2008年10月26日

◆根拠ある楽観主義

ヒット商品応援団日記No311(毎週2回更新)  2008.10.26.

今大手書店の店頭には、「恐慌前夜」「貧困大国 米国」「ソロスは警告する 超バブル崩壊=悪夢のシナリオ」といったエキセントリックなタイトルの書籍が平積みされている。TV報道では乱高下する株式市場や円高、あるいは買収を含めた金融再編のニュースばかりである。確かに米国発の金融危機は人ごとではなく最大関心事ではあるが、今行われていることは危機を作った犯人探しをしているように見える。インターネットと高性能コンピュータによって、住宅ローンを小口にして編集しなおし、別な商品にして(証券化)全世界の投資家に向けて販売する。しかも、ヘッジファンドと投資銀行にはレバレッジというテコを使って、30倍の資金で取引できるというまさに博打そのもののような手法によって一斉に世界に販売された。しかも、例えばウオルマートの株価情報は誰でも手に入るが、サブプライムローンやCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)といった情報は一部の金融エリートだけがコンピュータ上で処理しており、それら商品はヘッジファンドや投資銀行に買われ、その先にある一般投資家には全く「見えない世界」であった。しかも、汚染された債権は分散され、あたかもリスクは0の如く扱われてきた。このことを一番よく知っていたのが、元FRB議長グリーンスパンであり、彼こそ張本人だ、といった具合である。そして、米国下院公聴会に呼ばれたグリーンスパンは容赦ない質問に自らの過ちを認めた。(http://www.nikkei.co.jp/kaigai/us/20081024D2M2401L24.html)レーガン以降の米国の新自由主義政策、市場は市場の原理に任せれば良い、とする考えそのものが破綻したことを牽引者であるグリーンスパンが認めたということである。

私は金融のプロでもないし、こうした犯人探しに興味は無い。「公益資本主義と金融資本主義」というテーマで少し前のブログでも書いたが、私たちが目指す社会経済はどうあるべきか、このことを痛みを持って学習しなければならないと思う。特に、実体経済、暮らしにどのような影響を及ぼしているか、その変化については大いに注視したい。既に読まれた方もいると思うが、村上龍さんが主宰する金融をテーマにしたJMMのなかで、米国に住む作家冷泉彰彦さんは「文明の裂け目」と題し、次のように米国の「空気」をレポートしている。

『昨日まで自信満々だったアメリカ人の心は、揺れに揺れています。・・・・・・ハッキリした方向性はまるで見えないのが現状です。ひたすらに、じっと耐えている、とにかく方向性が見えるまでガマンする、それが今週のアメリカの「空気」だとしか言いようがありません。』
そして、揺れ動く心理の例として
『例えば、この「暗黒の一週間」に人々が打ちひしがれていた10月10日の金曜日、深夜のトーク番組「チャーリー・ローズ」で、マイケル・マッキーというエコノミストが「我々は人的資源の配分を間違えたのかもしれません。限りある労働力をサービス産業に投入してしまい、製造業を担う人材を育ててこなかった、そうしたことも見直すべきだと思います」という「反省」を口にしていました。この番組では、他にも「クレジットカードの借金残高を増やしながら消費するというライフスタイルを止めるべきだ」という発言も出ており、いわば「良くも悪くもアメリカ流」とこれまで思われていたものを、ゼロから見直そうというかなり画期的な議論が続いていたのです。「反省」の苦手なアメリカ人が、ここまで「過去を悔いている」というのは明らかに異常です。』

そして、冷泉さんは米国の実態を反面教師として、今回の4人の日本人ノーベル賞受賞者に一つの哲学を見出しながら、アメリカとは異なる社会制度から技術革新、金融工学に至るまで、日本人の持つ「哲学の強み」を磨き創ることを提唱している。
また、反ブッシュ論者であるノーベル経済学賞受賞のクルーグマン教授はNewsweekのインタビューに、「今後は規制が広がり、証券化は減り、フロリダ南部の住宅ローンがノルウェーで保有されることもなくなるであろう。」と答え、社会経済の理想モデルを1980年代のスウェーデンに置く持論に対しては、「非常に平等主義的、民主的で、すべての人々の生活水準が高かった」と答えている。
冷泉さんのレポートやクルーグマン教授のコメントや持論を聞くと、バブル崩壊前の日本、昭和という「1億総中流時代」、社会主義国よりもっと社会主義的だと言われた日本が重なって見えてくる。

既に、日本においても中小零細企業の倒産が増加し始めた。実は金融機関の貸し渋りは昨年後半から始まっており、今や貸しどまり状態である。こうした金融に対する行政の指導や融資条件を広げるといった諸対策は必要であろう。そうした対策を早急に行うことと共に、立ち止まって根本から考え直してみることが必要な時だ。冷泉さんは「哲学の強み」という表現をしたが、古来から日本人は「自然に寄り添って暮す」という知恵を育ててきたことを想起すべきと思う。自然の本質は「明日は分からない」、だから今日一日を精一杯暮らすという自然思想である。それでも、江戸時代には大飢饉が起きた。なかでも被害が一番大きかったのが天明の大飢饉(1782〜7年)で、冷害に加え、岩木山や浅間山の噴火が重なり、全国で30万人以上が亡くなったと言われている。そうした経験を踏まえ、救済施設(セーフティネット)を整えたり、冷害や害虫に強い作物、さつま芋や蕎麦などを作っていくなど知恵や工夫を生活の中に取り込んできた。江戸後期には、治水事業を行い安定した作物が収穫できるようにと行政と農民とが一緒になって改革を行った二宮尊徳といったリーダーも現れてくる。そうした歴史という財産を持った民族である。今、その財産・DNAを発揮する時が来た、と覚悟をすれば良い。そして、一人ひとりが「根拠ある楽観主義者」になることだ。その「根拠ある」とは、国家レベルで言えばこれから「何で食べていくのか」というビジョンであり、生活者レベルで言えば「暴走する資本主義」を書いたライシュにならえば本来あるべき民主主義を体現する「市民」ということになる。久しく思想が語られることがなかったが、国も、企業も、個人も語らなければならない時代を迎えている。(続く)


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Posted by ヒット商品応援団 at 14:04│Comments(0)新市場創造
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