2010年03月10日

◆まだら模様に、第三の市場

ヒット商品応援団日記No450(毎週2回更新)  2010.3.10.

少し前に、西武百貨店とYahooショッピングのコラボレーション事例を取り上げて、仮想と現実、虚構と体験、これらの「行ったり来たり」全体を視野に入れたビジネスを考えなければならないとブログに書いた。流通というライフスタイルを映し出した世界を象徴的に見てきた訳であるが、もう少し大きな「パラダイム(価値観)の転換」という視点でこの「行ったり来たり」を考えてみたい。

ライフスタイル変化を見ていくには「食」に注目すると良いのだが、最近東京の「食」で話題となっているのが「野菜料理」である。量をこなすレストランでは郊外農家から畑を借りて作られた自家製野菜をメインディッシュにしたものだ。焼く、蒸す、煮込む、素材の持ち味をいかしたもので、いわゆるヘルシー系の代表的な食である。一方、ガツン系は無くなったかと言うとそうではない。若い世代を中心に特盛り人気は根強く存在している。こうしたガツン系のなかでヒット商品となったのがマクドナルドの「テキサスバーガー」を始めとした”Big America”キャンペーンであろう。前者のヘルシー系を若い女性、OL層、後者のガツン系を若い男性、学生層が中心となっていて市場はまだら模様の如くではあるが、この2つの異なる市場を「行ったり来たり」する市場もある。この異なる市場の往来を促しているのが、各種カロリー計算と消費を促す体重計や万歩計といったソフトと機器類である。つまり、5〜6年前のようなサプリメント依存症に象徴されるような極端なダイエットではなく、食という欲望をセルフコントロールする時代に入ってきたということだ。つまり、「行ったり来たり」という第三の市場が生まれつつあるということである。

このように従来の考え方では相対立する価値観が、ヤジロベーのように振り子が一定のところに収まるような傾向が出てきている。例えば、表通りと横丁路地裏。どこにでもあるつまらない表通りを避けて横丁路地裏散策が盛んであるが、表通りに変化が起きることによって表も裏も活性する事例が出てきた。その代表的な通りが東京の表参道であろう。表通りには高級インポートブランドのフラッフショップが並んでいるが、横丁路地裏にはマンションメーカーなどの小さなショップがあり、そんな強い個性を求めて若い女性達が集まっていた。こうしたどこにでもあるブランドの表通りを一変させたのが2006年にオープンした「表参道ヒルズ」である。行かれた方は分かると思うが、若い女性達にとって手が届かない高価格のものは少ない。その多くは買いやすい、利用しやすいものばかりだ。そして、昨年のクリスマス時期に表通りがLED電球によるツリーで彩られることによって、シニア世代も若い世代も歩きたくなる街、歩いて絵になる街へと変貌した。つまり、表通りと裏通りを行ったり来たり、という面として活性化し、そこに新たな市場も生まれたということである。

第三のビールではないが、従来の異なるものとの融合、今風に言えばハイブリッドな市場に着眼することである。男と女、若い世代とシニア、洋と和、ハレ(非日常)とケ(日常)、人工と自然、昼と夜、オリジナルと複製、高機能と単機能、トレンドと定番、所有と使用、・・・・・こうした異なるものとの境界、境目に新しい市場が生まれてくる。例えば、ハレ(非日常)とケ(日常)の対比のなかでは、ハレの日は記念日、特別な日として華やかさを暮らしに取り入れるが、ケは慎ましく済ます。ある意味その境目である週末の過ごし方に新たな市場が生まれる可能性があるということだ。既に、人工と自然という対比のなかでは、その境目には里山があり、この里山のある住宅を積水ハウスは数年前から販売している。昼と夜という対比のなかでは、その境目は早朝と深夜ということになる。早朝には多くのセミナーなど自習機会が組まれていたり、深夜にはコンサートや芝居が組まれているように。オリジナルと複製という対比では、ロングセラー商品となった「かにかま」等が該当する。複製を芸のものまねとすれば、コロッケなんかは芸として確立しており、オリジナルと複製の境目と言えなくはない。

そもそもカジュアル衣料のGAPはそのギャップというネーミング=コンセプトにあるように、男と女(性差)、若い世代とシニア世代(年齢差)といったギャップを埋めるところに着眼した。このGAPをお手本にしたのがユニクロで、大ヒット商品となったフリースはユニセックス商品である。
今、最も着目されているのが価格帯で、高価格と低価格、この価格差の真ん中の価格ゾーンである。既にホテル業界ではシティホテルとビジネスホテルの中間ゾーン、ビジネスホテルとカプセルホテルの中間ゾーンに第三の市場開発を模索している。あるいは、本格和食や本格フレンチとB級グルメとの中間価格ゾーンへの進出も見られ始めており、本格派は中間価格ゾーンであるランチマーケットを開発し、これも第三の市場と言える。この第三の市場では既に「鎌倉シャツ」のように紳士服量販店の低価格シャツと百貨店における高価格シャツとの中間ゾーン5000円という価格帯で成功している。
この2年半ほど低価格戦略が市場を席巻してきたが、ある意味隙き間市場であった中間価格ゾーン市場へ、第三の市場へと向かい始めた。つまり、巣ごもり生活は続いてはいるが、相対立する概念市場としてはっきりとしたまだら模様は、その輪郭が崩れ、新しい市場の芽が出てきたということだ。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:44Comments(0)新市場創造