2015年03月01日

◆止まらない日本マクドナルド

ヒット商品応援団日記No606(毎週更新) 2015.3.1.

日本マクドナルドは1月の既存店売上が前年同月比38.6%減ったと発表した。マイナスは12カ月連続。昨年2月に前年割れが始まって以降、減少幅は8月(25.1%減)を上回って最も大きくなった。勿論、年初全国各地で異物混入が明らかとなった影響もあり、客離れが加速したこともあるが、問題の本質は日本という「市場」認識が間違っていることにある。そうした意味合いから「大いなる決断の時」に至っているとブログにも書いた。リスク管理などといった技術的な段階は既に終えている。市場認識を根底から変えない限り、つまり既にマクドナルドブランド(信頼)は毀損しており、少々の改善程度であれば右肩下がりのスパイラルは止まらない。情報によって浮き沈みする心理市場とはそうしたメカニズムが働く市場のことである。

私たちは消費を考える時、今から6年半ほど前「リーマンショック」という経験を踏まえて何事かを決断しなければならない。そのリーマンショック後の翌年2009年4月の家計支出調査を見てみると、前年同月比実質マイナス1.3%の減で、当時は多くのエコノミストは予測以上にリーマンショック後の景気は悪くないと判断していた。しかし、私は川上は輸入コストのインフレ(上昇)、川下は消費マインドの落ち込み・デフレという表現を使ってブログを書いたことがあった。実は当時と比較し同じような消費環境にある。所得は増えないことから家計支出はマイナス状態が続いており、円安による輸入コストの上昇から物価は上がり、8%という消費増税によって消費マインドの落ち込みは回復には至ってはいない。リーマンショック直後ほどではないにしろ消費環境は極めて厳しい。

そして、大きな変化に対し、需要(=市場規模)に見合った店舗展開を行ったのがファミリーレストランであった。2009年以降、すかいらーく500店、デニーズ200店、ロイヤルホスト100店大手3社で800店が撤退。そして、経営を立て直し、昨年夏デニーズやロイヤルホストは初めて2000円台のステーキメニューを出し、顧客単価も1000円台にまで戻し本来の安定経営に戻した。これも、顧客需要に見合った市場規模へと再編・縮小し、新メニュー開発による結果ということだ。そして、以降、消費増税にも関わらずファミレスはプラス成長となっている。

日本の外食産業における市場はある意味で特殊な市場となっている。米国の場合、マクドナルドの競合はバーガーキングやウェンディーズといったハンバーガーチェーンで、あるいはサンドイッチのサブウエイといったファストフードである。日本のように牛丼もあればカレー専門店もある。立ち食い蕎麦もあれば、ラーメン店もある。勿論、競合として重なり合うコンビニも。顧客にとって極めて多様な選択肢。メニュー、価格、サービスなど財布の中身から好み、あるいはその日の気分次第で食べるところは無数にあるいっても過言ではない。
例えば、最近売り上げ好調な回転寿司の「くら寿司」における競争相手はどこかと言うと、明快にコンビニが競争相手であると。回転寿司はファミレス市場を浸食して伸びてきた業態である。その回転寿司が今トライしているのがサイドメニューの開発である。恐らくサイドメニューに一番力を入れているのがくら寿司であろう。2012年11月には「7種類の魚介醤油らーめん」を導入。2013年には天丼、うな丼、2014年にはイベリコ豚丼、特上うな丼といった具合に丼メニューを拡充している。そして、2013年12月にプレミアコーヒー「KULACAFE」を展開すると、コーヒーに合うスイーツとして「フォンダン・ショコラムース」「イタリアンティラミス」「京風あんぶらん」「ニューヨークチーズケーキ」を販売開始。昨年9月に販売を開始した「揚げたて豆乳ドーナツ」も好評とのこと。

昨年ブログにも書いたが、コンビニカフェの次は何かと言うとドーナツで、ミスタードーナツやクリスピークリームドーナツも安閑としてはいられないと。こうしたコンビニを競争相手に学習しチャレンジしようとしているのが「くら寿司」である。経営的にも客単価を上げるだけでなく、価格競争の波を直接かぶる鮮魚を使う寿司とは異なり、やり方次第ではあるが、サイドメニューの方が利益を出しやすいという利点もある。

ところで、日本マクドナルドは「本格カフェコーヒー」を提供するコーナー“McCafe by Barista”(マックカフェ バイ バリスタ)の新メニュー「ショートケーキ with ストロベリーホイップ」「シュガードーナツ with ストロベリーホイップ」を、2015年3月3日から期間限定で販売するという。やらないよりやった方が良いとは思うが、それにしても周回遅れのような新メニューの導入である。
周知のようにセブンカフェはコンビニカフェにおいては後発であった。そして、「バリスターズカフェ」の壁を超えることが出来ず失敗もあったようだ。そして、完成したのがセブンカフェで2012年北海道での先行販売で缶コーヒーやチルド飲料の売り上げを落とすことなく、逆に北海道では調理パンやスイーツの売り上げが2~3割増えたという。そして、その後年間4.5億杯、500億円の大ヒット商品になった。つまり、新しい市場を創ったということである。これは伊藤園という最強メーカーの牙城であったお茶市場にあって、負け続けてきたサントリーが工場をはじめとした生産を根底から変え、その結実である伊右衛門を導入し、新たなお茶市場を創ったのと同じである。
今回日本マクドナルドを取り上げたのは、大きくは毀損したブランドはどう再生できるか、一つのケーススタディとして学ぶということである。そして、もう一つは日本市場には多種多様な飲食業態があり、提供する側はそうした競争市場から「何」を学ぶべきかというテーマについてである。(続く)



同じカテゴリー(新市場創造)の記事画像
マーケティングノート(2)後半
マーケティング・ノート(2)前半
2023年ヒット商品版付を読み解く 
マーケティングの旅(1) 「旅の始まり」後半  
マーケティングの旅(1) 「旅の始まり」前半  
春雑感  
同じカテゴリー(新市場創造)の記事
 マーケティングノート(2)後半 (2024-04-07 13:01)
 マーケティング・ノート(2)前半 (2024-04-03 13:59)
 2023年ヒット商品版付を読み解く  (2023-12-23 13:38)
 マーケティングの旅(1) 「旅の始まり」後半   (2023-07-05 13:25)
 マーケティングの旅(1) 「旅の始まり」前半   (2023-07-02 14:25)
 春雑感   (2023-03-19 13:16)

Posted by ヒット商品応援団 at 13:38│Comments(0)新市場創造
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。