2008年03月23日

◆割り算の経営

ヒット商品応援団日記No250(毎週2回更新)  2008.3.23.

3月17日の日経MJに興味深い記事が載っていた。今回の中国製冷凍餃子事件による生協選別の記事である。事件以前と以降、新たに加入した組合員数と脱退者数が主要生協間でどのような変化を見せたかという内容だ。周知のように生協も地域単位の連合組織で、扱い商品やPBの比率等異なっている。この記事では添加物などを極力使わないことで定評のパルシステムは事件以降逆に組合員数を大幅に増やしている。一方、日本最大の規模を誇るコープネット事業連合は大幅な脱退者を出していると報じていた。

生協は1970年代組合員の声を聞き、無漂白パンや無添加ハムといった安心商品づくりによって支持され成長してきた流通である。ある意味パルシステムはかたくなにこうしたポリシーを守ってきた生協である。結果、他の生協と比較し、品揃え数は少なく、また価格も少し高いものが多い。一方、コープネット事業連合を始め多くの生協は他のスーパーチェーンとほとんど変わらない品揃え、価格である。この記事にもあるが、規模経営と安心を両立させなければならないとある。また、こうした競争下では、規模拡大を否定するのは非現実的だ、とも書かれている。

私の考えは少し異なっている。それは「規模」に関する考え方である。生協も他の大手スーパーや有機野菜などの宅配企業に囲まれた競争下にある。しかし、利益を生む「規模」にならなければならないという考え方とは少し異なる。従来の規模経営は、売上×店数、客数×客単価、商品単価×数量といった考えを根底に置いたものだ。いわば掛け算の経営であるが、生協の創業以来のコンセプトは「安心コンセプト」である。安心とは細部、小さなことの世界にこそあるものだ。小さな単位へとこれでもかと割り算をしていくことの中に経営はある。神は細部に宿るではないが、安心は細部にこそある。この細部の違いこそが他のスーパーチェーンとの違い=競争力となり、利益を生むのである。

今日の流通は小さな単位の精度経営を基盤としなければならない。この精度とは単なる数字上の精度だけではなく、ポリシー&コンセプトという顧客と約束をしたことの精度である。百貨店であれ、大型のSCであれ、この原則は同じである。1店舗をフロア毎見ていく、フロアをいくつか割り算をして見ていく、更に売り場単位で、コーナー単位で、最終は商品単位で見ていく。何が顧客支持を得ているのか、いないのか。選ばれる理由は何か、を丁寧に見ていくことの中に精度経営はある。勿論、スペースだけでなく、時間帯における精度もである。冷凍餃子事件が大きな問題となる以前、昨年から異臭がする等と言った小さな声が生協に寄せられていたという。こうした小さな声の中に安心があったのだ。こうした声に敏感に反応するのが現場経営であり、全ての流通・メーカーに求められていることだ。

規模や量を追いかけることを否定しているのではない。規模が拡大すればするほど、掛け算ではなく、割り算の経営をしなければならないということだ。よく安心を確保するための検査等のシステムを必要とするといった意見はあるが、それ以上に小さな顧客の声に応える現場力、人こそが割り算経営に求められている。
昨年、あの「赤福」の偽装が公になり、記者会見の中で拡大を安易に考えてしまったと反省の発言があった。そして、再出発した訳だが、本店と支店の2店のみで販売を再開した。日本の冷凍技術はかなり優れており、赤福の拡大を後押ししていたと思う。しかし、顧客支持は赤福の「鮮度」にあったと経営陣は分かったから、わずか2店舗のみの販売再開となった、そう私は理解している。その「鮮度」が保持できる範囲で拡大をしていけばよいのだ。
コンセプトとは、企業や商品の存在理由そのものである。生協が立ち直れるとするならば、パルシステム、創業当時のコンセプトに立ち帰り、今一度割り算の経営をしてみることだ。(続く)

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Posted by ヒット商品応援団 at 14:19│Comments(0)新市場創造
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