2014年02月12日

◆「今」を選択 

ヒット商品応援団日記No569(毎週更新)   2014.2.12.

東京都知事選が終わり、舛添候補が新都知事になった。ある意味当然の結果であると思う。「当然」という意味は、推薦した自公の過去の選挙実績やその組織力の結果であるという政治としての意味ではない。このブログは政治ブログではないが、各候補者が掲げた政策公約の選択がどうであったか、その意味合いについてである。ここ数年の生活者心理の動きからすれば、舛添候補が強く訴えた社会福祉や景気雇用といった政策課題解決への選択は「当然」の結果ということである。ちなみに、NHKの出口調査によれば、

「最も重視した政策は何か」尋ねたところ、「景気・雇用対策」と答えた人が最も多く、31%。 次いで「原発などエネルギー政策」が22%、「医療・福祉の充実」が21%、 「首都直下地震など防災対策」が8%、「教育・子育て支援」が7%、 「東京オリンピックの準備」が4%。 このうち最も多かった「景気・雇用対策」と答えた人のうち、60%余りが、舛添さんに投票したとしている。

東京に住んでいるとわかるが、東京は多くの点で日本が抱える問題の縮図となっている。例えば、少子高齢化といった問題についても保育所は少なく待機児童は8000名を超えている、いやその数倍にも及んでいるとの報告もある。高齢化といった問題にしても高度成長期に作られた多摩ニュータウンを始めとした団地群では単身・高齢化が進み、限界集落に近いところまで過疎化が進んでいる。更には保育所が少ないと同様に、特養のような費用面で入り易い老人ホームが決定的に少ない現実がある。
株高はごく少数の株保有者や金融関係事業者にとって景気は良いが、収入が増えてはいないことから、全体としては決して景気が上向いているとは言えないし、失業率が是正されたといっても補正予算による公共工事といった非正規雇用が多く、安定した雇用にはなってはいない。つまり、「今」ある現実課題をどうにかして欲しいという「内向き」な心理となっている。

一方、特に細川・小泉連合が掲げた「脱原発」が得票として伸び悩んだのも、大雪といった天候ということもあるが、これも「当然」である。勿論、得票は政策公約だけではないが、「脱原発」は福島の人たちにとっては切実な「今」も直面する問題であるが、残念ながら都民にとっては既に「今」の問題ではない。「脱原発」は直面する大きな生活上の問題ではなく、「明日」のエネルギー政策、ある意味「明日」の日本の方向といった文明論的課題である。政策公約面だけで言えば、都民は「明日」ではなく「今」を採ったということである。その象徴例ではないが、NHKの出口調査によれば、「東京オリンピックの準備」という「明日」のための政策はわずか4%である。

実はこうした「今」と「明日」を共に満たした魅力ある都市が東京にはある。都民にとってはここ数年住んでみたい街NO.1となっている吉祥寺(武蔵野市)である。井の頭公園という緑に囲まれた街というイメージから住んでみたい街と考えがちであるが、そうではない。かなり以前から待機児童0を達成し、30歳代の子育て世代だけでなく20歳代の若い世代の流入もあり人口も増加傾向にある。結果どうなるか、出生率も上がり少子化問題の多くを解決している。また、高齢化についても現在の子育て世代が高齢を迎える時代を見据えた長期計画も立案しつつあるという。
また、時代のトレンドを提供する商業施設と共に、戦後の闇市を思わせるハモニカ横丁という飲食・商店街もあり、新しさと古さが同居した独自な活気ある街となっている。そのなかには、40年間行列が絶えたことの無い和菓子の店「小ざさ」もこの横丁の一角にある。何故こうした街ができたかと言えば、3期目を迎えた武蔵野市長の前職は都市プランナーで、一言で言えば街づくりマーケティングの先駆者であったということである。(詳しくは今後ブログにも公開する「未来塾」にて)

こうした事例が既に東京にはあるのだが、生活者の「今」意識は選挙だけではなく、いや消費面においてはここ十数年強く出ている。ある意味デフレ経済の進行とパラレルなものとなっている。それは昨年秋からの住宅需要の動きを見てもわかるように、政府が消費増税後にも住宅取得への税制面を含めた助成策をアナウンスしても、ほとんどそうした動きにはなってはいない。予備校講師の林先生ではないが、買うなら増税前の金利の安い「今でしょ」という消費行動となっている。そして、前回のブログにも書いたが「今」を求めた激しい駈け込み需要が生活のあらゆる面で続いている。そして、そうした動きを加速するかのように、多くの小売り店頭には、「増税前に○○」というセールコピーが溢れかえっている。

こうした生活者の内向きな自己防衛的消費の他にも、パート・アルバイト求人の申し込みが急増しているという。2008年のリーマンショック後にも同じような職を求める人が増えたが、この動きは増税後もしばらくは続くこととなる。勿論、本業である仕事をやりながらの副業も活発化する。
また、先日JR貨物が駈け込み需要対策として輸送力を増強するとの発表があった。1997年の消費増税の時は、イトーヨーカドーを始めとした大手流通は「消費税分還元セール」を行い大ヒットした。この時他の流通も急いで仕入れを増やそうとしたが、生産&物流が間に合わず売れるチャンスを逃した経験がある。今回の激しい駈け込み需要をチャンスとするにはメーカーの増産と物流の体制が不可欠となっている。3月までの激しい駈け込み需要の後、「今」を求める内向きな生活心理が4月1日以降はどのような現象として表れてくるか恐ろしい感がしてならない。消費増税前の激しい駈け込む需要と共に、実はファストフードはマクドナルドを筆頭に軒並み大苦戦している。4月以降、非課税の商品やサービスを除きあらゆるものが値上げされる。ごく一部の経済アナリストは深刻なデフレ状態に落ち込むのではないかと指摘をしている。つまり、更に消費心理は内向きになり、食で言えば外食が減り内食へと向かい、円安理由から旅行も海外から国内へ、そして例えばメニューとしての新しさもある格安なクルージング人気が更に沸騰するであろう。消費が冷え込むといった程度ではなく、凍結状態になり冬眠へと向かう。つまり、今から冬眠を覚ます着眼やアイディアを考えておくということだ。(続く)
  


Posted by ヒット商品応援団 at 14:12Comments(0)新市場創造