2009年04月29日

◆パンデミックへの免疫抗体

ヒット商品応援団日記No362(毎週2回更新)  2009.4.29.

新型インフルエンザがメキシコを震源に世界へと広がっている。既にメキシコでは死者は150人を超え警戒レベルは人から人へと感染するフェーズ4に引き上げられた。過剰な恐怖心を抱く必要はないと思うが、目に見えない不安が静かに押し寄せてきている。初めてパンデミック(感染爆発)という言葉を耳にしたのは、数年前にベトナムで発生した鳥インフルエンザが新型インフルエンザに変異し、WHOの係官がウイルスを制圧するニュースの中であった。パンデミックは世界へと大流行する最悪の場合に使われるフェーズ6であるが、どうしても作家辺見庸が指摘していた事を思い出してしまう。それは「しのびよる破局 生体の悲鳴が聞こえるか」(大月書店刊)にも書かれているが、世界を覆う金融恐慌であり、地球温暖化であり、戦争という暴力であり、そして新型インフルエンザという危機の波が同時進行し破局へと向かっているとの指摘だ。

ところで、少し前に「値下げ競争」の時代であればこそ、「安心」は何よりも重要なこととして受け止めなければならないとブログに書いた。嫌な事が的中してしまったが、メキシコから豚肉を輸入している松屋フーズはすぐに豚関連のメニューを外した。豚肉は安全に調理され問題はないが、やはり心理的な不安要素を無くし安心を確保するためだ。更に、ドラッグストアにはウイルス対策のためのコーナーが設けられた。こうした動きも全て不安心理への対策である。日本では新型インフルエンザの感染者は未だ確認されていないが、お隣韓国では感染が疑われる患者が見つかっている。人から人へと感染するフェーズ4にあって、人ごみへ行くのは避けて欲しいと専門家は言うが、もしゴールデンウイーク期間中に日本でも感染者が見つかった場合、巣ごもり状態の消費は、一挙に「冬眠消費」に向かうのではないかと懸念される。それは、中国冷凍餃子事件によって冷凍食品が一挙に30数%減り、収入が減るといった経済的なことを含め、内食へと急速に向かったことを考えれば十分想定されることだ。ゴールデンウイークに入ったが、霞のような不安が立ちこめており、素直に楽しめない休日となった。

今、この安心を創るためにいくつかの施策が始まっている。その一つが有店舗販売とネット販売を組み合わせた方法である。以前から行われてきた方法であるが、最近では大手スーパーが一斉にネットスーパー市場へと参入してきた。また、その逆である楽天も子会社ネッツ(食卓・JP)を使って全国の有力スーパーと組み積極的な展開を始めた。こうした背景には、巣ごもり消費である「内食」市場を新規開拓することにある。この内食市場の根底にあるのが有店舗で商品を手に取り確認できる「安心」、リアリティ感の確保である。つまり、有店舗販売とネット販売を組み合わせることで安心を担保しながら、内食市場を開拓する試みだ。

一方、生活者の側の不安心理情況であるが、マスメディアの加熱報道とは違って、2chを見てもうわさを含めた風評はそれほど飛び交ってはいないようだ。以前このブログにも書いた事があるが、不安とうわさは表裏の関係にあって、あいまいさや不確かさがある場合、それが生命に関わるような重要な事柄が起きたときに発生する。今回の新型インフルエンザも耐震偽装事件から始まる多くの偽装事件、そして昨年の中国冷凍餃子事件など一連の経験から、自己防衛としての免疫抗体が既に出来ているようだ。

自己防衛としての免疫抗体とは、一言で言うならば、体験、体感によって得られた「五感の取り戻し」である。便利さや快適さがスイッチ一つで可能となった現代社会とは、ある意味で「無感社会」でもあった。しかし、こうしたことの矛盾をはっきりと教えてくれたのが、やはり中国冷凍餃子事件であった。見えないところで何が行われているかへの不信と不安である。こうした背景から、安全安心を入り口に、家庭菜園や田舎暮らしに始まり、今や人気となった農家レストラン、あるいは内食へと進む傾向の根底には、自ら体験、体感する「五感」に裏付けされた安心欲求がある。大仰に言うと、失いつつあった五感の取り戻しが不安に対する免疫抗体につながっている。不安・不信が渦巻く時代にあって、人間が本来持っている野生の復活、五感の取り戻しが最大のキーワードとなった。(続く)


同じカテゴリー(新市場創造)の記事画像
マーケティングノート(2)後半
マーケティング・ノート(2)前半
2023年ヒット商品版付を読み解く 
マーケティングの旅(1) 「旅の始まり」後半  
マーケティングの旅(1) 「旅の始まり」前半  
春雑感  
同じカテゴリー(新市場創造)の記事
 マーケティングノート(2)後半 (2024-04-07 13:01)
 マーケティング・ノート(2)前半 (2024-04-03 13:59)
 2023年ヒット商品版付を読み解く  (2023-12-23 13:38)
 マーケティングの旅(1) 「旅の始まり」後半   (2023-07-05 13:25)
 マーケティングの旅(1) 「旅の始まり」前半   (2023-07-02 14:25)
 春雑感   (2023-03-19 13:16)

Posted by ヒット商品応援団 at 13:46│Comments(0)新市場創造
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。