2008年11月23日

◆町の人気者

ヒット商品応援団日記No319(毎週2回更新)  2008.11.23.

予測通りというか、当たり前のことであるが、ボージョレ・ヌーボーで浮かれたお祭り騒ぎはなく、今年はワイン好きが家庭で楽しんでいるようだ。殺伐とした事件が相次ぎ、そんな気分になれるわけがない。ところで和歌山電鉄の猫の駅長タマ人気に続き、岩手では犬の駅長マロンを始め続々と「ゆるキャラ」を代表に町の人気者が出てきた。旭山動物園のペンギンの行進に話題が集まって以降、多くの動物園で人気者が生まれている。この時代、こころ和む、ホットする、チョット笑える、そんな出来事やキャラクター、特に生命溢れる小動物や人物では若い世代に興味・関心が集まっていく。

地産地消のモデルケースとして三重県多気町の自然休暇村にある高校生レストランが話題となっている。相可高校食物調理科生徒が運営する調理実習施設であるが、地元の食材を使った土日祝だけのレストランだ。自然休暇村にある「おばあちゃんの店」(農産物直営)の隣にあるから「まごの店」(http://www.mie-c.ed.jp/houka/syokumotu/mago.htm
とネーミングされたという。おばあちゃんを始め地元住民にとって、高校生はまさに孫のような存在で、そんな孫が作ってくれる食事はなんとも美味しいことであろう。近隣ばかりか大阪からも食べにくる人達で常に満席状態であると聞く。地産地消という地域活性の良きケースであると思うが、それ以上に注目されるべきは若い生命力溢れる高校生を舞台に上げ、地域の主人公にしたことだ。

こうした人気者は、町や村、施設や企業と幅広く存在するが、いわゆるイメージアップのための一種の「看板」を果たしている。江戸時代にも看板娘がいて、一目見たくて足しげく通う顧客が絶えなかった店があった。「鍵屋」という茶店の笠森お仙は美人画の絵師鈴木春信に一目惚れされ、錦絵に描かれ一挙にブレーク。以降、売上が上がることから看板娘を置く茶屋が増え、江戸市民のこころを惑わすとして幕府は禁令を出すまでになったと言われている。「茶屋に出す娘は13歳以下の子供か、40歳以上の年増に限る」と。いつの時代にも看板となる人気者はいた。

人気とは読んで字の如く、人の気を引くということで、時代の雰囲気や潜在的に求めている「何か」を良く表している。しかし、その人気が売上などの実績に即結びつくとは限らない。サブプライムローンにおける格付けのいいかげんさやミシュラン2009には昨年選ばれた4店が既に閉店していることなどは、人気ランキングといったガイド情報に頼らずに自らの体験実感に基づくことを教えてくれている。江戸時代にもランキングは盛んであったが、全て洒落の世界であった。

今年の流行語大賞にノミネートされた「くいだおれ太郎」も大阪ミナミの看板であった。しかし、看板ほどには売上は及ばず、飲食施設を撤退することが決まってから人気が出たようなものである。看板だけが一人歩きした良い事例である。「くいだおれ太郎」を看板倒れとは言わないが、実体に即した看板でないと意味がないということだ。同じ流行語大賞にノミネートされている「アキバ系」においても、秋葉原の看板である「メイド喫茶」は次々と廃業するか、内容を変えてきているのが現実である。私は半年以上も前に、アキバには既にオタクはいない、と指摘してきた。本来のオタクは「おたく」であり、そのおたく文化をマスメディアが取り上げ、マスプロダクト化した延長線上にメイド喫茶があった。独自なサブカルチャーを育ててきた主人公であるおたくは、当然逃げ出して秋葉原にはいない。情報の時代の看板は「一人歩き」するか、「瞬時に終わる」ことを覚悟しなければならないということだ。

人気者を創らなければならない、と考えてはいけないということである。相可高校の「高校生レストラン」は実習として調理されたものである。いわば味や盛りつけなどもプロと比較できない見習い料理である。しかし、孫のような生徒が一生懸命作る料理はとてつもなく美味しいのだ。情報の時代とは、ある意味プロっぽく作為することがまかり通る時代である。マスメディアに載る多くの人気店、あるいはランキングや格付けがそうだとは言わないが、どことなくうさんくささを感じ始めていると思う。
「高校生レストラン」のように、少し前まであった一生懸命さや熱意、まじめさという至極当たり前のことに気づき始めたということだ。そこには一切の作為はない。だから美味しく感じるのである。町の人気者は、結果生まれるだけである。(続く)


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Posted by ヒット商品応援団 at 13:51│Comments(0)新市場創造
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