2018年01月03日

◆新しい消費物語始まる

新しい消費物語始まる



ヒット商品応援団日記No697(毎週更新) 2018.1.3.

新年明けましておめでとうございます。
昨年最後に書いたブログは「生活文化の時代へ」と題した、成熟時代の消費を考えたものであった。その生活文化は、中心から「外れた」地方で、郊外で、表通りから少し入った横丁路地裏で、あるいは高層ビルの谷間にある「雑居ビル」の一室で、「地下」で、生まれ熟成しているとし、その魅力の一端を内容とした。そして、その裏通りの消費魅力を「文化共感物語」であると指摘をした。つまり、バブル崩壊以降の消費特徴であるモノ充足を終えた成熟時代の消費キーワードであった。

こうした指摘をしてきたのだが、くしくも朝日新聞と日経新聞の元旦号に同じような成熟時代の特徴をテーマとした記事が載っていた。朝日新聞は平成のライフスタイル変化の特徴として、ロックスター矢沢永吉を例にあげて、「成功とハッピーとは違う」とした矢沢の発言を取り上げ、他と比べることのない「ハッピーは自分が決める」とした個人化社会の変化をその内容としていた。成功という経済的充足とは違う自身の幸福を追求する時代に来ているという指摘である。
日経新聞の方では、総務省が行っている全国消費実態調査結果に基づいた指摘を行っている。それは5年前と比較し30歳未満男性では消費支出減15%、女性では5%減というデータをもとに、モノを持たない生活を志向し、昨年の流行語大賞となった「インスタ映え」ではないが、SNSでの「いいね」という共感価値を求めた消費行動となっていると。そして、この根底には認めてもらいたいとした「承認欲求」があるとした理由だが、私が以前から指摘してきた欲望喪失世代、離れ世代のネット上での「居場所欲求」のことである。

前者の欲求を心の豊かさ欲求と呼んでも構わないし、生きがい欲求と呼んでも同じである。後者を自己表現欲求と呼んでも良いし、いずれの場合も「モノ充足」から離れた欲望であることに変わりはない。”広告は詐術です。嘘八百の世界です”と言ったのは、雑誌「広告批評」を主宰し誰よりも広告の世界を熟知していたコラムニストの故天野祐吉さんであった。バブル崩壊以降、モノの実体から離れた嘘八百の世界を楽しめる環境はどんどん少なくなってしまった。その環境は周知の可処分所得の減少であり、何よりも働き方が変わったことによる。嘘八百を楽しめる余裕がなくなってきたことと共に、企業も消費者もモノの実体に迫ることによって価格意識は研ぎ澄まされ、それまでの生半可な付加価値といった嘘のベールが否応無く剥がされてしまう。結果、デフレマインドが形成されるわけだが、ランチは500円以内ですますが、一方午後のティータイムにはスターバックスで600円のドリンクを楽しむ。つまり、それまでの一面的なデフレ環境での「消費物語」が変わってきたということである。どんなにちっぽけに見える幸せでも、自分が良いと思えれば素敵じゃないか、という物語である。あるいは自己実現などと高邁なことではなく、「自分流に楽しく遊ぶ」ことであって、例えば2017年の大晦日カウントダウン時刻に渋谷のスクランブル交差点に集まることもまた自分流の遊びで、それもまた自己実現につながるということである。SNSにおける「いいね」共有をスクランブル交差点でも共有するということである。これも「いいね」文化の共有ということであろう。

矢沢永吉の言う「成功」は戦後日本の奇跡とでも呼べる復興・成長、モノの乏しい時代から充足を果たした時代に置き換えても違いはない。この成功のことをあの作家五木寛之は「下山の思想」の中で讃えているが、今や登山ではなく下山のあり方が求められれいると指摘をしていた。その指摘とは矢沢の言葉で言えば「ハッピー」ということになる。一般的にいうならばバブル崩壊以降目指した「心の豊かさ」ということになる。五木寛之は「下山」とは安全に、しかも確実に下山する、ということだけはない。下山のなかに、登山の本質を見出そうということだ、と書いている。勿論、成長を否定しているのではない。山を下り、しばし体をやすめ、また新しい山行を計画する、ということである。この登山は若い世代だけでなく、シニア世代にとっても登り方は違っても山行をするということである。そして、「下山」の時代とは、言い換えれば「成熟期」ということではあるまいかとも。

さてその登山の本質は何かということである。登山をすれば分かると思うが、登山と下山とでは「歩き方」が違う、気持ちも、何に重心を置くかも違う。登山の時に見える景色は「外」の世界へと向けられ、下山の時は「内」へと向かう。消費という視点に立てば、外とは欧米の文化であり、それが具現化された商品やスタイルのことである。内とは足元に埋もれた日本の文化であり、日常に広がる世界のことである。そして、登山に要した時間がバブル期までの60年とすれば、下山もまた60年かけて山を下りる。現在位置はと言えば、山頂から少し下りたところにいて、バブル期という山頂を懐かしむ人もいる。以前、「バブルから学ぶ」というテーマブログにも書いたが、マハラジャが復活しバブルの復活などとマスコミでは言われているが、ポスト団塊世代が当時を懐かしむ世界だけで、若い世代にまで広がることはない。

ここ2年ほど街歩きの中心を東京から大阪や京都へと広げてきた。というのも下山から見える消費風景に「いいね文化」、あるいは「共感物語」といった新しい芽がこの地域に見え始めているからである。その芽とは2017年度には2900万人に及ぶであろうと予測されている訪日外国人と小さくてもハッピーでありたいとするオタクという今まで無かった2つの市場によって生まれた風景である。街を歩けば、あるいはネット上の路地裏サイトを歩けば、必ずこの2つに出会うはずである。そして、この2つの市場に共通していることは、モノ充足から離れた成熟時代の「いいね文化」「共感物語」がその出発点となっている。「好き」は未来の入り口ということだ。そこからどんな文化が育っていくか、新しい消費物語が始まる。
今年もまた下山から見える消費の景色をより現場に近いところからブログを書いていくつもりである。(続く)



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Posted by ヒット商品応援団 at 13:15│Comments(0)新市場創造
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