2018年10月22日

◆第二次巣ごもり消費時代へ 

ヒット商品応援団日記No724(毎週更新) 2018.10.22.

来年10月に予定されている消費税10%導入の議論が始まった。消費増税は低所得者への負担が大きいため、生活必需品などについては除外して税率を下げる軽減税率が論議の中心となっている。その生活必需品の線引きはどうかということである。既に財務省からその線引きの概要について発表されている。軽減される対象品目として、酒類や外食を除く飲食料品全般と定期購読される新聞(週2回以上発行)で、消費税率引き上げ後も現在の8%のまま据え置かれるというものだ。

さてそこで問題なのが「線引き」が明確にできないということにある。例えば、弁当のテイクアウトは8%に据え置かれるが、イートインであれば飲食店と同じように10%になるという。いわゆる一物二価であるが、実はテイクアウトもイートインも境目のない時代に向かっており、消費場所で一物二価を決めるやり方は問題となる。顧客全員にレジ前で「店内で食べますか、それとも持ち帰りですか」と質問をすること。更に8%と10%の2種類のレジを使い分ける。もし、顧客が気が変わって店内で食べたいとレジ終了後申し出たらどうなるのか。レジはできる限り早くスムースに行うことが小売りの鉄則となっており、行列などあり得ない。今、レジを無人化する試みが始まっているが、8%と10%の2種類のバーコードによって可能ではあるが、そんなコストは食品の場合かけることはできない。アパレルなどの単価の高い品目は実施されつつあるが。つまり、「税」は公平であり、わかりやすいことが大前提である。煩わしい手間をどれだけ省くかが流通業を始め顧客接点を持つ事業者に課せられた課題となっている。勿論、これは顧客だけでなく、事業者にとってもである。

ただ推測するに、こうした混乱、手間を省くために現場では一律8%で実行されると思う。つまり、差額2%の消費税は国に入らないということである。財務省が厳密にレジ操作をチェックできるであろうか、それは不可能である。現場を知る人間にとって境目はどんどん無くなりつつある。つまり業際化であるが、例えばコンビニにおけるイートインであるが、少し古いデータであるが以下となっている。
■コンビニ各社のイートインの設置状況(全店舗数/設置店舗数)■
 ・セブン-イレブン  1万9166/約2000
 ・ファミリーマート・サークルKサンクス 1万8211/約4000
 ・ローソン 1万2395/非公表
 ・ミニストップ 2242/全店舗
業際化が一番進んでいるファミリーマートでは、平成29年度末までに約6千店舗でイートインを設置する方針で既に30%を超えていると考えられる。つまり、外食産業の市場をコンビニが進出しているということだ。こうした境目のない業態はスーパーでも百貨店でも多くの流通業において同様となっている。一方の外食産業も今以上にテイクアウト市場に積極的に入っていくことが予測される。ただし、外食産業は飲料やデザートなどのサイドメニューへの波及は低くなり、結果客単価はどんどん下がっていくことであろう。
つまり、「外食」ではなく、「内食」が進行するということである。そして、その内食は食品が8%という背景を踏まえ、家庭内調理が進行する。ちなみに平成29年の外食産業の市場規模は、1人当たり外食支出額の増加、訪日外国人の増加、法人交際費の増加傾向などにより、前年比0.8%増加し、25兆6,561億円と推計されている。ある意味軽減税率導入によって外食産業は冬の時代を迎えるということである。
しかも、消費者だけでなく、飲食事業者にとって経費負担増が加わることとなる。言うまでもなく、水道光熱費も10%となり、この2%増はコストアップへと直接つながっていく。私が提起しているように「コンセプト再考」が必要になっているということである。

また、報道によればキャッシュレスによるポイント還元案が検討されていると言う。クレジットカードの保有率は年齢の高い世代ほと高く80%を超えてはいるが、そこには軽減税率以上に問題は山積みとなっている。2009年に行われた家電エコポイントのように高額の還元であっても交換できる商品には多くの不満が残った。しかも、その還元期限をどうするか、あるいはカード会員の費用もかかる。
それよりもパパママストアのような零細事業者の場合、手数料は多様であるが平均5%前後、3~8%と多様であり、中小零細事業者にとってそのコスト負担は極めて大きい。このキャッシュレスポイント制度の主導は経産省とのことだが、その裏には顧客の消費実態もさることながら1000万未満の売り上げには消費税の負担はない中にあって、その経営実態を把握することも想定される。

ところで2016年首都圏で売りに出された中古住宅の戸数が、新築分譲住宅の戸数を上回った。新築一戸建て住宅が「100万戸の壁」を越える前に中古住宅が追い越したと言うことである。更に、新築・中古マンションの販売戸数についても2016年以降中古マンションが新築を上回る時代となった。確かに首都圏においてはタワーマンション需要は高いが、それ以上に中古マンションのリノベーションによる「自分好み志向」が上回ったと言うことである。
こうした「中古住宅」だけでなく、数年前からはシェアハウスという新しい価値観による住まい方も出てきている。この「シェア」という考え方は周知の車においても大きな市場となりつつある。大きな概念として見ていくならば、「所有から使用」への価値観である。数年前に断捨離というキーワードが流行ったが、そうした不要な物を減らす考え方によるライフスタイルが徐々にに浸透しつつある。そうした傾向の中に「ミニマリスト」と呼ばれる生活者も増えつつある。つまり、こうした潮流にある「使用価値」とは何かという「問い」の中に時代はあるということである。新しい合理的な価値観が生まれ、旧来の価値観を覆しつつあるということだ。ある意味デフレ時代から生まれた合理的なライフスタイルということである。勿論、消費税10%時代はこうした使用価値を促し更に進化していくことは間違いない。つまり、単なる節約といった「巣ごもり生活」ということではない。

更に、消費税10%が導入予定の2019年以降はどんな景気の時代になるか、前回のブログで次のように「曇り一時雨、という天気図」を予測した。その概要を再録しておく。

『ところで日米の日米物品貿易協定(TAG)が始まる。大枠については合意したと報道されており、懸案の自動車への追加関税25%については即実施しないことを条件とし、その代わりとして農産品の輸入関税引き下げが行われるようだ。詳細(具体的交渉)は年明けから始まると思うが、自動車への追加関税は行わないということではなく、推測するに農産品の関税いかんによっては交渉のテーブルに上がるということもあり得る。日米の貿易差額7兆7000億円の帳尻に合わせてくると考えられる。オバマ時代の経済秩序とは真逆の世界に入ったということである。
また、周知のように米国によるイランへの制裁によるイランからの原油供給不安、更には主要産油国が増産見送りにより、原油が高騰している。結果、レギュラーガソリンはリッター150円台にまで高騰している。消費レベルだけでなく、電力をはじめとした多くの産業のコストアップへとつながることは言うまでもない。更に、付け加えるならば首都圏の建設などオリンピック需要は来年の2019年で終わる。
つまり、消費税10%が導入される2019年の経済天気図は雨模様になるという予測が成り立つということである。但し、日本全体が雨になるのではなく、地域や業種のまだら模様の天気になる。日米物品貿易協定(TAG)の対象となる産業への助成策についてはTPPの時に既に計画されているので対応されていくと思うが、特に農業は高齢化も進み先行きが見えないということから廃業の道を歩むことは当然出てくるであろう。特に、相次ぐ災害に見舞われた農業県である北海道は雨模様になると言うことである。勿論、2020年には首都圏はオリンピックもあり、薄日は差し込んくることは間違いないが。』

こうした景気の天気予報を踏まえると、何故か10年前のリーマンショック後の消費風景を多くのマーケッターは「巣ごもり消費」と呼んでいたことを思い出す。消費税の導入はまた先伸ばされるのではないか、2回あることは3回もあるといった軽口は言いたくないが、10年前のリーマンショックは米国発の「外的要因」であったが、導入年度の2019年は大きな落ち込みにはならないとは思うが、オリンピック後は間違いなく消費は落ち込み続ける。第二次巣ごもり消費時代が始まるということである。(続く)  


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2018年10月12日

◆未来塾(34)「コンセプト再考」(1)後半 

ヒット商品応援団日記No723(毎週更新) 2018.10.12. 「コンセプト再考」の後半です。




消費税10%時代の迎え方(3)

コンセプト再考

その良き事例から学ぶ(1)後半

時代を超えたコンセプト、時代を取り入れたコンセプト
何を残し、何を変えていくのか


新しいコンセプト、小さなテーマショップ:星パン屋

1990年代ショッピングセンターのリニューアルに際し、そのキーワードの一つが食においては「採れたて、焼きたて、炊きたて、作りたて」といった「鮮度」を特徴とすることであった。パン業界もそうした傾向を受けて専門店化が進んだ。その背景にはパン生地の冷凍技術の進化があり、店舗で最終発酵と焼成を行う「ベークオフ」が始まった。2000年代に入ると、隣駅ぐらいであれば買いに行きたい店の一つとしてパン専門店があり、若い女性の間で話題となり、厳しい競争環境へと進んだ。そして、パン専門店の選別が始まり、2000年代後半には店舗数も減少し始める。また輸入小麦粉の価格が高騰し、家計調査におけるパン消費金額も減少し、現在は横ばい状態となっている。

こうした停滞状況から一歩抜きん出てきたのが5年ほど前銀座にオープンした「セントル・ザ・ベーカリー」であろう。ブログにも何回か取り上げたので詳しくは書かないが「食パン」を美味しく食べさせてくれる高級パン専門店で、今なお行列ができている店である。同じような「食パン」を販売する店が「俺のBakery&Cafe」である。同時に、美味しい食パンが焼けるトースターやテクニックも話題になった。こうした傾向の少し前には、美味しいご飯を食べたいということからブランド米と高級炊飯器のブームも起こっていた。
一方、デフレ時代を象徴するように、パン市場もパンの百円ショップや工場直売セールには行列ができる、そんな市場の分化も起きてきた。

こうした日常食の分化・多様化が始まった「パン」市場の中に誕生してきたのが、小さな「手作りパン」の店である。好みの小麦粉を選び、発酵酵母も自家製、温度管理や熟成方法も工夫しながら「私のパン屋さん」が続々と誕生してきている。都市部であれば住宅地のパン屋さんとしてご近所顧客しか知らない、そんな隠れ家的な小さなパン屋である。そうした小さなパン屋の中でもひときわユニークな店が「星パン屋」である。それは店名通りの「宇宙と星をテーマにしたパン専門店」である。








実はこのテーマ世界と同じ世界を感じたのが、一昨年大ヒットした新開誠監督による映画「君の名は。」であった。星パン屋のホームページには「宇宙のような、目に見える大きなものの不思議。酵母のような、目に見えない小さなものの不思議。繋がっていないようで、繋がっている生き物たちの、不思議。」とある。この不思議世界を「パン」にしようと試みたパン屋さんである。その不思議物語は、店長・ずんことイラストレーターkrimgen氏とで作り上げた絵本『星パン職人の少女』から生まれた、とのこと。
右の写真は塩バターパンの「地球」である。他にはベーコンを巻いて焼いた「かに座ベーコン」やこいぬ座をイメージしたミルククリーム全粒粉パンの「こいぬ座」、あるいは惣菜ロールパンである「星雲サンド」やウインナーパンである「火星ソーセイジン」のように星座をモチーフにした多様なパンメニューである。

こうしたテーマ性を持たせた「楽しさ」をも販売するパン専門店、しかもメルヘンチックな想像世界は恐らく初めてであろう。ただ懸念するのは、ともすると「コンセプトだおれ」になりがちである。日常食としての「美味しさ」(香り、食感、食味など)を継続させていけるかどうかということである。宇宙は無限の広がりを見せるものでもある。その「無限」は酵母の無限さと同じであると思うが、それらの不思議さは具体的な「商品」「パン」として具現化されなければならない。ここでパン以外に「商品」と書いたが、いわゆる発酵技術を活用した商品のことである。

「文化型」と「コンビニ型」が交錯する時代であると書いたが、星パン屋の場合は後者のコンビニ型、つまり常に変化を受け止めて商品化するビジネスである。単なる変化に押し流されずに、冒頭のとんかつ専門店「王ろじ」の”昔ながらの あたらしい味”になり得るかどうかである。それが可能になった時、いわゆる「プライベートブランド」として成立する。消費者の側に立てば、「マイブランド・星パン屋」ということである。

神奈川県磯子区根岸の小さなお店を訪れたのは、小雨の降るオープン間もない午前10時半過ぎであった。準備中ではなかったが、出来上がっている商品は少なく、食べてみたかった「地球」と「黒ゴマの食パン」はまだ出来上がっていなかったので写真のような惣菜パンと星座をモチーフとした2種類のパンを購入して食べてみた。惣菜パン(290円 税抜き)はミートローフを挟んだもので、そこそこボリュームもあって美味しかった。
女性二人でやっている小さなパン屋であるが、オープンして4年が経つという。帰路何かが足りないなと感じたのは「楽しさ感」がパンの世界だけでは足りないなというものであった。店内は子供にも座りやすく小さな椅子とテーブル、全て木製で配慮されているが、映画「君のは。」ではないが時代が求める「ワクワク ドキドキ感」が足りないなと気づいた。店舗写真を見てもわかると思うが、店の前に置かれたプランターには何も植えられてはいなかった。季節の花というよりテーマ世界を感じさせるのであれば、「秋桜」コスモス」となる。周知のように「cosmos」は、古いギリシャ語(kosmos)で「宇宙」を意味している。おそらくそこまで手が回らなかったのか、気が回らなかったのかわからないが、テーマを今ひとつ生かしきれていない感が残った。
都市部においてはこうした小さな専門店がこれからも誕生してくるであろう。日常の楽しみ方として、「テーマのある暮らし」と言うことになる。



事例から学ぶ


ところで数々の日本レコード大賞を受賞したヒットメーカーである阿久悠もヒット曲だけを作ったわけではない。実は、石川さゆりが歌う代表曲「津軽海峡・冬景色 」の曲づくりの悪戦苦闘ぶりを「転がる石」に喩えて次のように書いている。

『十八歳の少女に見える透明な声の演歌歌手に似合う歌は何かと、ぼくと三木たかしは、シングル二曲空振り、三曲目「花供養」も確信が持てずに目が回るほどに転がり、一曲を選び出すために十一曲も作ったのである。・・・・・・そして、最後の津軽海峡で転がる石は手応えを感じて止まったのである。・・・・・・今、作家も歌手も自らが作ったイメージに硬直して転がることを捨てている。せめて時代の半分の速度で転がることだ。』(「歌謡曲の時代」 阿久悠 新潮文庫より)

1990年代後半デフレの騎手として「フリース旋風」を起こしたユニクロも、その後イギリス進出の失敗と国内では在庫が大きく膨らみ業績は低迷する。GAPをお手本に成長したユニクロはファッション性を追求して行くのだが、その経営リーダーを若い玉塚氏に任せて行く。しかし、相変わらず停滞状況が続くのだが、創業者である柳井氏が社長に復帰し、同時に「ヒートテック」という新素材による新商品を発売して行く。当時、「フリースのユニクロから新素材開発のユニクロへ」と、自ら変わろうとしていると感じたことを覚えている。今もそうだと思うが、空振りを恐れない「転がる石」そのものである。

顧客が変わったことに気づき、こんなこと、あんなこと、小さな提案をし続ける事の中にしか「次」の革新への芽は見出せない。そのための顧客にもっと近づくこととは転がることを厭わないということである。未来塾で取り上げた多くの企業や団体、あるいはエリアのほとんどが転がることの中からヒントやアイディアが生まれていることがわかる。それが膨大なビッグデータであれ、顧客の一声であれ、まずは転がってみようということである。

「空、雲、傘 」という市場の認識法

「空、雲、傘 」という表現はコンサルティングやマーケティングに携わる人達が使う基本的な戦略手法である。簡単に言ってしまうと、「空」という市場・顧客を見上げ、「雲」の動きを分析・把握し、「傘」を持って出かけるべきか否かを決断するというものだ。
冒頭の「王ろじ」にとって「空」は新宿の顧客であり、その新宿という街も日々変化して行く。例えば、いつも来られる常連のお客さんが最近来ない、あるいは来店頻度が少なくなったような気がする。これが「空」である。たとえ話で解説すると、少し調べてみると、例えばとんかつではなく近くにある食堂で定食を食べに行ってるようだ。あるいは周りの飲食店も値下げしているようだ。こうした問題点を認識し、例えばそれではリーズナブル価格の新商品で対抗しようという解決の方向=戦略が「雲」である。では次にどうすれば良いのかという行動、例えばトンカツとカレーとを組み合わせた新メニューにしようかというのが「傘」という戦術である。(この例えば「王ろじ」が実際にそうであったという例えではない。私が勝手に図解したに過ぎないので理解いただきたい。)
実はこうした「空、雲、傘 」という考えは大企業のみならず、街場の飲食店でも行っていることである。「王ろじ」のように「昔ながら」という過去の中にヒットを見つけ「あたらしい味」に仕立てることによって「路地裏の名店」を継承させてきているということだ。

3年前からブログにも書いてきたことだが、消費というジャンルで天気を見て行くと、「空」の変化を大きく変えてきたのが訪日観光客であった。景気天気図として言うならば、リーマンショック後の曇り空に陽の光が少し差し込んできたというところであろう。その象徴的地域が一昨年・昨年の関西エリアということになる。すでに何回も書いてきたのでこれ以上書くことはないが、9月の台風21号による関空の麻痺状態は関西経済を真っ青にさせた。一瞬差し込んだ薄日が消え、まさに雨が降り始めるのではと恐れたが、いち早い復旧が可能となった。つまり、景気という天気は自然がそうであるようにいつ変わるかわからないということだ。しかも、情報の時代は悪い噂がたてばSNSによってあっという間に拡散する。勿論、逆に良い噂も同様で、そんな時代の天気である。

曇り一時雨、という天気図

ところで日米の日米物品貿易協定(TAG)が始まる。大枠については合意したと報道されており、懸案の自動車への追加関税25%については即実施しないことを条件とし、その代わりとして農産品の輸入関税引き下げが行われるようだ。詳細(具体的交渉)は年明けから始まると思うが、自動車への追加関税は行わないということではなく、推測するに農産品の関税いかんによっては交渉のテーブルに上がるということもあり得る。日米の貿易差額7兆7000億円の帳尻に合わせてくると考えられる。オバマ時代の経済秩序とは真逆の世界に入ったということである。
また、周知のように米国によるイランへの制裁によるイランからの原油供給不安、更には主要産油国が増産見送りにより、原油が高騰している。結果、レギュラーガソリンはリッター150円台にまで高騰している。消費レベルだけでなく、電力をはじめとした多くの産業のコストアップへとつながることは言うまでもない。更に、付け加えるならば首都圏の建設などオリンピック需要は来年の2019年で終わる。
つまり、消費税10%が導入される2019年の経済天気図は雨模様になるという予測が成り立つということである。但し、日本全体が雨になるのではなく、地域や業種のまだら模様の天気になる。日米物品貿易協定(TAG)の対象となる産業への助成策についてはTPPの時に既に計画されているので対応されていくと思うが、特に農業は高齢化も進み先行きが見えないということから廃業の道を歩むことは当然出てくるであろう。特に、相次ぐ災害に見舞われた農業県である北海道は雨模様になると言うことである。勿論、2020年には首都圏はオリンピックもあり、薄日は差し込んくることは間違いないが。

さて「曇り一時雨」という予測がされる中での消費税10%の導入である。どんな天気であっても、いわゆる全天候型のビジネスは何かと多くのマーケッターは考える。しかし、そんな絶対的なコンセプト&ビジネスなどあり得ない。そして、天気が悪い状況にあっては、消費マインドは更に萎縮する。そうした状況下での生き残り策、いや新たな成長策は何かということになる。

1、既にあるものを生かすことによって「新しさ」を創る

冒頭の「王ろじ」ではないが、取り込んでいくべき「新しさ」を何にするかである。西洋から取り入れた2つの「新しさ」、とんかつとカレーの組み合わせによって生まれた「新しさ」である。既にあるものを生かし切るということであり、ゼロからの新商品として多大な投資を必要とはしないということである。最近では日本マクドナルドの「夜マック」というダブルのパテを使ったり、「200円バーガー」も既存の食材をサンドしただけである。既存の食材を使う、オペレーションも特別なラインで行う必要はない。現場の負担も少なく、スムーズに行うことができる。回転すしのスシローの場合も、こうした考えのもとで「お得プロモーション」として行ったことがある。その「お得3貫セット」の握りすしも同じ発想である。実はこのスシローの発想は以前からあるもので、それは大阪新世界ジャンジャン横丁の大興寿司である。大興寿司では一皿3貫ずつ、150円からで大阪では以前から人気寿司店となっている。単純なことのように思えるが、このように定番化してしまうとその「お得さ」には新しさが生まれるということである。
逆に既にあるものを「引いて」新たなもの、メニューを作ったのがこれも大阪難波にあるうどん専門店「千とせ」の「肉吸い」である。「肉うどんのうどん抜き」を頼んだ吉本の芸人から生まれたもので、引くことによって新たなメニューを産んだ良い事例である。こうした小さな変化こそが必要な時代になっているということである。
とんかつ専門店も、日本マクドナルドのようなハンバーガーショップも、すし専門店も、あるいはラーメンなどの飲食店も、そこには「四季」という変化は基本的には無い。つまり、どれだけ変化という鮮度を提供できるかが、リピート客を創る上で不可欠なものとなっているということである。既にあるものをどのように生かし切るかがビジネスの基本となっているということだ。

2、新しい発想、新しいコンセプトで顧客を創る

事例を踏まえて言うならば、「お得が求められる時代」にあって、それまでの作業着であった防寒・防水ウエアーを街着にも使えるように、しかも三分の一の価格で提供した「ウオークマンプラス」。デフレ時代ならではの着想で、それを可能にしたのも既にある高機能素材を活用したことと、男女共用によるものであった。こうした高機能商品をベースに、街着などの新たなスタイル開発を行うという、つまりコンセプトをより豊かにした市場開発と言えよう。
ららぽーと立川に1号店をオープンさせて2週間ほど経った時に新業態店舗を観察したのだが、同じタイミングでTBSの撮影クルーが取材で入っていた。店舗のスタッフにも聞いたのだが、今後もこのような新業態店舗を SCなどの商業施設にも出店していく予定であると話していた。
「ウオークマンプラス」の場合、新商品開発というよりも新しいスタイル開発と言った方が的確であろう。比較としてはふさわしくは無いが、シャネルの口癖であったと言われる「モードではなく、私はスタイルを創ったのだ。そして、スタイルは次の時代にも残っていく。」という言葉を思い出す。そして、シャネルの場合はスポーツウエアーを街着のスタイルへと変えて見せたのだが、こうした他への「転用・活用」という発想はアパレル以外にも考えられるものである。全てを固定的に考えてはダメだという良き事例となっている。
そして、「ウオークマンプラス」がどこまで新たな「スタイル」として創っていけるか、期待してみたい。

「星パン屋」の場合であるが、テーマ性を持たせた発想は重要であると考える。焼きたてといった「鮮度競争」はパン市場の進化の過程では重要なことであった。確かに焼きたては美味しい。千葉県に「ピーターパン」というパン専門店がある。今はメロンパンという名物の人気店となっているが、それらの基礎を作ってきたのはやはり「焼きたて」である。そうした焼きたての鮮度として、「いつ」焼きあがるかを明示するパン専門店も多くなった。そうしたことを踏まえた「次」を考えると、その一つにはテーマを持った専門店となる。
テーマとは、消費者にとっては美味しさと共にもう一つの「楽しさ」や「健康」のことである。このテーマの重要さについては何回となく書いてきたのであまり繰り返さないが、テーマの魅力は一貫した「集積度」にある。いわゆるテーマパークである。星パン屋の場合は、星座の不思議とパン好きという2人のオタクによって生まれた小さなパン屋である。
こうした女性たちによるパン屋だけでなく、蕎麦好きが昂じて手打ちそば店をやりたい、あるいは農家料理の店をやってみたい、そうした小さな起業として参考になるであろう。そして、こうした「手作り」によるテーマ専門店はこれから流行ることと思う。但し、前述したように「コンセプトだおれ」になってはならないということだ。継続していくには、自惚れずにまず顧客の信頼を得ることだ。

ところで今ラーメン業界で一番注目されているのが庄野智治氏の「麺や庄の」であろう。庄野智治氏もラーメン好きが嵩じて独学で始めたラーメン店である。ある取材に答えて、そのスタートは順調であったが、1ヶ月で客足は止まったと語っている。その原因はなんであるかを探ったところ、提供したラーメンには「変化」がないという結論であったと言う。そこから自らラーメンクリエーターとし、創作ラーメンを始めたのが「麺や庄の」である。その創作ラーメンを作り続ける理由を、「客を飽きさせないため」と言い切っている。その目指す世界は旧来のラーメンを見事なくらい裏切る料理である。いわゆる「今」を映し出すコンビニ型の典型であろう。これも転がる石の一過程である。ちなみにミシュランガイドに掲載され、広く知られることとなった。顧客が求める「変化」を追い求めた結果ラーメンとは異なる料理にたどり着くのか、それとも変わらぬ大勝軒の「つけ麺」を提供するのか、どちらも正解であると思う。さて、星パン屋はどちらの可能性をたどるのか見守って行きたい。

コンセプトを変えることによって再生した事例はやはり旭山動物園の事例がわかりやすく示してくれているかと思う。事例の中でも触れたように、動物園で「何」を観てもらうのかと言うコンセプトの見直しにある。
それはある意味で、動物が本来持っている野生・本能、つまり本当の意味で「生きていること」を実感してもらうことへの発想転換であったと言うことである。それは観る側にとっては未知のことであり、驚きとなって観察する。知らない世界がこれほどあったのかと言うことである。表の顔の動物から、裏の顔をも観てもらうことでもある。表通り観光から、路地裏観光への転換という構図によく似ている。発想を変える、見方を変えることによって、それまで見えなかったことが見えてくる、そんなコンセプトの見直しであったと言うことである。勿論、見直しが誤りで失敗することもある。それも一つの転がる石である。

3、「日本文化」というコンテンツ

大きな市場となってきた訪日観光客市場についてやっと日本人自身も認識し始めた。そして、日本観光も回数化が進み、これも自然な結果で「日本好き」が深まっていると理解すべきである。日本観光の2大関心事は「食」と「寺社仏閣・城」であるが、その背景にはそれらを生み出した日本文化があると理解しなければならない。例えば、食であれば、寿司はやはり築地で食べてみたい、ラーメンは本場・本物の店で食べてみたい、新しくなった日光東照宮を観てみたい、桜もいいが秋の京都を訪れてみたい、・・・・・・・・日本文化、その生活文化の本物・本質へと興味関心が深まっているということである。こうした進化は勿論地方にも向かっている。
そして、多くの訪日観光客は既に事前に日本観光はすませているということである。ネット上の多くのガイドサイト、あるいは口コミサイトで事前観光はすませているということである。箸の使い方も練習し、温泉の入り方もマナー程度は理解して訪日する。。結果、体験・実感できるプログラムへと向かっているということである。その中には、日本人とのふれあいがあることは言うまでもない。
寿司もラーメンも自分で作って食べる。城、侍への興味であれば日本武道・剣道体験をする。そんな体験プログラムである。そうした体験の先には何があるかである。観光を終え自国に戻り、日本文化の伝道者になってみたい、そんなことから日本食レストランを始めたり、道場を開いたり、そうした訪日外国人が増えている。ちなみに、東京浅草の隣の合羽橋道具街は、料理道具を買い求める訪日外国人でいっぱいである。特に人気なのが日本料理の包丁類や器であるという。お土産にはミニチュアの食品サンプルといった具合である。

今回シャネルと宮大工を事例に取り上げてみたが、広い意味では見えない力、つまり「文化の力」ということになる。周知のように文化は多くの時を重ね熟成されたもので、勿論阿久悠さんが指摘してくれたように転がる石そのものである。シャネルも、宮大工も多くの挫折を経験してきたことは周知の通りである。
そして、今日のようにすぐに実績や成果が問われる時代にあっては文化への理解は難しいものとなっている。しかし、時を重ねた文化力の偉大さは江戸時代の浮世絵のように常に「外」から認められてきたものだ。日本人よりも訪日観光客の方が正確に認識していると言うことである。
ところで建築については戦後の荒廃した日本の再建には木材を使った旧来工法では時間もコストもかかることから、建築法の改正が行われ鉄筋コンクリートと安価な輸入木材や合板などを使った建物が広く普及する。その代表がいわゆる兎小屋と言われた団地群であった。明治維新後の廃仏毀釈に次ぐ第二の受難が大工に襲いかかる。そして、後継者も育たない事から「大工」という職業は廃れていく。しかし、ここ10数年前から洋のライフスタイルからの反転、揺れ戻しによる、いわゆる和ブームの時代になっていく。
昭和レトロをテーマとした古い木造建築のリノベーションが行われ、移築された古民家はおしゃれなレストランやカフェへと変貌する。国産木材を使った大型商業施設も見られるようになった。
数年前から新築住宅を中古住宅の販売戸数が上回るようになった。一般住宅のみならず、商業施設もシャッター通り商店もリノベーションが普通のこととなった。つまり、「過去」の何を残し何を変えるかが建築主や商店街・街の主要なテーマとなった。(このテーマについては事例として取り上げるつもりである。)

クールカルチャー・ジャパン

つまり、やっと日本の過去・歴史、そこに横たわる文化に向き合うことになったということだ。ヨーロッパを石の文化であるとするならば、日本は木の文化、紙の文化の国である。特に、地方には都市文化の波に洗われてなお残る固有な生活がある。その一つが飛騨高山の古い町並み、合掌造りの白川郷、懐かしい山村の風景、この飛騨高山は京都と並んで行って見たい人気の観光地となっているのも、この日本の原風景がいたるところに残されているからである。京都が雅な貴族文化であるのに対し、飛騨高山は日本の持つ自然文化生活の代表的な場所ということになる。観光協会は特別なことはほとんど何も変えていないとコメントしている。あるがままの町であり集落であり、変わらず朝市も行われる。昔ながらの山村が残り、歴史あるものという残すべきものが残され、その魅力に多くの観光客が訪れるということである。そして、白川郷の合掌造りの家もその藁葺きの吹き替えには経験・技術が必要となる。こうした合掌造りの家が残されていればこそ、吹き替えの職人も残りその技も継承されていく。
このように特別なことは何もしない、「あるがまま」「昔ながら」という魅力こそが「自然文化生活」の本質である。結果、アクセスもあまり良くない、小さな飛騨高山に人口の5倍となる年間50万人超の外国人観光客が訪れる。

こうした町並みが残されているのも、実は地元住民や商業者によるものである。あの観光地となった東京谷根千もそうであり、再開発の予定地であった吉祥寺駅前のハモニカ横丁も昭和レトロな雰囲気が人気となり、そのまま残ることとなった。
残すもの、変えるもの、それは地域であれば住民やそこで商売をする事業者、更に何よりもその地を訪れる顧客の評価によって決まる。そして、その「評価」の基準は何かと言えば、見えない何か、堆積する固有の文化を魅力と思えるかどうかである。冒頭のとんかつの店「王ろじ」に即して言うならば、「昔ながらの あたらしい味」に、その新しさに魅力を感じるかどうかである。「昔」を新しい、未知のものと感じるかどうかということである。都市化によって失くしてしまった「未知」、大仰に言うならば失くなりつつある日本の文化と言っても過言ではない。
  


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2018年10月10日

◆未来塾(34)「コンセプト再考」(1)前半 

ヒット商品応援団日記No723(毎週更新) 2018.10.10.

今回は消費税10%時代の迎え方としてどうあるべきか、そのコンセプト事例を取り上げ学ぶこととする。時代を超えたコンセプト、時代を取り入れたコンセプト、何を残し何を変えていくのか、避けて通ることができないその良き事例を学ぶこととする。



消費税10%時代の迎え方(3)

コンセプト再考
その良き事例から学ぶ(1)

時代を超えたコンセプト、時代を取り入れたコンセプト
何を残し、何を変えていくのか

「コンセプト」という言葉はビジネス現場のみならず日常会話においても多用される言葉であるが、その対象を広く考えるならば、人を惹きつける魅力その特徴の中心を為すものと考えるとわかりやすい。通常言われる商品やサービスだけでなく、その対象は広く街であったり、自然豊かな農村であったり、場合によっては街のちょっとした路地裏であったりもする。あるいは人物についてもコンセプトで整理することもできる。今まで何回か街歩きの観察からもレポートした「看板娘」や「頑固おやじ」もコンセプトの役割を果たしている。最近の傾向では、看板娘で言えば「かわいいおばあちゃん」であったりする。

さてそのコンセプトの良き事例の一つが冒頭写真の創業1921年(大正10年)老舗とんかつ「王ろじ」のカツカレーである。その大正10年と言えば、その2年後には関東大震災が起きた時期である。東京新宿にあるとんかつ専門店で、その店名「王ろじ」の由来は「路地の王様」とのこと。場所は新宿三丁目の伊勢丹本店裏に当たるのだが、まだ伊勢丹本店が移転しオープンする前で、大規模な商業施設も少なく、まさに路地裏の店であった。当時の新宿三丁目は宿場町内藤新宿の面影を残した賑わいのある街であった。新宿通りが表通りで、「王ろじ」はその裏通りに当たり、まさに路地裏のとんかつの王様であった。店の暖簾には「とんかつ」の4文字を表した絵文字がデザインされており、「王ろじ」のシンボルマークとなっている。
とんかつは周知の通り洋食の一メニューとして明治以降広く流行ったのだが、そのとんかつはより特徴あるものとして専門店化していく。カツサンドであれば上野御徒町の「井泉」であり、カツカレーであればこの「王ろじ」あるいは同じ大正時代に創業した台東区入谷の「河金」となる。この飲食市場もカレー専門店もとんかつを含め多くのトッピングがなされ、昔も今も市場競争の激しい外食産業となっている。









少し分析的になるが、看板には「昔ながらの あたらしい味」とある。OLD NEW、古が新しいとした言葉が表しているように、変化する時代の好みや嗜好にも応えていく、そんな考え方でメニューがつくられている。今や名物となっているカツカレー(とん丼)の冒頭写真を見ていただくとわかるが、高く盛られたカツにカレーがかけられており、こんな独特な盛り付け方も今なお「新しさ」が感じられる。カレーの味はといえばスパイシーというより、いわゆる家庭で作られているカレーに近く、とんかつの味を殺さないものとなっている。とんかつ専門店としての原則は継承しながら変化にも応えていくということである。ボリュームもあり、数年前に950円から1050円に値上げされたが満足度の高いカツカレーである。

こうして見ていくとわかると思うが、コンセプト、ネーミング、デザイン、MDポリシー、マーチャンダイジング、・・・・・・・見事なくらいマーケティング&マーチャンダイジングされており、学ぶべき点がよくわかる。
ちなみに、ご夫婦による家族経営でお店をやっており、そうした意味においても見事である。勿論、食は好き嫌いがあり、こうした見事さだけで流行るとは言えないが、少なくとも100年近くもの歴史を刻むことができたのはこうしたコンセプトからであろう。

コンセプトは「次」に向かう道しるべ

何故この時期にコンセプトが大切なのかというと、それは今まで顧客を惹きつけてきた「魅力」が消費税10%という一つの壁を越えることができるか、その課題への対応を明確にしておくことの大切さである。時代の変化、トレンドという「波」に任せる経営もある。しかし、波は時間が経てば必ず以前の海へと戻っていく。それはそれで波が波であった期間だけの限定メニュー商売としては成立するが、ビジネスの本質は「継続」である。そのためには課題に対し、今一度コンセプトを見直して、依って立つ市場におけるポジションを明確にしておこうということである。結果、経営判断として間違えたとしても何が間違いであったか、次に向かう戦略を得ることができるからである。つまり、何が悪かったのか、どうすれば改善できるのか、という一つの「答え」を得ることができるからである。

専門店も、商店街も、ショッピングセンターもオープンした時が一番「新しい」。その新しさとは今まで無かった魅力の新しさのことで、施設などのハード面は翌日からその鮮度を落とし古くなっていく。その鮮度を感じさせるのは情報にもあるが、その根本は期待に応えた中身・コンテンツのリアルな満足感である。その満足感は回数を重ねることによって、リピーター・フアンとなっていく。しかし、その多くは次第に「普通」になって足が遠のくこととなる。つまり、鮮度という特別なことが無くなっていくということである。
こうした時に役に立つのがコンセプトはどうであったかという「問い」である。何を変えなければならないのか、その答えのヒントを得るのがコンセプトである。多くの老舗、特に元祖と言われ今日もなおその魅力を発揮している場合の多くは、元祖を生かしながら新たな商品・メニューを随時発売していくことによってその「新しさ」を保っていくことが多い。「昔ながらのあたらしい味」を掲げる「王ろじ」というとんかつ専門店を選んだのもこうした理由からである。つまり、消費税が10%になっても変わらず来店してくれることを期待する戦略とは何かである。

ここで一番重要となるのが、「何を残し」、「何を変えていくのか」という避けて通れない課題である。この課題は「人」がビジネスを継承していく場合真っ先に答えを出さなければならない。ビジネス規模によっても答えを出す手続きなど異なるが、実はビジネスをビジネスとして存在させているのは「顧客」「市場」であり、コンセプトの最大の支持者であることを忘れがちである。株主や取引先、あるいは従業員もその「答え」の関係者ではあるが、顧客にとって「何を残して欲しいか」、「何を変えて欲しいか」が一番重要なことである。実はそのためにコンセプトをビジネスの全ての物差しとして活用していくということである。ビジネス規模が大きくなればなるほど、多くの事業や商品も生まれ、人材も増え、管理も複雑化し、ともするとコンセプトという顧客を魅了した「はじめ」を忘れがちになってしまう。つまり、今一度全ての議論もこのコンセプトを基に進めていくということである。
ところでこの未来塾で取り上げた専門店の多くは顧客から教えられたメニューは多い。例えば、前回の未来塾で取り上げた大阪南船場のうさみ亭マツバヤについも、その元祖きつねうどんの誕生は顧客から教わったものであった。実はサービスで出した甘辛く炊いた揚げを顧客の多くはうどんに浸して食べていたことから生まれたメニューである。あるいはいまや観光地となった大阪なんばの「千とせ」の肉吸いも、吉本興業の芸人花紀京が「肉うどんのうどん抜き」と頼んだことから生まれた名物メニューである。このように顧客からのヒントや指摘によって生まれ変わった事例は多い。

ストック(文化型)とフロー(変化型)消費が交錯する時代

時代時代の変化、つまり顧客の好みや嗜好の変化をどう取り入れていくのか、そうした市場の変化に対し、メニューやサービスのみならず業態や経営のあり方をも変えていく。新しい価値、今風に言えば「インスタ映え」する商品・メニューのように顧客興味に応えた「新しい」「面白い」「珍しい」ものが誕生する。一方、変わらぬ「何か」、老舗だけでなく、街場の中華店のように慣れ親しんだ「味」、あるいは使い勝手さなどを求める市場もある。
そうした新たに創られた価値商品と顧客の体験実感価値商品との比較例として前者をスオッチ、後者をロレックスの2つの時計市場でその「違い」を分析したことがあった。周知のようにロレックスは文化価値(=アンティーク)であり、スオッチはデザイン価値(=変化・鮮度、トレンド)であると分析をし、前者を文化型商品、後者をコンビニ型商品と私は呼んだことがある。

このように時計のみならず、食品、化粧品、更には書籍まで幅広く2つの市場が作られてきている。特に都市においてはこの2つの市場が明確に現象化している。例えば、誰の目にも分かりやすい例としては、今東京で脚光を浴びている「街」にあてはめれば、文化型話題を提供しているのが江戸文化の日本橋や人形町、更には昭和の庶民文化の街であればヤネセン(谷中、根津、千駄木)といったエリアである。一方時代の変化を映し出すコンビニ(トレンド)型価値を提供しているのが表参道・原宿といったエリアとなる。商店街という視点に立てば、前者は「商店街から学ぶ」でも取り上げた東京江東区砂町銀座商店街であり、後者であれば新宿ルミネといった商業施設となる。前者、後者を小さなエリアのなかに混在させながら独自な魅力を発揮しているのが吉祥寺・ハモニカ横丁となる。そして、前者の文化型話題のなかで新たに生まれたのが、世界に誇るサブカルチャーパークとなっているあの秋葉原・アキバである。
今回のコンセプト再考の事例についてもこの2つの視座を持って、4〜5回にわたって学んで行くこととする。

時代を超えるコンセプトとは何か

さて、そのコンセプトであるが、時代を超えるコンセプトを追い求める企業も多く、、実は老舗の多くが持っているポリシー・コンセプトのことである。そして、今風に言うならば、「潰れない会社の持続力とは何か」と置き換えても構わない。
少し前のブログに、「日本一高い 日本一うまい」を掲げた花園饅頭の破綻について書いたことがあった。1834年創業、180年もの歴史を持つ和菓子の老舗である。東京・新宿に本店を持つ花園万頭はその饅頭もさることながら「ぬれ甘納豆」で知られた和菓子店で虎屋の塩羊羹ほどのブランド和菓子ではないが、それでも掲げたフレーズ「日本一高い 日本一うまい」が破綻した。そのニュースを表面だけで理解するならば、デフレのこの時代に潰れるのは当然と思いがちである。しかし、「日本一高い商品」が売れなくなったことで破産したわけではない。東京商工リサーチによればバブル期の不動産投資の失敗が重く、再建に向けてスポンサー探しを進めていたが上手くいかなかったとのこと。
1990年代初頭のバブル崩壊が20数年を経た今、資金繰りができなくなったということである。「日本一高い・・・」としたコンセプトが100%間違っていたとは言えない。但し、経営としては第二のヒット商品「ぬれ甘納豆」を作ることができなかったことによる経営破綻であると理解すべきである。

「見えない技」が時を超える

ところで、世界で最古の会社である金剛組について以前ブログに書いたことがあった。創業1400年以上、聖徳太子の招聘で朝鮮半島の百済から来た3人の工匠の一人が創業したと言われ、日本書紀にも書かれている宮大工の会社である。何故、1400年以上も生き残ってきたのか。実は日本ほど老舗企業が今なお活動している国はない。創業200年以上の老舗企業ではだんとつ日本が1位で約3000社、2位がドイツで約800社、3位はオランダの約200社、米国は4位でなんと14社しかない。何故、日本だけが今なお生き残り活動しえているのであろうか。時代を超えたコンセプトのヒントがここにある。

その金剛組であるが、最大の危機は明治維新で、廃仏毀釈の嵐が全国に吹き荒れ、寺社仏閣からの仕事依頼が激減した時だと言われている。明治政府が行った神仏分離令であるが、その意図を超えて廃仏運動へと全国に広がり、有名な話では国宝に指定されている興福寺の五重塔が売りに出され薪にされようとしたほどの混乱であった。
更に試練は以降も続き、米国発の昭和恐慌の頃、仕事はほとんど無く、三十七代目はご先祖様に申し訳ないと割腹自殺を遂げている。何がそこまで駆り立てるのか、守り、継承させていくものは何か、老舗に学ぶ点はそこにある。今風に言えば、ブランド価値とは何であるか、ということにもつながっている。
金剛組の場合は、宮大工という仕事にその「何か」がある。宮大工という仕事はその表面からはできの善し悪しは分からない。200年後、300年後に建物を解体した時、初めてその「技」がわかるというものだ。
「見えない技」、これが伝統と言えるのかも知れないが、見えないものであることを信じられる社会・風土、顧客が日本にあればこそ、世界最古の会社の存続を可能にしたということだ。
ここ10数年、「見えない技」とは真逆の「見える化」が叫ばれ、消費の世界もそうした見えるための工夫やシステムが実施されてきた。それは2008年中国で作られた冷凍餃子中毒事件に始まり、数年前にも日本マクドナルドのチキンナゲット問題など「見えない」ところで製造されたものへの不信感が消費者にあるからであった。しかし、そうした食の世界とは別に、日本人が持つ「技」への関心は世界へと広がっている。建築に素人である私であっても、釘や金物を殆ど使わず、木自体に切り込みなどを施し、はめ合わせていく「木組み工法」という日本固有の技術のすごさぐらいはわかる。その建築物が何百年もの時を刻んでいくすごい「技」である。

「生き方」が時を超える

コンセプトを語る時、それはブランドの理念を語ることに直接つながる。それはブランドのスタートである創業の理念・精神をどのように継承発展させていくかということでもある。その創業精神が継承されている良きブランド事例としてあのシャネルがある。今から10年前にブランドの継承というテーマでロレックスやティファニーと共にシャネルをブログに取り上げたことがあった。時間が経っているので、抜粋して再録しておく。
『波乱万丈、成功と失敗を繰り返したシャネルであるが、この生き様が商品に映し出された例は珍しい。その生き様であるが、1910年頃マリーンセーター類を売り始めたシャネルは、着手の女として彼女自身が真先に試して着ていた。そして、自分のものになりきっていないものは、決して売ることはなかった。それは、アーティストが生涯に一つのテーマを追及するのによく似ている。丈の長いスカート時代にパンツスタイルを生み、男っぽいと言われながら、水夫風スタイルを自ら取り入れた革新者であり、肌を焼く習慣がなかった時代に黒く肌を焼き、マリンスタイルで登場した。そして自分がいいと思えば決して捨て去ることはなかった。スポーツウェアをスマートに、それらをタウン ウェア化させたシャネルはこのように言っている。“私はスポーツウェアを創ったが、他の女性たちの為に創ったのではない。私自身がスポーツをし、そのために創ったまでのこと”。勿論、 アクセサリーの分野でも彼女のセンスを貫き通した。“日焼けした真っ黒な肌に真っ白なイヤリング、それが私のセンス”。シャネルのマリンルックは徐々に流行する。
以降も次々と革新的な商品を生み出していく。例えば香水についても、過去の“においを消す香水”ではなく、“清潔な上にいい匂いがする香水”、つまり基本は清潔、それからエレガンスであった。そして、調香師エルネスト・ポーと出会い、「No.5」「No.22」が生まれるのである。コンセプトは“新しい時代の匂いを取り入れること”とし、どこにでもつけていける香水を創ったのである。
シャネルにもいくつかの挫折がある。1939年、第2次世界大戦が始まると、シャネルは香水とアクセサリーの部門を残してクチュールの店を閉める。15年後、再びシャネルは挑戦する。そして、戦後シャネルのコレクションに対し、次のような批評が殺到する。
「1930年代の服の亡霊」あるいは「田舎でしか着ない服」と酷評される。

1954年、既にパリモード界はクリスチャンディオールの時代となっていた。これらのモードに猛然と反撃したのがシャネルだった。カムバックする舞台はパリではなく、アメリカ。それがシャネルスーツであった。
エレガントで、シック。かつ、時代のもつ生活に適合する機能をもったスーツであった。アメリカは「シャネルルック」という言葉でこのスーツを評した。そして、シャネルは“モードではなく、私はスタイルを創りだしたのです”と語る。

1971年1月、87歳の生涯を終えるシャネルだが、生前、“シーズン毎に変わっていくモードと違って、スタイルは残る”としたシャネルには、そのスタイルを引き継ぐ人々がいた。そして、1987年、あのカール・ラガーフェルドが参加する。“シャネルを賞賛するあまり、シャネルの服の発展を拒否するのは危険である”。シャネルの最大の功績は、時代の要請に沿って服を創ったことにあり、シャネルスタイルを尊重しながらも、残すべきもの、変えていくべきものをラガーフェルドは明快に認識していた。顧問就任時にこうも語っている。“シャネルは一つのアイディアの見本だが、それは抽象的ではない。生活全てのアイディアである。ファッションとスタイルのシャネルのコンセプトは一人の女性のため、彼女のパーソナルな服と毎日の生活のためのものなのだ。シャネルのコンセプトは象牙の塔のものではなく、ライフ=生活のためのもの”こうしてシャネル・コンセプトはカール・ラガーフェルド達に引き継がれ今日に至るのである。』

ブランドは無形の経営資産であると言われてきたが、カール・ラガーフェルドが言うように、例えば社長室に飾られている社是や経営理念のような「抽象的世界」ではないことを基本に継承されているブランドである。それはシャネルの生き方、生き様の継承であって、ある意味「見えないもの」の継承である。
そして、よく言われることだが、シャネルにとって「時代と共にある」とは、生活の変化を素直に受け止めることで、結果として「既成」を壊すこととなる。シャネルフアンはそうしたシャネルの生き方に共感する女性たちで、生き方という「見えないもの」を消費していると言っても過言ではない。つまり、ブランドシャネルはシャネルの「生き方継承」であり、熱烈なシャネルフアンはその伝道者と言えよう。そして、伝道者には必ず聖地があり、その聖地がシャネルブティックの店である。

コンセプトを磨く、変える

コンセプトを磨くと書いたが、その磨き方として大きくは2つに分かれる。消費税10%を乗り越える磨き方であるが、ビジネス・商売が順調に進展している場合、コンセプトへの顧客支持はあることから、その「テーマ」をより強めることに注力する。もう一つの場合、現状売り上げも右肩下がり状態で客数の減少が見込まれどうすべきか迷っていることから、コンセプト自体の変更を考える。何れにせよ、問題点の整理から生まれる解決策になる。

新業態店「WORKMAN Plus(ワークマンプラス)」

あまり消費の表舞台には出てこなかった企業の1社が、ベイシアグループのワークマンという建設技能労働者向け衣料品専門店事業である。全国821店舗、勿論ダントツトップシェアを誇る企業である。2018年3月期の売上高は前年比7.3%増の797億300万円、経常利益は10.4%増の118億5600万円と好調である。このワークマンがカジュアルウエア事業を強化し始めている。
ガテン系、3Kといった屋外作業員の労働着のイメージが強かったワークマンであるが、数年前1着の防水防寒ウエアからカジュアルウエア事業が始まる。その商品はPB商品「イージス」で、突如売り切れが続出する。それは一般のバイクユーザーが防寒着として買い求めていたことが要因であった。バイク用の防水性を持つ防寒着は数万円はするのだが、ワークマンのイージスは6800円と安い。次第にスポーツ愛好者や主婦の間にも口コミで広がって行く。スポーツメーカーやアウトドアメーカーからも高機能ウエアが発売されているが、ワークマンの場合は建設労働者という大きな市場、男女兼用着もあって大量に製造することによって、価格は「3分の1」と極めて安い。
そして、ライダー用から釣り用へ、自転車ロードバイク用、ランナー用、子育てママ・・・・・・顧客の広がりと共に、新業態店「WORKMAN Plus(ワークマンプラス)」の出店に向かう。その一号店が9月5日ショッピングセンターららぽーと立川への出店である。コンセプト的にいうならば「かっこいい (作業服)レインウエア」となる。

訪問したのはオープンから2週間ほど経った午前中。オープン時の賑わいはなく、落ち着いた店内であったが、想定通りの客層、作業着姿の男性客、若い男女に小さな子供連れの女性客であった。少々陳列には問題を感じたが、とにかく商品が安い。レジの女性に聞いたのだが、通常の路面店と比較し、レインウエアなどのカジュアルな商品を増やしたとのこと。勿論、ワークマンの主力商品である作業着をはじめ靴や手袋なども品揃えされている。売り上げも順調に推移しているようですねと聞いたが、その返事もおかげさまでとのことで、推測するにこの業態店はショッピングセンターなどに出店して行くことと思う。

従来の高機能作業服専門店から、「かっこいい ウエア」へとコンセプトを磨いた新規事業の業態店といえよう。このことから本業である「作業服」も「おしゃれなワーキングウエア」へと変化して行く。本来であれば、ユニクロやguあるいはしまむらといったアパレル企業が取り組まなければならないジャンルである。こうしたワークマンのコンセプト磨きのきっかけもライダーによって創られたものであった。新たな顧客変化を受信し、その変化に応えたワークマンプラスとして、まさに時代と共にある事業の典型である。このことによって、利用顧客のみならず、人手不足で悩む建設業界など現場を抱える企業にとっても良きコンセプト変化、新たなスタイル提供となっている。

カジュアルウエア市場は周知の通りGAPやH&M、あるいはZARAなど極めて厳しい競争市場となっている。ファストファッションという日常のおしゃれ着は一つのスタイルを形成し、若い世代を魅了してきた。しかし、同時にそのおしゃれ好き人間も仕事の場、作業する現場に携わることも多い。そして、防水高機能レインウエアも普段の街着として着てみると意外や意外アウトドアの感じもあって結構素敵じゃないかと思う人たちが出てくる。1990年代始め、当時の団塊ジュニアがそれが中国製であろうが、気に入れば購入する「セレクトショップ」の時代があった。それと同じことが今起きているということである。ファストファッション市場も競争相手ばかりを見ていて顧客が見えなくなっているということだ。ある意味「すきま市場」ということとなるが、本業をもとに「新業態店」として展開するのもコンセプト磨きの良き事例であろう。

旭山動物園の再生

コンセプトを変えることによってV字回復する、そんな企業や団体は数多くある。最近であれば「野菜たっぷりちゃんぽん」で復活を遂げたリンガーハット。深夜のワンオペ・人手不足からブラック企業呼ばわりされ大幅赤字に追い込まれたすき家は労働環境を整備し、牛丼の「質」を改善させ大幅黒字へと回復させた。勿論、日本マクドナルドもそうした回復企業の一つである。

今回旭山動物園を選んだのは、それまでの動物の姿形を見せることに主眼を置いた「形態展示」ではなく、生きている動物そのままの行動や生活を見せる「行動展示」への大転換を行うことによって廃園の瀬戸際から再生した事例である。コンセプト的に言えば、来園者を主役にするのではなく、命ある動物を主役にした発想によるものであった。
その具体的な転換として、ペンギンのプールに水中トンネルを設ける、ライオンやトラが自然に近い環境の中を自由に動き回れるようにするなど、動物たちが動き、泳ぎ、飛ぶ姿を間近で見られる施設造りを行っている。環境エンリッチメントとして、冬のペンギンの運動不足解消から始められた雪の上の散歩は人気イベントで、積雪時に限り毎日開催される。このほか、動物の食事時間を「もぐもぐタイム」と称し、動物の行動を展示する催しも行われている。
例えば、写真のシロクマの行動展示では、最大の好物であるアザラシ(=観客)がさもいるかのような仕組み、見せ方が構造上作られている。アザラシ(=観客)をめがけてシロクマが飛びかかる、観客はその野生にびっくりするといった、野生のもつ行動を興味深く展示する考え方で全ての動物が展示されている。
これは私たちが知らなかった野生の一面、不思議さを見せてくれている。再生に取り組んだ小菅正夫園長をはじめとした「バカもの」と共に、このコンセプトが倒産寸前の旭山動物園を救ったのである。

開園したのは1967年7月1日。当初の動物は75種505匹だった。なお、これにはコイ200匹も含まれている。当初40万人ほどだった年間入園者数は、旭川市の人口増とともに右肩上がりに増加したが、1983年の約59万7千人をピークに減少に転じる。そして、1996年には約26万人まで入園者数は落ち込む。
そして、新しいコンセプトのもと1997年より行動展示を実現する施設づくりに着手する。同年には巨大な鳥籠の中を鳥が飛び回る「ととりの村」が完成。翌年以降「もうじゅう館」、「さる山」、「ぺんぎん館」、「オランウータン舎」、「ほっきょくぐま館」、あざらし館、「くもざる・かぴばら館」、チンパンジーの森と毎年のように新施設をオープンさせ、そのたびに入園者を増やしていく。
2005年、NHKの番組「プロジェクトX~挑戦者たち~・旭山動物園~ペンギン翔ぶ~」に取り上げられる。また、2006年5月13日には、フジテレビ系列で旭山動物園をモチーフとしたスペシャルドラマ「奇跡の動物園~旭山動物園物語~」が放送、次いで2007年5月11日、2008年5月16日に続編が放送され、その後もたびたびドラマの撮影や映画の撮影が行われている。
年間入園者数は、2005年度には前年比55万人増の206万人、2006年度には304万人、2007年度には307万人を記録している。上野動物園の350万人に肉薄し、夏休み期間中はそれを凌ぐ入場者を集め、北海道を代表する観光地のひとつとなった。なお、入園者数は2007年度をピークにその後はブームの沈静化に伴い減少に転じたが、2011年度頃からは160万人台の入園者数となって減少に歯止めがかかった。現在でも恩賜上野動物園・名古屋市東山動植物園に次ぐ日本第3位の入園者数を誇っている。

コンセプトは単なる「概念」としてのそれではない。具体的な「行動展示」として個々の動物ごとに変えて行くことでもある。しかも、その裏側には命ある動物の自然な生き方・行動を見て感じて感動してもらうことが主眼である。多くのニュースにも度々登場する冬場のペンギンの行進や食事時間をもぐもぐタイムとして紹介するように、子供達にとっても楽しく興味深く実感してもらうことも、コンセプト実行を成功させた要因の一つとなっている。


旭山動物園の集客は上野動物園におけるパンダや東山動植物園におけるイケメンゴリラのような話題の動物による集客ではない。少し理屈っぽい表現になるが、旭山動物園のコンセプトその魅力は動物そのものの野生の魅力であり、上野や東山の集客は「希少動物」や時代がつくる「話題」によるものである。
そして、旭山動物園から学ぶとすれば、廃園といういわば倒産寸前からの大転換にはこうした思い切ってコンセプトを変えることが必要であったということである。希少動物を入れる、話題の動物を入れるといったコンセプト磨きでは済まなかったということだ。
この再生の背景には都市においては自然との体験、体感する術が圧倒的に少ないという現実がある。旭山動物園が教えてくれたことは、理屈としての知識学習ではなく、子供たちの興味世界を入り口とした「感性学習」「体験楽習」こそが重要なポイントとなっている。

実は現代アートをテーマとした金沢21世紀美術館も計画当初は多くの反対があった。その理由は、子供たちには現代アートは理解できないというのが反対論者の意見であった。しかし、2004年開館し見事に悲観論者を裏切り、子供たちの人気スポットとなった。「子供たちの興味、遊び場としての美術館」というコンセプトの勝利であった。まるで歩道から通り抜けられるような美術館との導線、見るものと見られるものとの逆転がはかられた空間、声を上げてもよい自由な環境。従来の静かに構えて見るといった美術館とは大きく異なる。子供たちにとって、アートは遊び場であり、興味のおもむくままに感じ取れる、まさに学習ではなく、「感性楽習」の場となっている。成功要因という言い方をするならば、旭山動物園におけるシロクマの行動展示もそうであるが、「見るものと見られるものとの逆転」という発想も同じであり、子供の自由な感性を育といったことも見事なぐらい旭山動物園と同じである。旭山動物園も金沢21世紀美術館も、従来の経験や発想にとらわれることなくコンセプトを実践している良き事例である。(後半へ続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:20Comments(0)新市場創造