤をスタートにHV車や軽自動車、あるいは同じ車でも必要に応じて使うシェアーサービスといった使用価値型商品も同じコスパ型である。
こうしたコスパ的発想は顧客の求める価値観変化に対応したビジネスであり、その先駆者はあの「ステーキけん」であろう。撤退したロードサイドのファミレスを居抜きで借り受け、出来る限り「既にあるもの」を生かす、つまり飲食経営の大きな負担となる店舗・厨房への初期投資を軽減する考え方である。かけるコストは唯一メニューを安く提供することとし、急成長した企業である。最近では「俺のフレンチ」も同様の発想で顧客支持を得ている。また、LCCにおける顧客サービスも同様である。こうした提供者の側も、「既にあるもの」を生かしきる経営も「コスパ型」で、顧客側も「何に」お金をかけているかが分かるビジネスである。これがデフレ下のビジネス原則になっている。「キョロキョロ目線」とは単に安さやお得だけでなく、その裏側にある考えまでも判断・消費しているということだ。そこには見かけの安さとは異なるしたたかで賢い消費者像が浮かび上がってくる。

そして、東日本大震災以降マスメディアから消えた言葉がある。消費欲望を喪失したかのような若い平成世代を「草食系」、あるいは日経新聞においてはもう少し広げ「under30」と呼んだ世代の消費である。今日は成人の日であるが、どんな消費行動をとるのであろうか。いくつか新成人への意識調査が実施されているが、90%もの新成人が「将来への不安」を感じている。3年半程前、そうした平成世代の消費について次のように書いたことがあった。

『その代表とでも言われている草食系男女を評し、車離れ、結婚離れ、社会離れ、政治離れ、・・・・多くの「離れ現象」に「私」が表れているところが特徴である。良い悪いではない、好き嫌いでもない、彼らは生まれたときから激変する1990年代の現実を幼い目で直視してきた世代である。団塊世代が戦後60数年という時を駆け抜けたと同じように、わずか10数年で駆け抜けてきたようなものだ。しかし、モノ不足を体験してきた私のような団塊世代とは全く異なる価値観を持つ。私たち世代の若い頃、例えば車は憧れのモノであった。少ない給料から頭金をつくり、ローンを組んで手に入れる。そして、働きながら少しづつモノを生活の中に満たしてきた。百貨店についても同じような夢のある存在であった。しかし、草食系男女にとって、モノは欲望の対象ではないように見える。モノを含め、あらゆることに「距離をおくこと」で自分を守っているかのようである。・・・・・・・・・以前、私が使ったキーワード、繭の中の「20歳の老人」が、今のところ最も彼らを言い当てているような気がする。』

この繭(まゆ)とは「下流社会」を書いた三浦展氏言うところの仲間内という「村社会」のことである。「村」という社会を気にしてばかりいて、周りの空気を読むから物欲が縮小してしまい消費不況の原因は若者が作る「村社会」のコミュニケーション、情報病に罹っている、という指摘である。最大関心事である周り、友達村社会という関係を維持するキーワードが「だよね」という差し障りの無い、軽い相づちである。対立や争いごとを好まないそうした軽い関係ですら無くすことが出来ない、ただ増え続ける関係に謀殺される世代。電車の中で誰もが目にする象徴的光景であるが、8〜9割の若者は等しく携帯電話・スマホを手にしてメールを確認している、いや確認せざるを得ない関係に呪縛されている世代である。それを三浦氏は「情報病」と呼んだ訳だ。

さて、その世代にとって消費増税をどのように受け止めているかである。この世代の消費傾向の一つが「村」という社会で確認し得る商品やサービスを消費する。村社会から逸脱するような強い個性、主張するようなモノは馴染まない。モノが乏しかったシニア世代が主張あるモノにこだわり、そのこだわりにお金を支払うのに対し、若い世代はそうした消費に意味を見出すことは無い。ある意味、仲間の間で互いに「だよね」と相づちを打てる範囲内での商品・サービス、均質な商品群である。個人化社会というバラバラ関係を痛切に感じていることの表れである。結果、その消費を見ていくと分かるが、若い世代を主対象としたショッピングセンターには同じブランドばかりが編集され金太郎飴の如くである。こうした消費傾向の象徴が今風下宿のシェアーハウスであろう。
ところで将来に不安を感じている若い世代は消費増税に対しどんな消費を見せるか。私の考えは、シェアーハウスのような、仲間内のコミュニケーションも取れ、しかもシェアーすることでお得というコスパ型暮らしである。更に言うならば昨年のヒット商品である通話アプリのLINEのような無料となる商品。こうした新しい合理的な暮しがこれから発案されてくることが予測される。価値観でいうと、所有価値ではなく、使用価値を求めた生活となる。レンタル、シェアー、生かし切る、つながり、無料、こうしたキーワードからビジネスメニューが生まれてくる。そして、消費の表舞台には出てこない「貯蓄」が最大のヒット商品となる。(続く)


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Posted by ヒット商品応援団 at 13:57│Comments(0)新市場創造
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