2008年04月20日

◆コンセプトとネーミング  

ヒット商品応援団日記No258(毎週2回更新)  2008.4.20.

「後期高齢者医療制度」の分かりにくい内容や年金からの天引きというやり方もさることながら、多くのお年寄りから「無神経」「早く死ねといわんばかり」といった制度名称への批判が出ている。私が尊敬するコラムニストの天野祐吉さんのところにもこの「後期高齢者医療保険者証在中」という封書がきたそうである。天野さん曰く”正確な言い方とか、間違いようのない表記とか、客観的な表現とか思ってるところが、馬鹿だ。救いようのない馬鹿だ。後期馬鹿だ”と、ご自身のブログ「あんころじい」(http://amano.blog.so-net.ne.jp/2008-03-23)で怒っている。そして、ご老人と呼ばれるのは仕方がないが、呼ばれる相手の身になってみること、想像力の問題だと指摘している。この新しい医療制度と共に「地球温暖化」も良くないと。コピーライターである鈴木康行さんの論、”温暖化にはバッドイメージ、危機感や恐怖感がない。それどころか陽だまりでぬくぬくしているようなやすらぎ感がある”として、温暖化ではなく「加熱化」というネーミングにすべきと提言している。

ここにはコンセプトをどう表現すべきか、なかでも常に理解の入り口となるネーミングの問題が指摘されている。コンセプトとは、顧客・市場が潜在的にもっている欲求や欲望、そうあって欲しいことを言い当てて提供する考え方のことを指す。もっと分かりやすく言うならば、顧客にとって「そうそう、これこれ」といってもらえる「何か」を創る考え方の基である。私もこうした世界を創り続けてきた人間なので、コンセプトはできるかぎりシンプルにそのままネーミングにできたらと考えてきた。
GAPというカジュアル衣料のブランドがある。このGAPのコンセプトは、年齢差、男と女の性差、人種差、といった違い=ギャップを埋められるような、つまりもっと自由に着て欲しいとの願い・コンセプトによってネーミングされている。このGAPをコピーしたのがあのユニクロで、老若男女、誰でも着られる代表商品としてフリースが大ヒットした訳である。

ネーミングとは「名付ける」ことであるが、子を授かった時、将来こんな人間になって欲しいと願うことと同じである。名前をつけるとは、すくすくと成長して欲しいという一つの「物語」を創ることでもある。ところで、今から十数年前、マーケティング業界で「プロシューマー」というキーワードが流行ったことがあった。特定分野ではあるが、販売する側よりはるかに知識・経験豊富で詳しい消費のプロ顧客が出現したことによってであった。豊かさを象徴するように、こうした顧客は増え続けてきた。つまり、名付け親、物語創作者は顧客の側に移ったということである。また、ジャック・ラカンの言葉を借りれば、「言語活動の機能は、情報を伝えることにあるのではなく、思い出させることにある」と。顧客であるお年寄りにとって「後期」というキーワードは、大切にされ長生きさせてもらったという思い出ではなく、社会から外された「最後」「末期」の自分を想起させてしまったということだ。昔も今も、お年寄りは人生のプロとして尊敬されなければならない。しかし、現実社会はそうではなく、やっかい払いのようにされており、そうした現実への想像力欠如が「後期」と名付けさせた。制度設計的にも、75歳以上を扶養家族から切り離すことは、「相互扶助」という日本が世界に誇れる皆保険制度の根幹となるコンセプトであり、「家族」という単位を壊しかねない問題がある。

過剰な情報が行き交う時代にあって、注目され、話題になることだけに集中してきた騒々しいマーケティングは終わった。私は2年ほど前に、「サプライズの終焉」というタイトルでこのブログにも書いた。ちょうどその頃だったと思うが、福岡のもんじゃ焼きの店で出される「こどもびいる」を取り上げたことがあった。子供にビールなんてと思われるかもしれないが、中身はガラナジュースで、アルコールを飲めない女性や子供さん達に提供される清涼飲料水だ。チョット笑える、そんな洒落た大人のネーミングである。
前回「体験」というキーワードが重要な時代になったと書いた。コンセプトもネーミングも重要であることには変わらないが、その表現の在り方が変わってきている。言葉・ネーミングは常に誰かを想定している。その顧客、市場が変わり始めたということだ。サプライズを単に騒々しいと感じてしまう顧客が圧倒的に増え、言葉の嘘や軽さに辟易としている、そうした顧客心理を想像することによって、コンセプトが創られ、ネーミングされる時代である。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:46Comments(0)新市場創造