2008年09月24日

◆うわさの連鎖

ヒット商品応援団日記No301(毎週2回更新)  2008.9.24.

少し前のブログでサブプライムローン問題と汚染米の波及とが同じような手法に見えると指摘した。一昨日、周知のリーマン・ブラザーズの破綻を受けて、三菱UFJは米モルガン・スタンレーの増資を引き受け10〜20%の筆頭株主へと救済に動き、野村HDは破綻したリーマン・ブラザーズのアジア・太平洋部門及び欧州・中東部門を買収すると報じられた。世界の金融部門の再編が始まったと思うが、そこで必ず使われるキーワードの一つが「負の連鎖」である。
また、中国餃子事件に続いて、今回の汚染米流通事件、さらには有害物質メラミン混入問題といった食を脅かす問題が続いている。島田化学工業から転売された汚染米は給食327万食に広がり、丸大食品の菓子35万袋にメラミン混入の恐れがあると報じられた。毎日食べる「食」に対し、見えない不安が連鎖し、「過敏市場」を形成し始めている。

共に、「連鎖」というキーワードが使われているが、「何」がどう「連鎖」していくのか、そこには「情報」と「モノ」が流通する「仕組み」「システム」がある。社会心理面から読み解くと奇妙な類似点が見て取れる。以前、「うわさの法則」というタイトルで次のように私は書いたことがあった。

「うわさの法則」(オルポート&ポストマン)によると、
R=うわさの流布(rumor), I=情報の重要さ(importance), A=情報の曖昧さ(ambiguity)
< うわさの法則:R∝(比例) I×A >  
つまり、情報の「重要さ」と「曖昧さ」が大きければ大きいほど「うわさ」になりやすい、という法則である。但し、重要さと曖昧さのどちらか1つが0であればうわさはかけ算となり0となる。

例えば、「リーマン・ショック」では次のような法則が成り立つ。
・重要さ:世界規模での投資に関連した/損、破綻、失業、不景気、
 ・曖昧さ:誰が焦げ付いた債権というババをつかむか誰もわからない  
 ・うわさ:次はどこが破綻するかも?

汚染米を始めとした「食の不安」では
・重要さ:健康にかかわる/子供や老人に大丈夫だろうか
 ・曖昧さ:どこまで広がるのかわからない  
 ・うわさ:あそこの商品は大丈夫だろうか?

今金融関係者の間では、「誰がババをつかんでいるか」「どの程度のババなのか」といった「うわさ」が流布されていると思う。私は敢てこうした事例を図式化して取り上げたのも、こうした法則を踏まえた情報公開と消費態度を取らなければならないと思うからである。つまり、「曖昧さ」に人は耐えることがことができない存在であると認識しなければならないということだ。しかも、その「曖昧さ」は極めて早いスピードで膨大な情報量として駆け巡り、増殖していくという時代にいる。既に、汚染米事件では残念なことに自殺者まで出てしまっている。国や三笠フーズの責任もさることながら、「風説の流布」も極めて重大な犯罪となる。

ところで、TV東京の「ワールドビジネスサテライト」をご覧になる方も多いと思う。9/19の番組で今回の米国発の金融不安・負の連鎖を日本総研副理事長である高橋進氏はその問題の本質は「レバレッジ」にあると指摘していた。周知のように、小さな資金をテコにして、大きな投資を可能とさせる一つの手法である。全世界のGDPの約3倍もの資金、1京6000兆円ものお金が動いていると聞く。金融のプロではない私でさえ、過剰なお金が動いていると思う。そして、世界中には6300兆円もの金融商品があるといわれている。1円でも多くのリターンを求めて動いている訳であるが、この金融システムを動かしているのが、「証券化」と「レバレッジ」という手法だ。証券化=金融商品化は「信用」あるいは「格付け」によって担保されていたが、今その信用が大きく揺らぎ、テコの中心点は大きく振れ、負のスパイラルへと向かいつつある、というのが高橋進氏の主旨であったように思う。

「食の不安」は、ここ1〜2年の各種の食品偽装事件という土壌から生まれてきたものである。土壌改良がなされない限り、「曖昧さ」は更なる「曖昧さ」へと連鎖し、うわさが飛び交い不安は解決されない。流通経路の公開について異論・反論があるようだが、国や三笠フーズの責任を逃れることにはならない。今、必要なことは汚染の健康への影響度と共に、どこが流通先かという「曖昧さ」を払拭することで情報公開は不可欠なことだ。
地産地消、自給自足、顔の見える商品、生産地・工場公開、あるいは体験・・・・こうしたキーワードは「曖昧さ」を解決するための方法としてある。そして、安全・安心の「食」を得るには多大な危機管理というコストと共に、一歩踏み込んだ生産者、流通、消費者の相互理解が必要となっている。日本は食の自給率39%と多くを海外に頼っているが、スイスの自給率は60%と高い。そのスイスの消費者は敢えて高い価格の国産品を選んで買っている。ある意味、「確かさ」を買うと共に自国の農業を消費者が育てているという訳だ。
金融においても、貸し手と借り手を「個人」とし、ネット上にて金利条件などのオークションを行い、個人と個人とが契約を結ぶ新しい金融システムがスタートすると聞く。これも、証券化という「曖昧さ」を排除した、いわば「顔の見える」関係での貸し借りであろう。
金融においても、食においても、「新しい信用」が求められている。いや、「新しい信用」を創っていくことが問われ、そこに「信用が連鎖した」新しいビジネスモデルも生まれてくる。(続く)


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Posted by ヒット商品応援団 at 13:52│Comments(0)新市場創造
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