2009年05月27日

◆激変する消費への指標

ヒット商品応援団日記No370(毎週2回更新)  2009.5.27.

ここ数ヶ月、特に1ヶ月ほどは危機に関する内容ばかりであった。先日政府は1月〜3月期のGDPが戦後最悪である−15.2%を踏まえ、こうした最悪の状態を脱したと発表があった。が、3月度の完全失業率は4.8%、失業者数は335万人と増え続けている。日本商工リサーチによる4月度の企業倒産件数は11ヶ月連続して増加し1329件。その内容であるが、件数は増加しているが負債総額は減少している。つまり、昨年は主に大企業の破綻の年であったのに対し、今年は中小企業に破綻が向かっているということであろう。つまり、危機は70%以上を占める中小企業、多くの労働者、つまりごく一般的な日常に本格的に押し寄せてきたということだ。

前回、消費は氷河期に向かっていると書いた。関西での新型インフルエンザに対し、通勤客・通学生徒のほとんどがマスク姿という異様な光景を自己防衛の象徴として指摘した。政府は「心配ありません、冷静な対応を」とCMまで動員するが、つまり誰もCMなど信用しないからであろう。信用できるのは自分と家族、それに長く付き合った分かり合える人達だけと思っているからだ。今年に入り、外需頼みから内需、個人消費の活性をと言うが、単純に消費のことを言えば、消費に回せる収入と、この「信用」足り得る社会が存在しえて初めて消費は活性される。数式として単純化してみると次のように表現できる。
y(消費)=a(収入)x(信用)
不安の時代とは信用できない時代のことであり、信用が小さくなれば消費も小さくなる。収入から消費を引いた残りは投資ではなく、安全な国債や預貯金へと回る、これが経済の原則であり常識である。

信用収縮は金融ばかりではない。社会や生活のあらゆる領域、局面で信用収縮が起きる、これが消費氷河期の特徴である。ヒト、モノ、カネ、情報の移動が小さく、しかも遅くなるのが特徴である。こうした氷河期の生活ビジネス潮流の第一は内製化として始まる。出来る限り自分で作るということである。既に1年以上前からこうした傾向は始まっている。東京の浅草近くの道具屋街には、普段はプロが買い求める調理道具専門店に素人である生活者が道具を求めて訪れている。いわゆる内製化であるが、もう少しかっこつけていうと、ホームクリエーションということになる。家の中のことを自ら楽しみながら費用を節約し、しかも自ら作ることで究極の安心を得る生活である。

寒い氷河期を暖かく過ごすための消費は活性する。極論ではあるが、衣食住遊休美知といったジャンルの全てにおいて家庭内もしくはホームグランドで行われるということである。宅配ピザやネット通販の好調さばかりでなく、従来高額サービスといわれてきたホームパーティのデリバリーサービスもかなり安価なメニューが生まれてくると思う。一昨年からの大ヒット商品であるWiiも継続した売れ行きを見せると思う。薄型TVもエコポイントの後押しも若干あって売れていく。外出着は売れないが、家庭内のカジュアルなものは売れるという事だ。消費移動という言い方をすると、外側にあった商品やサービスは内側・家庭の中に移動して消費されるということだ。

更に、従来は便利さに価値を認めたり、プロの専門性に価値をゆだねてきたが、そうした付加価値と呼ばれてきたものへは支出を減らすようになる。飲食サービスで言うと、お任せ料理、コース料理からアラカルト料理に移動が起きる。つまり、GSと同じようにセルフ式になるということだ。お金の使い方は専門家に任せるのではなく、自身の納得の上でお金を使うという事である。今以上に理容や美容・エステといったサービスもセルフ式へと変化していくであろう。便利さの代表的な業態であるコンビニも価格を引き下げ始める時代である。便利さとは、プロとは何かが更に問われていく時代だ。逆に、プロは個人がどうしても追いつけない世界を創っていくということである。

こうした内側への巣ごもり生活を見ていくには時間がかかるが、氷河期であることの指標としては、やはり行楽・観光といった遊びの分野の消費変化を見ていく事であろう。昨年夏、あるいは昨年末の旅行のキーワードは安近短であった。この春から燃油サーチャージが無くなり、安いツアー料金が目白押しとなり、気軽に手軽に旅行を楽しめる環境とはなったが、今年の夏も安近短志向は変わらないと思う。行動半径は小さくなり、新しい場所ではなく以前旅行した経験のあるところに行くことになる。こうした傾向と共に、以前から指摘してきた「替わり消費」や「つもり消費」が出てくる。昨年のヒット商品であったデパ地下のおせち料理のように、「××へ出かけたつもりで家でチョット豪華なおせちで正月を祝う」こうした代替消費である。私の言葉で言うと、「消費移動」であるが、おそらく考えつかないような消費移動がこれから現実化する。昨年夏、都心のホテルで実施された消費移動の実例であるが、ホテルの庭にカブトムシなどを放し、昆虫採集メニューを作り、家族集客を計ったホテルがあった。こうした里帰りした実家での「昆虫採集体験の替わりメニュー」といった「替わり消費」である。今年の夏休みの過ごし方にもアイディア溢れるメニューが出てくるとということだ。こうした消費も氷河期ならではの消費移動であろう。ところで、新しいアトラクションを次々と導入し、唯一来場者数を伸ばし続けているのが東京ディズニーリゾートである。このリピーターの多い東京ディズニーリゾートの来場者数がマイナスに転じた時、本格的な氷河期に入ったと見なければならない。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:21Comments(0)新市場創造