2014年02月02日

◆消費増税をめぐる商品戦略

ヒット商品応援団日記No569(毎週更新)   2014.2.2.

4月以降の消費増税に備えた駆け込み需要が激しくなったと前回のブログに書いたが、やっとマスメディアもその激しさの内容に気づき始めた。前回のブログで百貨店が行った消費税5%のままでの「夏のボーナス払い」にいち早く顧客が反応し、売り上げを大きく伸ばしていると書いた。そうした税率への対応のみならず、まだまだ寒い時期であるにも関わらず既に店頭には駈け込み需要を狙った春物ファッションが並ぶようになった。3月になったら夏物が店頭に並ぶのではないかと半分冗談まじりの会話がなされるほどである。更には、4月になったら食卓に並ぶ食事はと言うと、賞味期限の長い缶詰やレトルト食品、あるいは塩乾物類が並ぶであろうと。そして、冷凍庫を開ければ保存された生鮮商品が詰まっていると。これらは冗談ではなく、ほとんど本気の議論がなされる状態である。

駆け込み需要とは消費増税前の消費のことであるが、この消費は必要となるであろう季節商品や買い替え時期を早める商品のことである。つまり、買い替え商品はPCや家電製品、家具・インテリアあるいはスマホなどが該当するが、増税前に「お父さんのスーツも購入」といった通常であれば消費の最後となる商品も当てはまるということである。当然であるが、予想外の商品まで売れるということである。つまり、それだけ自己防衛が激しいと理解しなければならない。この激しさを更にアップさせているのが円安による電気ガス料金の値上げを始め多くの生活必需品の値上げラッシュである。

こうした円安は旅行業界のメニューを大きく変え、海外旅行から国内旅行への消費移動については昨年のブログにも書いた。ところで、昨年の訪日外国人が1000万人を超え、中華圏(香港、台湾など)観光客も一時の減少から再び増加の傾向にある。この傾向は円安傾向と共に更に進んでいくこととなる。こうしたなかで重要なことは、外国人の日本への関心・興味を創りメニュー化していくことである。例えば、かなり前から指摘されているが、長野地獄谷野猿公苑の温泉につかるお猿さん目当ての観光客のように。また、以前から真夏のオーストラリアやニュージーランドから雪質の良い北海道ニセコにスキー客が押し寄せているように。
ユネスコの世界文化遺産に和食が選ばれたが、高級料亭の和食だけでなく、リーズナブルな和食を提供する外国人仕様の旅館や居酒屋なども流行ることになる。そして、インターネットの時代であり、どんな地方であっても外国人の興味・関心が見つかれば、YouTubeを使って集客することは十分可能な時代である。

こうした市場構造の変化と共に、消費増税を睨んだ「値下げ」商品が出始めた。その第一弾が日清食品の「ラ王」で、パッケージなど原材料の工夫によりコストを下げることができたという。希望小売価格現行237円を4月7日から39円値下げし198円にすると発表した。何と主力商品の16.5%の値下げである。これは苦戦するファストフーズ顧客がコンビニへと流れており、その背景には価格があることへの理解から生まれた戦略である。特に苦境に陥ってしまったマクドナルドが昨年値上げに踏み切ることによって客単価を上げ、利益を確保する戦略がものの見事に失敗した。その教訓からの値下げ戦略である。円安によるコスト上昇、プラス消費税アップ、という二重の苦難を強いられているのだが、昨年から指摘をしてきたが、例えば「すき家」のように価格面だけでなく、牛肉以外の原材料費の安い鳥や豚を使ったメニューへの工夫などで乗り越えなければならないということだ。
また、前回のブログで自販機の飲料の価格動向について書いた。自販機は10円刻みであることから全体として値上げ分を調整していく方向であると最大手の日本コカコーラの発表についてブログに書いた。そして、先日更にその個別商品として、ペットボトルの「い・ろ・は・す」の価格は据え置く(値下げ)するとの発表があった。これも日清食品の「ラ王」と同じ考え方に立っており、主力戦略商品は値上げしない(実質的には値下げ)という戦略ということである。マクドナルドの主力商品である100円バーガーやビッグマックの値上げ結果を見据えた判断ということだ。

ところで、昨年までのエコノミストは増税後の4月〜6月はある程度落ち込むが、それも限定的で1997年の増税時の落ち込み10%台には至らないであろうと。しかも1997年当時はアジア通貨危機、更には国内金融危機があったからであると。しかし、最近ではそうした発言は見られなくなってきた。年が明け、株価は低迷し、追い打ちをかけるように米国の金融緩和策が引き締めへと移行し始め、その影響から新興国に投資してきた資金が引き上げられ始め、アルゼンチンやトルコではインフレが始まったと。思い起こせば、1997年当時のアジア通貨危機はソロスを始めとしたヘッジファンドが資金を引き上げたことから始まった。そうした金融危機ほどではないにしろ、世界中で問題が起こり始めているという背景からである。
そして、一昨年の株価から50%も上がったのも外国人投資家、それもヘッジファンドによるもので、日本の機関投資家や一部個人投資家は売りこしている実態が続いていることを分かっている。今回の激しい駈け込み需要や値上げによって失敗したいくつかの事例を目の当たりにし、日本の賢明な経営者もそうした状況は既に熟知している。一方消費者もTVで報道されるような浮かれた景気にはないことを感じとっている。消費者も、経営する側も、等しく大変な時を迎えつつある。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 14:32Comments(0)新市場創造