2015年03月10日

◆市場の浮き沈み

ヒット商品応援団日記No607(毎週更新) 2015.3.10.

中国の春節爆買ツアーが過ぎ都内も訪日外国人が少なくなったかなと思っていたが、それほどの減少を感じること無く至る所で見かけるようになり、ここ数年で東京の表情が一変した。ところでその春節爆買ツアーによるところが大きいと思うが、2月度の大手百貨店売り上げの速報値がマスメディアを通じて報じられた。その売上高であるが、三越伊勢丹は7%増と大幅に伸びた。免税品の売り上げは3倍に増えたと。 またそごう・西武は2.6%、大丸松坂屋百貨店は2.5%増え、阪急阪神百貨店は1.1%増と7月から8カ月連続のプラスを維持し、高島屋は微増だったと。
また、中国メディアによればこの期間に日本を訪れた中国人は約45万人、消費金額は約60億元(約1140億円)にも上ったという。
百貨店にとって春節爆買ツアーはボーナスのようなものであると思うが、今後は明確な「訪日外国人市場」としての取り組みが必要となる。特に、百貨店など小売り業ばかりでなく、円安による都市部の不動産投資が激しい。日経新聞によれば2014年の海外企業による日本の不動産取得額は1兆円近くに及び、前年の約3倍に増え過去最高となったと。
但し、こうした変化は都市に集中しており、観光という視点に立っても訪問率でいうと関東約70%、関西40%弱、東北3%前後、四国に至っては1%前後となっており、地方観光への波及は依然として少ない。

ところでその首都圏の変化であるが、3月には2つの「移動」に関する大きな変化が生まれる。その一つが周知の3月7日中央環状線の全線開通で、中心部首都高の混雑緩和が期待され、例えば羽田行きリムジンバスなどの利用が増えることになるであろうと。更に、首都圏の外側にあたる圏央道が神奈川区間や埼玉・茨城区間が開通し、湘南と北関東との移動がスムーズになった。残るは外環道であるが、こうした3つの道路網の整備は物流等への経済効果が大きいと予測されるが、それと同時に個人単位の移動に大きな変化をもたらすこととなる。その変化の中心は「観光」や「レジャー」であるが、今まで「行くにはチョット時間がかかる」とためらわれていた場所あるいは埋もれている物産などが新たに脚光を浴びることも出てくる。また、その反面、独自な魅力を更に磨かないと、「通過」されてしまうこととなる。つまり、エリア間の魅力競争がより激しくなるということである。

もう一つの大きな変化がJR東日本による「上野東京ライン」の3月14日の開業である。宇都宮線・高崎線と東海道線が結ばれるほか、常磐線が品川まで乗り入れることになり、京浜東北線と山手線の混雑緩和と利便性の向上が見込まれている。つまり、変化という視点に立つと、上野駅が従来の始発駅、乗換駅から途中下車駅もしくは通過駅に変化するということである。上野は上野公園の桜や上野アメ横の歳末の売り出しといった二大観光地の玄関となる駅である。その上野駅の1日の乗降客数は181,880人となっている。
さて「上野東京ライン」の開業によってこの乗降客数はどのように変化するのか。上野の街にどんな変化をもたらすのかということである。既にこうした直通あるいは相互乗り入れによって鉄道利用が活性化した例が東急東横線と東京メトロ副都心線の相互直通運転による変化を実感している。横浜市の調査では、この新ダイヤによって横浜みなとみらい地区への訪問は過去最多の約7,200万人に及んだと。前年からの比較では約500万人が増加し、国の試算では経済効果は65億円と相互運転の恩恵を受けたと報告されている。「上野東京ライン」によって乗換駅もしくは通過駅となる上野や御徒町は乗降客数は減少していくことが予測される。当然街は少しづつ変化していくこととなる。

訪日外国人市場、あるいは首都圏における2つの移動に関する変化によってもたらされる新たな市場、こうした新市場こそが「次」を目指す良き市場機会となる。未来塾で取り上げたヤネセンの谷中ぎんざ商店街もその最初の危機は昭和43年の地下鉄千代田線の千駄木駅開通による通行量の激変であったと。つまりご近所顧客の流出である。こうしたいくつかの危機を超える試みがヤネセン(谷中、根津、千駄木)という「面」での観光地化であった。詳しくは未来塾を再読されたらと思う。また、廃れてしまったもんじゃ焼きの再生をはかるきっかけとなったのも地下鉄の開通であった。月島に地下鉄有楽町線が1988年開通し、大人相手のもんじゃ焼きを提供する飲食店が10店舗ほど現れ始める。そして、今では70数店舗のもんじゃ焼き飲食店が軒を連ね、新しいメニューづくりなどを競い合うまでに成長している。

また、LCCという格安航空手段は移動市場活性化の大きな役割を果たして来た。そうした意味でスカイマークの再建は移動=経済活性化という側面においても是非再建して欲しいものである。通常のノーマル運賃による移動とは異なる新しい市場を創ってくれた移動手段である。経済・景気活性の基礎となるのが「移動」であり、人だけでなく物の移動を含め、移動を促す情報も含めたものとしてある。前述の中央環状線大橋ジャンクション―大井JCTの9.4キロだけでも総事業費は約3100億円。こうした費用に見合う経済成果を得られるかという課題は残る。課題の本質は「移動」はあくまでも何事かをするための手段であり、それだけでビジネスが生まれることはない。移動という大きな変化を市場機会とすることが重要で、やはり変化を受ける顧客が何を欲求しているかを探り、一つのビジネスとしての答え、出来るならば他には出来ない答えを持って果敢にトライするということである。
消費増税導入以降、財布と相談しながらより合理的な商品やサービス、よりお気に入りのものにしか消費しない、こうした消費傾向は今までも、これからも続く。つまり、仕入れ価格に準じて末端価格を上げてもなお2~3%のマイナス売り上げという状態、このままではじり貧状態が続くということだ。いつの時代も変化は破綻への道もあり、またチャンスにもなるということだ。
4月、桜見物を含め訪日外国人が増える季節である。また、首都圏においては2つの大きな「移動」の変化が具体的に出始める頃である。どんな新しい市場が生起しているか、またその逆にどんなところに市場下落が見られるか仔細に見ていくことが必要となる。(続く)
  


Posted by ヒット商品応援団 at 16:13Comments(0)新市場創造