2009年05月24日

◆氷河期の消費心理

ヒット商品応援団日記No369(毎週2回更新)  2009.5.24.

新型インフルエンザによるビジネス被害が次々と明らかになってきた。弱毒性ということから患者への大きな被害は未だ出ていないようであるが、市場が心理化している時代の有様を見事に映し出している。1970年代の石油パニックの時はトイレットペーパーであったが、今回は防御マスクである。奇しくも、石油パニックの時のトイレットペーパー騒動の震源地は大阪の千里ニュータウンであった。
そして、連日のように関西方面への修学旅行の中止や百貨店を始めとした商業施設の客数減少や売上不振が報じられている。また、逆のケースである関西から沖縄などへの修学旅行も中止が相次いでいる。人の移動を前提とするビジネスは軒並み大きな損失が生まれ、株価もそうしたことを表している。しかも、政府の方針転換により幾分規制が緩和され、明日から通常通り授業が再開されるが、自粛という一種の心理的強制は残ったままだ。

前回、あたかも水際対策が万全であるかのような発表&報道から、神戸で渡航歴のない高校生が発症患者として見つかり、一転して無関心は恐怖へと振り子のように振れたと書いた。心理化された社会に及ぼす情報の時代の特徴であるが、神戸の高校生の発病を発見したのは地元の開業医であり、今なおその感染源ルートは不明である。曖昧さ、不確かさがうわさの発生源になるのだが、強毒性のうわさは見られないものの、見えないウイルスへの恐怖は心理の奥底に残っている。

ところで、新型インフルエンザを期に今後の消費はどう変化していくか、あまり予測的な事は書きたくないが、生活者の消費行動は大きく変化していくものと考える。その参考となる良き事例は1年半ほど前に起きた中国冷凍餃子毒物混入事件である。当時、日経POSデータによると、事件報道後4日間で冷凍食品全体では36%の減少、冷凍餃子では61%の減少という買い控えが起きていると報じられた。一方、家庭で餃子を作るのであろう餃子の皮は今なお売れ続けている。これも一種の消費移動現象であるが、こうした傾向、便利さより安全・安心を求める傾向は少し前に注目された農家レストランや農家直売所人気にもつながっている。今回の新型インフルエンザによる観光客の減少は前年比−68.8%に至ったと神戸市は発表した。冷凍餃子と単純比較はできないが、2/3の減少という数字は心理的ショックの大きさを表している。しかも、食に於ける中国製品あるいは冷凍食品への顧客支持は元には戻らなかったということである。また、不況が深刻化していることから、外食→中食→内食という大きな消費傾向へとつながっていく。果たして、神戸を始め関西経済だけでなく日本全体の今後はどうなるであろうか、そうしたことを含め何回かに分けて考えてみたい。

さて、今回の新型インフルエンザは更にどんな消費行動へと変化を促すであろうか。マスメディアが報じるように、レトルト食品や宅配スーパーへの依頼増加といった巣ごもりへの備蓄現象は勿論あるのだが、消費心理は氷河期を迎える準備に入ったと理解した方が良い。それは雇用不安、特に中小企業の雇用や変わらぬ非正規労働者の不安定さにある。更には今なお不確かな年金問題もある。そうした不安が氷河期を造っている。
こうした不安が増大し続ける時代の消費心理に挙げられる第一は、新しい、珍しい、おもしろい、といった外へと向かうことへの躊躇が強く働くということである。単純に言えば、興味はあるが今回は止めておこうという心理である。冒険より安定、新規より継続、つまり慣れ親しんだ商品、店、人物から買い求めたいという心理である。表面的には保守的な消費に見えるであろう。

そして、新型インフルエンザの影響を確認するには観光の実体を見ていくのが分かりやすい。ところで、その夏休みに向けた観光であるが、これから予約時期に入る。間違いなく新型インフルエンザの発生情況の推移を睨みながらギリギリまで待つ事となる。更に、従来であれば観光先は未知の国やテーマとなるが、今年はそうした希望者は減るであろう。そして、昨年の海外旅行者数は前年比マイナスであったと思うが、今年は更に悪くなる。国内外を問わず、旅行先は新型インフルエンザ発生エリア以外のところとなり、昨年以上に実家への里帰り休暇が多くなる。ただ燃油サーチャージがなくなり、ツアー料金は更に安くなり、昨年末の韓国人気のように近場のアジアなどには出かけていくと思う。3年ほど前に「ヒトリッチ」というキーワードと共に消費の舞台に上がった、女性のお一人旅仕様のオーベルジュなどの経営は深刻なものとなる。

残念ながら今回の新型インフルエンザは増々不安心理を増幅させることとなる。消費行動の物理的な収縮ばかりでなく、最も重要なことは心理的な収縮である。いずれにせよ氷河期の消費は物理的な行動半径が小さくなるばかりでなく、心理的距離も同様に近くなるということに、実はビジネスチャンスが生まれるという事だ。もっと分かりやすく言うと、親しい家族のような関係の中で消費が行われる。曖昧さ、不確かさを可能な限り排除することに、あらゆる投資、あらゆる粗力が求められているという事だ。(続く)


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Posted by ヒット商品応援団 at 19:56│Comments(0)新市場創造
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