2019年06月23日

◆今の日本の実相、その空気感 

ヒット商品応援団日記No740(毎週更新) 2019.6.23.

老後資金2000万円問題が社会保障制度の持続性を含め注目されている。周知のように金融審議会の市場ワーキンググループから「高齢社会における資産形成・管理」と題する報告書が公表された。その報告書の中に書かれている年金などの収入以外に約2000万円の貯蓄が必要との試算が盛り込まれ、年金では足りない赤字分を自助努力する必要があるというものであった。 2004年小泉内閣の時に社会保障制度の改革がなされ「年金100年安心プラン」という賦課方式による制度変更がなされた。それまでの積立方式から現役世代が高齢世代を支える賦課方式への転換であったが、その背景には旧厚生省のグリーンピア事業への投資といった無駄遣いもあったが、今日の日本をイメージさせる事実があった。キーワードは「安心」である。スローガンやタイトルをつけることによって一つの「空気感」を創る作用がある。あたかも100年先まで安心生活が送れるといった一種の錯覚を産み、安心プランの中身を理解することを半ば止めてしまうことへと向かう。

ポスト団塊世代以上の中高年、つまり年金受給が真近になった世代にとってこれからの生活を考える上で極めて重要なことであった。「100年安心」というプランのタイトル・ネーミングについてはこの世界にとっては「制度の持続性」であると理解されており、当時から厚生年金受給予定者夫婦にとって2000万程度は必要であると指摘はあった。しかし、ポスト団塊世代より若い世代にとっての理解は制度の持続性、支える世代としての負担の大きさに果たして「100安心」として受給できるかどうかという疑念が残った。いわゆる世代間格差である。
そうした議論に答えが出る前に、2007年社会保険庁改革関連法案の審議中に社会保険庁のオンライン化したデータ(コンピュータ入力した年金記録)に誤りや不備が多いこと等が明らかになる。いわゆる「消えた年金問題」である。以降、被保険者と受給者合わせて1億1,000万人ほどの人に年金特別便というものが送られて、年金記録に漏れなどの確認が行われる。その過程でわかったことは旧社保庁のずさんな缶入りはいうまでもなく、事業主が高い保険料を負担したくないがために、従業員の給与を実際の額よりも引き下げたり、または会社が厚生年金から偽装脱退するといった不正も明らかになった。その結果の詳細については専門家に任せることとするが、今なお2,000万件ほどの記録が未解決となっている。「安心」というキーワードによる空気感は今なおモヤモヤしたまま、不信感とないまぜ状態で蔓延している。

今回金融庁から出された報告書のモデルとして厚生年金受給者を取り上げていたが、以下のような公的年金制度の概況となっている。(平成28年末)
●国民年金の第1号被保険者数(任意加入被保険者を含む)は、1,575 万人となっており、前年度末に比べて 93 万人(5.5%)減少。
●厚生年金被保険者数(第1~4号)は、4,266万人(うち第 1号 3,822 万人、第2~4号 445 万人)となっており、前年度末に比べて 138 万人 (3.3%)増加。
●国民年金の第3号被保険者数は、889万人となっており、前 年度末に比べて 26 万人(2.9%)減少。

モデルケースとしていわゆるサラリーマン世帯(厚生年金)を取り上げることは良いとは思うが、実は問題が大きいのは国民年金受給者の方で、2016年4月に厚労省によって発表された資料によると、2013年度の年金保険料を期限内に支払った割合は60.9%であったが、2014年度末には67.2%、2016年2月末には69.8%にまで増えている。また、数年後には70%程度にまで増えることが予想されている。
背景には非正規雇用の増大という課題がある。総務省の2017年のデータによれば、正規の従業員を年齢階級別にみると、15~64歳は3323万人と46万人増加し、65歳以上も109万人と10万人増加。
非正規の従業員は15~64歳が1720万人と3万人減少した一方で、65歳以上は316万人と15万人の増加。ちなみに全体の37.3%を占めている。

ところで賃金構造基本統計調査によるとワーキングプアと言われる収入が200万円以下の人口は約1069万人。正規・非正規雇用全体の人数であるが、若い世代のみならず、両親の実家に住み生活している中高年世代にも広がっている。前回書いたように「80 50問題」における50世代、つまりバブル崩壊による就職氷河期世代もこの中に多く含まれている。
年収200万未満となると1ヶ月の収入は15万未満となり、両親などの扶養扱いから抜けるとなると、国民年金の保険料は月額16,410円ということから納付が困難な人も多くなることがうかがえる。結果、「80 50問題」を増大させ、その中から引きこもりもまた生まれる。
また、今回の家計調査(赤字額月額5.5万円)における高齢者の貯蓄額を発表しているが、その平均貯蓄額を発表しているが、1億円以上の高齢者もいて、平均額(2284万円)をみると一定の貯蓄があると見えるが、実はより正確に見ていくとその中央値(1515万園)は低く、実態としては高齢者においても厳然たる経済「格差」があることがわかる。ちなみに100万円未満8.3%もいる。その象徴として生活保護世帯は徐々に増え164万世帯。つまり、若い世代においても、高齢世代においても「格差」があるということである。これがバブル崩壊後の長期停滞日本が生み出した現実である。

さて、前回も書いたことだが多くの注目すべき現象は日本社会の構造が変わってきたことにある。勿論、そのキーワードはまずは少子高齢化であり、そこから生まれる「不安」である。実はこの不安という空気感を創るのは「情報の重要さ」×「情報の曖昧さ」に比例する、という法則があって、社会心理学では基本となっている。ここからいわゆる世論もそうであるが、さらに言うならば「伝説」も「うわさ」も「デマ」も生まれる。こうしたことが生まれるのも、私たちの「内なるこころ」が創らせているとも言える。見えない不安を背景に、逆に「見えること」を逆手に取った詐欺的商品も現れて来る。同時に「見える化」が10年ほど前から指摘されたのもこうした理由からである。
隠せば隠すほど疑念が深まり、それは不安へと向かう。今回は「年金」を入り口にその不安の背景の「今」を整理したが、こうした経済に関すること以外にも不安を構成する要素としては以下のように整理することができる。

1、健康に対する不安:癌といった病気から身じかな不眠といった不安まで。更には、「食」への不安。
2、経済に対する不安:世代によっても変わるが、社会保障から勤務先企業の経営や仕事への不安。
3、社会に対する不安:主に、凶悪犯罪からオレオレ詐欺などへの不安。あるいはいじめなど教育への不安。
4、災害に対する不安:身近な住まいの土砂災害、電車など生活インフラから地震などの自然災害に対する漠然とした不安。

人それぞれ固有の不安があり、その度合いも異なる。健康で言えば約半数の人ががんにかかるが医学の進歩から治らないがんはどんどん少なくなってきている。つまり、命にかかわる病気の「曖昧さ」が明確になり解決できてきたと言うことである。社会に対する不安については前回の川崎殺傷事件をテーマに無縁社会の広がりについて書いたが、大きな社会問題化する前に抜本的な対策が必要とされている。災害については昨年の西日本豪雨災害から、大型台風、さらには北海道地震といった災害列島についてプログにも書いてきた。度重なる災害に対し、防災・減災が実行に移されてきている。例えば、最大瞬間風速58.1メートルを記録した台風21号の関西直撃に対し、あまり報道されていないことだが、台風直撃の前日にJR西日本が当日の運転を休止する旨を発表している。勿論、梅田やなんばに乗り入れている阪急電車など各社とも連携した休止である。結果、多くの企業や学校、商店も休みとなり、大阪の中心部は閑散となったが、人的被害や混乱は極めて少なかった。電車を停めることはギリギリまで行わないことが常であった。しかし、今回の JR西日本の判断は英断であったと言える。

そして、問題なのが今回の社会保障制度についてである。老後資金2000万円問題によって、若い世代が資産形成セミナーに殺到していると言う。勿論悪いことではないが、大きな経済破綻が起これば蓄えた資産など一夜のうちに半減してしまう歴史がある。例えば、生涯で一番大きな買い物と言われる住宅で言えば、バブル崩壊によって資産価値は半減し、売却して返済にあてても多額の住宅ローンが残る。最近で言えば2008年のリーマンショックによってリスクの少ないと言われる投資信託も、組み込んだ内容にもよるが35〜40%目減りする、そんなリスク経済であることを思い起こした方が良い。

フェイクニュースはトランプ大統領の専売特許ではない。情報の時代にあっては、日本においても多くの「フェイク」があった。言葉を変えればなるほどと思うが、例えば記憶の範囲で言えば耐震偽装から始まり、最近では大企業においてもデータ改ざんといったフェイクは氾濫している。こうした時代にあって、どうビジネスをしていけば良いのか、それにはまず顧客に「聞く」こと、顧客の声に耳を傾けることから始めることだ。「言う」から「聞く」である。顧客は過剰情報のただ中にあって、素直に心を開くわけではない。繰り返し聞くことを通じ、「会話」を成立させることだ。ローコスト経営へとシフトした企業は多くあるが、セルフスタイル業態の場合、「何か」が障害となった時、顧客心理は右から左へと大きく振れることとなる。文句を言う相手がいないと言うことは、2度と行かない、使わないと言うこととなる。
このように極端から極端へと振れる時代、空気が一変する時代である。3ヶ月ほとで消費増税が実施される。不安を持ったままの増税結果は火を見るより明らかである。消費心理は8%導入時の駆け込み需要どころの話ではなく、萎縮どころか氷河期へと向かうこととなる。時代の空気は変わったと言うことだ。(続く)

タグ :年金問題

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Posted by ヒット商品応援団 at 13:15│Comments(0)新市場創造
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