2016年01月19日

◆賑わいづくりの時代 

ヒット商品応援団日記No634(毎週更新) 2016.1.19.

日本マクドナルドの閉店が相次いでいる。先日、表参道店の閉店がニュースとして報道されていたが、表参道という立地はそのメディア性の高さ、情報発信力を必要とする店舗の立地であって、もはやマクドナルドにとっては必要のない立地となっている。賃料に見合う採算が合わないのであれば閉店するのは当然である。
ところで、私のブログを読んでいる方々は十分理解されていると思うが、一昨年夏の中国製チキンナゲットの賞味期限切れ問題から売り上げ低迷が始まった訳ではない。それ以前から客単価を上げるために高級バーガー「1000円マック」を出したり、「100円バーガー」を販売中止したり、・・・・・・・・そうしたアクションについて「迷走」というキーワードを持って説明してきた。飲食業界は昔から、客数✖️客単価という図式で売り上げを考えてきた。そして、デフレ型商品が横溢する商環境にあって、低価格競争こそが客数を伸ばし、結果売り上げにつながると。一方、特色ある高額メニューの導入によって客単価を上げ、客数減以上の売り上げ増をはかる。この2つの考え方を行ったり来たりする、という迷走である。

相変わらずデフレ的状況にあって、「低価格」を超える方法が見つからない。昨年「未来塾」において「差分が生み出す第三の世界」という考え方、「差」をどのようにして創れば良いのかをいくつかの事例を踏まえて書いた。「未来塾」で扱っているのは「テーマ」を持って事例から学ぶことを主題としており、なかでも「商店街から学ぶ」における「砂町銀座商店街」についてブログへのアクセスが多くなっている。周りを大型商業施設囲まれた東京江東区にある古くからの下町商店街である。個々の商店の独自力もあるのだが、全体として一言で言うならば「賑わいの商店街」となる。その賑わいの心地よさは店と顧客とのコミュニケーション、活気あるやりとり、単に商品を売る、買うという商売を超えた人が行き交う「街」の心地よさである。これが他とは異なる「差」となって顧客を惹きつけるのである。

同じような「賑わいの街」は同じ「未来塾」で取り上げた「谷根千」も同様である。谷中、根津、千駄木、という戦災を免れた古い建物ばかりの広域エリアを観光地化させたことで再生できた街である。谷根千の場合は、その賑わいには訪日外国人もその一員となっているのだが、砂町銀座商店街の場合は個々の商店によるものであるのに対し、谷中銀座商店街の他に古くからの寺社や谷中霊園の桜や根津神社のつつじといった名所、あるいは歴史ある文化施設など観光地としての要素もある。こうした街は食べ歩きでも、季節の観光、散策であっても、それらの基本は「歩いて楽しい」ことにある。こうした街はいわば古さの残る街、Old New、古が新しいとした街で、Old Newを楽しむ街ということだ。

実は、今商業に求められているのがこの「楽しさ」である。日本マクドナルドにはこの「楽しさ」が徹底的に不足していた。マクドナルドが日本に導入された当初、米国と同様店舗のある地域住民、特に子供達との楽しいリレーション作りを盛んに行っていた。マスコットであるドナルド・マクドナルドが子供たちに心と体の元気を伝える存在として病院訪問など全国各地で活動していた。その活動内容は主に「ドナルドパーティ」「ハロー!ドナルド」「ドナルドエクササイズ」などであった。
このマスコットキャラクターは、例えばハッピーセットのおまけの玩具になることも多かったが、2000年代の日本国内ではほとんど姿を見かけなくなった。
何故なのか、デフレ型商品との価格競争ばかりに注力してしまい、こうした子供達との「楽しさ」を提供しなくなってしまった。効率を第一義とし、すぐさま結果を求める「客数✖️客単価」という呪縛から解き放されない限り、こうしたドナルドによるパブリックイベントは金食い虫として無視される。いや経営の阻害要因として扱われてしまったということであろう。

賑わいのある街、店とは、商売という視点から見れば、それは「客数」となる。ちなみに低迷し続ける日本マクドナルドの既存店は昨年12月まで32ヶ月連続して客数減である。その間多くの新商品を導入してきたにもかかわらずである。大量生産大量消費という工業化された商品の宿命としてある。「差分」のところでも書いたが、客数を伸ばすために「くら寿司」は専門店にひけを取らないラーメンやカレーといったサイドメニューを作り、立ち食いそばの「ともだそば」はカレー専門店並みの本格インドカレーを作る、・・・・・このように低価格以外で成長しているところの多くは全て「客数増」の戦略がうまく働いているところである。そして、面白いことに客数増という賑わいが顧客をさらに呼ぶということでもある。
こうした客数増のためのメニュー作りもあるが、店頭でのちょっとした一言も嬉しいものである。例えば、いくらクックパッドがあるとはいえ、変化のある健康な食事メニュー作りは大変である。そんな時、店頭に来た顧客に「この魚はあまり出回らないものだけど、煮付けにしたら子供でも食べやすくうまいよ」とか、「今年は暖冬で葉物野菜が安いから、ちょっと変わった白菜鍋でも」といった具合の一言である。実はそんな一言が「うれしい」心理の時代にいる。つまり、必要に迫られた買い物を少しでも楽しめるようにするのが商売人の基本である。必要であればネット通販でも、クックパッドでも活用することはできる。しかし、それでもなお足りない、顔が見えるどころか本気で言ってくれる「人」が欲しいと思っている。日本マクドナルドには決定的にそれが無かったということである。
あなたの街は歩いて楽しい街ですか? 
あなたの店は楽しさを提供していますか?
一人でも多くのお客様に楽しんでもらえる「何か」が用意されていますか? 
賑わいという客数増は「うれしい」の一言から始まる。CoCo壱番屋の廃棄商品が流通しているという不安心理の時代であればこそ、「うれしい」という一言が極めて重要となる。(続く)


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Posted by ヒット商品応援団 at 12:57│Comments(0)新市場創造
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