2014年03月15日

◆平成の応援歌 

ヒット商品応援団日記No574(毎週更新)   2014.3.15.

卒業の時期になったが、今年もNHKの全国学校音楽コンクールの課題曲や森山直太朗の「さくら」が歌われるのであろうか。一方、卒業とは無縁である東日本大震災の被災地で歌われる唄はどんなものになっているのだろうか。放射能汚染が今なお続く福島にはさくらの名所が多く、高い汚染地域では誰一人愛でることも無く開花し散ることになる。
ところで20世紀以降のポピュラー音楽に多大な影響を与えたのがブルースであるが、19世紀後半頃に米国南部で黒人霊歌、労働歌などから発展したものと言われている。日本の場合はどうかと言えば、それは民謡ということになる。ウイキペディアによれば、明治時代に民謡という呼称になり、現存する民謡は58,000曲にもなるという。そして、その多くは第一次産業の労働歌であった。林業であれば「木挽き歌」であり、漁業であれば「江差追分」や「ソーラン節」、農業であれば「安来節」となる。これらがある意味日本のソウルミュージックとなる。

そして、戦後の日本を見ていくと、第一次産業が徐々に衰退し、第二次産業である製造業の時代を迎え、1960年代以降は歌謡曲の時代となる。映画「Always三丁目の夕日」の世界ではないが、集団就職として東北各県から東京へとやってくる。故郷を離れ、故郷を想う歌謡曲が生まれる。故阿久悠さんが作詞した「津軽海峡・冬景色」や「舟歌」がレコード大賞をとった歌謡曲の世界である。こうした歌謡曲を追いかけるように、ポピュラーミュージック、Jpopが生まれる。近代化・工業化が進んだこの時代、歌は労働歌ではなく、失っていくものを取り戻す歌となる。それは故郷や自然であり、家族や友人といった人であり、時として祭りといった地方の文化であった。ちなみに2010年度の産業別人口の割合(全国平均)は、第一次産業4.0%、第二次産業23.7%、第三次産業72.3%となっている。そして、東京の第一次産業はと言えば0.4%、割合が一番高いのが青森の12.7%である。

昭和から平成へと時代が変わった1990年代はどうかというと、時代に生きるという自己投影の一つであった音楽は特筆するような変化は無かった。無いというより、ある意味混乱した時代であったと思う。少し短絡した言い方をするならば、大人達が作った既成価値観、多くの神話が崩れ去った時代であった。不動産バブルの崩壊から始まった多くの神話崩壊、潰れない大企業神話、安定した終身雇用という神話、リストラという言葉が新聞紙面に初めて現れた。・・・・・そして、オウム真理教によるサリン事件、あるいは阪神淡路大震災という社会不安が若い世代を襲い、結果最後の居場所である家庭も崩壊し、都市を漂流する少女達を生み出した。この10数年、唄が歌える時代では無かったということである。

実は、3年ほど前から、オリコンの上位を占めるようになったAKB48についてブログに書くことが多くなった。その理由は秋葉原、アキバがサブカルチャーを生み出す街、オタクにとってその過激なこだわりを満足させる「何か」が存在していた。そのオタクの街を大きく転換させたのがAKB48であった。以前そんな転換点を次のようにブログに書いたことがあった。

『数年前まで誰も見向きもしなかった、冷笑すらされたAKB48が昨年ブレークする。卒業した前田敦子を見てもわかるが、「会いに行けるアイドル」という、どこにでも居そうな身近でかわいい少女はオタク達が創った日常リアルな物語と言えよう。そして、日本ばかりでなく世界各国にAKB48が誕生している。アキバはAKB48オタクの聖地になり、恐らく第三次マスプロダクト化が始まったと言うことであろう。』

そして、更にそのAKB48が大きく転換していることを次のようにも書いた。

『以前から秋葉原という街がオタクというサブカルチャー、いやカウンターカルチャーの申し子達を産んでいることに注視してきたが、AKB48もそうした芽の一つと考えてきた。ところが今回の選挙結果はどこにでもある政治選挙と同様の在り方を見せている。AKBオタクではない私であるが、指原莉乃はアイドルとして恋愛禁止というメンバーの掟を破りスキャンダルを起こした女性である。その女性が選挙の結果1位となり、センターを手に入れたということである。恋愛禁止というモラルハザードはどうなるのか心配であるとするAKBフアンもいるが、フアンのコアとなるオタク達にとってどのように感じているのであろうか。オタクにとってアイドルとは触れてはならない存在としてある。オタクがオタクであるゆえんは触れえぬアイドルとの握手会が唯一交流できる方法であった。その禁を破ったアイドルはアイドルとは思わないであろう。恐らく、AKB48を支えてきたオタクフアンは離れていくと思われる。つまり、秋葉原駅北口から数分離れた雑居ビルの上の小さな常設ステージで歌い、踊っていたAKB48も、アジアに進出するまで広がり、オリコンのヒットチャートでは上位を総なめにするまでとなった。つまり、見事にマスプロダクト化し、次のフェーズへと進んできたということである。勿論、オタクではないフアンが圧倒的に増えることによってオタクの臨界点を超え、結果アイドルもまた変質してきたということであり、指原莉乃はその象徴である。』

そして、このフェーズをオタクのアイドルから国民的アイドルへの転換であると指摘をした。アイドルとは人気者のことであり、幼い子供達からお年寄りまで、幅広い人気者になったということである。人気とは読んで字の如く、人の気を引くということで、時代の雰囲気や潜在的に求めている「何か」を良く表している。その「何か」についてであるが、「ゆるキャラ」人気と同じ根っこであると言える。
「ゆるキャラブーム」を下支えしているのは、プロのデザイナーではなく、漫画やアニメに慣れ親しみイラストを気軽に書いている若い世代がチョット投稿してみようかといった具合である。プロの小説家による書籍が売れない中、ケータイ小説のヒットもそうしたユーザー・顧客の側から生まれた。金融の世界におけるデイトレーダーも同様である。今までの作り手、供給者がユーザー・顧客の側に移ったということである。インターネットメディアが従来の提供者であるマスメディアから、YouTubeに代表されるような個人放送局への転換を促したのと同じ「根っこ」である。



つまり、素人が表現する術(メディア)を手に入れたということである。結果どういうことが起こったかというと、プロのような遠い存在ではなく、身近さ、親近感のある存在。AKB48のように「会いにいけるアイドル」であり、握手会にも参加できる存在に圧倒的な支持が集まる。あるいはプロの手による構えた、緊張感ある「美」ではなく、チョット手を伸ばせば触れることができる「かわいい」存在への支持となる。
作詞家故阿久悠さんは「昭和が世間を語ったのに、平成では自分だけを語っている」とし、そういう時代の雰囲気の中で、男の影が薄くなったのではないか、そんな男のために「熱き心に」という曲を小林旭に歌わせた。
AKB48は平成という時代の中で、「平成という世間」を共有することを選んだ。こうした共有への転換を決定的なものとしたのがあの「恋するフォーチュンクッキー」であった。明るく、リズミカルに”さあ、一緒にダンスをしよう!”と呼びかけ、多くの素人の参加を促した曲である。ここに平成のポピュラーミュージックの新しさがある。結果、あのど素人の「佐賀県庁」を始め各地域のご当地ダンスが次々とYouTubeに投稿するまでになった。みんな自分自身も含めて応援し合う、元気になりたいのだ。

平成という時代の中で、「平成という世間」を共有し合う、阿久悠さんの言葉を借りれば「平成の歌謡曲」の誕生だと思う。そして、やっとそうしたことを目指す熱い心を持った若い世代が出てきたということだ。
3年目を迎えた3.11であるが、AKB48も被災者への応援歌「風は吹いている」を歌っている。しかし、「恋するフォーチュンクッキー」の一コマにもなっているが、体育館で小さな子供達を前に”さあ、一緒にダンスをしよう!”と呼びかけて踊るシーンがある。「風は吹いている」における秋元康氏の詞も良いが、子供も、お姉さんも、おじさんもおばさんも、体を動かし元気になれる「恋するフォーチュンクッキー」こそ平成という「今」への応援歌であろう。
少し理屈っぽい説明になるが、第三次産業従事者が70%を超えた時代の応援歌は、素人同士、ごく普通の人間同士が共に励まし応援し合う歌、「共有歌」が求められていると言うことだ。(続く)



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Posted by ヒット商品応援団 at 15:50│Comments(0)新市場創造
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