2014年07月13日

◆黄色信号の消費

ヒット商品応援団日記No586(毎週更新) 2014.7.13. 

前回のブログに5月度の家計支出が前年同月比8.0%減、その大きさを指摘した。また、7月から値上げが更に進行し、年収を5分位(20%毎)に分けて行う家計調査における年収の少ない第1階級及び第2階級においては、消費を収縮させ深刻であると。そして、6月度の家計支出とお盆休みの旅行内容次第ではあるが、「景気」という全体への影響が出てくるとも。こうした消費のあり方を見極めることも重要で、今回も6月度の消費に関するいくつかの指標となる実績も出てきているので前回のブログをフォローすることとする。結論から言うと、消費と言う観点からの景気は黄色信号になったということである。

昨年秋以降数回にわたって消費増税が既に始まっているとの指摘をした。ヒット商品にもなったが、その先駆けでもある低金利時代のローンの借り換えをスタートに、人生で一番高い買い物である住居の購入から始まっていると。そして、更に資産価値を下げることの無い都心部と湾岸エリアのタワーマンションに人気が集中していると。そして、年末からの駆け込み消費は家電製品やPC、インテリアなどに移行し、3月には食品や日常消耗品などへと駆け込み消費が進むとも書いた。大きな消費動向としてはほぼ予測通りであり、一方個別の傾向としては昨年夏のファミレスのメニュー改訂とマクドナルドの1000円バーガーの導入を比較し、前者の成功と後者の失敗の違い、更には今年に入り、牛丼の吉野家における「牛すき鍋膳」の成功と4月からの値上げの失敗という、メニュー改定のあり方にも言及した。

ちなみにその外食産業であるが、マクドナルドは6月の既存店売上高が前年同月比8.0%減となったと発表した。5カ月連続の減少で、5月の同2.4%減よりも更にマイナス幅は大きく拡大した。また、牛丼チェーン大手3社の6月の売上高(既存店ベース)であるが、すき家と松屋はプラスだったが、吉野家はマイナスであった。以前から問題指摘した通りの実績結果であった。また、新メニュー導入の良い方のケースとして、1年前から注目しているファミレスのロイヤルホストであるが、増税導入した4月の売上高は前年同月比108.1%、5月は106.6%、6月は99.1%とかなりがんばった結果となっている。

ところで、こうした消費のあり方について通底しているのが、過去の消費増税を踏まえ、大きくはエネルギーを始め海外に依存している日本経済(=消費)の変化へのシュミレーション能力の高さである。今から20数年前のマーケティングには「衝動買い」というキーワードがあった。周知のように既に死語となっているが、もし同様の言い方をするとすれば「シュミレーション買い」となる。情報の時代では極めて重要なキーワードであるが、それは単なる「情報」によるものだけではなく、一方の「体験」との反復学習によってそのシュミレーション精度は高くなる。
この傾向が顕著に表れたのが2008年秋のリーマンショック以降であった。「お得」というシュミレーションを軸に訳あり消費と最初は少々高くても結果安上がりという合理的消費の2つの方向で今日に至っている。前者は食べ放題やメガ盛りからアウトレット人気までその訳ありはあらゆる消費分野へと広がった。後者はあのLEDやHV車、更には普通車から軽自動車への乗り換え、こうした合理的消費へと進化している。

こうした体験学習をベースにしたシュミレーション消費のスタートは豊かな時代、生きるための必需消費から好みや個性を楽しむ選択消費へと移行したバブル崩壊後の1990年代の消費にある。当時、そうした消費心理を「市場の心理化」と呼んでいた。平易に言えば「いいなと思えば」「その気になれば」という心理要因が消費を引っ張っていくという市場化のメカニズムである。当時のマーケティングはまさに「その気にさせる」ことにあった。そして、「その気」は他者との「違い」を際立たせることが中心であったが、1998年の消費税5%導入前後から直接的な「お得」、他者との違いを上回る「お得」が心理市場を牽引した。それがデフレの旗手と呼ばれたユニクロや100円バーガーのマクドナルド、あるいは牛丼の吉野家で消費者の圧倒的な支持を得た。この「お得」潮流はリーマンショックへと向かうこととなる。

勿論、総務省からの情報公開ではないが、この10数年間で恐らく数百倍どころかそれ以上の過剰情報の時代にいる。昨年秋にも一流ホテルを始めとしたレストランのメニュー虚偽表示が明るみに出たが、本物を見極めることが出来ず、これも十分学習したことと思う。
シュミレーションが成立するためには信用・信頼という極めて根本的なことが今また問われているということである。前回の未来塾で取り上げた砂町銀座商店街のように、顧客一人ひとりと言葉を投げかけ合う関係こそが必要となっている。
こうしたシュミレーション消費について書いてきたが、DeNAがYahooに続き、個人から提供された血液からDNAの遺伝子分析を行い、今後想定される癌などの病気についてレポートするサービスを行うとの報道があった。死に関わる病気とどう立ち向かうか、人生シュミレーションを立てるうえで、最大の物差しとなる。

ところで前回のブログにも書いたが、今後の景気の判断材料の一つとして夏休み:旅行者の動向があると。実は既に3日にJTBからリリースされたのだが、いつもの予測情報とは全く異なり極めて不十分なリリースのため取り上げなかった。その内容であるが、1泊以上の旅行に出掛ける人が国内、海外を合わせて前年比0・2%増の7902万人になるとの予測で、現在の調査方式になった2000年以降で最高になると。この背景としては夏のボーナス増などが下支えとなり、3年連続増加となる見込みであると。
この程度の情報は予測でもなんでもない情報で、消費増税による影響、つまりどのような旅行となるかを予測して欲しいのだが、そうした要請にはまるで答えていない。恐らく推測するに、今年のGWのように円安から海外旅行が減り、国内旅行が増え、しかも節約旅行になると。そして、ガソリン価格が高止まりしているので、エコドライブを始め、早割といった割引活用はもとより、他のLCCや夜行バスといった安い交通機関を使ったり、・・・・あるいは国民宿舎のような公共宿泊施設を利用したり、アウトドア好きであればキャンプ場を活用した小さな旅行であったり、更にはほとんどお金をかけない登山旅行であったり・・・・・どんな楽しみ方をするかこれもシュミレーション次第である。(続く)



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Posted by ヒット商品応援団 at 14:00│Comments(0)新市場創造
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