2015年03月24日

◆いつか来た道

ヒット商品応援団日記No609(毎週更新) 2015.3.24.

未来塾に力を入れていたので、変化する「今」という消費場面で何が起きているかといったことについて疎かになってしまった。また、2015年に入りイスラム国による邦人人質事件、川崎中学生リンチ殺人事件、そして更にチュニジアにおける観光客襲撃事件といった大きな事件が相次ぎ、マスメディアもネットメディアも同様にメディアサーカス状態が続いている。唯一、消費に関する収入について大手企業の賃上げが果たされ中小企業や地方への波及が課題であるといったいつもの論調がアベノミクスの正念場として報道されている。

周知のように円安・株高の恩恵を受けた大手企業、あるいは業種でいうと自動車などの輸出企業、金融証券企業、建設関連企業、こうしたところはベアもさることながら一時金も予想以上の金額が提示された。そして、言うまでもなく株保有の個人、シニア層も恩恵を受け好況マーケットを形成している。更に、先日国土交通省から全国の地価が発表され、三大都市圏が2年連続で上昇していると。少し前のブログにも書いたが、円安ということで外国投資家による不動産投資が2014年度では1兆円近くに及んだように都市部の地価を押し上げる一要因にもなっていることが分かる。勿論、相変わらず地方の7割弱もの地域で地価が下落しているのだが。
また、百貨店協会による2月度の売り上げ速報値については少し前のブログにも書いたのでここでは結論だけとするが、訪日外国人、特に中国人観光客による売り上げ貢献が大きい。こうした「新市場」開発が可能な地域、都市部においては良い結果となっているが、地方においては低迷状態が続いている。

こうした状況を見るとITバブル崩壊後の2004年~2007年頃の首都圏のミニバブル状態を想い起こす。当時、年収3000万以上のための雑誌が続々と出版され、3Aエリア(赤坂、麻布、青山)といった一等地には高額賃貸マンションが1万戸あり、その内10%が月額家賃100万以上であった。そして、「新富裕層」や「ヒトリッチ市場」「隠れ家」といったキーワードが消費の世界に出てきた。より具体的にいうと、有職独身女性市場のことで、年齢は30歳以上、住居は都心の3Aエリアという赤坂、青山、麻布に住み、会計士や弁護士といった専門職、あるいは総合職の女性、外資系企業に勤めるといったキャリア女性市場を指していた。ある意味、都市、特に東京が産み出した特別な市場であり、地方においては想像し得ない市場であった。

ところで、消費増税による消費に関する家計調査のデータのなかで気になることが一つある。12月度の「勤労者世帯の収支」であるが、収入は0.8%減、消費支出も相変わらず3.0%減というマイナス状態であるが、もう一つのデータに「世帯の収支」という項目で、これまでとは異なる統計結果が出ている。それは「配偶者の収入」が17カ月ぶりに増加し、「他の世帯員収入」は14カ月ぶりに増加に転じている。つまり、主婦がパートなど働きに出ないと家計が立ち行かなくなっているサラリーマン世帯が急増していると推測される。また、『他の世帯員の収入』とは年老いた両親や子供の稼ぎと推測される。但し、2015年1月度については配偶者などの収入は横ばいもしくは減少に転じていることもあり、数ヶ月の傾向を見ていく必要がある。そして、12月と同じように配偶者の収入が増える世帯が出てきた時、本格的な赤信号となる。
実は、2008年9月のリーマンショックの翌年、同じような「収入増」を目指す動きが至るところで見られた。例えば、企業も本来であれば就業規則違反になる「副業」「アルバイト」などを黙認するような事態にまで至っていた。今回の消費増税以降、給与アップよりも、物価上昇の方が上回ったままという事態への自己防衛策がリーマンショック後と同じように出始めてきたということである。家計における収入・支出という面だけ見ると、リーマンショック後と今回の消費増税後が自己防衛策として同じような動きになっているということである。

ちょうど1年前には消費増税前の激しい駈け込み需要が起きていた。そして、増税後は節約を含めた買い控えが家計支出に如実に出てきた。しかし、もやしやひき肉が売れる景気低迷の時代、買い控えの消費にあって、売れている商品はある。その事例としてブログにも書いた「俺のシリーズ」のように、高級食材を使った一流シェフによる安価なメニューであるが、スタイルとしては立ち食い、といった「何か」を得るために「何か」を犠牲にするといった新しい合理的価値に消費は向かっている。実はこうした業態は既にあって、例えば話題のGINZA5の「俺のそば」についても、西新橋虎ノ門の「港屋」がかなり前から行列のできる隠れた立ち食い人気そば店として存在していた。

こうした新しい合理主義と共に、復活・回帰してきたのが、こだわりを超えたこだわり、職人技、名人、本物、伝統、といった懐かしいキーワードによる消費である。1990年代末からのデフレというプロ受難の時代にあって、こだわりより低価格、職人技の高価格より量産された低価格、名人による固有な価値より誰でも出来る素人価値、本物という希少価値でなくても一般平均的価値、・・・・・こうした傾向が続いてきたが、例えば数年前から土鍋で炊くご飯が美味しいと静かな土鍋調理ブームが起きていたり、あるいは鋳物ホーロー無水鍋で作るカレーが美味しい、熱伝導が素晴らしくステーキが焼けるフライパン。こうした少々高いが独自なこだわり商品が売れ始めている。また、ここ数年全国規模の店舗展開をしているカルディコーヒーファームもその特徴である輸入食品も少々高いが手に入りにくい商品が用意されている。料理道具もカルディのような輸入食品専門店も、一般的には「こだわり商品」と呼称されるが、一種の「隙間市場」を狙ったものである。隙間とは特定顧客にとっては「特徴」をもった魅力ということである。但し、こうした料理道具や輸入食材専門店という日常使い、手を伸ばせば買うことが出来る商品についてであり、こだわりの先には本物がある、そんな回帰が始まっているということだ。

前回のブログで「上野アメ横」における「雑食の楽しさ」について書いたが、その中で元気な雑食系女子が飲んべいオヤジの聖地である大衆酒場に出没していると。そうした光景について、あの漫画家中尊寺ゆっこさんが描いたオヤジギャルの世界を想い起こした。こうした現象も1980年代のバブル期を彷彿とさせるもので、当時のバブルファッションも復活し始めていると聞いている。つまり、昭和レトロばかりでなく、バブルレトロも懐かしくも新しい新鮮な世界として映る、そんな若い世代市場もあるということである。節約、買い控えといった内向きの時代は「過去」へと想いが向かう。いつか来た道ではないが、これも一つの隙間市場ということだ。(続く)
  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:28Comments(0)新市場創造