2011年03月30日

◆3.11 大きくライフスタイルを変えた日

ヒット商品応援団日記No492(毎週更新)   2011.3.30.

東日本大震災から20日が経過した。今なお助けることが出来ていない多くの行方不明者がいるが、復旧から復興へと専門家を始め語り始めた。私の専門分野は「消費」である。消費という人間がもつ一つの欲望の変化のさまを分析するのが仕事である。明後日には4月となり、月末には百貨店協会から3月の地区別、商品別の売上が発表される。勿論、スーパーもチェーンストア協会から同様の発表があるが、今後の消費動向、ひいては日本経済のゆくえを見ていく上で極めて重要な指標となる。それは次の理由からである。

1)日本のGDPの60%弱を占める個人消費のゆくえ、特に首都圏のゆくえは日本経済に多大な影響を及ぼす。
2)消費市場は心理化されており、福島原発事故の影響は極めて大きく、私の言葉でいうと「冬眠生活」、自己防衛的、自己抑制的生活へと向かっている。この原発事故が仮にすぐさま収束に向かったとしても、心理の奥底には拭いきれない放射能汚染への恐怖が残る。(中国冷凍餃子事件の後遺症も大きかったが、その比ではない)
3)東電による計画停電は流通・サービス業にとって消費を確保出来ない致命傷となる。現在は被災地のことを考え、節電や営業時間の短縮や時間帯変更など、「停電マニュアル」に沿って実施されているが、夏場には再度計画停電が予測されており、つまり電力不安が解消されずに長期にわたる場合は、閉店や撤退、ひいては雇用不安などが生まれる。そして、既にその兆候は出ている。
4)消費とは直接関与しないが、今回の大震災によってトヨタやホンダが操業中止になったように東北には多くの優秀な部品製造工場がある。こうした工場の再開が急がれるが、被災地の復興計画というグランドデザインにもよるが、場合によっては東南アジアなど海外へと工場移転をしていく企業も出てくる。あるいは阪神淡路大震災後の競争力を失った履物製造業のように、廃業してゆく産業もでてくる。

こうした背景から参考となる指標を上げておくこととする。まず最初の指標はリーマンショック後の日本経済である。まだ、その実感は残っていると思うが、「派遣切り」といった流行語になるような失業という問題が起こる。消費においてはデフレが加速し、250円弁当に注目が集まり、日経MJのヒット商品番付にもやしやひき肉が入ったことは記憶に新しい。

・2008年10−12月 ▲13.5%(実質GDP)
・2009年1ー3月  ▲14.2%(実質GDP)
・2009年4ー6月   6,9%(実質GDP)
・2009年7ー9月   0.4%(実質GDP)
・2009年10ー12月  4.6%(実質GDP)
・2010年1ー3月   5.0%(実質GDP)
出所:内閣府

このリーマンショックの翌年、2009年の消費はどうであったか思い起こして欲しい。ちなみに日経MJのヒット商品番付けは以下であった。
東横綱 エコカー、 西横綱 激安ジーンズ
東大関 フリー、    西大関 LED
東関脇 規格外野菜、西関脇 餃子の王将
東小結 下取り、   西小結 ツィッター
東西前頭 アタックNeo、ドラクエ9、ファストファッション、フィッツ、韓国旅行、仏像、新型インフル対策グッズ、ウーノ フォグバー、お弁当、THIS IS IT、戦国BASARA、ランニング&サイクリング、PEN E-P1、ザ・ビートルズリマスター盤CD、ベイブレード、ダウニー、山崎豊子、1Q84、ポメラ、けいおん!、シニア・ビューティ、蒸気レスIH炊飯器、粉もん、ハイボール、sweet、LABII日本総本店、い・ろ・は・す、ノート、
そして、以下のような分析の要約をブログに書いた。
1、「過去」へ、失われた何かと新しさを求めて
2、「エコ」は生活そのもの、持続する新しい合理的ライフスタイルへ
3、「価格」の津波は、あらゆる商品、流通業態、消費の在り方を根底から変える
そして、まとめのコメントとして『私は数年前から消費は好みといった厳選から量や回数を減らす減選へ、便利さからセルフ方式へとゆるやかに移行してきたと指摘してきた。生活仕分けという俯瞰的視点に立ったキーワードであれば、まさに「省」の時代に入ったということだ。今年の流行語大賞は「政権交代」であったが、消費も「便利さ」から「省」へと交代したと言うことである。』と。

推測に過ぎないが、既に2011年4−6月のGDPが二桁台のマイナス成長になると言われている。つまり、リーマンショック後半年間のような景気になるであろうということである。少し古いデータで申し訳ないが、今回被災した県や影響を直接受けた都道府県のGDPは以下の通りである。(2006年度)
東京/92.3兆円、宮城/8.5兆円、青森/4.5兆円、岩手/4.5兆円、福島/7.9兆円,
地域を計画停電の範囲に広げ、首都圏や茨城、栃木、群馬などを入れれば優に200兆円を超すGDPとなる。つまり、日本の半分が直接・間接大震災の被災影響を受けているということである。つまり、大震災を直接・間接受けた地域のこれからの変化が日本のこれからの政策方針となり、個人においてもライフスタイルモデルとして生活のなかに取り入れていくこととなる。

リーマンショック以降、停滞していた経済、消費にも明るさが出てきたことはブログにも書いた。そして、数日前には日本百貨店協会から2月度の売上が発表された。東京地区の2月の売上高は約1081億円(前年同期比1.7%増)で、2か月連続のプラスとなった。主要5品目では、衣料品が4か月ぶり、身のまわり品が3か月連続、雑貨が2か月連続、家庭用品が6か月連続のプラス。マイナスは食料品が0.1%の微減となった。
また、紳士服・洋品が5か月連続、化粧品と家電が2か月連続、その他家庭用品が8か月連続、婦人服・洋品と菓子が3か月ぶり、美術・宝飾・貴金属が2か月ぶり、家具が4か月ぶりのプラスとなった。
つまり、衣料品も動き始め、紳士服といったお父さんにもやっとお金が回るように、少しだけ消費に明るさ、ゆとりが戻ってきたということである。しかし、一挙に消費は落ち込むことになる。おそらく誰もが暗澹たる思いで見つめる数字になる。

約1ヶ月後、その結果がでるが、単なる百貨店やスーパーの売上が落ちたということではない。消費というより、ライフスタイルそのものが変わる、その根底にある生活価値観が大きく変わるということである。
前回のブログで大震災を感じ取った徴(しるし)があると書いた。その時の表現として「戦後世代である私が言う言葉ではないが、何か両親が語っていた戦時中の生活のような感がする」と。この表現には何ヶ月とか、3年間とか、そんな時間単位ではない。道路の復旧とか、ライフラインが戻ったとか、スーパーの棚に再び商品が並んだ、そうしたことでもない。戦後の復興と同じように、大きな価値観の転換が一人ひとり問われているということである。その転換の一つが原子力発電、そのエネルギー政策についてであろう。快適で、便利で、そうした豊かさを、安いコストで享受することができたのが電力、とりわけ原子力発電である。しかし、一旦事故となるとクリーンエネルギーは放射能汚染を起こし、復旧には多大なコストと時間がかかる。当事者である東電に対し、国がエネルギー政策として原子力発電を推進してきたという責任を含め、これから行われるであろう補償費用に対応するための資本注入を国が引き受けると言われている。直接被害を受けた出荷禁止の農畜産生産者や汚染地域内で休業せざるを得ない工場や商店などの休業補償、更には、風評被害や計画停電による損失補償といった二次被害を含めたとすると、東電の売上規模を大きく上回るような補償費用となる。当事者である東電以外に国が関与するとなればそれは税金でまかなうこととなり、間接的に国民が負担することとなる。

おそらくこうした論議が一般生活現場のところで行われることとなる。もっと小さな単位の自然エネルギー政策、エコロジカルな生活、多少不便さを甘受するような生活を志向すべきか。あるいは快適で便利な生活はやはり必要であるとし多大なコストもやむを得ないとするのか。少し短絡的表現となるが、こうした価値観が論議されてゆく。勿論、この答えを出すとは二者択一といったことではなく、アイディアを含め極めて多くの時間を必要とするということである。そして、ライフスタイルが変わり、結果今までとは全く異なる商品が売れ、今まで使ってきた商品は全く売れないようになる。今まで概念として言われてきたパラダイムチェンジ(価値観転換)が具体的消費を通じ表現されてゆく。つまり、過去の延長線上にはなく、生活経営という視点に立てば、全くの0(ゼロ)から創り上げてゆくということになる。そして、5年後、10年後、3.11は大きな転換点であったと言われるであろう。このブログもそうした視座をもって書いていくつもりである。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 14:13Comments(0)新市場創造