2007年08月26日

◆顧客への思い 

ヒット商品応援団日記No196(毎週2回更新)  2007.8.26.

初対面の人との話の入り口には「代表的なお客さまは誰ですか」と必ず聞くことにしている。流通であれ、製造メーカーであれ、サービス業であれ、ビジネスの原則は顧客から始まる。ビジネスの在り方も規模も、この顧客が求めることによって決まるという原則をともすると忘れがちになる。ビジネスがうまく回っていくと、顧客はだんだん数字になっていき、どんな顔をしたお客さまか忘れていく。激変の時代とはめまぐるしく顧客が変わる時代のことだが、顧客を見続けることによってしか経営できないという時代だ。来週、鳥取県の農水産物産業活性の外部委員を任じられたので、この話をしようと思っている。

ところで、この「お客さまは誰ですか」という問いに示唆的なビジネスについて書いてみたい。旅の雑誌などで話題になった山梨の「ほったらかし温泉」(http://www.hottarakashi.com/)についてである。過剰なサービスとは正反対のまさにほったらかしの露天風呂である。この露天風呂は2つあって、「こっちの湯」と「あっちの湯」というユニークなネーミング。「ほったらかし温泉」が誇れるのはただ一つ、その眺望で、「星降る露天風呂」と紹介されている。少し前から注目していたのだが、偶然にもこの「ほったらかし温泉」を始めた常岡通さんと私の知人とが昔から交流していた。
その知人への手紙の中で常岡さんは次のように書いている。

「八年前のオープン時、こんなお粗末な施設で、こんな山の上に人を呼び込むことができるだろうかと不安がいっぱい。働くスタッフも3人だけで、掃除とお湯の準備だけで精一杯」
「開場お知らせの催しもできぬ経済的などん底からのスタートを思うと夢のようです」

昨年の来場者は40万人、多い日には5000人を超えるお客さまが来る。顧客は何を求めてくるのだろうか。「ほったらかし」という自由さ、価格の安さ、そうしたこともあるとは思うが、常岡さんは「移り気なマスコミが、いつまでも注目していてくれるとは思えませんが、来訪者の歓声は本物と確信します。」と手紙の中で書いている。

感動の創造と言ってしまえばそれで終わりであるが、露天風呂からの絶景という一点で新しい市場、顧客を創ることができる良い事例だ。あれもある、これもある、ではなくて、一点に絞り込んでみる。絞り込んだ一点に「良いな」と思う顧客が代表顧客となり、ビジネス規模にもなる。「ほったらかし温泉」は口コミだけで伝わり、今もなおお客さまは増え続けているという。常岡さんの話によると、周辺の地権者との話し合いがスムーズに運び、3つ目の湯を作る予定とのこと。手紙の中で「お客さまが『それじゃあ、そっちの湯ですねと言われたので、名前はとりあえず<そっちの湯>としておきます』と書かれている。ちなみに、常岡進氏は戦後の混乱の中にあって、支えを必要としている多くの障害者を始めとした弱き人を助ける社会福祉法人中心会をつくり、参議院議員としても貢献され、人生の師と言われた常岡一郎のご子息である。(続く)

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Posted by ヒット商品応援団 at 13:38│Comments(0)新市場創造
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