2022年06月26日

◆第二の転換期を迎えている   

ヒット商品応援団日記No806毎週更新) 2022.6.25.

第二の転換期を迎えている   


NTTグループが、7月から社員半数の3万人は原則自宅での在宅勤務とするなどの新制度を7月から導入するとの報道に話題が集まっている。出社については出張扱いとなり、降雨機利用も可とするものでコロナ禍から生まれた新しい働きかtである。一方、米国の電気自動車大手のテスラをはじめ既に在宅勤務は一つの働き方として定着している。テスラのリーダーイーロン・マスクは少数の中心となる幹部人材には出社を要請するが、その他の作業要員は在宅勤務とするとも。勿論、その少数である開発担当者技術者には高い報酬を提供するが、在宅作業に従事する社員は総じて低賃金となる。NTTがテスラと同じような賃金制度となるかは不明であるが、失われた30年と言われる日本も個別企業単位で改革が始まったということであろう。

今何が起きているのかというと、在宅・出社と言った問題ではなく、その本質はそれまで「人手」に頼っていた「作業」はそのほとんどがコンピュータが行うこととなるということである。その代表的な業務が周知の「会計」である。つまり会計ソフトの開発は必要となるが、会計事務員など既に必要ではなくなったということである。
少し前のブログで「悪性インフレが始まった」と書いたが、エネルギーや原材料の高騰、円安などと言った「悪性」も主要因であるが、賃金を上げられない「働き方」に注目が集まっている。1990年代初頭のバブル崩壊以降構造改革がなされないまま今日に至っているのがこの「働き方改革」である。ある意味悪性インフレによって自ら変わらざるを得なくなったと自覚したということであろう。
実は5年前こうしたことに警鐘、いや問題提起をしていたのが、数学者で、国立情報学研究所 社会共有知研究センター センター長を務める新井紀子さんであった。
当時AI(人工知能)」というキーワードで「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトを率いた方でこのブログでも何回か取り上げたことがあった。以前から「生産性論議」については飲食業のような労働集約型ビジネスは調理ロボットなどの活用でどんどん働き方が変わっていくと考えられていたが、新井紀子さんはホワイトカラーにも及びAIで代替できる人材とできない人材とに分断されるという指摘であった。まさにテスラモーターのような働き方である。

最近では慶應大学で財政学の教授である土居丈朗さんは「営業マンの数は減っていくのか?」と聞かれ、どんな職がAIによって置き換えられるのかを、Dimeの中で以下のように述べている。

『AIがワンパターンな仕事は判断できるので、定型化された仕事、ワンパターンな仕事は消える可能性がある。具体的に言うと、データがあってそこからグラフを作るような仕事は置き換わるだろう。・・・・・・・例えば銀行の融資係も置き換わるだろう。この人に貸し出しても大丈夫か、どういう人なら返してくれるか、これまで1~2人で判断していたことがコンピュータなら1分前後で判断できる。
働く人の多くを占める、営業マンはどうかと言うと、足で稼ぐタイプの営業は減る。準備、企画などAIに導いてもらい、データで示す営業スタイルになる。どこに訪問しても同じセールストークの営業マンはAIに置き換わる。営業マンの人数は減ることになるだろう。』と。

こうした事例を挙げるまでもなく既に始まっていると思うが、AIが顧客情報とビッグデータを分析して「もっとこういうところを営業すればどうですか?」とアドバイスしてくれる。そんな仕業環境であれば、営業マンは極端に少なくて済む。勿論、働き方も変わることとなる。
つまり、これから生き残る仕事はAIとコンピュータを上手く操る仕事となる。AIの使い手になったり、AIを進化させたりする仕事だ。

そして、仕事の多くは経営目標の準じたテーマに沿ったプロジェクト単位になる。勿論、部長・課長と言った上下関係の職階で仕事が進むことはなくなる。プロジェクトリーダー単位の専門家集団で進んでいく。つまり能力単位となり、あるテーマではリーダーを務めることもあれば、チームメンバーになると言ったフレキシブルで自在な組織となる。能力ある人間は複数のプロジェクトに参加することとなり、AIに置き換わられる人間は単なるワーカーとなる。そして、言うまでもなくそうした働き方に報酬は反映されていくこととなる。

ところでAIができない、苦手とすることもある。新井さんは著書「AI vs 教科書が読めない子どもたち」の中で、AI は「意味」も「感情」も理解できない。実はこの意味や感情をを考える、その道筋となる読解力が決定的に足りないと指摘している。こうした読解力、読みこなす能力は詰め込み教育、偏差値教育によるもので、こうした教育を受けた人間が大きな転換期に立たされているということだ。そして、AIの対極が「人間力」であるとも付け加えている。
実は労働集約型ビジネスにおいては調理器具を含めロボット化が進んでいると書いたが、面白いことに現場スタッフの能力を引き出す試みが行われていた。外食産業、24時間営業・・・・・一見ブラック企業ではと思われ合致であるが、富士そばの場合はホワイト企業として人気となっている。正規社員以外多くのバイトで店舗構成されているが、業績次第ではあるが、アルバイトにもボーナスが出る、そんな能力次第に沿った賃金体系となっている。この富士そばではAI(ロボット)」にとって代わることができない仕組みが用意されている。それは店独自のオリジナルメニューをつくって販売するシステムだ。通常であればそばとカレーライスのようなセットメニュ0が定番となっているが、私が注目したのはカツ丼とカレーライス半々のメニューであったが、私にとっては別々に食べたいというのが素直な感想であった。社員の発想やる気を引き出すことファ目的であるが、一番大切なことは現場における「考える力」「顧客の好みを読解する力」と言った方が絵あかりやすい。現場である以上「作業」は必要不可欠であるが、それに加えて「考える」こと、AIにはできないことにトライする仕組みである。

参院選も近いこともあるが、先進国の中で賃金上昇のできない唯一の国であることが一つの争点となっている。戦後の働き方として終身雇用制度と年功序列制度があるが、前者は高齢者も働く時代であり維持することが必要と思う。しかし、年功序列型の運営、賃金制度は改革すべきであろう。
確か1990,年代後半であったと思うが、経済企画庁長官であった堺屋太一さんは「生産年齢人口がマイナスに転じた」として大きな時代に転換期であると警鐘を鳴らしたことがあった。銀行や証券会社が破綻する時期もあって、マスコミをはじめほとんど注目されることはなかった。少子高齢社会の「入り口」でもあったが、今日の問題点のほとんどが解決されないまま今日に至っている。生産年齢人口とは「働き消費する人口」のことであり、分かりやすい「国力」の基礎となる物差しである。バブル崩壊の後始末に追われ政治家も官僚も平成時代の日本の展望を示すことができなかった。
今回敢えてAIという道具を借りて働き方の指針を書いたのも1998年当時と同じ転換期を迎えていると感じたからである。バブル崩壊以降グローバル経済下にあって唯一成果を上げられたのはインバウンド市場の5兆円である。ビザの緩和策がその入り口を作ったが、地方自治体、観光業者は航空便の便数を増やす要請や団体クルーズ船の誘致など、あるいは地方が持つ資源を掘り起こしたり。。。。。「考える力」を発揮したからであった。事業規模から言えば大企業ではなく、飲食業のような中小企業と同じ「考える力」によって可能となった。「考える力」とは私の言葉で言えば、マーケティング力のことであり、市場・顧客を読み解く力のことである。変化する顧客をアナログ手法であれ、AIを活用しても良し、そのことによって自ら変わる転換期にあるということだ。(続く)


タグ :人口減少

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Posted by ヒット商品応援団 at 11:20│Comments(0)新市場創造
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