2009年10月14日

◆テーマ集積と進化

ヒット商品応援団日記No410(毎週2回更新)  2009.10.14.

前回、B級グルメのイベントである「B-1グランプリ」について書いたが、マーケティングという視点で見ていくと、一つのテーマ集積イベントとなる。1店では集客力としては弱いが、50〜70店になればそれなりの集客パワーを持つという手法である。「ワンコイン商店街」もそうであるが、売上が唯一伸びているアウトレットモールもまさにアウトレットというテーマ集積された商業施設である。こうしたテーマ集積は商業施設ばかりでなく、観光地にも、ごく普通の街にも既に存在している。札幌のラーメン横丁や博多天神の屋台村、あるいはバブル崩壊直後の東京には空き地を利用した屋台村が至る所に出現した。それら屋台村は空き地利用の一過性のもので、今はコインパーキングに変わっているが、時代の変化を見ていくには良きケーススタディとなっている。

私は数年前まではよく札幌に行っていたが、地元の人が札幌ラーメン横丁に食事に行きましょうとは聞いたことがない。10年近く前のことであるが、美味しいラーメンならここにしましょう、それもあるが今地元で注目されているのがスープカレーなのでどうしますか、そんな話しであった。一時期、観光客が行列していたラーメン横丁はもはやそんな面影は全くないと聞く。実は、テーマ集積という手法に必ず付いて回るのが、テーマ進化という視点である。テーマ進化を促すのは、勿論顧客によってである。多くの体験によって、目も肥え、舌も肥え、店の雰囲気やサービスはどうか、結果それらは価格に見合ったものか、いわばどんどん専門化・セミプロ化していくということである。
もう一つは選択肢が多様化し、ラーメン店の競争相手はスープカレーであったり、コンビニ弁当であったりする。つまり、顧客のセミプロ化と共に、際立つ位の進化を遂げていかないと駄目だということである。例えば、一時期新しいテーマに基づいた努力によって観光集客をはかってきた大分湯布院温泉も映画祭やアートイベントを行っているが、次なる進化の道を探らなければならないということである。

ところで、消費氷河期に入ったかどうか、その指標の一つが東京ディズニーリゾートであるとブログにも書いてきた。ある意味、他に類を見ない優れたエンターテイメントテーマパークであるからでもある。その上半期の経営の結果の概要が発表された。昨年は25周年イベントの効果もあって集客数を大きく伸ばし好決算であった。今年の上半期とは比較できないとコメントされていたが、上半期は12,301千人(前年同期比94.3%、▲746千人減)と発表された。この数字をどう読むかであるが、上半期には5年ぶりに新規アトラクション「モンスターズ・インク”ライド&ゴーシーク”」をオープンさせたが、この新規メニューを導入したにもかかわらずである。2008年度のデータであるが入園者のプロフィールは18歳以上の大人が70.1%と一番多く、しかも女性が71.6%、更には関東地域は66.3%となっている。東京ディズニーリゾートの経営を支えている中心顧客、良く言われているリピーター客の実態である。まあ、20歳代のご近所の女性客の消費動向もさることながら、その他の地方客や外国人客の減少に、消費氷河期まではいかないが、やはり陰りが明確に出ていると思う。

今、経済の専門家の間で「デフレスパイラル」論議が盛んである。いわゆる需給ギャップ、供給過剰というモノあまりが相変わらず続いている。そうした過剰さは物価引き下げへの圧力となり、企業はその利益を減少させる。それらは雇用や賃金へと影響し、解雇や賃金の引き下げへと向かい、消費は更に冷え込み過剰な供給は解決されない、という悪循環が始まったという論議である。私は既に1年半ほど前から、生活者は生活の見直しを始めており、不用不急なものは削ぎ落とし、ある意味生活実感という感の鋭さが今日の巣ごもり消費を決めていたと書いたことがあった。当時はエネルギーや穀物のコストが上昇し、物価へと反映した時期であった。川上ではインフレ、川下ではデフレといった表現をしていた。そうしたことから物価指数などの数字上からも明確なデフレとは言えなかっただけである。つまり、消費心理としては、巣ごもり生活への準備に入り始めていたということである。

さて本題であるが、こうした巣ごもり消費に対し、テーマ集積マーケティングは有効であろうか。答えは有効であるが、課題はテーマ設定とその進化をどのように見ていくかにかかっている。私は沖縄によく行くが、青い海と白い砂浜のリゾート観光の島から、琉球という異文化交流が色濃く残る生活文化観光の島へとテーマ進化をしなければいつしか観光それ自体も廃れてしまう、と会う人ごとに話をしている。お手本は千年の寺社仏閣観光から、千年の生活文化観光へと脱皮した京都である。ここ1〜2年仏像ブームもあって、寺社仏閣に新たな目線が注がれているが、観光の裾野を広げたのは生活文化へとテーマ(顧客興味)が進化し、それに京都が応えたことによる。生活文化観光とは、そこに住み生活している人達の街の空気や臭いを肌で感じ取る旅のことである。そのためには「歩くことを楽しめる」、「歩いて絵になる」、「疲れたら休む場所のある」、「地元の人達が美味しいと思う、それらが食べられ、話が出来る」、・・・・・沖縄観光で必ず一度は行く那覇の国際通りでこんな旅ができているであろうか。店は異なるが、同じような土産物ばかりを売っている街並は一度経験すればそれで十分である。トイレは勿論のこと休める場所もない。観光の主役は若者からシニアへと移っているが、車いすで国際通りは歩けるであろうか、ホテル以外のところにバリアフリーの施設やタクシーなどはあるのか。文化は食からと言われるが公設市場には地元の人達はほとんど行かない場所となっている。沖縄の生活は市場通りの奥や桜坂に一部残っているだけで、ほとんどの観光客は知ることすらない。

テーマ集積という方法は良いマーケティングであるが、こうした都市生活者が求めるテーマと地元の人達がよかれと思うテーマとでは、時間経過と共にどんどんギャップが生まれる。沖縄の例であるが、国際通りから少し入った三越裏に沖縄そば博物館が出来て、やっとテーマメニューが一つできたなと喜んでいたが、デベロッパーであったゼファーの倒産により、那覇から遠く離れた豊崎に移転してしまった。昨年9月、沖縄県内の4つのオールデーズバンドの競演がコザのミュージックタウンで行われ、コザの街起こしには良きメニューになったと思っていたが、1回で終わってしまった。ただ、国際通りから沖映通りを入ると破綻したダイエーがある。クローズしてから何年も経つが、今年の春ジュンク堂書店が入った。そのジュンク堂書店2階には沖縄関連のコーナーがあり、沖縄の歴史から今の書籍や雑誌がほとんど全て集積されている。沖縄の生活文化に興味のある人間にとっては極めて素敵な場所となっている。沖縄土産にふさわしい写真集などもあり、シニアの観光コースに入れても良い位である。テーマメニューは育て、継続し、しかも顧客の変化に合わせて進化させていくものである。
テーマビジネスは最初の一人が手を上げ、賛同する人達が一緒にやろうと行動する。そのために諸団体や行政は支援する。大不況であればこそ、自助、共助、公助の3つによって、育ち、継続が可能となり、そして顧客と共に変わる、そんな時代に私たちはいる。(続く)


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Posted by ヒット商品応援団 at 13:55│Comments(0)新市場創造
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