2009年03月29日

◆拝啓 旅立つ君へ

ヒット商品応援団日記No353(毎週2回更新)  2009.3.29.

タイトルの「拝啓 旅立つ君へ」は、3月26日(金)の夜7時30分から放送されたNHKの番組タイトルである。私は7時からのニュースを見終わった後、チャンネルを変えずそのままにしていたが、アンジェラ・アキという名前を耳にして、実はそのまま1時間15分もの間見てしまった。アンジェラ・アキの「手紙」という曲は以前から耳にしていたが、この曲がNHKの全国学校音楽コンクールの課題曲であることを実は知らなかった。この曲を受け止める若い中学生のこころの世界が、あの夜回り先生こと水谷修さんがネット上に開設した掲示板「春不遠(はるとおからじ)」と重なって見えた。アンジェラ・アキと中学生との交流を描いたドキュメンタリー番組であるが、いじめや友人との確執、担当教師との溝、悪グループへの誘惑、誰もが一度は通る世界であるとはいえ、アンジェラ・アキの創った「手紙」に共感する中学生に、団塊世代である私もああ同じだなと印象深く最後まで見てしまった。

アンジェラ・アキは、未来の自分に宛てた手紙なら素直になれるだろう、だから「未来の自分に手紙を書いてみよう」と呼びかける。そして、生まれたのが「手紙」という曲だ。「拝啓 ありがとう 十五のあなたに伝えたい事があるのです」というアンジェラ・アキからの応援歌である。

「大人の僕も傷ついて眠れない夜はあるけれど
苦くて甘い今を生きている
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ああ 負けないで 泣かないで 消えてしまいそうな時は
自分の声を信じて歩けばいいの
いつの時代も悲しみを避けては通れないけれど
笑顔を見せて 今を生きていこう」

ありのままの自分でいいじゃないか、時に疲れたら少し休もうじゃないか、とメッセージを送る「ガンバラないけどいいでしょう」を歌う吉田拓郎とどこかでつながっている。情報の時代という凄まじいスピードに、生き方までもがからめとられてしまう時代にいる。過剰さは情報やモノばかりではない。生き方までもが知らず知らずの内に過剰になってしまう。少し前にも書いたが、足し算ばかりの過剰な生き方から引き算の生き方へと変化し始めている。引いてもなお残る自分、そんな自分を見出す時代だ。

何が起こってもおかしくない時代。今、安定・安全志向が叫ばれているが、漫才コンビ麒麟の田村裕さんによるベストセラー「ホームレス中学生」ではないが、既にそんな安定などありえない時代を生きている。リストラに遭った父から、「もうこの家に住むことはできなくなりました。解散!」という一言から兄姉バラバラ、公園でのホームレス生活が始まる。当たり前にあった日常、当たり前のこととしてあった家族の絆はいとも簡単に崩れる時代である。

そんな時代にあって、「人生って捨てたもんじゃないよ!」というのが水谷修先生の口癖だそうだが、中学生と較べ少しだけ休む術と楽しいこともあることを経験している大人も、実は小さな夢を追いかけようとしている。3年ほど前、このブログにも書いた記憶があるが、団塊世代が消費市場に現れるとすれば、それは子供の頃貧しくて果たせなかった夢を果たすことにお金と時間を使うであろうと。20年近く前に団塊世代の消費傾向を調査したことがあったが、子育てを終えたら何をしたいかと聞いたところ、その多くは少年・少女期に思い、果たせなかったことをしたいと答えていた。その中には、パン屋さん、あるいは花屋さん、コックさんというのもあった。

先日、京都で新聞記者をやりながら田舎暮らしをしている友人と久しぶりに会った。日本一美しい里山といわれている旧美山町での暮らしであるが、記者を辞めたら近くの水田を借りて米づくりをするという。ある意味、田舎暮らしを小さなビジネスにしてみたいという小さな夢である。
私がやっている沖縄の起業塾にも同じようなメンバーがいる。子育てを終え、夫婦二人で大好きな沖縄北部に移り住み、おそらく沖縄では初めての焼き鳥の移動販売をしているメンバーである。焼きたてを食べる食習慣のない沖縄では多くの困難さがあるのではと質問したら、焼き鳥が好きでどうしてもやりたかったと笑って答えてくれた。これも小さな夢へのトライだ。

5〜6年前に盛んにいわれてきた団塊世代の消費市場である旅行と趣味。勿論、それなりの市場を形成しているが、それのみの楽しみだけであれば単なる老人市場だ。60歳にして人生を変えてしまうような、心震わせる失望や喜びを経験したいとする人も多い。それは「好き」を仕事として生きてみたいということである。
団塊世代も、アンジェラ・アキのいう「未来の自分に手紙を書き始めた」ということだ。15歳の中学生も、60歳の団塊世代も、未来を描き旅立つことにおいて同じである。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:59Comments(0)新市場創造