2017年11月19日
◆変わるなら「今でしょ」
ヒット商品応援団日記No692(毎週更新) 2017.11.19.
前々回「小さな単位発想が危機を救う」というタイトルでブログを書いたが、今回もその続きである。前回は創業期にはあった「大切なこと」が継承されないまま危機を迎えているという主旨であった。今回はもっと「今」ならではの危機を迎え、あるいは新たな市場を創るための発想着眼についてテーマとする。産業の転換を促すものとしてEV(電気自動車)の行方が議論されているが、消費という視点から見ていくと、少し前にブログに書いた「新たな価格帯市場」が大きな消費潮流になっている。この価格潮流が企業経営の危機を表へと出し、更に2年後の消費税10%導入によって更に深刻化させる。つまり、どう革新すべきか1990年代初頭のバブル崩壊による価値観の大転換点とまではいかないが、一つの転換期を迎えていることは間違いない。
ところでここ数年チェーンビジネス起こっている多くの危機は、特に飲食業において顕著なことは牛丼の「すき家」に象徴される「人手不足」、さらに課題として出てきたのが賃料に見合う「売り上げ・利益」が確保できない、という経営の根本に関わる課題である。結果どんな解決策が出てきているか、「規模縮小=撤退」というリストラ策である。こうした課題を引き起こしている消費は、物販であればネット通販であり、価格帯視点に立てば急成長しているフリーマーケットや中古ショップとなる。また、食品・飲食であれば「宅配」ということになり、その象徴が生鮮食品などのアマゾン・プライム会員サービスということになるであろう。
勿論、既存ビジネスも「人手不足」という課題であれば、スーパーやコンビニの場合、レジの自動化・セルフ化が急速に進行している。あるいはサービス業であれば、ロボット対応も導入され始めている。チェーン店の良さは均一な品質の商品・サービスをどこよりも安く提供するという規模のビジネスである。実はその規模(=市場)が大きく変化してきたということが根底にあるということである。
こうしたIT,IotあるいはAIといった技術革新による新しい業態による解決であるが、「人手」の活躍の拡大=生きがいに主眼を置いた企業もある。それはかなり前に事例として取り上げた雑貨専門店のロフトであり、24時間営業の「富士そば」などはまさに次なる「人力経営」であろう。こうした業態やサービスの大転換が人手を最大資源とする専門店で行われているということである。こうした2つの根源的な課題に取り組まない企業は残念ながら市場から退出を求められていく。
こうしたチェーン店はいわば表通りにあるビジネスであるが、一方では私が以前から着眼指摘してきた横丁路地裏の小さなビジネスから小さなヒット商品が生まれてきている。
この潮流は亡くなられた地井武男さんによるテレビ朝日の「ちい散歩」が火付け役となった「散歩ブーム」にある。この散歩ブームは鉄道沿線、地下鉄沿線、さらには路線バスの沿線、といった具合に今でも続いている。こうした街場にはまだまだ知らない世界が沢山あることに散歩によって気付かされる。それはTBS の「マツコの知らない世界」やTV東京の「孤独のグルメ」へとつながっていく。こうした「知らない世界」の道筋をつけてきたのは、専門家・プロの指摘ではなく、一見どこにでもいそうないわゆる「素人」であり、私の言葉で言えば「オタク」ということになる。
勿論、一方では専門家・プロからの「反撃」も出てきている。例えば、以前取り上げたことがあるフレンチのシェフ・水島弘史さんがすすめる、科学的にも理にかなった裏技、美味しい料理法なんかが当てはまる。しかも、フレンチではなく、日常誰でもが作るカレーライスといったメニューをプロの味にする裏技レシピといった「反撃」である。
面白いことにこうした転換期の「変化」を売り場に反映させているショッピングセンターがある。以前取り上げた大阪駅にあるルクアイーレである。あの伊勢丹・三越の失敗撤退跡にリニューアルされた売り場で、その象徴とも言える売り場が2つある。1つは2階のフロア「ワールドザッカマルシェ」でまさに小さな「雑」集積フロアとなっている。マルシェ、つまり市場感覚を生かしたオシャレで小さな専門店集積である。若い世代に人気の古着ショップと同じように、「知らない世界」と出会うことができる宝探しのような売り場編集である。
もう一つは地下2階にある「バルチカ」という飲食街である。行列の絶えないソース料理とワインが楽しめる「赤白(コウハク)」という店もあるが、ルクアイーレというショッピングセンター全体から見ればいわば横丁路地裏のような一角となっている。
もう一つの転換期としては、こうした既存の消費市場への対応とは別に新たに生まれてきているのが「訪日外国人市場」である。このブログでも何回も取り上げてきたが、本格的な対応を取らないと手遅れになると指摘をしておきたい。何故なら、今年に入っても訪日外国人客は増加しており、しかもリピーターが増え、それまでの団体旅行ではなく、個人旅行者数は全体の半数を超えてきた。しかも、再来年の2019年にはラクビーのW杯が開催されることもあるが、それよりもまず4月には現在の天皇陛下が退位され、新天皇が即位する。恐らく世界から国家元首級が70か国、王室VIPが20か国など大勢の賓客が駆けつけることになる。更には2019年の参院選前には、日本が主催するG20首脳会議が東京で開かれる。そして、2020年には東京オリンピックである。
多くの訪日外国人客の受け入れ体制、民泊の整備や交通機関のあり方が課題に上がっている。そうした観光インフラ的なこともさることながら、インターネットの時代ならではの課題について考えてみたい。
先ほどの「知らない世界」ではないが、訪日外国人の興味関心事はどこにあるのかある程度は把握できてはいるがまだまだわかってはいない。
日本という国を地球儀を前にして俯瞰的に見れば、ヨーロッパや米国と比較し、小さな小さな国土である。これを観光という視点に立てばどうなるかということである。1つは既に京都で起きていることだが、訪日外国人客の多さに、日本人観光客がひいてしまい、京都観光を避け始めているという事態になっている。以前にもブログに書いたが、京都新聞によれば京都市内の観光客は減少し、京都府は逆に増える傾向にあると。つまり、京都を代表する名所旧跡観光は減り、周辺の京都観光に向かっているということである。前者は表通り観光で、後者は横丁路地裏観光と言っても構わない。あるいは知名度のある観光地とまだ知られていない小さな観光地と置き換えても同じである。つまり、インターネットの時代にあっては、「表」と「裏」、「大」と「小」を組み合わせ、奥行きや深みをつけることが必要となるということである。京都の友人に言わせれば、訪日外国人もそうだが、日本人観光客も知らない京都らしい素敵な路地裏観光地や路地裏カフェが山ほどあると指摘をしている。
以前からホテルではなく畳座敷のある和風旅館へ宿泊したい、日本式の風呂、できれば露天風呂にも入りたい、そんな要望が強くあった。また、消費行動を見てもわかることだが、それまでの家電製品や寿司人気から目薬といった医薬品や化粧品、あるいは100円ショップや菓子類へと変化しており、私たちの日常消費へとどんどん近づいている。そして、食においては回転寿司から食べ放題へ、さらには居酒屋へと変化し、それまでの高級な寿司や天ぷらは卒業したかのごとくである。また、今流行り始めているのが、しゃれた文具製品や雑貨類で日本の「今」を感じさせる生活文化、「カワイイ文化」への関心である。土産類も小物であれば「漢字」をモチーフにしたTシャツや手ぬぐいなど「日本」を感じさせるものが買われているという。全て物理的にも価格的にも「小さな」ものばかりである。ここにおいても日常化、回数化がキーワードとなっている。そして、そのMDの先は何かと言えば日本の過去と今を実感できる「生活文化観光」ということになる。
つまり、特別なこと構えたことなど必要がないということである。民泊需要が高いのも価格がリーズナブルであることと共に、日本人の日常生活そのものへの興味が強いということである。漫画やアニメだけでなく、こうした生活文化そのものが「クールジャパン」の本質である。
要約すれば従来の市場が変わり、更に訪日外国人市場という新市場が生まれ拡大していく、そんな時代の転換期の入り口に来ている。そして、この2つの「変化」は一つになって、すぐそこにまで来ている。この変化の波は都市も地方も、大企業も中小企業も、チェーン店も街場のラーメン屋さんも、等しく押し寄せる。勿論、そこに生活する私たち生活者一人ひとりにも。この変化が深刻な危機に向かうのか、逆にチャンスとするのか、2年後の消費税10%導入によってより鮮明になっていくであろう。つまり、変わるなら「今でしょ」ということだ。(続く)
前々回「小さな単位発想が危機を救う」というタイトルでブログを書いたが、今回もその続きである。前回は創業期にはあった「大切なこと」が継承されないまま危機を迎えているという主旨であった。今回はもっと「今」ならではの危機を迎え、あるいは新たな市場を創るための発想着眼についてテーマとする。産業の転換を促すものとしてEV(電気自動車)の行方が議論されているが、消費という視点から見ていくと、少し前にブログに書いた「新たな価格帯市場」が大きな消費潮流になっている。この価格潮流が企業経営の危機を表へと出し、更に2年後の消費税10%導入によって更に深刻化させる。つまり、どう革新すべきか1990年代初頭のバブル崩壊による価値観の大転換点とまではいかないが、一つの転換期を迎えていることは間違いない。
ところでここ数年チェーンビジネス起こっている多くの危機は、特に飲食業において顕著なことは牛丼の「すき家」に象徴される「人手不足」、さらに課題として出てきたのが賃料に見合う「売り上げ・利益」が確保できない、という経営の根本に関わる課題である。結果どんな解決策が出てきているか、「規模縮小=撤退」というリストラ策である。こうした課題を引き起こしている消費は、物販であればネット通販であり、価格帯視点に立てば急成長しているフリーマーケットや中古ショップとなる。また、食品・飲食であれば「宅配」ということになり、その象徴が生鮮食品などのアマゾン・プライム会員サービスということになるであろう。
勿論、既存ビジネスも「人手不足」という課題であれば、スーパーやコンビニの場合、レジの自動化・セルフ化が急速に進行している。あるいはサービス業であれば、ロボット対応も導入され始めている。チェーン店の良さは均一な品質の商品・サービスをどこよりも安く提供するという規模のビジネスである。実はその規模(=市場)が大きく変化してきたということが根底にあるということである。
こうしたIT,IotあるいはAIといった技術革新による新しい業態による解決であるが、「人手」の活躍の拡大=生きがいに主眼を置いた企業もある。それはかなり前に事例として取り上げた雑貨専門店のロフトであり、24時間営業の「富士そば」などはまさに次なる「人力経営」であろう。こうした業態やサービスの大転換が人手を最大資源とする専門店で行われているということである。こうした2つの根源的な課題に取り組まない企業は残念ながら市場から退出を求められていく。
こうしたチェーン店はいわば表通りにあるビジネスであるが、一方では私が以前から着眼指摘してきた横丁路地裏の小さなビジネスから小さなヒット商品が生まれてきている。
この潮流は亡くなられた地井武男さんによるテレビ朝日の「ちい散歩」が火付け役となった「散歩ブーム」にある。この散歩ブームは鉄道沿線、地下鉄沿線、さらには路線バスの沿線、といった具合に今でも続いている。こうした街場にはまだまだ知らない世界が沢山あることに散歩によって気付かされる。それはTBS の「マツコの知らない世界」やTV東京の「孤独のグルメ」へとつながっていく。こうした「知らない世界」の道筋をつけてきたのは、専門家・プロの指摘ではなく、一見どこにでもいそうないわゆる「素人」であり、私の言葉で言えば「オタク」ということになる。
勿論、一方では専門家・プロからの「反撃」も出てきている。例えば、以前取り上げたことがあるフレンチのシェフ・水島弘史さんがすすめる、科学的にも理にかなった裏技、美味しい料理法なんかが当てはまる。しかも、フレンチではなく、日常誰でもが作るカレーライスといったメニューをプロの味にする裏技レシピといった「反撃」である。
面白いことにこうした転換期の「変化」を売り場に反映させているショッピングセンターがある。以前取り上げた大阪駅にあるルクアイーレである。あの伊勢丹・三越の失敗撤退跡にリニューアルされた売り場で、その象徴とも言える売り場が2つある。1つは2階のフロア「ワールドザッカマルシェ」でまさに小さな「雑」集積フロアとなっている。マルシェ、つまり市場感覚を生かしたオシャレで小さな専門店集積である。若い世代に人気の古着ショップと同じように、「知らない世界」と出会うことができる宝探しのような売り場編集である。
もう一つは地下2階にある「バルチカ」という飲食街である。行列の絶えないソース料理とワインが楽しめる「赤白(コウハク)」という店もあるが、ルクアイーレというショッピングセンター全体から見ればいわば横丁路地裏のような一角となっている。
もう一つの転換期としては、こうした既存の消費市場への対応とは別に新たに生まれてきているのが「訪日外国人市場」である。このブログでも何回も取り上げてきたが、本格的な対応を取らないと手遅れになると指摘をしておきたい。何故なら、今年に入っても訪日外国人客は増加しており、しかもリピーターが増え、それまでの団体旅行ではなく、個人旅行者数は全体の半数を超えてきた。しかも、再来年の2019年にはラクビーのW杯が開催されることもあるが、それよりもまず4月には現在の天皇陛下が退位され、新天皇が即位する。恐らく世界から国家元首級が70か国、王室VIPが20か国など大勢の賓客が駆けつけることになる。更には2019年の参院選前には、日本が主催するG20首脳会議が東京で開かれる。そして、2020年には東京オリンピックである。
多くの訪日外国人客の受け入れ体制、民泊の整備や交通機関のあり方が課題に上がっている。そうした観光インフラ的なこともさることながら、インターネットの時代ならではの課題について考えてみたい。
先ほどの「知らない世界」ではないが、訪日外国人の興味関心事はどこにあるのかある程度は把握できてはいるがまだまだわかってはいない。
日本という国を地球儀を前にして俯瞰的に見れば、ヨーロッパや米国と比較し、小さな小さな国土である。これを観光という視点に立てばどうなるかということである。1つは既に京都で起きていることだが、訪日外国人客の多さに、日本人観光客がひいてしまい、京都観光を避け始めているという事態になっている。以前にもブログに書いたが、京都新聞によれば京都市内の観光客は減少し、京都府は逆に増える傾向にあると。つまり、京都を代表する名所旧跡観光は減り、周辺の京都観光に向かっているということである。前者は表通り観光で、後者は横丁路地裏観光と言っても構わない。あるいは知名度のある観光地とまだ知られていない小さな観光地と置き換えても同じである。つまり、インターネットの時代にあっては、「表」と「裏」、「大」と「小」を組み合わせ、奥行きや深みをつけることが必要となるということである。京都の友人に言わせれば、訪日外国人もそうだが、日本人観光客も知らない京都らしい素敵な路地裏観光地や路地裏カフェが山ほどあると指摘をしている。
以前からホテルではなく畳座敷のある和風旅館へ宿泊したい、日本式の風呂、できれば露天風呂にも入りたい、そんな要望が強くあった。また、消費行動を見てもわかることだが、それまでの家電製品や寿司人気から目薬といった医薬品や化粧品、あるいは100円ショップや菓子類へと変化しており、私たちの日常消費へとどんどん近づいている。そして、食においては回転寿司から食べ放題へ、さらには居酒屋へと変化し、それまでの高級な寿司や天ぷらは卒業したかのごとくである。また、今流行り始めているのが、しゃれた文具製品や雑貨類で日本の「今」を感じさせる生活文化、「カワイイ文化」への関心である。土産類も小物であれば「漢字」をモチーフにしたTシャツや手ぬぐいなど「日本」を感じさせるものが買われているという。全て物理的にも価格的にも「小さな」ものばかりである。ここにおいても日常化、回数化がキーワードとなっている。そして、そのMDの先は何かと言えば日本の過去と今を実感できる「生活文化観光」ということになる。
つまり、特別なこと構えたことなど必要がないということである。民泊需要が高いのも価格がリーズナブルであることと共に、日本人の日常生活そのものへの興味が強いということである。漫画やアニメだけでなく、こうした生活文化そのものが「クールジャパン」の本質である。
要約すれば従来の市場が変わり、更に訪日外国人市場という新市場が生まれ拡大していく、そんな時代の転換期の入り口に来ている。そして、この2つの「変化」は一つになって、すぐそこにまで来ている。この変化の波は都市も地方も、大企業も中小企業も、チェーン店も街場のラーメン屋さんも、等しく押し寄せる。勿論、そこに生活する私たち生活者一人ひとりにも。この変化が深刻な危機に向かうのか、逆にチャンスとするのか、2年後の消費税10%導入によってより鮮明になっていくであろう。つまり、変わるなら「今でしょ」ということだ。(続く)
マーケティングノート(2)後半
マーケティング・ノート(2)前半
2023年ヒット商品版付を読み解く
マーケティングの旅(1) 「旅の始まり」後半
マーケティングの旅(1) 「旅の始まり」前半
春雑感
マーケティング・ノート(2)前半
2023年ヒット商品版付を読み解く
マーケティングの旅(1) 「旅の始まり」後半
マーケティングの旅(1) 「旅の始まり」前半
春雑感
Posted by ヒット商品応援団 at 13:37│Comments(0)
│新市場創造