2016年11月23日

◆未来塾(26)  「街から学ぶ」 東京・大阪編(後半) 

ヒット商品応援団日記No664(毎週更新) 2016.11.23.

未来塾(26)  「街から学ぶ」 東京・大阪編(後半) 



街から学ぶ


1980年代から1990年代にかけて、多くの人は新しい、面白い、珍しいという「変化」を求めて、外の世界(海外)へと向かった。そうした外に向かう心理はバブル崩壊と共にどんどん内向きへ、「安定」を求める心理が強くなった。しかし、デフレの時代にあっても新しい、面白い、珍しいという「変化」への欲求が無くなった訳ではない。今までのお金の使い方と金額が変わっただけで、実は消費していることに気付かなければならない。消費のパラダイムが変わってきているということである。こうした点を踏まえ、中心部である、都心、駅ターミナルではどんな変化が生まれているか、同時に中心から外れたところにはどんな変化が生まれているかをお観察した。

都市観光の時代へ

少子高齢時代にあって、前述のように都市へと、それも中心部へと人口移動が起きている。更には都市がもつ魅力となっている「新しい、面白い、珍しい」という「変化集積」が、都市観光という新しい概念も誕生させてきた。従来の歴史・文化、あるいは自然といった名所観光旅行とは異なる、極めて日常的な移動=小さな観光である。
この都市観光は大阪で言えば「アベノハルカス」や東京で言えば「東京スカイツリー」となるが、そうしたいわゆる旅行ではなく、もっと日常的な興味関心事から生まれた「移動」が、デフレ時代の観光へと変化してきている。今回久しぶりに見て回った大阪ステーションシティもそうであるし、東京駅の「グランスタ」もここでしか売られていない「食」を求めるのも都市観光の中に含まれる、そんな観光時代となった。
そうした意味で、「移動」は消費のバロメーターとなり、「新しい、面白い、珍しい」という変化市場を創っている。

ちなみに、大阪ステーションシティが開業した2011年には1日約86万人が訪れ、「エキマルシェ大阪」が開店した12年に来街者が2億人、翌13年には3億人を超えた。15年4月に開店した「ルクアイーレ」の集客効果も寄与し、開業から約4年2カ月で同年7月31日に5億人に到達したとJR西日本からの発表もある。
ところで大阪ステーションシティの売り上げであるが、開業1年後三越伊勢丹が約330億円、ルクアが約370億円。大丸梅田店も2012年2月期の売上高は前の期に比べ約240億円増えた。3店が新たに生み出した消費は1000億円という結果となっている。
一方、同じ梅田にある阪急百貨店うめだ本店と阪神百貨店梅田本店の売り上げは、合わせて100億円程度の減少にとどまったと日経新聞は報じている。つまり、単純計算ではあるが、大阪ステーションシティの誕生によって、新たに900億円もの市場が創造されたということだ。

また、2012年3月期のJR西日本の運輸収入を約50億円押し上げ、100キロメートル圏内の近距離券の販売も開業後、9%伸びたとのこと。専門店ビルのルクアが好調で、テナントから受ける不動産収入は65億円に達したとJR西日本からの発表がある。この中で最も注目すべきは、近距離切符の販売が9%伸びたという点にある。つまり、買い物や食事、あるいは映画といった楽しみに大阪の中心部に移動する、つまり都市観光したということである。

東京でも新たな鉄道の延伸・ネットワークによって、この都市観光の成功事例がある。実は池袋中華街構想と横浜中華街との比較について次のように指摘をしたことがある。その視点であるが、元町・中華街から乗り換えなしで埼玉県西部へ-直通運転できたことによる。つまり、観光地中華街への新しいアクセスによる集客効果である。
『横浜中華街の最大特徴の第一はその中国料理店の「集積密度」にある。東西南北の牌楼で囲まれた概ね 500m四方の広さの中に、 中国料理店を中心に 600 店以上が立地し、年間の来街者は 2 千万人以上と言われている。観光地として全国から顧客を集めているが、東日本大震災のあった3月には最寄駅である元町・中華街駅の利用客は月間70万人まで落ち込んだが5月には100万人 を上回る利用客にまで戻している。こうした「底力」は「集積密度の高さ=選択肢の多様さ」とともに、みなとみらい地区など観光スポットが多数あり、観光地として「面」の回遊性が用意されているからである。こうした背景から、リピーター、何回も楽しみに来てみたいという期待値を醸成させている。』

つまり、都市観光は日常観光であり、アクセスの良さは街の「テーマパーク化」には不可欠となったと言うことだ。このアクセスの良さを前提に、常に「変化」を取り入れ提供していくことということである。




「未知」探しに応えるテーマ世界

テーマのある街、歴史や文化を担ってきた街、共通する意志がそこに見られる街には必ず「賑わい」が生まれるというのが私の持論であり、40数年に及ぶマーケティングに携わる私の答えであった。
賑わいとは元気、活気、熱気、生き生き、といった「気」が溢れんばかりの様子のことである。こうした「気」を創るには、それこそ多種多様な方法が採られてきた。経産省が賑わいづくりを目的とした戦略補助金の交付事例を見ればその成功事例を見ることができる。こうした事例はこれはこれで良いと思うのだが、例えば「テーマのある街」と一般論を語ってもまるで意味はない。テーマは常に変化するものであり、生き物であるからだ。
情報の時代と言われて久しいが、過剰な情報時代の「今」は、逆に選択できない時代のことである。ある意味「未知」ばかりの時代に生活していると置き換えても構わない時代である。分からない事ばかりで、生活者が選択の物差しの一つに使うのがランキング情報である。こうした「未知」探しをどれだけ興味深く伝えるかがマーケティングの課題となっている。今回の「東京と大阪」には巨大なターミナル駅があり、そこには物理的に移動する人たちで溢れている。今までは移動の食と言えば駅弁であった。しかし、今や東京駅の「グランスタ」では「駅丼」が売られ、新大阪駅では「たこ焼き」となる。こうした知らない世界を食べるのも「楽しさ」の一つとなった。
また、東京でも大阪でも賑わいを見せているのがパンケーキなどの朝食レストランの「サラベス」であった。これも従来の「朝食」の概念、パンケーキなどの概念を変える「テーマ業態」であった。新しい概念としての「食」は、地域差を超えたまさに「未知」の食であり、行列ができるのはある意味当然のことである。
こうしたテーマ世界を一言で言うならば、新しい、面白い、珍しいテーマを常に顧客の消費動向を見続けて変化させ、「未知」なるものとしてどう提供していくかである。
また、数年前から流行り始めたのが「バル」という飲食業態で、語源の元となったスペイン居酒屋を始め、肉や焼きそばをテーマにしたり、あるいは幅広いメニューを用意した食堂スタイルなど、いわゆる多国籍飲食業態である。「ルクアイーレ」の地下2階にはこの「バル」を集積した飲食街がある。面白いことに大阪ならではの串カツをテーマにした「和」のバルもあって一つの特徴を出した飲食街となっている。そうした中で常に行列ができていたのが前述の「ワインバー、紅白」であった。
こうした「未知」なる世界の発見ができるのも「賑わいの街」の基本要素であろう。

中心から外れた、横丁・路地裏のNEWSに着眼

横丁・路地裏というと寂れた商店街をイメージするが、活気あるところはいくらでもある。「商店街から学ぶ」というシリーズでは、東京の「砂町銀座商店街」「興福寺松原商店街」「谷中銀座商店街」「巣鴨地蔵通り商店街」、もっと小さな単位でいうと、吉祥寺のハモニカ横丁、町田の仲見世商店街など独自なテーマを持って集客に成功しているところは多い。(詳しくは拙著「未来の消滅都市論」を参照ください。)
今回見て回った大阪の横丁・路地裏で面白かったのが、梅田のオフィスビルが立ち並ぶ曽根崎警察裏にあるお初天神通り、その中程にある横丁・路地裏で、自ら「お初天神裏参道」と呼ぶ一角である。お初天神は元禄16年(1703年)に神社の境内で実際にあった心中事件を題材に、近松門左衛門が人形浄瑠璃「曽根崎心中」を書いたことで知られている神社である。そんな歴史のある神社の参道商店街であるのだが、前述の高層タワーマンション計画地のすぐ裏手にある裏通りである。ここに12軒の飲食店がひしめき合っている。目指すは「道呑みのススメ」で、「道で・・・酒を呑もう、全力で楽しもう、旨いもの食べよう」とある。「ルクアイーレ」の地下の「バルチカ」のようなおしゃれな飲食通りではなく、通天閣のお膝元のジャンジャン横丁の若者向けミニミニ版といった雰囲気の狭い通りである。今回は行けなかったが、大阪の知人によれば阪急三番街の外れの高架下にあるかっぱ横丁も賑わっているとのこと。いずれにせよ、より強い、大阪風にいうとアクの強さをもつことによって一つの魅力を創り上げている。外れている方が、まとまって思い切り自由に表現することができるということだ。顧客の側もそうした自由さから生まれる「気取らない良さ」を楽しむということだろう。

実はこうした傾向は2000年代に入り、消費における大きな潮流として現れており、それは「表」から「裏」であった。当時使われたキーワードが「隠れ家」である。飲食店においても表メニューから裏メニューへ、そして裏であったまかない料理が表メニューとして出てくるようになる。つまり、「表」にNEWSが無くなれば寂れていくのだが、そのNEWSとは新しい、面白い、珍しいということに極まる。そして、いつまでも新しい、面白い、珍しいということはあり得ない。常にNEWSを創っていかなければならないのだが、そのNEWSは小さくても構わないということである。お初天神裏参道のように、「小さな通り」には小さなNEWSがあるということだろう。

日本の商店街の多くは寺社の参道からスタートし、今なお続いているところが多い。しかし、参拝者も高齢によりどんどん少なくなる時代である。東京浅草寺のように世界の観光地と化したところは別であるが、ほかの参道商店街は衰退していくところが多い。そうした参道にあって映画「フーテンの寅さん」のロケ地となった柴又帝釈天は、映画の終了とともに観光客は減少し、参道の商店街も衰退していく。渥美清というある意味キラーコンテンツを持った帝釈天も映画というNEWSを発信していかない限り明日はないということである。冒頭の東京駅「グランスタ」 における「駅丼」プロモーションではないが、駅弁だと峠の釜飯といった古くからある駅弁や季節の駅弁といった変化となるが、「駅丼」となるとちょっと気がそそられる、そんな小さなNEWSが重要になる時代である。

開かれたテーマパークUSJ

未来塾(26)  「街から学ぶ」 東京・大阪編(後半) 大阪の人たち、特に若い女子中高生にとってUSJは気軽に利用できる「遊び場」となっている。この遊び場は東京ディズニーランドが閉じられた空間であるのに対し、USJにもゲートはあるのだが、ユニバーサルシティ駅からUSJに向かう両側にはホテルと商業施設があって、いわば「参道」のような構造となっている。アトラクションが行われるゲートの先は遊びの「聖地」ということである。東京ディズニーランドにもゲートをくぐり、その先にはあのシンデレラ城があるのだが、USJのそれは参道を含めた一帯が遊び場になっている。たこ焼きミュージアムが入っているビルは大阪シティウオークという名前そのものの商業施設で、お土産だけでなく、例えばGAPファクトリーのような専門店まで入っている。
そして、大阪の人に聞くところでは、売り上げも好調とのこと。勿論、USJ自体の入場者数の伸びもあるのだが、開かれた空間の中で、あれも楽しむ、これも楽しむ、といったてんこ盛りエリアになっている。これは大阪ならではのサービス精神の発露であると思う。

そして、都市観光の時代はアクセスが重要であると書いたが、USJはまさにアクセスの良さは他にはない意味を持っている。関空利用の訪日外国人のアクセスの良さもあるのだが、それ以上に大阪近隣の女子中高生やファミリーにとって構えた観光旅行先としてのUSJではなく、もっと日常的な遊び場とするには、何と言ってもアクセスは重要である。JR環状線を利用すれば、大阪駅とユニバーサルシティ駅はわずか12分である。
USJのようなテーマパークだけでなく、都市観光の時代にあって「移動」は極めて重要な要素となっている。例えば、スポーツ観光という視点に立てば、野球がそうであるように東京ドームも横浜球場も駅に近く便利さは抜群である。サッカーはどうかというと埼玉も横浜も少し距離はあるがアクセスは良い方であろう。こうしたスポーツのみならず、都市を楽しむという観光視点に立てば「アクセス」からどんな楽しみを提供できるか逆算しても良いぐらいである。

中心化現象の進行は東京では湾岸エリアに人口移動が見られ、銀座にも至便な場所であると同時に、隅田川や東京湾という水辺のある生活を「都市別荘」と私は呼んだが、実は新しいライフスタイルを形成し始めている。そして、近隣の月島といった街には再開発されていない下町が未だ残っている。大阪で言うならば、梅田曽根崎に高層タワーマンションが計画されており、その裏にはお初天神裏参道といった路地裏があるように。都市には必ずこのような中心と外れ・周辺があり、それぞれがNEWSを発することによって、ある意味バランスの良い街が作られていることがわかる。中心部へと人口移動が進み、小学校のクラスが増設されるだけでなく、日常の買い物も銀座のデパ地下を利用するが、時には下町の老舗洋食屋で食事もし、地元の祭りにも参加してみる。あるいは、通勤自転車族が増え、東京駅周辺の不法駐輪が社会問題になるぐらいである。このように新しい都市型ライフスタイルが生まれている。

このように都市観光ばかりか、都市生活それ自体もアクセスが新たな変化を起こすキーワードになったということである。今回は駅ターミナルとその中心から外れた街を通してライフスタイルの一側面を観察してきた。それは地方創生と逆行するような時代変化であるが、逆に地方こそこうした都市的な構図、ライフスタイルを街づくりに生かさなければならないということであろう。そうしない限り、ますます地方から都市へと人口移動が進んでいく。
今、コンパクトシティ構想が各地方で立案されているが、地方においてもこうした「都市的なもの」を取り込み、昔からあるお初天神裏参道のような「外れ文化」や、ザ・大阪と呼ぶにふさわしい新世界ジャンジャン横丁のような「古の文化」とをうまく編集していくことがこれからの街づくりの鍵になるであろう。

また、こうした着眼は都市と地方ということだけでなく、「中心」と「外れ」に置き換えても同じである。例えば、中心となる大規模商業施設とそこから外れた旧商店街、人が集まる駅と裏通り、あるいはSCの中心フロアと一番端にあるデッドスペース、こうした構図も同様である。どんなテーマで編集をするのか、小さくてもNEWSを発信できるかによって、街は生きもし、死にもする。(続く)


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Posted by ヒット商品応援団 at 13:17│Comments(0)新市場創造
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