2008年11月09日

◆Yes we can物語

ヒット商品応援団日記No315(毎週2回更新)  2008.11.9.

米国次期大統領オバマ氏の勝利演説を聞いた。実は当日は出かけていたので選挙結果だけは随時流されるニュースによって知ってはいたが、正確には翌日のYoutubeで演説内容を全て見て、更にはネット上にあった翻訳されたものを読んだ。実は、Youtubeで受けた感動と、日本語に翻訳文章化されたものを読み込むと感動の裏側に潜む、冷静なリアリズムが私には見えた。当然であると言えばそうであるが、Youtubeの動画はまさに情動を促すもので、文章化、言葉となったものは極めて緻密な理性によって構成されていた、そう感じた。

その象徴が選挙戦を貫いたキーワード、Yes we can(及びYes you can)の使い方である。アメリカは変われるという事例に、アトランタで投票したひとりの女性、106歳のアン・ニクソン・クーパーさんの物語を語るところに物の見事に表れている。この100年間にアメリカは多くの苦難を経験し、それらを見てきたクーパーさんはこうして長い行列を作って投票所に来ていると。その投票こそが、Yes you can、変わることができる、という意味を表しているとオバマ氏は話す。「Yes you can 物語」は、変革の主人公はこれからも一人ひとりのyouあなたであるという見事なシナリオ構成となっている。しかし、youとweとの間には、越えなければならない大小の溝があることをオバマ氏は冷静に見ているように私には思えた。それは翻訳された文章を読むと分かるが、「Yes you can 物語」に終始し、現実については一切語っていないことによく表れているからだ。weとして何をどう変えていくのか、変革すべき現実については語ってはいない。大変な現実主義者であると思う。

熱狂の一夜が明けると新聞各紙は変わることの困難さと日本の今後について論評した。時代の要請として生まれた大統領であるが、一歩政策を間違えれば期待の大きさと反比例するように、落胆も極端に大きく振れる。それは黒人初の大統領であり、人種のるつぼとなっているアメリカ、特に黒人にとっては、オバマ政権の失敗は、恐らく再度立ち上がるには100年かかるであろうからだ。
感動の勝利宣言とはうってかわって、これからはリアリストとしてのオバマ氏が現れてくると思う。これは推測の域を出ないが、選挙公約にあった環境問題への取り組みと新たな産業起こしにそのリアリズムが出てくると思っている。選挙中マケイン陣営はエネルギー政策として原子力発電所の新設を掲げていたが、一方オバマ陣営は環境への新たな技術革新、ソーラーエネルギーを始めとした研究開発を掲げていた。こうした環境問題への取り組みは、直近の最優先課題である自動車産業、ビッグ3への対策となって象徴的に現れてくる筈である。環境問題とは広く生活問題であり、技術革新は永続的に進化させていくべきものとしてある。産業の裾野は広く、結果あらたな雇用創出につながる。しかし、オバマ勝利宣言の翌日のNY株式市場の株価は大きく落とした。これはいかに米国の実体経済が悪くなっているかだ。

環境問題への取り組みは、否応なく「規制」から始まる。生産性論議からすれば、マケイン陣営の原子力発電エネルギーの方がはるかに効率が良い。洞爺湖サミットでも明らかであったように、途上国ばかりか当の米国自身がスタートであった京都議定書が必須であると誰もが思うことであろう。オバマ政権は、こうした問題にどう取り組んでいくのか、CO2の削減を含めた「規制」、その「目標」と目の前のビッグ3の立て直しにどんなリアルな解決策を見出していくのか、今後の米国の在り方が見えてくるであろう。今、ビッグ3への支援策が検討されているようだが、間違いなくお金と共にかなりシビアに口も出すと思う。

そして、環境を政策の中心に据えることは一般国民のライフスタイルの「変革・チェンジ」をも促すこととなる。世界の消費エンジン役を果たして来た米国であるが、日本人的感覚からすると消費大国とは浪費大国でもある。ところで、2002年頃ライフスタイルの調査結果から生まれたLOHASであるが、過剰な消費文明にアンチとして運動したLOHAS層は、今回のオバマ勝利にどう関わっていたのであろうか。あまり正確な情報はないので確信的なことは言えないが、オバマ陣営のボランティアにLOHAS運動を推進したメンバーが多数いたと思う。
環境問題という視点から見ていくと、youとweとの間にはかなりの意識差があるように思える。来年以降、この溝を埋める新しいライフスタイル運動が始まると思う。その推進役がLOHAS層であるかどうかは分からないが、LOHASの進化系「Yes you can運動」になることは間違いない。(続く)


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Posted by ヒット商品応援団 at 14:02│Comments(0)新市場創造
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