2023年01月10日

◆転換期の市場着眼 

ヒット商品応援団日記No814(毎週更新) 2023.1,10

転換期の市場着眼 


今年はどうなるのか、経済、景気の動向は極めて厳しいとする専門家がほとんどである。ウクライナ戦争は少なくとも今年中に終わることはない。欧米の経済も物価高騰は続き、中国経済もゼロコロナ政策の失敗から以前のような世界経済を牽引するパワーはない。日本国内においても電気料金の値上げを始め物価は上がり消費を活性化する動きはほとんどない。株価も2万3000円台にまで下がるとするとの専門家まもいるほどである。
概要は以上であるが、3年ほどのコロナ禍による巣ごもり生活を経験したが、「消費」への意欲は旺盛であると私は考えている。誰もが感じているように転換にある。

ところで昨年のヒット商品番付でも少し触れたが「コスパ&タイパ」というキーワードについてコメントした。今回のコストパフォーマンスは以前のLED電球ような技術革新によるものではなく、巣ごもり生活に応じた大量購入による消費で付帯的には冷凍庫や大型冷蔵庫が売れるといった「コスパ」である。こうした現象の裏側には「合理的」とした価値観によるものだが、その「合理」には経済合理性、つまり「よりお得」になるという思考に基づく。多種多様な商品、過剰とも思える多くの商品から選択する判断基準に対する一つの価値観である。そしてこうした価値観は時間の使い方、合理的な使い方にまで及ぶ。その象徴がZ世代に見られる「倍速」である。例えば、読むにふさわしいものか、観るに足るものであるかどうか、最後の「結論」から読み始めるといった時間の使い方で、そうした合理性に価値を置く思考である。
こうした価値観から生まれるものは、既存市場の縮小でしかない。過去あったものを合理的に整理するもので、そこには何の創造的なものは出てこない。デジタル世代とはよく言ったもので、極論を言えば0と1の間には何もないとする考えによるもので、つまり非合理世界には踏み込むことはない。

その良き事例が苦境から一躍有名店へとV字回復した東京・浅草かっぱ橋道具街の包丁や卸し金、フライパンなど8400超のアイテムを取り揃える料理道具の老舗専門店の飯田屋である。そんな調理アイテムを取り揃えるなんてと一見すると思うかもしれない。売れ筋ばかりを集める事が効率の良い経営であると思いがちであるが、実は非常識と思われた業態が数多くある。古くはネジをバラ売りするホームセンターのジョイフル本田や仏壇から車まで販売する鹿児島の巨大スーパーAZセンター、最近では業務スーパーなども当てはまる。この飯田屋六代目は顧客には決して「売ろうとするな」 という営業方針で何故V字回復できたかである。ちょうど飯田屋の事例をモーニングショーで取り上げていた。それは「大根おろし器」についてで、キメの細かいおろしができる調理器具はないかとの要望が多く寄せられ独自の開発に取り組む。試作のための金型費用は20数万円、しかも目の異なるもの数種類、合計100数十万かかったとのこと。そのTV番組のコメンテーターとして若い社会事業家が「そんなコスパの合わない開発」とコメントしていたが、実はまるで逆でヒット商品となり、キメの細かい泡のような大根おろしは名物料理にもなり、多くの料理人にとって必須専門店になったという。答えは「顧客現場」にあり、需要への確信である。「開発」とはリスクを伴うものであるが、その壁を破るのは「確信」である。専門性とはそうした世界のことを指す。一見非常識、非合理に見えることの中に、「合理」が潜んでいるということだ。大根おろし器という小さな隙間市場、ニッチ市場が次なる市場着眼になる。

最近こうした試みをするベンチャー企業を「グローバルニッチ企業」と呼んでいるが、実はかなり以前から海外へと進出する企業は多い。国内という小さな市場から世界という大きな市場の開発である。1960年~80年代にかけて日本企業はどんどん進出していった。その代表的な企業はホンダであり、ソニーであった。皆中小企業、町工場からのスタートである。ソニーの創業者はアイボというとロボット開発をしていた担当者に「他社に真似されるものを作りなさい」と説いた。創業者が亡くなりアイボの開発は中止されるのだが、その当時極めて残念なことだと感じていた。つまり、アイボにはこの中心となるテクノロジーは今でいうAI技術であったからだ。
こうした企業群はともかく国内という小さな市場から世界へと進出しているのが外食産業である。周知のようにラーメンの一風堂を始め最近注目されている企業の一つがうどんチェーン店「丸亀製麺」を運営する株式会社トリドールホールデイングスであろう。海外13の国と地域に合計で217店舗を展開している。アジア圏はもちろん、日本食ブームが起こっているアメリカやヨーロッパ圏でも店内調理による生の食感を楽しめるこだわりのうどんは大人気となっている。
そのうどんチェーン店の歴史を見ていくとわかるが地域色の強い業種であったが、2000年代後半からはなまるうどんを始め全国へと出店が加速する。東京でもその出店は激しくデフレ時代の外食として価格競争の只中に入ることとなる。その中で麺へのこだわりとトッピングに季節性を盛り込み飽きさせない工夫などから圧倒的な人気となったのが丸亀製麺であった。勿論うどんチェーン店だけでなく、多くの外食企業が競争相手となり、その競争力が世界へと向かわせる。寿司、天ぷら、すき焼き・・・・そしてラーメンに次ぐ「ジャパニーズレストラン」の一角をうどんが占めるようになる。日本食はアニメや漫画に次ぐクールジャパンにおける「クールフーズ」と呼んでもおかしくない大きな輸出産業になったということである。自動車産業ほどではないが、食材を始めロボット調理器具など各種メーカーも多い。全て中小企業である。ある意味中小企業がチームを作っての競争市場である。

クールジャパンという名称は外国人、アニメや漫画オタクがつけたもので、「オタク」とは少数の小さな隙間産業、ニッチ市場の主人公であった。日本人の知らないところで、秋葉原。アキバに多くの外国人オタクが集まった。聖地巡礼であるが、インバウンド市場が活発化する数年前に主にアジアの観光客は横浜のラーメン博物館を訪れ、本場のラーメンを食べることが日本観光の目的の一つとなっていた。コロナ禍に行われたオリンピック東京2020においても外国人スタッフや記者たちが外出制限下で頻繁に食べに行ったのがコンビニのおむすびであった。既に日本観光産業の重要なキーワードとなっているのが「クールフーズ」で、周知のように地方には日本人自身が知らない「郷土食」が豊富にあり、今年のインバウンド市場の目玉になるであろう。実は宝の山が足元にあるということである。リピーターとなった外国人オタクにとって、郷土食はそのおいしさもあるがその地域ならではの「文化食」で京都文化を食べるのと同じように「クールジャパン」を味わうということである。

視野を変えてみる、今までの常識となっている「それはコストに見合うのか」と言った古い概念を疑ってみるということである。どの企業も持っている資源、人材を含めてだが、生かし切る工夫を重ねていると思う。1960年代がそうであったように世界中を駆け巡って商売をした。バブル崩壊から30年、失われた時間は大きいが今一度原点に立ち返ってみることだ。戦後の昭和は「貧しかったが、夢があった」と懐古されているが、バブル崩壊後の日本は貧しくなっただけでなく、夢も持てなくなってしまった。今回は飯田屋や丸亀製麺を取り上げたが、少なくとも「夢」のある企業の一つであろう。(続く)


タグ :転換期

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Posted by ヒット商品応援団 at 12:52│Comments(0)新市場創造
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