2011年03月10日

◆情報市場

ヒット商品応援団日記No487(毎週更新)   2011.3.10.

前回、FacebookやYouTube、Twitter等がインターネット上の新しいメディアとして生まれ、その経済や社会への変貌の巨大波が世界各地に押し寄せている点について書いた。そして、情報革命という言葉を使い、マスメディア(=オピニオンリーダー)からパーソナルメディア(=個人・大衆)へと主人公が劇的に転換しつつあるとも。
そして、前回書き残したメディアとして電子書籍がある。1ヶ月ほど前にも、昨年12月発売された電子書籍用端末にふれて2011年は電子書籍元年になるであろうとブログにも書いた。よくKindleとiPadは電子書籍ツールとして語られているが、電子書籍専用端末のKindleと多機能端末であるiPadは根底から異なるものである。日本市場においてはiPadが先行しており、音楽市場がiPodとiTunes Storeによって劇的な変貌を遂げた結果を考えると、新しいビジネスモデルをアップルが既に構築している分、初期段階はアップルが圧倒的なシェアーを獲得するのではないかと思う。
ところで、こうした新しいメディアの出現によって過去10年間で流通する情報量が530倍になったと総務省からの報告もある。勿論、インターネット上のメディアによってであり、Googleなどの検索エンジンによって膨大な情報を取捨選択することが可能となったからである。こうした膨大な情報が行き交う時代にあって生まれてきたのが、情報格差という情報弱者や情報過疎地である。

最近「買物難民」という言葉を耳にすることが多くなった。買物難民は高齢社会には必然的に起こりうる問題であるが、同時に情報難民でもある。限界集落ばかりでなく、都市部においても大規模流通との競争に負けてシャッター通り化した商店街も多い。地域ごとに解決策はあるかと思うが、まず思い出すのは2年ほど前にブログに取り上げた新しい流通サービスを行っている鹿児島県阿久根市にあるスーパーAZである。昨年市長選挙で話題となった地域であるが、人口2万4000人という過疎地にある巨大スーパーで、生鮮食料品を始め車の販売、GS、コンビニ、更には仏壇まであらゆるものが激安で売られている。このスーパーの特徴は、高齢者に対しては消費税分5%のキャッシュバック、片道100円のお買い物バスの運行、更には地産地消は言うに及ばず地元の高齢者も従業員に、そして24時間営業という単なる効率・合理性を第一義とした業態とは正反対のビジネスである。
こうした情報過疎となる地域において、高齢者に優しい流通サービスもあるが、コミュニティがまだ存在しているエリアでは車が運転出来る人に買物代行してもらったり、最近では都市再生機構が管理する賃貸住宅(東京都内2ヶ所)に住む住民に、NTT東日本がタブレット型端末を無料で貸し出し、住民はその端末を使って購入する商品を選び、その商品をセブンイレブンが住民に配達する、とした実験も始まっている。また、従来からの山間部への移動販売も行政が支援へと動いている。

しかし、こうした情報格差の解決は最低限のものとしてあるが、私が会った数名の方々は、異口同音にiPadはキーボードに慣れていない高齢者にふさわしいライフスタイルツールで、結構シニアの間で売れているのではないか話してくれた。情報を扱うとは、選択肢が限りなく増えるということである。iPadを触れば世界が広がる、アップルならではの世界である。過剰な情報を前提とするインターネット・メディアであるが、これも失敗を含めた体験を通じ、自分に合った選択肢へとたどり着く。

オレオレ詐欺まがいの情報はインターネット上にも行き交っている。しかし、そこまでいかなくても関西テレビの「発掘!あるある大辞典」のようにやらせ情報はマスメディアにもあることを考えれば、一つの通過点であると考えたい。
中世日本、日本資本主義の誕生・形成期においても交易という市場には不逞の輩も横行していた。この鎌倉時代の市場は国と国との境に寺社と共に作られていた。この市が立つ場所は、血縁や顔見知りといった縁から離れた場所で、様々な人間が集まってくる無縁空間であった。ある意味で自由空間であり、今で言う「自由貿易地域」「自由都市」のようなものであった。勿論、不逞の輩も横行し、自由を良いことに「泥棒市」のようなものもあったようである。しかし、何故市場は寺社と共に創られてきたかである。無縁であるが故に、ルールを守らせる聖なる「何か」を必要としたからであろう。その名残であると思うが、今なお寺社には縁日という有縁(うえん)の日、聖なる日を創り祭や供養を行っている。

インターネットの世界も無縁空間である。しかし、いまFacebookを始めとしたSNSという情報縁の空間を創ることへと進化してきた。そして、勝手に情報過疎地であるかのようにアラブ世界を決めつけていたが、この情報縁によってつながり合うこと、そのエネルギーの大きさをチュニジアやエジプトでの政変が教えてくれた。そして、金曜礼拝を終えてデモが始まるというニュース報道を見て感じたことであるが、金曜礼拝という聖なる時間・場所でデモが始まるということは極めて象徴的な出来事であると思った。更に、Facebookを始めとしたSNSはインターネット無縁空間にあって一つの情報縁によってつながる情報市場のようであるとも感じた。

ところで、鎌倉時代の市場では無縁の人達の共通ルールが2つあった。1つは老若という年齢によるもので、集団という組織の秩序を老若で決めていったという点である。もう一つが、平等原則であった。この平等原則は親子兄弟という縁を離れ、ある意味身分を超越した個人によって市場が運営されていくという点であった。
さて、インターネットの世界ではどうであろうか。例えば、東京渋谷の駅前交差点はスクランブル交差点となっている。四方八方から人が行き交う。信号が青の内に渡らなければならないので、時にぶつかり合い、喧嘩が起きることもある。しかし、次第に少しづつ避けて歩くようになり、ぶつかりそうになれば声をかけ合う、結果少しづつスムーズに流れるようになる。そして、ネット上だけでなく、時にはリアルな場においても集い合う有縁(うえん)の日、縁日も既に組まれている。つまり、「聖なる」ものは個人・大衆が創り上げていくということだ。そして、情報弱者と思われがちなシニア世代や情報過疎地の人達が手軽に気軽にインターネットメディアを使いこなし、情報市場に行き交う時代が到来した。(続く)


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Posted by ヒット商品応援団 at 13:45│Comments(0)新市場創造
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