2008年07月02日

◆コンビニへの深夜営業規制

ヒット商品応援団日記No279(毎週2回更新)  2008.7.2.

京都市がコンビニ業界に自粛要請した深夜営業について多くの論議が広がっている。温暖化ガスの削減という目標に対するもので、東京や埼玉・神奈川などいくつかの自治体も同様の方針であると報じられた。コンビニ業界は、セブンイレブンの名前の如く朝7時から夜11時まで営業とした場合でも、CO2の削減量は現状より4%減、国内全産業でみても0.009%減にしかならない。むしろ夜間配送など効率的に行って、CO2削減の努力をしていると反論した。来週行われる洞爺湖サミットへの政治パフォーマンスであると私は理解しているが、この論議をつきつめていくことは必要だと思っている。

1970年代に東京にセブンイレブンの一号店が誕生するのだが、当時は誰も成功するなどとは思わなかった。しかし、1970年代という時代に、今日の姿、未来の芽が生まれていた。水と空気はお金を払わないものと思われていたこの時代に、既に「天然水NO1」というミネラルウオーターがサッポロビールから発売。今日のキャラクターブームの先駆けである「ハローキティ」が生まれ、自動車保有台数は1000万を超えた時代であった。
ここで時代の価値観推移を詳しくは書かないので、添付データを参照して欲しい。
コンビニについていうならば、それは都市化というライフスタイル変化と共に、小さな商圏の中でMDを変えながら、24時間化という業態をシステムとして完成させた日本固有のビジネスモデルといえよう。夜起きている人間などいないと勝手に考えていた時代に、深夜に店を開けることによって、実はいかに多くの顧客が存在していたかを見事に実証したのがコンビニであった。

以降、規制緩和と共にドンキ・ホーテを始めファミレスや飲食店、スーパーまで深夜営業が進んでいく。最近ではカラオケ店はもとより、簡易宿泊施設化した漫画喫茶まで24時間業態は多岐にわたる。最近のデータを確認してはいないが、1990年代後半からTV視聴は深夜化し、へたをすると夜8時台の視聴率より高い深夜番組も出てきた。最近の東京では深夜の宅配クリーニングサービスや出張パーティサービスなど新たな深夜ビジネスも生まれている。つまり、こうした需要、顧客が存在しているのが都市である。

地球温暖化におけるCO2の排出規制であるならば、製造業に対する問題の方が大きいことは素人でも分かっていることで、環境負荷という経済合理性の視点からもおかしな話だ。100歩譲って製造業にも小売業、あるいはサービス業にも温暖化に対するコストを払う(=課税)ということであれば納得できると思う。いわゆる環境税で、このコストに見合わなければ、小売業も製造業も深夜営業・深夜稼働は実施しないであろう。内需活性が叫ばれている今日、このままでは更に景気は後退することとなる。

ところで、この24時間化は、グローバル経済の中心である都市固有(特に東京であるが)の社会時間の在り方(スピード最優先)である。地域の境目がなくなったと同様に時間にも境目がないのがグローバル経済である。先々週、好きな沖縄へ行ってきたが、沖縄はビジネスを中心とした社会時間ではなく、朝は朝らしい陽の光があり、夜は漆黒の闇に星空がある、そんな自然時間(自然にまかせる)に包まれた島である。今回は小さな勉強会を糸満の民宿で開いた。翌朝、歩いて数分のところにあるウミガメが産卵する大度海岸を散策したが、一種荒々しさのある自然があった。多くの都市が失った自然、野生の中で、ひととき自然時間に身を置くというリゾートを私は楽しんだ。グローバル世界といえども、地域によって時間の在り方が異なる。標準的な時間感覚をもつ地域などありはしないのだ。だから固有な時間を楽しめるのである。グローバルとローカル、社会時間と自然時間、この2つによって生活が営まれている。

今回のコンビニへの深夜営業規制、自粛要請はシンボリックな意味合いとしてある。国や自治体に言われるまでもなく、コンビニという「便利さ」を生活に組み込んだライフスタイルを変える覚悟を要請されていると理解すべきであろう。しかし、温暖化対策などと大上段に振りかぶった国や自治体の理屈より、コンビニ業界の方がどれほどか先行してエコロジーを実践している。恐らく、便利さを犠牲にする生活へと向かうと思うが、既にエコ大国であった江戸時代の庶民の知恵、不便さをも楽しむ知恵という財産を持っている私たちである。亡くなられて随分経つが、江戸が好きで好きで”ああ、はやく江戸になればいいのに”と話していた杉浦日向子さんは、その好きな江戸を次のように書いている。
「私が、今の東京のどこに『江戸』を感じるかといえば、江戸城や泉岳寺、浅草寺ではありません。むしろ渋谷駅前のスクランブル交差点のような、いろいろなものが混ざった空間に『江戸』を感じます。来るもの拒まず、何でもOKーーー江戸はさまざまな言語が飛び交っている、国際都市のような存在です。」(「お江戸でござる」杉浦日向子監修/ワニブックス刊より」
「不便さ」来るもの拒まず、何でもOK、という明るい覚悟が必要な時代に来たということだ。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 14:30Comments(1)新市場創造