2017年11月05日

◆小さな単位発想が危機を救う 

ヒット商品応援団日記No691(毎週更新) 2017.11.5.

「沈みゆく日本」 を感じさせる事件・不祥事が次々と報じられている。既に十分沈んでいるとの声が聞こえてもいる。沈みゆくという言葉はグローバル競争に負け続けているということだけでなく、その本質でもある「劣化」という言葉に置き換えた方が適切であろう。このブログの主旨はどんな小さなビジネス、街場の商店でも学ぶところは学ぼうというのが基本姿勢としてある。大仰に日本を論じるといった視点は基本持たないというのが特徴でもある。しかし、不祥事どころではない大企業の深刻な問題が続いている。旭化成建材、三菱自動車、東洋ゴム、日産自動車、神戸製鋼所、あるいは東芝といった企業だけでなく、新聞紙上の片隅に報じられた不祥事・事件がいかに多いか、フジサンケイ危機管理研究室がそうした企業事件・不祥事のリストをまとめている。それらは氷山の一角で、「何か」がおかしくなってきていると指摘する専門家は多い。

それらの多くは粉飾、データ改ざん、詐称、偽装、隠蔽、不正、・・・・・・・・事件・不祥事のほとんどが、それまでの贈収賄、談合、汚職、とは異なる内容となっている。そして、特徴的なことはこうした不正には金銭的な欲求が背景にあるわけではなく、特に安全性や品質のようなものが関わっており、間違っていることを認めることができない企業体質にある。企業のコンプライアンスということになるのだが、内部告発の仕組み化といってしまえばそれで終わってしまうが、匿名性が確保された「調査」のようなものが必要になっていると指摘する専門家もいる。つまり、ここまで病根は深いということである。

バブル崩壊前までは「日本企業の強さ」のためのガバナンスは「企業組織の文化」をいかに強くするかであった。もっと簡単に言ってしまえば、企業風土である。何も難しいことではなく、ソニーであれば周知の通り、創業者井深大氏、盛田昭夫氏以来、引き継がれているのが「ソニースピリッツ」。 誰も踏み込まない「未知」への挑戦を商品開発にとどまらず、あらゆる分野で実行してきた企業である。世界初のトランジスタラジオの開発以降、「トリニトロン」「ウォークマン」「デジタルハンディカム」 「プレイステーション」「バイオ」「ベガ」「AIBO」…。日本の企業としては初めてのニューヨ ーク証券取引所に株式を上場。公開経営あるいは執行役員制の導入。新卒者への学歴不問採用等。多くの日本初、世界初のチャレンジを行ってきているが、その根底には、創業精神 「他人がやらないことをやりなさい」という不可能への挑戦が、ソニーマン一人ひとりに根づいてい ることにある。AIBOの開発メンバーである当時の責任者土井氏に井深氏から次のように言われたと後日語っている。“土井君、創造性とは人に真似されるかどうかで 評価される。人に真似されるものを作りなさい”と。
こうしたポリシーは実はあのアップル社が継承し、次々と「他人がやらないこと」を成功させているが、今回やっと周回遅れのロボットAIBOの発売が報じられた。この周回遅れという意味はAIBOに搭載されたAI・人工知能の開発が遅れたという意味である。周回遅れでも忘れずに再チャレンジしようとすることは創業精神がまだソニーには生きているということであろう。

ところでもう一つ創業精神が継承されているブランドとしてあのシャネルがある。波乱万丈、成功と失敗を繰り返したシャネルであるが、この生き様が商品に映し出された例は珍しい。その生き様であるが、1910年頃マリーンセーター類を売り始めたシャネルは、着手の女として彼女自身が真先に試して着ていた。そして、自分のものになりきっていないものは、決して売ることはなかった。それは、アーティストが生涯に一つのテーマを追及するのによく似ている。丈の長いスカート時代にパンツスタイルを生み、男っぽいと言われながら、水夫風スタイルを自ら取り入れた革新者であり、肌を焼く習慣がなかった時代に黒く肌を焼き、マリンスタイルで登場した。そして自分がいいと思えば決して捨て去ることはなかった。スポーツウェアをスマートに、それらをタウン ウェア化させたシャネルはこのように言っている。“私はスポーツウェアを創ったが、他の女性たちの為に創ったのではない。私自身がスポーツをし、そのために創ったまでのこと”。勿論、 アクセサリーの分野でも彼女のセンスを貫き通した。“日焼けした真っ黒な肌に真っ白なイヤリング、それが私のセンス”。シャネルのマリンルックは徐々に流行する。
以降も次々と革新的な商品を生み出していく。例えば香水についても、過去の“においを消す香水”ではなく、“清潔な上にいい匂いがする香水”、つまり基本は清潔、それからエレガンスであった。そして、調香師エルネスト・ポーと出会い、「No.5」
 「No.22」が生まれるのである。コンセプトは“新しい時代の匂いを取り入れること”とし、どこにでもつけていける香水を創ったのである。

ここにあるのは革新、生き方、夢、情熱、仕事好き、初めて、・・・・・・・創業期にあった企業風土、企業文化である。今から10数年前、盛んにCSRの必要性が指摘されたことがあった。CSRとはCorporate Social Responsibilityのことであり、当時私は分かりやすく既にあった近江商人の心得「三方よし」を持ち出して企業の不祥事を分析したことがあった。その後、Social ・世間はグローバル化し、CSRも変化してきてはいるが、創業期はどうであったかを今一度考えてみることも必要であると思う。何故なら創業期には理想とするビジネスの原型、ある意味完成形に近いものがあるからである。ビジネスは成長と共に次第に多数の事業がからみあい複雑になり、視座も視野も視点もごちゃ混ぜになり、大切なことを見失ってしまう時代にいる。創業回帰とは、今一度「大切なこと」を明確にして、未来を目指すということである。「大切なこと」の多くは経営理念のように明文化しても機能することはない。理屈っぽく言えば、創業の精神・ポリシーの継承とは、形式知を学ぶのではなく、暗黙知こそ学ばなければならないということである。しかし、創業期の暗黙知を持っていた団塊世代は最早現場にはいない。

この難しいと思われてきた暗黙知の継承=現場社員一人ひとりへの浸透の成功事例は実はあのトヨタの「カイゼン」の中にある。カイゼンというと無駄の削減といった見られ方をしてきたが、その本質は小さな革新の積み重ねにある。目的は現場の一人ひとりが結果として「楽になる」ことで、この意識改革そのものが重要となっている。現場のちょっとした工夫やアイディアをすくい上げ、選択し、日々実践し、見直しし、磨き上げていくこと。こうした方法論は暗黙知を生産ラインや場合によっては商品開発にすら広げ活用することができる方法となっている。これは製造現場だけのことではなく、カイゼンの発想・着眼は小売業にも実は応用されている。小売現場の暗黙知は小さなことばかりである。ある百貨店の場合であるが、大きな売り場を4つに分け、さらに4つに分ける。そうすると少しずつ問題点も見えてくる。そこに知恵やアイディアを売り場に注ぎ込む。そして、小さな単位の売り場責任者を置く・・・・・・つまり小さな単位に分けることによって現場の知恵やアイディアを引き出し生かしていく現場経営が生まれる。この方法はあのドン・キホーテの売り場経営と同じである。

「大切なこと」とは、例えばユニクロのように創業者のリーダーシップによって危機が明らかになることもあるが、多くのサラリーマン社長による企業の場合はこうした一連の絶えざる小さな革新によってのみ継承されるということである。ユニクロのように大きく変えることはリスクもあって難しい、そう誰もが考える。しかし、小さな単位なら構えず実施できる。しかも、小さな単位とは日常の現場作業のことであり、それは慣習として日常化され継続される。つまり、暗黙知という「大切なこと」が継承されるということである。例えば、世界に誇る老舗大国日本であるが、危機を超える知恵はこうした発想によって成立している。老舗とは保守の真逆、絶えざる革新によってのみ継承された企業のことである。(続く)



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Posted by ヒット商品応援団 at 13:35│Comments(0)新市場創造
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