2022年06月12日

◆経営を技術と勘違いしてはならない

ヒット商品応援団日記No805毎週更新) 2022.6.12

経営を技術と勘違いしてはならない


スシローが昨年秋景表法のおとり広告を行なったとして消費者庁が改善のための措置命令が行われ話題となっている。どんな「おとり」なのかについては詳細が公開されているのでここではその審議についてはテーマにはしない。全国626店舗という最大手の寿司チェーンであるがコロナ禍においても成長を上げてきた。業界のリーダー、プライスリーダーが今年の秋から一皿100円(税抜き)」を改定し値上げするとのことでこのブログにも取り上げた。ところがうに、かにといった寿司ネタの中でも特に食べたい寿司ネタのキャッペーンであるが、「品切れごめん」との表示はあるものの、キャッペーンが始まっても「品切れ」、つまり初日から販売していない店が数店あったがその理由が不明であると発表している。
少し前に牛丼の最大手吉野家の常務が社会人セミナーで若い女性戦略として「生娘がシャブ(薬物)漬けになるような企画」と発言し、吉野家の常務を解任されたとして話題になった。解任された伊東正明氏はマーケティングのプロとのことだが、「何か」がかけていると言わざるを得ない。

企業は成長と共に組織は複雑化し肥大化していく。知恵やアイディアもまた「外部」に頼ることとなり、経営はどんどん「数字」となり、「現実」から離れていくこととなる。現実とは勿論のこと「顧客」のことである。
私が若い頃隣のチームが日本マクドナルドのマーケティングを担当していた。創業者である藤田田社長からの要請で「顧客実態」を把握するために、店頭で今までなかった注文をして欲しいとの依頼があった。私も応援として銀座4丁目のマクドナルドでビッグマックを頼み「マスタードをつけてね」とメニューにはないサービス注文をしたことがあった。今までそんなことをオーダーされた経験はなかったのであろうバックヤードの店長に・・・・・・そんな光景を思い出した。おそらく誰よりも店舗に行き厨房に入った社長であった。周知のように世界中のマクドナルドでいち早くローカルメニューを作ったのは日本である。そのメニューが「てりやきマックバーガー」で牛ではなくポークパティを醤油味にしたヒット商品である。
藤田社長が亡くなってから日本マクドナルドは迷走するのだが、その後カナダの社長であったサラ・カサノバ社長を迎いいれる。そして、カサノバ社長が始めたのは店舗周りと顧客との対話であった。ある意味で藤田社長と同じ「現場経営」によって立て直したということだ。

もう一つのエピソードが大手流通業のイオンである。かなり前になるが当時イオンの専務であった谷口氏と歓談する機会があり、創業者である岡田卓也氏の実像をお聞きすることがあった。当時のイオンの本部は千葉幕張のビルではなく東京昭和通りに面した古いビルの一室での懇談であったが、1990年大阪で行われた花博で事故が起きた直後で”岡田は急遽大阪に飛んで行きました”と谷口専務が話され”岡田は1年300日以上全国の店舗を回っています”とも。幸いなことに事故による怪我人はいなくて事なきを得たとのことであったが、常に現場の消費者に思いを寄せていたという。この店舗回りについては実姉である小嶋千鶴子氏も同様で主に人事面で現場経営をしていたと。当時のイオンは店舗単位の発注で「欠品」が
多く、その自主性は評価されてはいたが、問題もまたあった。経営の答えは社員が育っていなかったことが原因で、それらは経営者の責任であるとし、現場を責めるようなことは一切なかった。

スシローの値上げ予告の数日後、あのユニクロも秋冬物からメイン商品であるフリースやライトダウンジャケットなどを1000円値上げするとの発表があった。ユニクロについては何回か取り上げたことがあったが、これもカジュアルウエアのマーケっよリーダーであり、大きな影響を生むことからであった。服飾衣料分野で多くのブランドが苦戦する中で業績を伸ばしているブランドであるが、確か数年前まで広告のみならずチラシの文面にまで柳井社長は目を通していたと聞いている。GAPに追いつけ追い越せと世界を舞台にして活動するウユニクロであることから今はそうしたでディテ=ルにまで目を通すことはないと思うが、経営者が常に顧客がどんな消費を見せるか考えているということだ。スシローがキャンペーン商品の在庫がないにもかかわらず広告キャンペーンを中止しなかった事とは正反対の理解である。
売り物が魚介類ということから品切れでも許してもらえると経営判断していたとすれば、経営失格で必ず消費者からは見向きもされなくなる。

かなり前えになるが、ユニクロのフリースが爆発的に売れたあことがあった。その決算の記者会見で、記者から「同じような類似商品を着たくないという消費者もいると思うが」との質問に対し、柳井社長は「常に品質の良い工業製品を作っている」と答えていた。記者は「工業製品」という言葉尻を捉えて「ファッション商品ではないのかと」反論し、逆に話題になったことがあった。そうした背景からと思うが、数年前ユニクロのコンセプトが「ワークライフ」に変わった。ライフスタイルブランドを目指したのだが、その先にはそのブランドを作る社員にとっても同様で「ワークライフバランス」を目指すこととなる。結果として、社員の給与は勿論のこと、残業などまさにワークライフバランス」を目指し、2017年本社機能を東京有明のオフィスへと移転まで行うという改革を行ったことは周知の通りである。この「有明プロジェクト」は一言でいえば、売り切れる量と生産量を一致させることにあり、情報を軸にすべてのワークフローを見直して無駄を省けば働き方改革にもつながるという改革である。当時は賛否もあったが、成功したと言えるであろう。

コロナ禍も3年目を迎え、収束に向かいつつあるが、消費心理は悪性インフレもあって、多くのことに「敏感」になっている。1990年代セブンイレブンの創始者である鈴木敏文氏は「消費市場は心理化された」と発言していたが、その心理は想像以上に敏感に反応するようになっている。持続化給付金詐欺をはじめネット上には無有の「詐欺」あるいは「詐欺まがい事象」が溢れている。ある意味「ささくれだった心理」で触れば即座に反応する時代である。経営は技術であると勘違いするエセ経営者が出てきたように思えるが、こうした困難な時代こそ消費する生活者に覚悟を持って向かい合わなければならない。コロナによって傷んだ経営を立て直すには現場経営しかない。スシローも吉野家もそのことを教えてくれる「反面教師」である。(続く)


タグ :スシロー

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Posted by ヒット商品応援団 at 12:58│Comments(0)新市場創造
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