2008年07月13日

◆価格への3つの視座 

ヒット商品応援団日記No282(毎週2回更新)  2008.7.13.

続々とガソリンや穀物の高騰による生活面への影響が数字となって現れてきた。ガソリン元売り各社の発表では、レギュラーガソリン1ℓ170円を超えた6月度は前年同月比5〜8%減少したという。7月に入り1ℓ180円を超え、早晩200円になると誰もが思っている。いつのデータであったか正確には忘れてしまったが、警察庁の発表では、都内の渋滞は一般道で24%の減少、高速道では50%の減少とのこと。前回都内の渋滞が少なくなったように感じたと書いたが、数字からも明確になった。
前回H.I.S.の海外旅行の価格設定について書いた折、今年の夏の海外旅行者数は減少するであろうと書いた。その通り、JTBグループの推計によると前年度比7%減の225万人との予測。
更には、東京商工リサーチの発表によると、2008年上半期の倒産件数は前年比6.9%増の7544件、負債総額は19.8%増の3.2兆円と大型化し始めている。また倒産件数の中心は構造的な問題である建設業だが、ここにきて運輸業が増加し始めている。

ところで前回価格に対する顧客心理について書いたが、もう少し価格設定への視座について考えてみたい。1970年代の第一次・第二次オイルショックでは、いわゆるトイレットペーパー取り付け騒ぎが起きたが、今はモノ不足を終えた時代であり、そうしたモノを追い求めることはない。以前にも少し触れたことがあったが、経済の分野でノーベル賞を受賞したダニエル・カーネマンらが研究したプロスペクト理論を私流に咀嚼してみると、幸福感に影響を与える経済的な要素としては次の3つとなる。

(1)絶対的な豊かさ:お金に対する明確な価値認識
(2)他人と比較した豊かさ:誰と比較するのかによって揺れ動く心理
(3)以前の自分と比較した豊かさ:いざなぎ景気のように年々収入が増えるという比較実感した豊かさ

上記(2)が、いわゆる格差意識を醸成しているもので、(3)は周知の通り収入は増えず横ばい情況で、「豊かさ」という幸福感が乏しいと感じている層だ。高騰する価格に対し、極めてシビアな認識と行動をとるのがこの層である。ある意味整理のための整理ではあるが、これからの消費の在り方を見ていくための一つの視座にはなりえる。(1)の「絶対的な豊かさ」とは、精神的な豊かさのことである。古くは功成り名を遂げた土光臨調と呼ばれた土光さんであり、伊藤忠商事を立て直し、現在地方分権の座長をしている丹羽さんのような生き方、「私」を超えた社会価値に基づいた豊かさ実感と言えよう。つまり、限られた時間の中で何ができるか、少しでも「私」ではない何かの役に立ちたいとしたこころの豊かさである。人生の先が見えたシニア世代の豊かさと言えよう。「私」を超えた世界にはボランティアといった社会貢献だけでなく、当然大きな市場となっている孫や子へのギフト市場も含まれる。

今後のビジネス開発の視座として、誰を顧客とするのかと共に、上記のような3つの「心理視座」が必要になってくると思う。この夏の海外旅行一つとって見ても、JTBグループの発表では上記(3)のようなファミリー層にとっては価格を第一義とした安近短といった海外旅行もしくは国内旅行となり、燃油サーチャージ代が大きなポイントとなる。しかし、シニア世代にとっては価格は第一義とはならない。シニア世代の人気となっている燃油サーチャージ代の高いヨーロッパ旅行も、四国のお遍路旅行も、第一義的価値は同じである。それはこころの豊かさ、精神的充足の旅となり、価格は二義的ということだ。
しかし、(2)や(3)の個人やファミリーにとっては価格が第一義的選択理由となる。つまり、どれだけ「お得」かである。消費は、将来の収入に対し、楽観的であるか、悲観的であるかによって決まる。シニア世代にとって、限られた将来であり、楽観的でも悲観的でもない。しかし、若い世代、ファミリー層にとっては悲観的な時代だ。

こうした顧客層にとって収入が増えない中では、「どれだけお得か」が商品の選択理由となる。今、注目されているのが女性雑誌の販促手法である。右肩下がりの雑誌業界で、売上を唯一支えているのが「付録」付きという販促である。ブランドとタイアップしたエコバックやサンダルなど、付録競争が販売部数を決めているといっても過言ではない。これも「お得感」の演出手法であるが、麻薬のようなもので付録が切れたら売れなくなるという結果が待っている。つまり、付録を出し続けない限り、競争に負けるということだ。ただ、若い女性世代の「お得感覚」を明確に表している事例である。

予測通り洞爺湖サミットでは何も決まらなかった。原油も穀物も価格が下がる要素はなく、つまりこれからも一定期間上がり続けると思う。残念ながら産地などによる価格差がある以上、これからも偽装事件は表へと出てくる。また、時間による価格差、具体的言うと「買い占め」や「売り惜しみ」によって利益を得る企業も出てくるであろう。このような価格を中心にビジネスや消費が回っていく、つまり常態化していくと、消費面でいうと単なる節約ややりくり算段では収まりきれない段階へと進む。つまり、ライフスタイルの変更を自らの意志で変えていくということだ。ある意味、1990年代から言われてきた「豊かさ」に生活者自身が一つの答えを出すことでもある。そして、ビジネスもこの「答え」に沿って、再編・統合が進む。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 14:06Comments(0)新市場創造