2010年02月26日

◆ニュースの無い時代

ヒット商品応援団日記No447(毎週2回更新)  2010.2.26.

京都府南丹市美山に講演に行ってきたせいか、東京にはニュースがないなとその実感を強くした。一般的にはは逆ではないかと思われるかもしれないが、地方の方がニュースに溢れている。今、バンクーバーで行われている冬期オリンピックも、日々起こる事件も、あるいは歌番組にもニュースが感じられない。ニュースは社会という広がりを持ってこそニュース足りえるのであるが、どうもその社会、あるいは世間と言っても良いが、そんな共通する話題・関心事は東京、都市には無くなっている。

数日前訪問した京都の美山では、例年になく雪が少ないことや鹿が増え過ぎてしまいその被害の話しが話題の中心となっていた。身近で、そのことによって何らかの行動を起こす、そうした情報こそがニュースとなっている。コミュニティの関心事、生活の関心事、善かれ悪しかれ「縁」が生きている世界にしかニュースはない。
一方、都市においては、個人化社会といってしまえばそれで話は終わってしまうが、膨大な情報が行き交っている割には個人関心事においてしかニュースはない。ツイッターが流行っているように、顔の見えない相手同士が唯一共有できる関心事について仮想のコミュニケーションが行われる。ツイッターは「私の興味」という一点においてのみ、リアリティをもったニュースとして存在する。歌で言えば、生まれては流れてゆく流行歌のようなものである。ツイッターがソーシャルメディアとして定着するか未知数ではあるが、少なくともそのライブ感、スピード感は他のどのメディアよりもニュース的である。

前々回、「情報の質とは」のところでも書いたが、インターネットという無料経済の中で、生活者が求める情報の質とは、インターネット検索では出てこない、知られにくい、未だ知らない、興味を喚起してくれる情報、ニュースということである。こうした情報世界が提供可能なのは、都市ではなく、もっと出来事の現場に近い、小さな単位の地方ということである。東京も一地方として見ていくということだ。つまり、マスコミは全てミニコミにならなければならないということである。勿論、結果そのネットワークによってマスコミとなることはあってもである。そうした意味で、今一番情報的でニュースなのはローカル局をネットワークし、それら地方の情報を生かそうとしているNHKということだ。

地方にしかニュースがないと同時に、「今」という時代にもニュースがない。どれほどの「過去」であるかは別にして、タイムトンネルをくぐった先にしかニュースがない。2/19の日経MJにも、歴女ブームは更に深化し、「古代文字」の世界に関心を寄せる若者が増加しているとの記事があった。これも、都市では見出すことが出来ない自然や神と一体であった古代の物語が極めて新鮮なニュースとなっているということだ。こうした古代文字の先にある物語を読み解く面白さとは、想像する面白さということである。ニュースの本質は想像を刺激してくれる情報であることによって初めてニュースとなるのだ。

昨年直木賞を受賞した天童荒太氏の「悼む人」のように、過剰な情報社会の中で、「何」が自分にとって必要で、大切な情報なのかを気づかせてくれ、実は裏側に潜む情報へと向かわせてくれた。膨大な情報が流れていけばいくほど、それら常識という皮膜をはがし、「先」に何かを見出すことへと向かっていく。つまらない表通りから何かを探しに横丁路地裏へ、表メニューから賄い料理のような裏メニューへ、公式見解から本音の話しへ、こうした興味の深化はニュースを求める情報の時代の宿命としてある。深化の先が過去へ向かえば一種の回帰現象となり、自然や生命力といった世界であれば地方に向かう。人と人との関係であれば絆の取り戻しであり、それは家族やコミュニティから始まる。

ジャーナリスト筑紫哲也さんが亡くなられた時、コラムニスト天野祐吉さんは「ニュースに声を与えてくれた人」と語っていた。それは同時に、膨大な情報を整理し、防波堤の役割を果たしてくれていたと思う。多事という情報を争論できるようにしてくれた訳である。このことは情報の時代におけるコミュニケーションの原則としてある。意味のない情報を削ぎ落とし、その先にある「声」は否応なく私たちの想像力を刺激する。
それはビジネスにおいても同様で、業界用語になってしまうが、その「声」とはコンセプトということである。なんとなくあれもあるこれもあるではなく、これしかないこの一点において顧客に向かい合う。そして、その「声」は必ずニュースとなる。(続く)


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Posted by ヒット商品応援団 at 13:14│Comments(0)新市場創造
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