2017年10月15日

◆リニューアルから見えてきた新価格帯市場

ヒット商品応援団日記No688(毎週更新) 2017.10.15.

ここ数週間訪日外国人市場を探るため、観光ガイドには載ってはいない日本の魅力を街歩きから見出すことに注力してきた。この仮説としての着眼点は来週からFacebookを通じて始めるのでご期待ください。
ところで本題であるが、タイトルにあるように「リニューアル」はそれまでの商業施設の課題解決のためのリニューアルのことで消費の潮流を見出すことをテーマとした。簡略化して言うとなると、時間経過と共に顧客要望にズレが生じ顧客が求める半歩先の「何か」を提示して、結果として売り上げや利益を回復する試みのことである。つまり、仮説ではあるが、顧客が求めている商品や価格帯などがリニューアル編集から透けて見えてくると言うことである。勿論、それが売り上げや利益に結びつくかどうかは、まずは1ヶ月ほど見ればわかる時代にいる。それほど顧客判断は早いと言うことである。

その商業施設のリニューアルであるが、首都圏の人であればある程度知っている横浜都筑区の中心、横浜市営地下鉄センター北駅隣の「ノースポート・モール」というショッピングセンターである。2007年に開業した郊外型の大型商業施設でSIASという投資顧問会社が開発し、テナントリーシングや運営をパルコが担当したSCである。スタート当初は幅広いテナント揃えを行なっており、駅からのペディストリアンデッキからの入り口2Fには渋谷109にも出店しているようなティーンズファッションショップが出店していた。つまり、ファッション専門店の比率も高く、年齢層もかなり幅広かった。
この都筑区という市場は、横浜市が港北ニュータウンとして大型開発した地域で、そうしたことから10数年前には「ベビーカーの街」として注目されたところである。そうしたことから阪急百貨店や東急SCなど大型商業施設が競って出店した地域である。そうしたことから、横浜市の中でも待機児童0と言われるように子育てしやすい緑の多い地域としても知られている。
こうしたことから各商業施設はその戦略を大きく変えていくこととなる。確か隣のセンター南駅の東急港北SCに出店していたGAPはGAPキッズの売り場を新設したり、阪急百貨店は従来の都心百貨店売り場作りからSCにおける専門店編集へと変更する。こうした中で、ノースポート・モールも東急不動産へと経営が移る。そして、今回10年ぶりにリニューアルし、そこから消費の潮流が透けて見える。

リニューアルコンセプトは、「港北NEW LIFE STYLE TOWN」として、9月15日にオープンし初日には千数百名が行列したと聞いている。そのリニューアルの狙いは2つある。
1つは明確な顧客設定で「子育て世代」に特化した専門店構成になっていること。もう一つが集積度の高い大型専門店を集めている点にある。そのリニューアル店舗は70店で約半数以上が変わる、そんなリニューアルである。
この2点を象徴しているのがユニクロ、ジーユー、無印良品の増床リニューアルで、特にその中でもジーユーは初の超大型店となっている。成長著しいジーユーであるが、標準店舗が約200坪であるのに対し、ノースポート・モールでは820坪となっている。そして、こうした大型専門店のみならず、ほとんどの店舗の商品ラインアップがウィメンズ、メンズ、キッズと、いわゆる子育てファミリーに徹底的に絞り込んだMDとなっている。例えば、複数のアパレルファッションブランドを展開しているアダストリアであるが、ファミリーブランドとして展開できる商品ラインを有しているGLOBAL WORKといったブランドが出店している。更にいうならば、大規模店舗を展開しているBOOK OFの場合も衣料についてはMODE OFとして同じような商品ラインアップ売り場が作られている。そして、こうした脱ファッションという視点で言うならば、ワールドの売り場ではindex始めいくつかのブランドを集めた売り場オペーククリップとして編集されており、ファッションブランドとしてはせいぜいこの売り場程度でリニューアル前のトレンドファッション売り場はほとんどなくなっている。つまり徹底した子育て支援集積がなされているということである。

このノースポート・モールは延床面積が14万1125.33m2、つまり約43000坪弱の大型商業施設である。店舗数は120店舗ほどで1店舗平均360坪弱となる。郊外型の場合は広域集客しなければならないことから坪数の大きな大型店舗化は常套手段ではあるのだが、ここまでの大きさは地方のSC以外には見られない。勿論、郊外であればこそできる店舗スペースで、私の言葉で言うならば「テーマ集積度の高さ」を追求できる商業施設である。そのテーマを価格帯として言うならばリーズナブルプライス、日常利用するにふさわしい値ごろ感のある専門店集積となっている。
この横浜市都筑区は横浜中心部にも近く、あるいは都心に出るのにも便利な地域であることから、いわゆるインポートブランドなどはそうした場所での買い物となる。阪急百貨店が苦戦し、SCのような売り場編集に舵取りを変更したのもこうした理由からである。こうした転換については、2009年の日経MJによるヒット商品番付を読み解くブログで次のように書いたことがあった。

『少し前にファミレスの元祖「すかいら~く」の最後の1店がクローズした時、新たな価格帯へと再編されてきたことを「新価格帯市場」というキーワードを使ってブログにも書いた。ファミレスにおいては客単価1000円の「すかいら~く」業態は客単価750円の「ガスト」業態に再編した。今回の番付にも、西の横綱の激安ジーンズは1000円以下、東の関脇の規格外野菜はわけあり価格、西の関脇の餃子の王将は安くて満腹、前頭のファストファッションは「フォーエバー21」のように上から下までコーディネートして1万円以下、更には韓国旅行、お弁当、sweet(宝島社)、・・・・・新たな価格帯市場を形成したシンボリックな商品が並んでいる。どれもこれもブログで書いてきた商品ばかりなので個々については触れないが、こうしたシンボリックな商品の価格帯を軸にして市場は再編されるということである。消費は収入の関数であり、この10年間で年間100万円収入が減少した時代にあっては至極当然のこととしてある。前回の番付に「ひき肉ともやし」が入っていて確かに不況期に売れる商品であるが、日経MJが載せることではないだろうと書いた。今回も同じ意味合いで「粉もん」(お好み焼き粉)が入っている。確かに、こうした不況型商品が売れる傾向は続いているということである。』

そして、こうした「価格」の津波は、あらゆる商品、流通業態、消費の在り方を根底から変えると断言した。そして、事実その通りに流通市場が再編されてきた。しかもアマゾンを始めとしたネット通販や今話題のメルカリをはじめとしたフリーマーケットの急速な拡大により、店舗販売からは見えないところでの消費が活性化してきている。つまり、有店舗商業はよほどの魅力が無い限り、店舗まで足を運ぶことがなくなってきたと言うことである。SC業界では郊外型SCの物販専門店の苦戦が言われているのもその背景にはこうした流通変化がある。
ところでノースポート・モールもそうであるが、郊外型SCが一番賑わっているフロアがあるとすればそれはフードコート、レストランフロアである。勿論、祝祭日であり、ウイークデーが込み合うことはない。ノースポート・モールもリニューアル以前からフードコートはあったのだが、新たにペッパーランチ、長崎ちゃんぽん、プラススパイス(カレーショップ)の3店舗が加わり充実させている。価格帯も600円から1000円未満と日常利用価格となっている。ファミリーユース、ママ友ユースという集える場、楽しみの場となっているということである。既に物を買う場というより、「集いの場」あるいは「娯楽の場」が集客のコアになっているということだ。10数年前から郊外型SCにはシネコンや大型ゲームセンターなどの集客装置が作られ休日集客が図られてきた。これらが表しているように、SCは物販店の編集によって、つまりモノを買うことだけでは成立しなくなってきたということでもある。

1年ほど前からデフレは日常化しそれが当たり前の消費となってきたと繰り返しブログに書いてきた。昨年のユニクロの値上げの失敗から始まり、無印やコンビニまでもが値下げに踏み切るたびに、生活者にとってそれら値下げは当たり前のこととして受け止められてきたということである。こうした消費変化を私は「もはやデフレは死語となった」と表現したが、ノースポート・モールのリニューアルを観察し、デフレの日常化が現実のフロアになったと強く感じた。
日本では昔から価格帯のことを松竹梅と表現してきた。この伝からいうと、「松」は百貨店における消費として縮小に向かい、「梅」はドンキ・ホーテに代表されるディスカウンターやアウトレットショップが続々と誕生し市場は拡大してきた。そして一番大きな「竹」という価格帯市場をめぐる競争が激烈なまでになされてきた。今、この「竹」というボリューム市場が分解し、それまでの「梅」に近い価格帯へと大きく移動してきた。ある意味、「竹」と「梅」とが重なり合いながら一つのSCの商品構成が行われている、それがノースポート・モールのリニューアルであると観察した。

実はこの「竹」価格市場の分解については多くの企業が失敗してきた。2014年春に新消費税が導入され各社それぞれの対応策が実施されてきたわけだが、低迷する百貨店業界にあって唯一増税にも関わらず前年比プラス1.1%と伸ばしたのが銀座三越であった。それはどの百貨店より早く免税手続きの世界最大手グローバルブルー(スイス)と提携し、伊勢丹新宿店、日本橋三越本店、銀座三越に免税店を設け訪日外国人受け入れを強化した結果であった。つまり、当時は「爆買い」と揶揄されたが、新たな市場開発の成果によってであった。ところがデフレの旗手と言われたファストフードはどうかといえば対応を間違えた結果となっていた。当時の状況を次のようにブログに書いた。

『次に外食チェーンの変化である。まず牛丼大手3社についてであるが、吉野家は牛丼並盛りを20円値上げして300円とし、松屋も10円引き上げた。一方、すき家は10円値下げで対抗した。既存店の客数を見るとすき家が4.8%減、松屋が4.4%減なのに対して吉野家は9.2%減と苦戦した。値上げした吉野家は落とした客数分を値上げによって補いきれなかったという結果である。すき家も値下げをしたにも関わらずマイナスであるのは人手不足による店舗閉鎖の影響によるものである。つまり、日常利用において20円の値上げは大きく吉野家は「暗」という結果となった。確か3月のブログにも書いたことだが、新メニューである牛すき鍋膳は冬場の季節メニューであり、次のヒットメニューが求められていると。ところが新メニューも無い上に値上げをして消費増税を迎えたことは、吉野家ブランドの過信であったということである。
また、普通の企業に戻ったマクドナルドであるが、100円マックを復活させて以前の市場を呼び戻そうとしているが相変わらず低迷したままで、4月の既存店売上高は、前年比3.4%減と3カ月連続で前年実績を下回った。ここ2年ほど迷走し続けたマクドナルドであるが、明るい材料もあり、特に若い女性を狙ったアボカドを使用したハンバーガーのように明快なメニューコンセプトに戻れば復活はあり得るであろう。』

そして、実は消費増税の壁を超えた企業がユニクロとニトリであった。ユニクロは国内既存店は6ヶ月連続のプラスで4月は前年比103.3%、ニトリは既存店売り上げは115.1%と2014年度に入り好調さを持続させていた。両社共に、2012年ごろから価格だけでなくデザインクオリティを高めた商品政策を取っており、こうした点が消費増税を超える顧客支持を得たということであった。しかし、そのユニクロも増税の壁を超えて「次」へと進めたのが例の値上げであった。周知の通り大幅客数減という失敗については昨年夏の柳井社長の決算発表の記者会見などのコメントについてブログに書いてきたのでここでは省略する。

一方、急成長してきた専門店もある。その代表例がユニクロの妹ブランドジーユーである。ノースポート・モールの820坪のジーユーを見て回ったが、ウィメンズ、メンズ、キッズというフルラインについても驚いたが、とにかく安いというのが第一印象であった。トレンドもそこそこ取り入れたカジュアル衣料だが、ユニクロと比較しても際立つ安さである。その代表的な商品が990円ジーンズということだろう。上から下まですべてで1万円以内という触れ込みで急成長しているForever21やH&Mと同じ価格帯を狙ったブランドである。ジャケット類は2990円、コート類ですら4990円と若い世代でも十分手がとどく価格帯である。ちなみにユニクロのコート類の価格帯は9900円~14900円と明確な違いとなっている。

もう一つ着目しておかないといけないのが日常利用の中心となる食品スーパーである。私も多くのSCのリニューアルを手がけてきたが、その第一の鍵は日常利用(=客数増)が図れるテナントをリーシングできるかどうかであった。具体的なSC名を言うことはできないが、最近においても郊外型SCの立て直しに食品スーパーが大きく貢献した事例を知っている。ノースポート・モールにおいては1Fにブルーミングブルーミーと富士ガーデンの2社が入っている。前社はいなげやグループの食品スーパー部門で、後社は精肉で実績のあるニュー・クイックのスーパー部門である。おそらく価格対応力のあるしかも生肉に特徴を出した食品スーパーで日常利用、周辺地元顧客を集客する狙いであったと思う。この2社いずれも価格対応力、値ごろ感のある品揃えが可能になることは間違いない。ただ食品スーパーは実際に使って食べて見ないことにはわからないことから断言はできないが。
ただ言えることは絞り込まれた子育て市場に対し、明快な「価格帯市場」が創られたと言うことである。そして、これからの売り上げなどの推移を見ていかなければならないが、これが標準価格帯、前述の「竹」と「梅」が混ざり合った市場が生まれるかもしれないと言うことである。2009年に私が仮説した消費の激変が大型商業施設丸ごと現実のものとなったと言うことである。
キラーコンテンツというキーワードがある。圧倒的な魅力によって新しい市場を開発・普及させる「何か」のことである。もっと平易に言えば、「強い目的買い」によって「ついで買い」を誘発するコンテンツといっても、それほど間違いではない。いずれにせよ、強く惹きつける「何か」のことであり、誰もがこのキラーコンテンツを探している。市場を一変させる、ある一つの物語、ある一つのプログラム、ある一つの使用方法であるが、その概念を広げればたった1店、たった1人、たった1メニューによって、市場が異なるフェーズ(相)へと移行してしまうコンテンツのことである。
価格という視点に立てば、そうした「何か」によって価格破壊が行われ、新しいスタイルが生まれるということである。そのことによって広がる新しい常識、新しい普通、それらが当たり前の消費生活になるということである。最近の事例で言うとすれば、「俺のフレンチ」など一連の業態はそれまでの「フレンチ」という概念を変えたミニキラーコンテンツと言えなくはない。今回観察した横浜都筑区のノースポート・モールの価格帯戦略がキラーコンテンツの「何か」となり得るかはわからない。しかし、周辺の商業施設に大きな影響を与えていることは間違いない。(続く)  
タグ :ジーユー


Posted by ヒット商品応援団 at 13:37Comments(0)新市場創造