2014年06月07日

◆本格化する消費の減速

ヒット商品応援団日記No582(毎週更新) 2014.6.7. 

4月度の家計調査の速報が発表され、消費支出は前年同月比実質マイナス4.6%の減。これはかなり大きな消費の落ち込みである。あと数ヶ月見ていくことが必要ではあるが、かなり厳しものであると認識しなければならない。ちょうど同じタイミングで4月度の新車の販売台数の発表があったが、前年同月比5.5%減とのこと。この減少幅を見ていくことも必要ではあるが、問題はその内容である。軽自動車は2.9%増と10ヶ月連続で増加し、一方普通・小型車は11.4%減と大幅なマイナスであった。ガソリン価格や税のことを考えたら軽自動車に乗り換えるという傾向がこの消費増税によって加速していると見なければならない。つまり、従来の消費支出からより合理的な消費への転換が加速しているということである。

こうした潮流が消費として顕著になったのが昨年夏以降の東京湾岸エリアの住宅需要であった。ローン金利を始め消費増税を「計算」した結果としての購入であった。そして、2014年4月はどうであったかというと、不動産経済研究所による首都圏のマンション市場動向調査によると、4月の新規発売戸数は前年同月比39.6%減の2473戸と、マイナス幅はリーマンショック翌年の2009年3月(46.2%減)以来5年1カ月ぶりの大きさであった。これは前回の消費増税のあった1997年4月のマイナス幅は41.0%減で、当時に匹敵するマイナス幅である。
同研究所によると「市場が好調だった2013年に前倒しで販売したこともあり、今後も減少傾向は続く」とみており、2014年の年間見通し(2013年比0.8%減の5万6000戸)を下方修正する可能性を示唆している。

ところで消費が大きく落ち込んだリーマンショックの翌年はどんなヒット商品が生まれていたかというと、あのLED電球のように長く使えば「結果お得」という計算された消費であり、車であれば燃費を考えたらHV車となる。この延長線上に軽自動車の好調さもある。ちなみに日経MJによるリーマンショック翌年2009年のヒット商品番付は次のようになっていた。

東横綱 エコカー、 西横綱 激安ジーンズ
東大関 フリー、    西大関 LED
東関脇 規格外野菜、西関脇 餃子の王将
東小結 下取り、   西小結 ツィッター

エコカー(HV車)」、「LED電球」、「下取りシステム」といった省エネ=省マネー商品が数多くヒットした。更に前頭には花王の「アタック Neo」という節水型洗剤やエコ容器のコカ・コーラの「い・ろ・は・す」も入った。そして、規格外野菜(=訳あり商品)も入っており、ここに表れている価値観は、費用対効果、費用対満足度、という新しい合理的生活への潮流である。

ところでリーマンショック後の翌年2009年4月の家計調査を見てみると、前年同月比実質マイナス1.3%の減で、当時は多くのエコノミストは予測以上にリーマンショック後の景気は悪くないと判断していた。しかし、私は川上は輸入コストのインフレ(上昇)、川下は消費マインドの落ち込み・デフレという表現を使ってブログを書いたことがあった。そして、食品のような生活必需品とは異なる選択支出の割合が高いサービス消費は落ち込むであろうと。サービス消費の代表としては外食産業であり、旅行などの余暇産業である。ブログの主要なテーマに選んでいるのも景気の指標となるからである。
リーマンショック後外食産業の代表であるファミレスは売り上げが落ち込み大手3社で約500店舗を撤退させることとなる。旅行については安近短というキーワードが流行ることとなった。確か日経MJであったと記憶しているが、観覧車があるSA・道の駅として人気のあった「ららん藤岡」を取り上げ、遊園地替わりに休日の楽しみとして使う家族が増えていると。今や当たり前のこととなっている休日の新しい楽しみ方であるが、これも新たな消費移動であった。

今回の増税による影響であるが、既にその芽が出てきており、新メニューや新市場の成否が売り上げを左右していることが分かる。明暗という表現をするとすれば新メニューが成功した「明」のロイヤルホストに対し、「暗」は新メニューもなく値上げをした吉野家となる。新しいメニューとは新しい満足度の提供であり、この明暗は計算する消費者にとっては至極当然な結果である。それは少し高いが独自なメニューを開発しているコンビニ弁当が4月度は二桁の伸びを示していることからも分かる。また、今年のGWの旅行については全体としては縮小・節約傾向にあり、まさにららん藤岡のような「小」旅行であった。話は元に戻るが、4月度の消費支出は前年同月比実質マイナス4.6%の減という数字は極めて大きいと自覚しなければならない。

こうした状況にあって、リーマンショック以降の価値潮流をキーワードとして言うと「省」となる。省エネから始まり、省スペース、省時間、省人間。人間についてもそうであるが、省く(はぶく)という単純な意味ではなく、生かし切れているかという意味も含めてである。今までのライフスタイル変化の中心は省時間であった。特に、都市型ライフスタイルの場合夫婦共稼ぎが多く、全てが時間に追われる生活であった。そうした意味で、省時間型道具、省時間型サービス、省時間型メニューに注目が集まり、いわば「便利さ」を生活へと取り入れてきた。しかし、こうした便利さを買ってきたライフスタイルから、省マネー型、しかもエコ型という新たな合理的なライフスタイル、しかもセルフスタイルへと変化し始めたと理解すべきであろう。そして、この潮流は更に綿密な計算に基づいたものとして、昨年の湾岸エリアの旺盛なマンション住宅需要へと向かったということである。そして、何故湾岸エリアなのかというとオリンピック誘致が決まり、取得マンションの資産価値は下がることはまず無いであろうとの計算もある。

1997年の消費増税の時は、企業も消費者もストレートに「低価格」へと向かわせた。以降、私たちはそうした潮流をデフレの時代と呼んできたが、さて2014年4月の消費増税導入は「何」に向かっているのか、今明確にすることが問われている。導入後わずか2ヶ月ほどの時間経過であるが、費用対効果、費用対満足度、という新しい合理的生活への潮流が強まっている。3月の駈け込み需要も、4月の消費の落ち込みも、消費者にとって「計算済み」ということである。結果、小売り流通の現場では消費増税という価格転嫁についても表面的には大きな混乱はなく、逆にいつもと変わらない日常となっている。しかし、消費者は既に計算をし「選別」に入っていると認識すべきである。
証券会社を始めとしたエコノミストは6月ぐらいから徐々に消費は戻るとコメントしているが、株価を上げるためにはそう言わざるを得ないからで、楽観論としてのそれではない。4月度の家計支出、新車販売台数、首都圏マンション販売戸数、主な指標を見てもかなり悪い結果となっている。しかし、常に指摘をしていることであるが、消費をしない訳ではなく、何から何へと消費移動をしているか、その裏側にはどんな価値観が働いているかを見極めることこそが必要であると。消費者は前回の増税、更にはリーマンショックを学習し、計算し尽くしている。そうした計算を超える商品開発やメニュー開発などを急がなければならない。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:24Comments(0)新市場創造