2016年10月18日

◆創業者から見えてくること 

ヒット商品応援団日記No662(毎週更新) 2016.10.18.

ユニクロの決算会見のニュース及びその内容を新聞などで読みながら、ああ柳井会長も根っからの創業者なんだなと強く思った。「根っからの」とは超ワンマン経営であり、超現場経営であることをまざまざと感じ入ったからである。実は私はダスキンの創業者である鈴木清一社長と亡くなるまで直接マーケティングの仕事をさせていただいたことと、同じ会社の隣のチームは日本マクドナルドを担当し、これも創業者である藤田田社長の経営や人となりについて多くのことを見聞きしていたからである。
何故今創業者が注目されるのか、創業から何を学べば良いのか、多くの企業がその原点に戻りつつあるからである。1999年にAIBOを世に出し、2006年にロボット事業から撤退したソニーが、同分野に再参入する。撤退から10年周回遅れのソニーは大丈夫なのかと危惧される声もあるが、そのことよりAIBOの先にあるAI(人工知能)の無限の可能性を睨んでいた創業者の理念に戻ろうということの方が大きい。その創業精神とは「他人がやらないことをやれ」という不可能への挑戦で、「他社に真似されるものを作りなさい」という未来を期待させるものであった。しかし、ことごとくアップル社に先を越されてしまった先端技術のソニーを取り戻すことである。勿論、そのまま10年前の過去に戻ることではない。むしろ、過去の創業者から学び、ある意味で創業がそうであったように再び「一つの革新」を起こすためであると理解すべきである。
実は創業期には理想とするビジネスの原型、ある意味完成形に近いものがある。ビジネスは成長と共に次第に多数の事業がからみあい複雑になり、グローバル化し、視座も視野も視点もごちゃ混ぜになり、大切なことを見失ってしまう時代にいる。創業回帰とは、今一度「大切なこと」を明確にして、未来を目指すということである。

そのユニクロの記者発表であるが、上半期の決算でも業績の下方修正に触れて「値上げに失敗した点」にあると、更には大企業病にもかかっていると、その原因を認めていた。今回の年度決算に於いても同じことを発表していたが、今回は更に加えて「賃金が上がらない以上、デフレは消費者にとってそれほど悪いことだとは思わない。」と、デフレを認め、その上での価格戦略、値上げの間違いを認めていた点にある。
その見直しを踏まえた転換へのスタートが「Life Wear」というコンセプトである。「人はなぜ服を着るのだろうか」というCMを見る限り、表現としてこなしきれていないためおそらく視聴者の評価は低いものと思う。私の受け止め方は、ある意味原点に戻って今一度「服」について考え直しますという意味の宣言だと思っている。ユニクロという社名にあるように「ユニーククロージング」を次々と発売してきた。最初があの「フリース」である。GAPの物真似であると揶揄されながらも、GAPのコンセプトのように、男女の差も年齢の差も超えた服として利用され大きな顧客支持を得た。以降、英国進出の失敗などあったが、新素材開発に力を入れた「ヒートテック」、ソフトな履き心地の「UNIQLO JEANS」、「ブラトップ」・・・・・・・・ある意味社名にある「ユニーク」な商品をどこよりも早く開発し発売してきた。こうした「ユニーク」商品の「軸」となるのが今回の「Life Wear」というコンセプトである。

そのユニクロの柳井会長の超ワンマンぶりは「折り込みチラシの微妙な表現にまで介入する」と言われている。そんなことは現場経営では至極当たり前のことで、ほとんどの創業経営者はそうであった。ダスキンの創業者鈴木清一社長も私たちが作った制作物をとことん睨め付けるように見ていた。そして、FCビジネスであることから、現場の加盟店の動向については地域の担当者以上に熟知していた。
また、日本マクドナルドの藤田社長もファストフーズの命とも言える店内厨房のレイアウトなど幹部社員より熟知しており、誰よりも多く各店舗を回っていた。
周知の日本マクドナルドの1号店は銀座三越の1階であった。銀座というメディア性の高い立地もあって順調に出店も加速し、銀座店はいわばフラッグショップとしての役割を果たしていた。米国マクドナルドからはその成功ノウハウとしてシステマティックな各種マニュアル類がもたらされていた。時期は忘れてしまったが、藤田社長から「覆面顧客による調査」の依頼を受けたのを覚えている。マニュアルだけでは解決できないことが現場にはあるというのがその理由であった。そこでマニュアルに書かれていない顧客要望を「覆面顧客」として店舗で行い、その時の現場対応をレポートしてほしいというものであった。私の同僚の担当者は店舗スタッフから顔を覚えられているので私にその役割が回ってきたという次第であった。ところでその要望であるが、「ビッグマック」にマスタードを塗ってほしいというものであった。結果どうであったか、カウンターの若いスタッフは少々混乱気味に「店長~」と呼びに行ったことを覚えている。こうした顧客要望は新たなマニュアルへと追加していったことは言うまでもない。

どんな企業でも曲がり角はある。消費の変化はもとより業界のみならず大きくは時代そのものの変化要請である。そうした「変化」を誰よりも早く知覚し手を打つことが特に創業者には求められている。ダスキンで言うならば、売り上げが毎年30~50%という高い成長を見せていた時、敢えて新しいチャレンジのためのリニューアル計画を立てた時があった。右肩上がりのこの時に何故という声が上がったが、この時しかできないと決断した。それは屋台骨となる既存事業の再生であったが、役員を始め幹部社員を全て外し、地方の部長クラスを責任者に置き、中心メンバーも地方の現場担当者クラスを本社に呼び寄せたことがあった。そして、創業者自らが本部長になり、新しい改革を行った。ユニクロの柳井社長が一時期経営陣から離れたことがあったが、社長を解任し再度社長兼会長職に戻ったことがあった。これもダスキンの場合と同じである。そして、こうした行動が取れるのも創業者オーナーであればこそである。

ところで日本マクドナルドの最初の危機は1980年代半ばにあった。「あのマクドナルドのハンバーガーの肉はミミズである」という根拠のない風説による都市伝説が流行ったことがあった。勿論、根拠のないマクドナルドにとって迷惑な風評であるが、マクドナルドは実はビーフ(牛肉)以外にも他の肉を使い、消費者に知らせていなかった事実があった。確かNHKが調査を行い指摘したと記憶しているが、その指摘を受けて1985年にマクドナルドは「100%ビーフ」として再スタートしV字回復した経緯がある。これを指揮したのが、藤田田社長であった。よく「ピンチをチャンスに変える」と言われるが、仕入れや製造工程、現場のオペレーションを変えていく決断と実行は、これも創業者オーナーであればこそ可能となる。2004年7月に発覚した消費期限切れの鶏肉使用問題以降の対応策とを比較すると、その覚悟の違いと結果は歴然としている。

創業期の精神を忘れないために多くの企業は創業記念日を設定している。ユニクロも11月20日の創業記念日には感謝祭として「牛乳とあんぱん」を来店顧客に無料で配布している。これはユニクロが1号店をオープンさせた時に、朝早くから並んでくださったお客様に、朝食代わりとしてあんぱんと牛乳を配布したことに由来したものである。これも「初心」に立ち返る意味があり、周年記念や新規店オープンにも必ず「牛乳とあんぱん」が用意されていると聞いている。ダスキンの場合も11月16日が創業記念日となっており、お掃除会社らしく全国各地でご近所のお掃除をする托鉢が組まれている。
何故、初心に帰る、創業の理念や志を再度学び直す、こうしたことが必要となっているのかについては拙著「人力経営」を一読いただきたいが、創業時には「理想とするビジネスの完成形」があるということに尽きる。これは大企業であれ、町のラーメン店であれ、事業者にとって創業は必ずある。後継者がいないまま店を閉めるラーメン屋さんも多いが、それでもフアンの中から手を上げて再開する店もある。思い起こさなければならないのはその「思い」と共に、「ビジネスの完成形」はなんであったかを思い起こすことにある。ラーメン屋さんの理想形とは、他には無い「独自な味」ということになるかと思う。

今回は一定の情報と経験のある2社、ダスキンと日本マクドナルドを選んだが、創業者亡き後はいわゆるサラリーマン経営者となり、悪く言えば「普通の会社」になってしまったということである。普通であれば、至極簡単に言えば自然に業績を下げることへと向かっていくものである。多くの専門家はリーダーシップの欠如を指摘するが、オーナー創業者であればこそ、決断ができることがある。独断的・専制的に外目には見えるが、「普通」であったら成長などできないことを一番よく知っているのが創業者である。普通ではなかったからこそ「今日」があることを嫌という程骨身にしみているのが創業者ということだ。これは勝手な推測ではあるが、ユニクロに求められているのは第二の創業、もっと明確に言えば第二の「柳井正」が次から次へと登場することが待たれているということだ。勿論、次なる「ビジネスの理想形」を構想でき、しかも胆力のある人物ということになる。(続く)

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