2013年01月03日
◆更なるイノベーションを
ヒット商品応援団日記No540(毎週更新) 2013.1.3.
新年明けましておめでとうございます。
例年新聞各紙の元旦号から時代のテーマや空気感のようなものに触れながら、市場創造という視点からどんな一年であって欲しいかをブログに書いてきた。昨年は「総デフレ時代の着眼」というタイトルで、デフレの意味合いを少し広げ、供給過剰による「旧来価値の下落」とし、少々荒っぽかったが銀座の「土地価格の下落」によるビジネス変化や売れない雑誌にあって唯一部数を伸ばしている宝島社の付録付き雑誌販売のような「情報価値の下落」といった事例を踏まえながら、それでは顧客が求める新価値とは何かについて書いた。そして、結論として旧来価値ばかりの過剰さからの脱却とは「本質に戻ること」だと提言した。
その本質回帰の事例であるが、昨年度も売れないCD業界にあって、AKB48が年間ランキングトップ5を独占したとオリコンから発表があった。全く同じように一昨年もAKB48の一人勝ちで、その理由として音楽の本質は「ライブ」にあるとブログに書いた。AKB48も秋葉原駅から数分の古いビルに常設館を持ち、”会いにいけるアイドル”というコンセプトでスタートした。その本質は何かと言えば、”会いにいける”というライブ感であり、例えば握手会もそうしたライブの延長線上にある。ある意味、ライブな顧客関係の構築にあったということだ。そして、見事なのは、総選挙というメンバー同士の競争を顧客同士の競争に発展させ、AKB48の「センター」という栄誉を仕組みとして目指させた点にある。
そして、今日のAKB48を創ったのは、恐らく数十名程度の熱狂的なフアン、いわゆるAKBオタクによってである。現在年間ランキングトップ5を独占するようなマスプロダクト化が進行しているが、このオタクが居なくなるとき、急速にブームは終わる。そうしたオタクをつなぎ止め、更にはnewオタクを創るために、センターを勤めた「前田敦子」を卒業させ、更には地方へ、世界へとオタクの世界を広げる活動をしているのはそうした背景からである。
オタクの履歴を遡ってみていくと分かるが、1980年代前半、手作りラジオのような電気技術系のマニアやポップカルチャーというよりカウンター(反既成)カルチャーとしてマンガやアニメに傾倒した熱狂フアンが秋葉原に集まったことからオタクの街アキバがある。2チャンネルから始まった電車男、コスプレメイド喫茶もしかりである。勿論、その延長線上にAKB48があることは言うまでもない。
昨年度の日経MJヒット商品番付けにも入った「俺のフレンチ・イタリアン」についても「本質とな何か」について示唆的である。1980年代〜1990年代にかけて飲食業における主たる投資は店舗であった。店の雰囲気も味のうち、素敵な時間を過ごしてもらうための工夫を凝らした店づくりを競い合ってきた。例えば、厨房に近いテーブルをシェフズテーブルとし、上顧客にはそうした席を用意しサービス強化によって売上を上げてきたのもそうしたことの一つであった。しかし、バブル崩壊後そうした業態は1990年代後半からのデフレの波と更なるITバブルの崩壊&リーマンショックの荒波にもまれ、徐々に消えていった。結果、急成長したのが食においてはファストフード業態であり、ファッションにおいてはファストファッションであった。
「俺のフレンチ・イタリアン」が挑戦したのは、「食」の本質は2つの質によってで、一つは食材でもう一つがプロの技術によってであると。店舗にはお金をかけない。全て居抜き物件とし、お金をかけるのはまず食材で、高級食材をふんだんに使い、しかも一皿1000円未満に抑える。とにかくフレンチを体験してもらおうという、お試し的意味もあるかと思う。そのかわり1階席は立食いスタイルで、2階には少しのテーブル席を用意。ゆったりとした時間や雰囲気を楽しんでもらうのではなく、ファストフーズ感覚で本格フレンチの味そのものをを楽しんでもらうことによって、今まで無縁と思われてきた未開拓市場、若い世代から圧倒的な支持を得た。従来業態の真逆という発想転換によって、新たに若い世代市場を開拓した。バブル崩壊によって衰退してきたフレンチの本質を今一度業態を変えることによって再生したということだ。「俺のフレンチ・イタリアン」を展開しているのはVALUE CREATEという会社で、社長には元ブックオフの創業者であった坂本孝氏であるという。こうした真逆の発想で新しい市場を開発可能としたのも頷ける話である。
こうした本質とは何か、を問うことによって多くの領域で新しいビジネスの芽が出始めている。今から6年程前に大阪の旅行代理店「つばさツーリスト」の活動をブログに書いたことがあった。フランスやスイスの田舎であるならばいざ知らず、自らを田舎専門旅行代理店と呼び、都市生活者が失ってしまった日本の田舎、自然と向き合う「体験世界」を提供する小さな旅ビジネスである。当時、関西のTV局であったと思うが、提携先である農家の人にとって、重労働である薪割りやその薪を使って蒸し上げた餅米を餅つきにして食べる田舎体験旅行がお金になるとは思いもしなかったとコメントしていた。都市生活者にとって、特に子ども達にとって薪割りは新鮮で面白い遊びのような体験であるとブログに書いた。その後、周知の社会体験を子ども達に提供したキッザニアは圧倒的な顧客支持へとつながっていく。
こうした失われた体験を入り口としたビジネスが農業分野にも出てきている。その代表的企業がマイファームである。相変わらず食料自給率は40%を切り、一方では耕作放棄地が増え続ける。こうした実情に対し、農地の有効活用として体験農園を実施したり、更には就農のためのアカデミーを運営したり、NPOとネットワークを組んで、作った作物を通販したり、・・・・・・多様な農業ビジネスを立体的に展開している会社である。理屈上はこのように表現できるが、3K(きつい、汚い、臭い/危険)と呼ばれてきた現実の農作業をスマホを使って作況やコストの一元管理など行なう。更にはツイッターやFacebookを駆使した顧客発見と作物の流通販売を行なう。つまり、若い世代が慣れ親しんだIT技術を駆使した自然との向き合い方スタイルによる農業が始まっている。耕作放棄地の多くは高齢化に伴った後継者がいないという問題であるが、農業の本質を問う答えの一つとして、こうした新しい農業への取り組みは後継足り得ると考える。日本の農業は生産性が極めて低いとされているが、規模の経営だけが高い生産性であるとは言えない。IT技術の知恵ある活用によっては生産性向上は勿論のこと、従来から成功のモデルケースとして言われてきた6次産業化がITによって広く可能になってきたということである。
昨年秋から消費増税によって起きる様々な変化についてブログに書いてきた。新政権になり、景気浮揚のための経済対策が組まれその結果次第ではあるが、消費増税が現実のものとなってきた。消費税5%が実施された1998年前後には多くのイノベーションによるビジネス変革が起きていた。例えば、IT技術の活用によって、多品種少量販売が可能となり、従来業態の転換が始まった。その代表企業がユニクロや渋谷109系の専門店であり、そうした企業群のなかにはインターネット商店街楽天市場もあった。そして、大手GMSであるヨーカドー、イオンによる消費税分還元セールが大人気となる。また、マクドナルドによる半額バーガーも大ヒット商品となる。結果、こうした変革に挑戦したグループは生き残り、一方旧来のビジネスに安住してきた企業は次々と破綻し、1998年の倒産件数は18、988件に及ぶ。以降収入は右肩下がりのなかでデフレ経済へと向かっていく。
そして、デフレの壁を乗り越えた企業が今日の市場を牽引している。新政権の課題は景気回復、特にデフレからの脱却を主要な政治課題としている。更なる金融緩和策をはじめとした「アベノミクス」は円安と株価高を生んでいる。金融の専門家ではないのでこのまま推移するかどうか分からないが、資産デフレの解決は一定のメドがつくかもしれない。しかし、消費を促すもの、それは未来は明るいと思えるか否かである。その明るさへの第一は、収入が増え楽観的心理に向かうことである。こうした情況に至るにはかなりの時間を要する。つまり、当分の間なだらかなデフレは続くということだ。過去行なってきた家電、自動車、住宅などへのエコポイントといった官製販促、官製消費刺激策は需要の先食いであり、デフレを止める本質的解決にはならない。しかし、そうであればこそ次へのビジネスチャンスはある。そのためにも今一度本質とは何かを問い直すことだ。今年もまた、そうした着眼事例をブログに書いていくつもりである。(続く)
新年明けましておめでとうございます。
例年新聞各紙の元旦号から時代のテーマや空気感のようなものに触れながら、市場創造という視点からどんな一年であって欲しいかをブログに書いてきた。昨年は「総デフレ時代の着眼」というタイトルで、デフレの意味合いを少し広げ、供給過剰による「旧来価値の下落」とし、少々荒っぽかったが銀座の「土地価格の下落」によるビジネス変化や売れない雑誌にあって唯一部数を伸ばしている宝島社の付録付き雑誌販売のような「情報価値の下落」といった事例を踏まえながら、それでは顧客が求める新価値とは何かについて書いた。そして、結論として旧来価値ばかりの過剰さからの脱却とは「本質に戻ること」だと提言した。
その本質回帰の事例であるが、昨年度も売れないCD業界にあって、AKB48が年間ランキングトップ5を独占したとオリコンから発表があった。全く同じように一昨年もAKB48の一人勝ちで、その理由として音楽の本質は「ライブ」にあるとブログに書いた。AKB48も秋葉原駅から数分の古いビルに常設館を持ち、”会いにいけるアイドル”というコンセプトでスタートした。その本質は何かと言えば、”会いにいける”というライブ感であり、例えば握手会もそうしたライブの延長線上にある。ある意味、ライブな顧客関係の構築にあったということだ。そして、見事なのは、総選挙というメンバー同士の競争を顧客同士の競争に発展させ、AKB48の「センター」という栄誉を仕組みとして目指させた点にある。
そして、今日のAKB48を創ったのは、恐らく数十名程度の熱狂的なフアン、いわゆるAKBオタクによってである。現在年間ランキングトップ5を独占するようなマスプロダクト化が進行しているが、このオタクが居なくなるとき、急速にブームは終わる。そうしたオタクをつなぎ止め、更にはnewオタクを創るために、センターを勤めた「前田敦子」を卒業させ、更には地方へ、世界へとオタクの世界を広げる活動をしているのはそうした背景からである。
オタクの履歴を遡ってみていくと分かるが、1980年代前半、手作りラジオのような電気技術系のマニアやポップカルチャーというよりカウンター(反既成)カルチャーとしてマンガやアニメに傾倒した熱狂フアンが秋葉原に集まったことからオタクの街アキバがある。2チャンネルから始まった電車男、コスプレメイド喫茶もしかりである。勿論、その延長線上にAKB48があることは言うまでもない。
昨年度の日経MJヒット商品番付けにも入った「俺のフレンチ・イタリアン」についても「本質とな何か」について示唆的である。1980年代〜1990年代にかけて飲食業における主たる投資は店舗であった。店の雰囲気も味のうち、素敵な時間を過ごしてもらうための工夫を凝らした店づくりを競い合ってきた。例えば、厨房に近いテーブルをシェフズテーブルとし、上顧客にはそうした席を用意しサービス強化によって売上を上げてきたのもそうしたことの一つであった。しかし、バブル崩壊後そうした業態は1990年代後半からのデフレの波と更なるITバブルの崩壊&リーマンショックの荒波にもまれ、徐々に消えていった。結果、急成長したのが食においてはファストフード業態であり、ファッションにおいてはファストファッションであった。
「俺のフレンチ・イタリアン」が挑戦したのは、「食」の本質は2つの質によってで、一つは食材でもう一つがプロの技術によってであると。店舗にはお金をかけない。全て居抜き物件とし、お金をかけるのはまず食材で、高級食材をふんだんに使い、しかも一皿1000円未満に抑える。とにかくフレンチを体験してもらおうという、お試し的意味もあるかと思う。そのかわり1階席は立食いスタイルで、2階には少しのテーブル席を用意。ゆったりとした時間や雰囲気を楽しんでもらうのではなく、ファストフーズ感覚で本格フレンチの味そのものをを楽しんでもらうことによって、今まで無縁と思われてきた未開拓市場、若い世代から圧倒的な支持を得た。従来業態の真逆という発想転換によって、新たに若い世代市場を開拓した。バブル崩壊によって衰退してきたフレンチの本質を今一度業態を変えることによって再生したということだ。「俺のフレンチ・イタリアン」を展開しているのはVALUE CREATEという会社で、社長には元ブックオフの創業者であった坂本孝氏であるという。こうした真逆の発想で新しい市場を開発可能としたのも頷ける話である。
こうした本質とは何か、を問うことによって多くの領域で新しいビジネスの芽が出始めている。今から6年程前に大阪の旅行代理店「つばさツーリスト」の活動をブログに書いたことがあった。フランスやスイスの田舎であるならばいざ知らず、自らを田舎専門旅行代理店と呼び、都市生活者が失ってしまった日本の田舎、自然と向き合う「体験世界」を提供する小さな旅ビジネスである。当時、関西のTV局であったと思うが、提携先である農家の人にとって、重労働である薪割りやその薪を使って蒸し上げた餅米を餅つきにして食べる田舎体験旅行がお金になるとは思いもしなかったとコメントしていた。都市生活者にとって、特に子ども達にとって薪割りは新鮮で面白い遊びのような体験であるとブログに書いた。その後、周知の社会体験を子ども達に提供したキッザニアは圧倒的な顧客支持へとつながっていく。
こうした失われた体験を入り口としたビジネスが農業分野にも出てきている。その代表的企業がマイファームである。相変わらず食料自給率は40%を切り、一方では耕作放棄地が増え続ける。こうした実情に対し、農地の有効活用として体験農園を実施したり、更には就農のためのアカデミーを運営したり、NPOとネットワークを組んで、作った作物を通販したり、・・・・・・多様な農業ビジネスを立体的に展開している会社である。理屈上はこのように表現できるが、3K(きつい、汚い、臭い/危険)と呼ばれてきた現実の農作業をスマホを使って作況やコストの一元管理など行なう。更にはツイッターやFacebookを駆使した顧客発見と作物の流通販売を行なう。つまり、若い世代が慣れ親しんだIT技術を駆使した自然との向き合い方スタイルによる農業が始まっている。耕作放棄地の多くは高齢化に伴った後継者がいないという問題であるが、農業の本質を問う答えの一つとして、こうした新しい農業への取り組みは後継足り得ると考える。日本の農業は生産性が極めて低いとされているが、規模の経営だけが高い生産性であるとは言えない。IT技術の知恵ある活用によっては生産性向上は勿論のこと、従来から成功のモデルケースとして言われてきた6次産業化がITによって広く可能になってきたということである。
昨年秋から消費増税によって起きる様々な変化についてブログに書いてきた。新政権になり、景気浮揚のための経済対策が組まれその結果次第ではあるが、消費増税が現実のものとなってきた。消費税5%が実施された1998年前後には多くのイノベーションによるビジネス変革が起きていた。例えば、IT技術の活用によって、多品種少量販売が可能となり、従来業態の転換が始まった。その代表企業がユニクロや渋谷109系の専門店であり、そうした企業群のなかにはインターネット商店街楽天市場もあった。そして、大手GMSであるヨーカドー、イオンによる消費税分還元セールが大人気となる。また、マクドナルドによる半額バーガーも大ヒット商品となる。結果、こうした変革に挑戦したグループは生き残り、一方旧来のビジネスに安住してきた企業は次々と破綻し、1998年の倒産件数は18、988件に及ぶ。以降収入は右肩下がりのなかでデフレ経済へと向かっていく。
そして、デフレの壁を乗り越えた企業が今日の市場を牽引している。新政権の課題は景気回復、特にデフレからの脱却を主要な政治課題としている。更なる金融緩和策をはじめとした「アベノミクス」は円安と株価高を生んでいる。金融の専門家ではないのでこのまま推移するかどうか分からないが、資産デフレの解決は一定のメドがつくかもしれない。しかし、消費を促すもの、それは未来は明るいと思えるか否かである。その明るさへの第一は、収入が増え楽観的心理に向かうことである。こうした情況に至るにはかなりの時間を要する。つまり、当分の間なだらかなデフレは続くということだ。過去行なってきた家電、自動車、住宅などへのエコポイントといった官製販促、官製消費刺激策は需要の先食いであり、デフレを止める本質的解決にはならない。しかし、そうであればこそ次へのビジネスチャンスはある。そのためにも今一度本質とは何かを問い直すことだ。今年もまた、そうした着眼事例をブログに書いていくつもりである。(続く)
マーケティングノート(2)後半
マーケティング・ノート(2)前半
2023年ヒット商品版付を読み解く
マーケティングの旅(1) 「旅の始まり」後半
マーケティングの旅(1) 「旅の始まり」前半
春雑感
マーケティング・ノート(2)前半
2023年ヒット商品版付を読み解く
マーケティングの旅(1) 「旅の始まり」後半
マーケティングの旅(1) 「旅の始まり」前半
春雑感
Posted by ヒット商品応援団 at 14:59│Comments(0)
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