2017年06月11日

◆2017年上期ヒット商品番付を読み解く 

ヒット商品応援団日記No680(毎週更新) 2017.6.11.

日経MJによる2017年上期のヒット商品番付が発表された。2017年上期は昨年のようなヒット商品はほとんどなく、書くのをやめようかと思ったが、「ヒット商品が無い」こともまた消費の傾向としてあることからその意味を含め読み解くこととする。以下が2017年上期のヒット商品番付である。

東横綱 稀勢の里 、 西横綱 ニンテンドースイッチ 
東大関 ヤマト値上げ 、  西大関 GINZA SIX
関脇 C-HR(トヨタ)  、 関脇 タクシー初乗り410円
小結 藤井聡太、  小結 平野美宇 

昨年の後半には「ポケモンGO」や映画「君の名は」あるいは映画「シン・ゴジラ」といった、誰が番付しても理解・納得できる幅広いヒット商品があった。そうした傾向を私は「ひととき夢中になれる、熱中できることを求めて」と表現した。屋外に飛び出した「ポケモンGO」も新鮮であった。また、映画「君の名は」における「RADWIMPS」を含め、ジブリ映画とは異なる新しい世界であり、一方「シン・ゴジラ」の監督はあの新世紀エヴァンゲリオンの監督である庵野秀明氏である。CGを駆使した映画でこれもまた新しい世界を提供してくれた。こうした「新しさ」をサブカルチャーの時代が本格化したと表現したが、今年の前半にはこうしたハッとするような「新しさ」、夢中になれるようなのヒット商品はまるでない。

こうした世界ではないが、東横綱に番付された「稀勢の里」は19年ぶりの日本出身の横綱ということもあるが、春場所怪我をおしての優勝決定戦における土俵際の逆転勝利には相撲フアン以外にも多くの感動を与えてくれ、再び相撲人気を創ってくれた。その背景には、師匠である隆の里の教えを愚直なまで守り、孤独な稽古に励む「相撲道」、「道」の物語世界があり、これもまた日本人の共感を生む一つとなっている。
一方、西横綱の「ニンテンドースイッチ」は据え置き型ながら携帯もできるというゲーム機である。いわゆるスマホのゲームに押され放しのニンテンドーであったが、発売前から注目され予約もかなりあってヒットするであろうと言われていた。発売1ヶ月で274万台と好調で年度末までの累計では1270万台を売るという。根強いニンテンドーフアンがいることに少々驚かされたが、スマホによるゲーム全盛の時代にあってやっと携帯ゲームの世界に入り、どこまで肉薄できるか楽しみでもある。

大関には「ヤマト値上げ」が入ったが、ネットを中心とした通販業態の拡大、しかも急速な拡大に「宅配サービス」が人的に追いつかない現在を象徴した課題であり、社会の話題をも集めた。特に「再配達」という便利なサービス、しかも帰宅後の時間でも受け取れるサービスはヤマト運輸が初めて創ったものである。遡れば、離島にまでサービスネットワークを創った時、あるいは鮮度商品の冷蔵&冷凍配送に踏み切った時、それまでのいわゆる監督官庁や物流事業者は冷ややかであった。しかし、宅急便という規制緩和を成し遂げたのは生みの親である小倉昌男氏の戦いの結果であり、今日の新しいサービス市場の成長・拡大に至っている。以前、「次ぐコンビニの値下げ」に関連して宅配サービスの拠点、ロッカーサービスなどの整備が更に進むと書いたが、多様な受け取り拠点整備によって解決へと向かうであろう。そして、小倉昌男氏が創った新市場は次のフェーズへと進行している。
数ヶ月前築地市場の豊洲移転問題をテーマに書いたように、築地の取扱量はどんどん減少へと向かっている。大手スーパーなど取り扱いの大きな場合は「一船買い」や「丸ごと畑買い」といった直接取引が進行し、中小飲食店も漁協や産地生産者とダイレクトに繋がっている。こうした「中抜き変化」も「宅配」を始めとした物流によるものであり、そうしたことを含め卸売市場・物流市場の仕組みが次の段階にきているということである。

西の大関のGINZA SIXは銀座松坂屋跡地などの再開発事業によって誕生したいわゆる複合型SCである。百貨店からの業態転換は以前から進んできており、銀座地区においても2011年有楽町西武百貨店の跡地には有楽町ルミネが入り、一つの成功を納めている。更に、2016年には数寄屋橋交差点の「モザイク銀座阪急」跡地には「東急プラザ銀座」がオープンしている。
例えば、一つの事例であるが、三越伊勢丹グループは経営不振となっている「丸井今井本店」「札幌三越」(札幌市)、「新潟伊勢丹」「新潟三越」(新潟市)、「静岡伊勢丹」(静岡市)の5店舗について、売場面積の縮小や、百貨店としての閉店・業態転換などを検討していることが報じられている。このほか、三越伊勢丹では2016年11月8日に行われた中間決算の記者会見で、経営不振となっている「伊勢丹松戸店」(千葉県松戸市)、「伊勢丹府中店」(東京都府中市)、「広島三越」(広島市)、「松山三越」(松山市)の4店舗についても同様の措置を取ることを発表していた。これ以上書くことはないが、1980年代までの一時代「総中流時代」のライフスタイルを創ってきた百貨店業態の役割は終わった。GINZA SIXもその次をどうするのかその模索の一つである。

関脇には「C-HR(トヨタ)」の小型SUVが入ったが、その斬新なデザインが車離れが進む若者の支持を得たという。発売1ヶ月の国内受注は約4万8000台で好調とのこと。但し、車市場は中古市場が中心で、しかもカーシェアリング市場が成長しており、「C-HR」も小さなヒット商品であろう。また、関脇に都内の「タクシー初乗り410円」が入っているが、チョイ乗り需要を喚起し、3月末までの利用回数3割増とのこと。これも、利用回数増は当たり前のことであって、中長距離利用は減少し、旧来の全体利用額はほとんど変わらないと言われている。つまり、タクシー需要全体を大きく変える価格改定にはなっていないということで、関脇に番付されること自体が不思議である。

小結には目下将棋の公式戦25連勝を続ける中学生棋士藤井聡太四段が入り、卓球アジア選手権を制覇し、先の世界選手権では銅メダルとなった17歳の平野美宇さんが番付された。若い芽が続々と生まれているその象徴であろう。
さらに前頭についてであるが、コンビニにおけるあいつぐ値下げや浅田真央・宮里藍両アスリートについては番付位に入っており、詳しくはブログを読んでいただきたい。他の商品については取り上げるほどのヒット商品ではなく、悪く言えば紙面を埋めるための番付といったら言い過ぎかもしれないが、新しい価値観、新しい消費傾向を見せているものはないということである。もし、「新しさ」というのであれば、私が1年以上前から指摘をしている「街場の人気店」に注目が集まっている。

ところでその新しい価値観、新しい消費傾向は何かであるが、訪日外国人市場によって生まれてくると考えている。ちなみに、政府観光局が発表した4月の訪日外国人客数(推計値)は、前年同月比23.9%増の257万9000人だった。単月として過去最高を記録、初めて250万人を超えたと。
 こうした「量的」な市場、4兆円とも言われる消費市場の成長ではなく、実はリピーターが増え,団体客からファミリーや友人・仲間との旅行、つまり「個人旅行」へと変化してきてきていることに注目しなければならない。さらに、LCCやクルーズ船利用が増え、その観光内容そのものが変化してきていることにある。その変化の先であるが、よく言われている「爆買い」から「コト消費」への変化であり、誰もがその「コト」はなんであるかわかってはいない。
例えば、2年ほど前、街中にあるごく普通の飲料自販機への興味、日本固有の自販機への興味は、次第に深まりいわゆる「ガチャガチャ」にまで人気が集まる。結果、空港もさることながら観光地にも「ガチャガチャ」が登場する。つまり観光ガイドには載っていない日本人の生活観光、日常生活への興味、“表通りにはない横丁・路地裏にある生活文化観光への関心へと向かっているということである。それまでのホテルと観光地を結んだ世界から、私たちの生活と同じ街中を歩きまわっているということである。つまり、小さなヒット商品が訪日外国人市場から生まれてくるということである。そして、この潮流はさらに大きくなり、パラダイム転換を促すところまで行くことが予測される。価値観を変えるほどの変化は常に「外」からであったが、訪日外国人市場もその一つである。(続く)

同じカテゴリー(新市場創造)の記事画像
2023年ヒット商品版付を読み解く 
マーケティングの旅(1) 「旅の始まり」後半  
マーケティングの旅(1) 「旅の始まり」前半  
春雑感  
変化する家族観  
常識という衣を脱ぐ 
同じカテゴリー(新市場創造)の記事
 2023年ヒット商品版付を読み解く  (2023-12-23 13:38)
 マーケティングの旅(1) 「旅の始まり」後半   (2023-07-05 13:25)
 マーケティングの旅(1) 「旅の始まり」前半   (2023-07-02 14:25)
 春雑感   (2023-03-19 13:16)
 変化する家族観   (2023-02-26 13:11)
 常識という衣を脱ぐ  (2023-01-28 12:59)

Posted by ヒット商品応援団 at 13:36│Comments(0)新市場創造
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。