2012年11月06日

◆青春フィードバック市場

ヒット商品応援団日記No536(毎週更新)   2012.11.6.

ブログを書き始めて7年余となるが、閲覧のキーワードで一番多いのが「未来予測の方法」である。ところがこの一年ほど、特に消費増税法案が国会を通過してから急激に多くなったキーワードが「団塊世代」である。
その団塊世代であるが、今年から年金受給が本格的に始まり、自由に時間を使うことが可能となった。平日の映画館には団塊世代を中心としたシニア世代で溢れており、ゴルフ場にはシニア世代の夫婦とおぼしきカップルがラウンドしている。それこそ国内外の旅行、日帰りグルメバス旅行から、今年1月に地中海クルーズ船の坐礁事故に遭った日本人観光客の多くはこの世代が占めていた。残念なことであるが、直近では中国万里の長城で遭難したのもまさにこの世代だ。
数年前から私はこのシニア世代を「5得世代」と呼んできた。どんな「5得」を持っているかと言うと、

1,「金持ち」/1450兆円の金融資産の内、60才以上のシニア世代が約6割/900億円を保有
2,「時持ち」/365日、24時間が自由時間、しかし暇人とは真逆の忙しい元気人
3,「体験持ち」/人生、趣味、仕事等豊かな経験、その表現舞台を求めて
4,「モノ持ち」/幼少期のモノ不足を経験して得た好きな家、生活道具、コレクション
5,「友持ち」/家族、仲間、ペット、子育てを終えた「友達」

そして、この世代約4000万人の年間消費支出が2011年には100兆円を突破したと言われている。こうした背景から当ブログを参照しているのだと思う。先日友人と話をした時も、ビジネス対象として、今使えるお金を持っているのはシニア世代と政府であると半分冗談まじりに話をした。「誰を顧客とするのか」がビジネス、マーケティングの最大課題となり、このボリュームマーケットを誰もが狙っていることが分かる。
そして、このマーケットはその子どもである団塊ジュニアにもつながっており、「母娘消費」とか「3世代消費」と呼ばれてきたマーケットで以前からパック旅行にもメニューとしてあったものだ。今年の百貨店のおせち料理にもこの「3世代おせち」が登場している。そのお重はと言うと、上から孫向け、真ん中は夫婦向け、下には祖父母向け、といった構成である。勿論、支払いは祖父母である。

このマーケット理解については「団塊世代」というキーワードでブログを読んでいただくと分かるが、「5得」が向かう先の第一は「青春」フィードバックである。この青春フィードバックには2つの意味がある。1つは当然個人の歴史・時間へと「好き」のテーマを遡り、少年少女となって生きてみたいという欲望である。より具体的に言えば田舎暮らしもそうであるし、蕎麦好きが高じて蕎麦屋を開業したり、子どもの頃なりたかったパン屋を始めたり、そんな小さな起業も青春フィードバックの一つである。
団塊世代の青春期はまだまだ娯楽の乏しい時代であった。映画はそんな娯楽の中心を占めていたが、時代と共に楽しみ方も多種多様となり、忘られてしまう存在になりかけている。そんな映画であるが、シニア割引もあって、どの映画館もシニア世代で一杯である。最近では高倉健主演の映画「あなたへ」もそんなヒット作である。特に高倉健は団塊世代にとって特別な存在、青春時代の空気感を象徴した存在であるからだ。
もう1つが、青年期に出会った欧米文化、音楽、ファッション、食事・・・・・。いわゆるリバイバル、復刻として既に市場化されている。その代表的ヒット商品が1966年初来日したビートルズの武道館ライブの復刻版であろう。周知のようにCDではなく、当時と同じドーナツ盤で発売されたが限定販売ということもあり、超レア物となっている。こうしたシニア世代に向けた新商品もあるが、「昭和」をテーマとしたリバイバル商品に新しさを感じる若い世代が増えている。その代表商品がサントリー角のハイボールである。古(いにしえ)が今新しいとした商品である。
ところでこうした「洋」に振れたライフスタイルから「和」のライフスタイルへと、過去へ歴史へと遡っていく和ブーム潮流の中にシニア世代の興味関心事もある。その最大理由は、限りある人生時間という年齢によるもので、変化・刺激の「洋」と、深み・安定、どこか懐かしい「和」、この2つがからみあいながら今がある。いわゆる日本回帰志向の潮流であるが、時代の閉塞感からの脱出の意味も含め、若い世代へと広がり、周知の通り多くのヒット商品が生まれてきた。

さて、その青春という過去を巡る旅であるが、過去はこの60数年によって変貌してしまっている。修学旅行先であった京都や奈良など環境条例によって残っている過去もあるが、その多くは都市化し少年少女期の風景は既に無い。亡くなられた地井武男さんの「ちい散歩」に共感したのもこのシニア世代で、横丁、路地裏に今なお残る昭和の街並や自然、そこに生きる人情溢れた風景に青年期の自分を映し出しているのだと思う。

そうした過去へと向かう「青春」と共に、変化・刺激を求めた「青春」もある。「ちい散歩」の横丁、路地裏散歩の舞台を地球に広げれば、今回遭難に遭った中国万里の長城のトレッキングツアーになる。いわゆる一般的な観光コースから外れたほとんど観光客が行かない万里の長城への旅行で、秘境ツアーの一つである。今が青春、誰も行かない未知への冒険と言っても過言ではない。
こうした変化・刺激を求めた消費行動は実は至る所に出てきている。例えば、今や格安航空の利用が移動選択肢の一つとなったLCCであるが、時間に余裕のあるシニア世代を狙ったもので新しい旅市場の開拓に役立っている。ただ安いからということではなく、話題のLCCに乗ってみたいというシニアもいる。私の友人の一人はJAL系のジェットスターでオーストラリア・ゴールドコーストへと出かけたが、HPの片隅に小さく記載されていたオプションの有料サービスを経験し、LCCの使い方を面白がっていた。つまり、新しい、珍しい、面白い、そんな変化と刺激を求めた消費である。

日経MJなどは団塊世代市場攻略の難しさを記事としているが、今回取り上げた「青春」市場といっても多様な側面を持っており、このことは団塊世代市場に限ったことではない。いずれにせよ、この世代の活発な行動が消費を牽引していくことは事実である。私はリーマンショック後の消費市場を「巣ごもり消費」と呼んだが、唯一巣から出ていたのが団塊世代である。消費増税という困難な市場が予測されるなかで、その突破口は多くの専門家が指摘するようにこの世代であることは間違いない。
映画館ばかりか、今やウイークデーのゲームセンターにはシニア世代のリピーターが溢れ、スマホの主要ユーザーはこの世代へと移ってきた。従来女性だけと見られてきたダンススタジオどころか、ホットヨガまでもが男性シニアを見かけるようになった。つまり、従来のシニアという見方を捨てなければならないということだ。そこに市場攻略の着眼がある。(続く)


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Posted by ヒット商品応援団 at 14:18│Comments(0)新市場創造
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