2006年06月28日

◆未来の壁

ヒット商品応援団日記No76(毎週2回更新)  2006.6.28.

ここ1〜2年、全ての産業がサービス化されるに従って、「人」へのモチベーションアップの手法や仕組みが盛んに議論されてきた。つきつめていけば、違いという付加価値を最終的に産み出すのは「人」であると気づいたからである。それが、生産現場であれ、研究所であれ、勿論流通現場であれ、鉱物資源など持たない日本にあって唯一生産性と共に固有性という何事かを産み出すものこそ「人」であるということに行き着いた訳である。こうした人の成長を経営の中心においた企業の一つにダスキンがある。祈りの経営というユニークなポリシーをもつ企業であるが、その経営理念は人の本質をついた世界となっている。

「一日一日と今日こそは
あなたの人生が(私の人生が)
新しく生まれ変わるチャンスです
自分に対しては
損と得とあらば損の道をゆくこと
他人に対しては
喜びのタネまきをすること
我も他も(わたしもあなたも)
物心共に豊かになり(物も心も豊かになり)
生きがいのある世の中にすること 合掌 」(ダスキン祈りの経営理念)

さて、皆さんはこの経営理念をどう読み解かれるだろうか?ダスキン関係者であればその理念を自分の体験を交えながら話をすることだろう。私なら今風に置き換えると、養老孟司さんの「バカの壁」ではないが、自分の勝手な思い込みで決めつけていた「自分」を解き放ちなさいと。朝、目がさめたら新しい真っ白な紙にどのようにでも描けますよ、生まれ変われるチャンスですよ、と変われる自分であることを経営理念としてもっていると解釈している。毎朝、この経営理念を声を出し全員で確認し合っている会社である。40数年前に創業した当時のベンチャー企業であればこそ、こうした自ら変化を受け入れ変わることに躊躇しないエネルギーとアグレッシブさが必要であったのだと思う。しかし、40数年前も今も「変化」に対する受容に変わりはない。逆に、パラダイムの変革台風の中心に入っている現在こそ必要な経営であると思う。未来は茫洋とした先にあるのではない。今、変化し続けることの中にしかない。
今、個人化が進行し、ビジネスにおいても個人力の総和がビジネスの基礎となりつつある。米国では三千数百万人のフリーエイジェントが活動していると言われている。一昔前、”数パーセントの優秀な人間さえいれば会社は成長する”と言われてきた。実際、そうした数パーセントの人間によって伸びてきた事実もあった。しかし、今日そんな悠長な時代ではない。一人一人が戦力となって競争しており、社内の垣根を超えたプロジェクトやアライアンスといったビジネスが日常化している。個人+個人という足し算ではなく、個人×個人という自乗倍の世界へと変化するのが人のもつ潜在資源力である。そして、ビジネスは継続であり、個人ではその発想力やアイディアに限界があり、チームという考え・単位が必要になっていると思う。いわゆるチームによる「協業」である。映画やオーケストラ、あるいは農業における協業にも例えられるが、それぞれが専門分野という役割を果たしながら、相互に刺激し合い高め磨き上げる仕事術である。こうしたチーム経営、プロジェクト、アライアンスに重要なことは、先ずは明快な目標・目的をもつことである。
ところで話をダスキンの経営理念に戻すが、「損と得とあらば損の道をゆくこと」とあるが、どういうことであろうか?今から30年ほど前、ダスキンは化学ぞうきんというヒット商品によって、本部&加盟店というチーム経営が順調に回り始めたその時に、「損の道」を戦略的に採択したのである。次なる「変化」として、愛の店事業という「損の道」を創業者鈴木清一が提唱したのである。“ダスキンは、これからが本番。どのような損の仕方をして経営を広げていくか“私流に言えば、損という「未来投資」をどのようにしていくのか、という次なる経営目標・目的を明確にしたと理解している。そして、この事業によって、周知のダスキングループの経営の基礎ができたのである。ここから学ぶことは、個人の成長こそビジネス成長の第一歩との認識と共に、チームには常に「未来」という変化を取り入れ、更に「生まれ変わる」ことができるとする強い経営への意志だと思う。ところで、多くの人がワールドカップでの日本チームの戦いを見たと思う。変化=未来を取り入れ続けるとは、中田英寿のいう「90分走り続けること」であり、「ボールを奪い勝つこと」である。ある意味で「損の道」、捨て身で闘った中田と言えると思う。ブラジル戦終了後、ピッチに一人仰向けに寝て涙していた中田の姿に、個人の成長とチーム経営という難しさを重ねて見てしまったのだが、皆さんはどう感じられたであろうか。中田英寿はどんな次なる未来を描くのか見守りたいと思う。(続く)

追記 ちなみにブラジル戦前日、中田は公式サイトに次のようなメッセージを寄せている。
・・・・・・・・・・・・
“全力でブラジルを倒しに行く”
これが俺がやるべき事であり、やれる事。
もちろん、これまでの2試合も、全力で相手を倒しにいったけれども、今度のブラジル戦は最低でも“2点差以上”で勝たなければならず、得点を取られないようにするという問題以前に、得点を取らないとどうしようもない。1-0で勝つような試合ではなく、もしかしたら3-4で負けてしまうかもしれない、そんな試合をしたいと思う。
ともかく、守らなければならないものは唯一
“誇り”
これまでの自分の人生の為に、これまでの自分に関わってきてくれた全ての人の為に、そして最後の最後まで、自分を信じ続けてくれているみんなの為に、すべてを尽くして戦ってきたいと思う!! この試合が最後にならないことを信じ続けて……。ひで (http://nakata.net/jp/hidesmail/hml277.htm

追記  6月20日以前のブログをご覧いただく場合は下記のアドレスにアクセスください。http://remodelnet.cocolog-nifty.com/remodelnet/

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