2010年01月06日

◆価格競争を超えるもの

ヒット商品応援団日記No433(毎週2回更新)  2010.1.6.

年が明け、一斉に福袋というバーゲンセールが始まった。例年百貨店ではプランタン銀座を筆頭に松屋など銀座に集まる百貨店には4000〜5000名の徹夜組を先頭にした行列が出来る。若い世代では渋谷109恒例の5DAYS バーゲンには初日65,000人が集まり、ラフォーレ原宿においても同様の行列となり、今やデフレ時代の正月風物詩となっている。
未だ正確な売上実績情報ではないが、マスコミ取材を受けた現場担当者のコメントを聞く限り、客数は増えたが客単価は減り、昨年並みの売上であるという。こうした初売りがバーゲンとなり、本来行っている冬物バーゲン時期とつながって、私が指摘してきたエブリデーバーゲンの時代となった。昨年も同じようなことを書いた記憶があるが、確か銀座松屋では缶詰のつめ放題をセールの目玉にしていた。年末に売れ残ったお歳暮商品をお中元の時と同様にバラ売りを予定している百貨店もあり、バーゲンの名を借りた叩き売り、最後の生き残りをかけた流通サバイバルの時代になったということだ。

一方、生活者の年末年始の移動であるが、高速道の割引制度の適用期間が1日〜5日となったため帰省は新幹線へと流れ、3日の渋滞予想もそれほどではなく結構スムーズに流れたとのこと。海外への旅行者数も例年並みで、しかも近場が多いこともあり、やはり予想通りの巣ごもり正月となった。昨年末、イルミネーションが復活した表参道は人波で溢れていた。正月を迎え各地の初詣も新型インフルエンザにも関わらず例年通りであったが、周辺の飲食店やお土産店の売上が良かったとの話は一切聞いていない。
次々と寒波が押し寄せ豪雪が日本を覆っているが、消費も氷河期に既に入った感がしてならない。しかし、氷河期には氷河期の消費がある。

さて、低価格以外でどう消費氷河期を超えるかである。まず、昨年のヒット商品の理由の一つとして書いた「費用対効果」という価値観である。もう少し意味合いを広げると「費用対満足」と置き換えてもかまわない。
今年のバーゲンの中心である衣料品を見ていくと、寒波が到来しているにも関わらずコートなどの重衣料があまり売れていない。年々重衣料は軽衣料化の傾向にあるが、更にユニクロによるヒートテックやワコールの「スゴ衣」といったウォームビズ対応商品の影響が出ている。つまり、ファッションとしてではなく、寒さ対策であればこうしたウォームビズ対応商品で十分であるということだ。ある意味、重衣料の代替消費(=消費移動)となっており、オシャレにお金をかけられない我慢消費、巣ごもり消費の典型となっている。勿論、若いティーン女性にとってオシャレは不可欠なことで、渋谷109などのバーゲンには全国から集まってくる。しかし、バーゲンの中身が見れないことから、数年前から渋谷109の前や地下通路では気に入らない商品の交換市のようなものが自然発生的に生まれている。これも単なる安さだけでなく、シビアにお気に入り商品を厳選したいとする結果であろう。

年末、年始と都心のいくつかの家電量販店を見て回ったが、やはり売れているのは巣ごもり商品であった。その代表的商品であるが、エコポイントという官製販促もあってか薄型TVは売れている。そして、売れているのは26型や32型といった個人視聴用で、つまり2台目需要である。更には、個人サイズのホットカーペットやヒーターなど、個人使用のものが売れているようだ。つまり、部屋全体をエアコンで暖めるより、省エネ=省マネーになるという、これも一つの合理的生活ということだ。

これからも安売り、低価格競争は続くと思う。しかし、その低価格商品は自分の生活にとって「合理」となるのか、その理にかなうとした物差しが次第に明確になってきている。生活は「今」であり、その鮮度こそ重要であるとしたキリギリス的生活は無くなり、ある意味中長期的生活にかなったものであるかどうか、そうしたアリ的生活へとシフトしたということである。ヒット商品となったLED電球がその象徴であるが、その耐久性や省エネを考えたら、結果お得という「合理的価値」である。大量消費・使い捨て消費から、最初は少し高いが長期間使ったらお得になる、という価値観である。食品で言えば、食べ切りサイズ、小単位サイズ、小価格であり、冷蔵庫と組み合わせれば賞味期限の延長となる。ファッションで言えば、ロングライフデザイン、トレンドに左右されない、長期間着ても着飽きない、そんな商品となる。

2年ほど前に、「和の合理性に着目」というタイトルで土鍋を取り上げたことがあった。周知の通り、土鍋は静かなブームとなり、今や生活に定着した調理道具となった。当時、和におけるヒット商品として、私は次のようにブログに書いていた。

『次は「和道具」の世界へと消費は進んで行くと思っている。その代表商品にはご飯を炊く「土鍋」に注目が集まる。土鍋はどの家庭にもあるものだが、私が言っている土鍋はご飯を炊く土鍋のことだけではない。圧力釜や石焼板の代わりにもなる万能に近い土鍋で、伊賀あたりの土を使ったものである。実は、土鍋は炊く、煮る、焼く、蒸す、毎日多様な使い方ができる合理的な道具である。時には季節の食材を入れた炊き込みご飯といった季節を楽しむ、和道具の知恵を使うライフスタイルである。』

これは土鍋という過去に着眼した一つの合理性である。所得が10年間で100万円減少した時代、ちょうど1989年のバブル時期と同じ所得水準と言われているが、物の本質、その合理的価値にやっとたどり着いたと言えよう。バブル崩壊後、豊かさとは何か、と盛んに言われてきたが、成熟した消費とはこうした合理的生活を目指すということである。価格競争を超えるとは、こうした合理に基づく価値を提供していくことにある。良く言われるテーマであるが、ベストセラーを狙うのではなく、ロングセラーとして育てていくということだ。(続く)


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Posted by ヒット商品応援団 at 13:40│Comments(0)新市場創造
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