2008年10月05日

◆市場(いちば)の再生へ

ヒット商品応援団日記No305(毎週2回更新)  2008.10.5.

先日、久しぶりに商業施設のデベロッパーの人達と数時間話をする機会があった。流通は生活者の消費動向を見る上で、いち早くしかも数字で現れてくる。いわば、消費を映し出す鏡である。勿論、売上は低迷というより、明確に落ち込み続けていることはいうまでもない。話題は、そうした消費の低下に対し、出店テナント、専門店はどう考え行動しようとしているか、更にデベロッパーはどう次のテナント編集を考えていくべきか、というテーマであった。

2000年を過ぎ、多くの商業施設のデベロッパーは時代の変化スピードに対応するために、従来のテナントから多額の保証金を取って建築資金としたビジネスモデルから、定期借地権という短い期間の契約に基づいたビジネスモデルへと転換し始めた。これは顧客の変化にすぐさま対応するためで、デベロッパーも出店テナントも、リスク負担を相互に持ち合い、顧客変化にすぐさま応える良き方法であった。テナントにとっては、出店しても予想外に売上が伸びず退店したとしても投資は少なくて済むという利点がある。デベロッパーにとっては、初期の投資は大きくなるが、契約期間を短くすることにより、契約期間を終えれば次の新しいテナントを導入できるという利点があった。難しいテーマであるが、結論からいうと、定期借地権という方法はデベロッパー・テナント相互にリスクやリターンを持ち合う方法であったが、急激な右肩下がりの売上に次なる方法が必要となっている、というのがその時の共通認識であった。

こうした根本の課題と共に話題となったのが、風上ではインフレ、風下ではデフレの論議であった。従来は風上をメーカー、風下を小売り・専門店としていたが、ショッピングセンターの場合は風上=デベロッパー、風下=テナント・専門店となる。周知のように鋼材などの値上げにより、建築コストは急激に上がり、建設を中断・断念するデベロッパーが出てきている。つまり、建築コストに見合う賃料収入を得ようとすると、入居できるテナントはごく限られたものとなる。既に、東京郊外の中規模SCにおいては、リニューアル後にも関わらず空きスペースが随所に見られるようになっている。
また、既存SCにおいては、従来は賃料交渉は個別であったが、全テナントがまとまってデベロッパーと交渉するところも出てきた。SCも例外なく「ねじれ」が生まれている。

言わずもがなであるが、企業倒産も金融危機やエネルギー価格高騰といった直接かかわってきた不動産・建設・運輸といった業種から、更に他の業種へと広がっていく。しかも、残念ながら中小・零細企業が圧倒的に多くなっていく。マスメディアに載らないようなリストラが行われ、失業率も高くなっていく。当然、殺伐とした言葉にならないような社会不安が押し寄せる。潤沢な預貯金を持ち、救世主と考えられていたシニアマーケットも、株はもとより投資信託まで元本割れしており、消費へとは向かっていないし、これからも向かわないであろう。
地方の商店街をシャッター通りと呼んでいたが、そうした歯抜けのような空きスペースは郊外の中小規模のSCにも目立ってくる。都心部、あるいは人の移動の要となっている駅ビルの商業施設では、大きなスペースを占有していた核テナントも坪効率を落とし、スペース縮小へと向かっていく。小売業にとって商品欠品は致命的な問題であるが、中小スーパーの棚が欠品によって埋まらない事態も出てくる。つまり、安定供給できないメーカーも出てくるということだ。

こうした「空き」に対し、圧縮は様々なところで行われていく。それはデベロッパーでも、小売り・専門店でも同じ考えによる圧縮計画だ。更に悪くなるであろう将来を考えた場合、2/3に圧縮することが一つの目安となる。デベロッパーにとってはソーン編集、小売り・専門店にとっては売り場・棚割り編集、こうした再編集が最重要課題となっていく。空いたスペースにどんなテナントを入れるか、空いた売り場・棚にどんな商品を陳列するか、こうした再編集コンセプトが今問われているということだ。

商圏、市場に合った再編集コンセプトとなるが、その着眼となるのが「小」である。全てを小単位に置き直して考えてみようということだ。小売り・専門店でいうと、「小」価格、「小」サイズ、「小」時間(この時だけ)、あるいは「小」テーマで売り場・棚を編集してみることだ。ワンコイン・マーケットなんかもこうした「小」テーマである。デベロッパーでは、「小」ゾーンを創ってみる。小さな個性商品を集めた小さな坪数の店を集めてみようということである。そうした小さな店が集まれば、大通りではなく、横丁が生まれる。人が行き交う界隈性も生まれ、ヒューマンな雰囲気、下町的な売り場が生まれる。「小」は単なる経済効率、リスクヘッジだけのことではない。ともすれば人工的になりがちな商業空間、売り場に、本来の「商売」「商人」、もっと言うならば原点である「市場」(いちば)を取り戻すということだ。市場では売り手も買い手も、言葉をかわし互いの「気配」で取引が成立する。KY語ではないが、求められているのは顧客の気配を感じ取ることができる市場(いちば)感覚、そんな視座をもった再生計画ということだ。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:50Comments(0)新市場創造