2009年08月09日

◆都市から地方へ、価格台風の来襲

ヒット商品応援団日記No390(毎週2回更新)  2009.8.9.

価格競争という低気圧は、次第にその勢力を増し、台風として市場に吹き荒れてきた。セブンイレブンに対し、公取委から値引き制限への排除勧告が出されていたが、セブンイレブンは受け入れることとなった。値引き合戦を加熱させない、というFC店もあるようだが、市場のメカニズムはそのようにはならない。ローソンやファミリーマートは注視している段階であるが、やがて価格の嵐は同様に吹き荒れる。唯一、価格が維持されてきたコンビニも価格競争のメカニズムに入って行く。
先日、東京の百貨店ではお中元セールで売れ残った商品のバラ売り、アウトレットセールが行われ、40〜50%offという安さに行列が出来た。デパ地下では昼時、300円〜500円弁当に長い列ができている。グループ企業からの提供を受けて、安いPB商品専用の売り場も出来た。以前にも何回かトライして失敗していたが、ユニクロと同様に自らSPAとして低価格帯のファッション衣料を手がけるところも増えてきている。バイヤーからマーチャンダイザーへの転身であるが、百貨店としてどこまで「変身」できるかこれからといったところであろう。

天候不順のため、ニンジンやジャガイモ、タマネギが高騰しているが、ダイエーを筆頭にヨーカドーなど大手スーパーは20〜40%のoffセールを始めた。昨年8月末にヨーカドーの新しいディスカウンター業態である「ザ・プライス」が東京西新井にオープンしたが、イオンも1年弱遅れて7月1日岡山市に「ザ・ビッグ」をオープンさせ、日経MJによると順調な売上を見せていると言う。家具,インテリアのニトリもイケアも競うように価格を引き下げている。また、今年の夏売れ行きの良い家電商品、特に薄型TVの値引きなどは常態化、日常化している。先行してきたOKストアやドンキホーテではないが、あらゆる業種・業態でエブリデーロープライスとなった。

この夏のレジャー動向についてJTBが先月半ば発表している。1泊以上の旅行に出かける旅行人数は国内・海外ともに昨年より減少し、また、海外旅行にかかる平均費用については前年比14.1%も低下したことがわかったと発表していた。そして、ETC割引効果で、“安・近・短”を象徴する日帰り旅行に注目し、地域資源(温泉等)を活用したプランを携帯やPCで予約&決済できるJTBウォレットを発売した。
こうした、調査結果を裏付けるように、お盆休みがスタートしたが、国内航空各社の予約情況は昨年と比較し10%減となっている。また、既に8月6日から高速道割引制度が始まったが、本格的な帰省ラッシュが始まった8日には45〜53kmの渋滞となっている。5月の連休の時の大渋滞を経験しているにも関わらず価格によって動く、これが実体である。

価格競争を促していることの一つに競争心理ということもあるが、根本は顧客、市場要請によってである。官公庁が再編され、継続したデータが少なくなったが、直近の「所得」に関するデータが厚労省から出されているのでまずは見て欲しい。(所得の分布情況/平成20年調査  http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa08/2-2.html
まず、注目すべきがこの10年で約100万円所得が減ったということである。第1五分位値といういわゆる低所得層(20%)を除く、全てにおいて約100万円前後の所得が減っている。つまり、中流層も高所得層も同様に約100万円所得が減ってきたということである。しかし、所得の多い層と比較し、第2(▲89万)、第3(▲101万)という中流層といわれてきた世帯にとって生活経営は極めて厳しくなったということである。特に、第3〜第4にまたがるボリュームゾーンの顧客を主対象としてきた百貨店は従来の価格、売り方では顧客要望には応えられないということである。
もう一つ見ていかなければならないのが、年間所得400万以下が44.3%に及んでおり、今年に入り更に厳しくなっていることから、既に50%に及んでいるのではないかという点である。つまり、全国の半数世帯が400万以下で生活しており、切り詰めるものはと言えば、食費、レジャー、被服費が真っ先に挙げられる。こうした所得という経済を背景に実は巣ごもり生活が営まれている。

このデータにある平成10年(1998年)はバブル崩壊後も世帯収入が増え続けたが、その収入が逆に右肩下がりとなった年度である。1997年には周知のように拓銀、山一証券が破綻している。バブル崩壊という不動産神話の崩壊に続いて、金融神話も崩壊する。当然のように、終身雇用、年功序列といった従来の価値観も崩壊する。しかし、一方では続々と新しいビジネスが生まれてくる。楽天市場、ユニクロ、マクドナルド、・・・・デフレの旗手と呼ばれた新しいビジネスモデルの企業である。共通している点はIT技術を駆使した「価格戦略」である。(詳しくは2009.2.1.「陳腐化するモノ価値と価格」を読んでいただきたい。)IT技術には多様な側面があるが、その最大のものは「省人化」にある。いかに人の手を省くかである。極論を言えば、システム化された自動工場化といってもかまわない。その象徴例が回転寿司であろう。シャリはロボットが握り、ネタも頃合いよくのせられ、回転ベルトに乗せられる。鮮度維持のために一定の時間が計られ、それ以上であれば自動的に廃棄される。勿論、時間帯ごとにどんな商品にロスが多いか分析され、その精度は高められる。更に言うと、大不況のため、築地でのマグロの取引量が減少している。売れ残った本マグロを安く仕入れ、原材料費が抑えられ、結果一皿105円となる。勿論、こうした回転寿司の設備投資には億単位のお金を必要とするが。

ここ数年鳥取と沖縄にはたびたび訪問し、多くの人達と話す機会があった。東京での出来事、東京での変化、特に価格に関することを話すのだが、今ひとつ理解が得られなかった。生産者、メーカー、流通、各役割も地産地消という限られた市場の中で、それなりに価格は通用しビジネスとして成立していたからである。豊かな地方と言えば、それで終わってしまうが、先月沖縄に行ったが、そんな豊かさも残念ながら次第に終わらざるを得ない情況になってきた。勿論、シャッター通り化したビジネスに生き残ったビジネスも更に終わらざるを得ないということだ。例えば、那覇にある著名な琉球創作料理の店もこの夏で店を閉める。私も何回か食べにいったが、コース料理で泡盛を飲めば1万円を超す。ほとんど観光客相手の店で、観光だから高くても通用する、そんな時代ではない。勿論、地元顧客は極めて少ない店だ。国際通りを少し入ったところにある破綻したダイエー跡にはジュンク堂書店を始めまだ半分しか入っていない。その近くにあるゼファータワーは破綻してから1年以上経つが、今なお空きビルのままである。

鳥取にも沖縄にも、大手流通やチェーン展開しているファストフーズもある。価格に対し、全ての業種において無縁ではいられない。人は常に移動する。東京銀座のデパ地下で500円弁当を、少し歩けば300円弁当も手に入る。そんな弁当を食べた人間が、鳥取で沖縄でそれより高い弁当を食べ続けていられるであろうか。この10年間で約100万円所得が減少した。自民党、民主党のマニフェストを読んでも、生活支援はあっても未来を指し示す産業構造の転換といった具体的政策は共にない。つまり、当分の間、こうした巣ごもり状態が続き、更に悪くなることはあっても良くなることはない。
沖縄に”なんくるないさ〜”という言葉がある。なんとかなるさ、という沖縄気質、ある意味豊かさを表現した言葉であるが、地方も「なんとかならない」時代を本格的に迎えている。(続く)


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Posted by ヒット商品応援団 at 13:58│Comments(1)新市場創造
この記事へのコメント
消費者からしたら値引きされたらありがたいってだけです
値引き販売してた店舗全部の契約解除ってのはえげつないなとw
これで報復じゃないといわれても
Posted by ニュースの門番 at 2009年08月17日 10:51
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